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分子薬理部

情報制御研究室

1. 質量分析を活用する生理活性ペプチドの探索

翻訳されたタンパク質は化学的な修飾を受けて機能を発揮することが知られています。それ以外にも、プロテアーゼの働きで特定の位置で切断されて分子量1万以下の機能性分子を生成することがあります。これらの中には生体内の情報伝達制御物質として働くものがあり、生理活性ペプチドと呼ばれています。例としてはインスリンが有名ですが、循環器疾患の領域ではナトリウム利尿ペプチド類が治療や診断に応用されています。生理活性ペプチドは生体内で産生される分子ですから、重篤な副作用がほとんど認められないため、創薬の標的として魅力的です。情報制御研究室では、質量分析法を活用して組織や細胞で産生されるペプチドの一斉解析(ペプチドーム解析)を提唱し、生理活性ペプチドの発見に応用してきました。質量分析法を用いると多数のペプチドの配列が同定できます。その中から配列の保存性や特徴などに基づいて生理活性ペプチド候補を見出す方法を世界に先駆けて確立しています。候補ペプチドは合成して活性を検証します(図)。この方法により、新しい活性ペプチドを発見することに成功しています。

図

1-1. 質量分析を用いた分泌ペプチドのプロファイリングと生理活性ペプチドの探索

従来は、生理活性ペプチドの探索は特定の指標(バイオアッセイ、オーファン受容体のリガンド探索など)を用いて精製を進めた後に、アミノ酸配列および塩基配列を決定する方法が主体でした。情報制御研究室では、質量分析法を用いて実在する分泌ペプチドをプロファイリングするという新しいアプローチを提唱し、生理活性ペプチドを探索しています(J Proteome Res, 9: 5047-52, 2010)。プロファイリング情報から生理活性ペプチド候補を選択し、内外の研究者との共同研究によって活性を検証しています(Biochem Biophys Res Commun, 428: 512-7, 2012; Endocrinology, 153, 1377-86, 2012; Brain Res, 1563: 52-60, 2014; Biochem Biophys Res Commun, 457: 148-53, 2015)。生理活性ペプチドの多くは細胞内で産生された後に細胞外に分泌されます。分泌顆粒をもつ内分泌系培養細胞に脱分極刺激を加えて、その培養上清中に放出されるペプチドを分析することで、新しい生理活性ペプチドの発見に成功し、Neuroendocrine Regulatory Peptides と命名しました(J Biol Chem 282: 26354-60, 2007)。また、insulin growth factor-binding protein 5からも新しい生理活性ペプチドの発見に成功しています (J Proteome Res 10: 1870-80, 2011)。発見されたペプチドは、ある種の神経細胞や内分泌細胞で発現し、機能を発揮していることが明らかにできました(Regul Pept, 163: 43-8; 2010; J Neurochem, 114: 1097-106, 2010; Biochem Biophys Res Commun, 428: 512-7, 2012; Endocrinology, 153, 1377-86, 2012; Brain Res, 1563: 52-60, 2014; Biochem Biophys Res Commun, 457: 148-53, 2015)。

1-2. ペプチドのプロファイリングからタンパク質の個別研究へ

内分泌細胞や神経細胞は調節性分泌経路が備わっているので、脱分極刺激を加えることで短時間に分泌ペプチドを回収することができます(Mol Cell Proteomics 8: 1638-47, 2009)。しかし、ほとんどの細胞は分泌顆粒にペプチドを蓄えることなく恒常的に分泌しています。ラット新生仔由来の心臓線維芽細胞の培養系の上清をモデル系として分析したところ、様々な膜タンパク質や生理活性ペプチドの特定の切断部位が特定できることが判明しました(J Proteome Res 14: 4921-31, 2015)。シグナルペプチドの切断や、膜タンパク質の細胞外ドメインシェディングや細胞膜内での限定切断は、翻訳後修飾と並ぶ重要な機能調節機構の一つです。切断部位の正確な同定は、切断によって活性化されるタンパク質を対象にした分子ツールの開発に有用な情報を提供します。しかし、殆どの切断部位は正確に同定されていないか、in silicoで予測されているに過ぎませんでした。ペプチドミクス研究がタンパク質の個別研究にも貢献できることを示した研究で、生理活性ペプチドの発見とならび様々な波及効果が期待されます。

図

最終更新日 2016年07月01日

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