国立循環器病研究センター研究所

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組織・各部の紹介 分子薬理部

薬効代謝研究室

薬理活性分子やホルモンの新規作用、シグナル伝達系の役割、新しい生体制御メカニズムの研究を行なっています。特に、ヒト心血管血球系細胞の生存‐増殖‐分化‐細胞死間に跨る制御分子機構を解析対象とし、ヒト循環器系疾患の病態の理解、および治療法の基礎に繋がる多層的な新規分子機構の解明と応用に挑んでいます。

1.ヒト循環器系細胞の新しい制御分子機構の解明

循環器病やがんを含む致死性の高い重篤なヒト疾患の殆んどに、シグナル伝達と遺伝子発現が深く関与しています。ヒト身体はこれらの場となるヒト細胞から構成されているため、個体、あるいは臓器や組織を対象とした臨床における医学的・薬理学的制御においても、その多くがヒト細胞の生存、増殖、分化、細胞死、細胞機能保護を基礎とした施術・処方に収束しています。心筋梗塞や脳梗塞など循環器病発症進展の重要な原因にも、動脈硬化性の機能不全、炎症、老化等を伴った心血管血球系細胞の生存、増殖、分化、細胞死制御異常が挙げられます。薬効代謝研究室では、有効かつ副作用回避が可能なヒト循環器病の先進的制圧方法の確立を目指して、心血管血球系細胞の生存‐増殖‐分化‐細胞死制御機構を標的とし、タンパク・ペプチド性および非ペプチド性因子が関与するヒト循環器系細胞の新しい制御分子機構の解明と応用を進めています。

(E)図1:ヒト循環器系疾患の発症進展メカニズムの理解と新規治療手法の探索

図1:ヒト循環器系疾患の発症進展メカニズムの理解と新規治療手法の探索

PPARs(ペルオキシソーム増殖剤(PP)活性化受容体)は、糖、脂質、エネルギー代謝だけではなく、肥満、動脈硬化など生活習慣病にも密接に関与しています。実際、糖尿病治療薬としてPPARγアゴニスト(チアゾリジン誘導体:TZD)が、高脂血症治療薬としてPPARαアゴニスト(フィブラート系薬剤)が臨床投与されています。PPARδは他のサブタイプと異なり普遍的な発現を示し、個体レベルでの脂肪燃焼、エネルギー代謝促進、抗炎症作用を有することが知られていますが、臨床におけるPPARδを標的とした治療はまだ実用段階に達していません。これまでに遺伝子組換えおよび改変遺伝子導入によって作製した、天然型およびドミナントネガティブ型分子の性質を解析することで、PPARδが膜上(Gタンパク共役型)受容体と拮抗的あるいは協調的にヒト細胞死制御に関与していることを見出しました。また、同様にドミナントネガティブ型分子を利用した解析からPPARδが細胞保護、増殖にも関与していることを見出し、生存‐増殖‐細胞死間の切換えがどのような背景や原理に基づくか、現在、代謝制御系との関連を含め詳細な理解と応用に取組んでいます。PPARsの作用にはヒトと動物の結果に相違点が多く、さらに未解明の性質が多く存在していることがPPARsがヒトで非常に着目される理由の一つとなっています。PPARsによるヒト循環器系細胞制御作用は、本分子が有している抗炎症性作用、抗動脈硬化作用、およびリガンド依存的な活性制御が可能であるなどの性質と併せ、多くの利点を含んでいます。本研究課題ではヒト疾患制御の新しい原理探究に興味を持つ方の参加を歓迎しています。

(E)図2:ヒト循環器系疾患の克服を目指した新規分子機構の解明と応用

図2:ヒト循環器系疾患の克服を目指した新規分子機構の解明と応用

薬効代謝研究室ではまた、活性型へ分化させたヒトリンパ球系細胞において、新規セカンドメッセンジャー候補物質が抗炎症性シグナル調節作用を有すことを見出しました。当研究室では、疾患発症進展初期を反映する条件下のヒト循環器系細胞に対し、このような新規予防治療的作用を示す新規因子の探索と応用も推進しています。本課題では物質化学と情報伝達系に興味を持つ方の参加を歓迎しています。

関連成果等

  1. Hatae T, Wada M, Yokoyama C, Shimonishi M, Tanabe T: Prostacyclin-dependent apoptosis mediated by PPAR delta. J Biol Chem 276: 46260-46267, 2001.
  2. Hatae T, Tanabe T: [PPARs and signal transduction of prostaglandins]. Seikagaku 74: 551-554, 2002. Japanese.
  3. Piqueras L, Reynolds AR, Hodivala_Dilke KM, Alfranca A, Redondo JM, Hatae T, Tanabe T, Warner TD, Bishop-Bailey D: Activation of PPARbeta/delta induces endothelial cell proliferation and angiogenesis. Arterioscler Thromb Vasc Biol 27: 63-69, 2007.
  4. Hayashi K, Ishizuka S, Yokoyama C, Hatae T: Attenuation of interferon-gamma mRNA expression in activated Jurkat T cells by exogenous zinc via down-regulation of the calcium-independent PKC-AP-1 signaling pathway. Life Sci 4: 6-11, 2008.

2.薬理的コントロールに関与するヒト酵素‐基質系の研究

循環器系は、多くのホルモンを含む種々の因子群によって巧妙に制御されています。循環器系を制御するホルモンは主に、アンギオテンシンなどのペプチドホルモン系、およびプロスタサイクリンなどの脂質ホルモン系に大別されます。大変興味深いことに、どちらも生体内で前駆物質から酵素的に生合成され、受容体を活性化し、シグナル伝達ネットワークを介して循環器系の恒常性を維持するなど、両者間にはシステム上多くの意外な共通の仕組みが存在します。ACE阻害剤やNSAIDsなどヒト酵素活性そのものを薬理的制御の標的とする治療方法は極めて有効で、世界中で大規模な臨床投与が実施されています。一方、ヒト酵素の分子内反応機構および酵素‐基質分子/阻害薬分子間での選択的認識機構と親和メカニズム、実用化移行段階でのヒト‐実験動物間に存在する種特異性の問題には未だ不明点が多く残され、薬効と副作用とがなかなか分離できない主な理由の一つとなっています。

(F)図3:循環器病におけるヒト酵素‐基質系の研究と方針

図3:循環器病におけるヒト酵素‐基質系の研究と方針

本研究はこれらの克服を目指し、循環器病の発症進展および治療の根幹に直接関与するヒト酵素‐基質系の分子機構の詳細を理解することを目的としています。当研究室において、ヒト活性型および不活性型酵素遺伝子を作製しヒト細胞内で発現させ、細胞生死間解析することで新規の内因性リガンド‐シグナル伝達系を見出した経緯から、本手法を用いたヒト循環器系細胞の新しい遺伝子治療方法の基礎、およびヒト酵素‐基質系の新機能探索も行なっています。また患部組織内ヒト酵素‐基質系を理解するための臨床研究の準備、方法論の検討も進めています。本課題では新しい医薬と臨床研究に関心を持つ方の参加を歓迎しています。

関連成果等

  1. Hatae T, Hara S, Yokoyama C, Yabuki T, Inoue H, Ullrich V, Tanabe T: Site-directed mutagenesis of human prostacyclin synthase: Alteration of Cys441 of the Cys-pocket, and Glu347 and Arg350 of the EXXR motif. FEBS Lett 389: 268-272, 1996.
  2. 波多江利久他: イソメラーゼ活性を示すP450、化学と生物 36: 534-539, 1998.
  3. Wada M, Yokoyama C, Hatae T, Shimonishi M, Nakamura M, Imai Y, Ullrich V, Tanabe T: Purification and characterization of recombinant human prostacyclin synthase. J Biochem 135: 455-463, 2004.

最終更新日 2011年06月03日

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