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分子生理部

2013年の業績

研究活動の概要

分子生理部では、循環器病に関与する疾患関連蛋白質の構造・機能と病態的意義を明らかにする研究を行っており、研究成果を将来の循環器病の新しい予防・診断法、創薬につなげることを目指している。一般的な生理学、生化学、遺伝子工学的手法に加え、疾患モデルマウスの作製と解析を含む多方面からのアプローチによる基盤研究を行っている。近年、疾病の予防・診断・治療に直接つながるような方向性の研究も進展しており、応用を意識した研究の下地はできつつある。たとえば私達の基盤研究から生まれたストレッチ活性化Ca2+透過チャネル(TRPV2)は筋変性疾患の治療標的として有効と考えられ、内外のさまざまな研究費を活用して研究を推進してきた。また、もう一つの柱である心筋のイオン輸送体、Ca2+制御蛋白質およびその制御因子の構造・機能と病態的意義の研究に関しては、分子細胞生理学的技術のほかに、遺伝子改変動物作製や薬理学的実験などの手段を用いて着々と進行している。

2013年の主な研究成果

拡張型心筋症や筋ジストロフィー症などの筋変性疾患に関わるストレッチ活性化Ca2+チャネル(TRPV2)は一つのテーマである。TRPV2は筋変性疾患に伴って形質膜に移行し活性化されるので、1)膜移行を阻害するか、2)チャネル活性そのものを阻害することによって、病態を軽減できると考えられる。TRPV2のN末端ドメインは心筋形質膜移行を阻害することが判明し(特願:2009-186219)そのトランスジェニックマウスを作製してN末端ドメインを過剰発現することでマウス心筋症の病態が改善すること見出した(Cardiovascular Res. 2013)。この研究はEditorialで取り上げられジャーナルの表紙を飾った。さらに、筋変性を起こした筋細胞膜ではシアル酸含量が著しく低下することを見出し、筋変性診断に応用できる方法を確立した(Muscle & Nerve, 2013)。また、TRPV2蛋白質細胞外側エピトープを認識して阻害する抗体を作製した。見出した化合物や抗体は心筋症モデル動物の病態を改善した。平成22年度より開始された基盤研プロジェクト「多層的オミックス」において、拡張型心筋症動物のメタボローム解析に参加し、心筋症病態の進行とともに酸化ストレスが増加することを見出した (J. Mol. Cell. Cardiol., 2013)。

心疾患発症に関与するイオン制御蛋白質の研究はもう一つのメインテーマである。これまで、ノックアウト(KO)マウスの解析からCa2+結合蛋白質neuronal calcium sensor 1 (NCS-1)がIP3 リセプターに直接作用することによって未成熟期の心筋収縮および心肥大形成に重要な役割を果たすことを明らかにしてきた(Circ. Res. 2011)。心肥大シグナルとしてホルモンによって誘発される心筋細胞Ca2+動態を検討したところ、NCS-1のKOマウスでは核内Ca2+動員が著明に少ないことから、NCS-1は核内Ca2+シグナルを制御する重要因子であることがわかった(生理学会等で発表)。KO心筋は虚血―再灌流障害や代謝・酸化ストレスなどに対し脆弱である。詳しい解析から、NCS-1はストレス下でイノシトールリン酸経路を活性化し、また適切な心筋Ca2+レベルを保つことにより、主なサバイバル経路であるPI3K/Akt経路を活性化させ心筋保護的に働くという新たな機能を明らかにした(2012年AHA、2013年ISHR国際会議発表、論文執筆中)。また、NCS-1のKOマウスは週令とともに顕著な肥満が生じるが、MRI解析、脂肪細胞観察、代謝ケージを用いた食欲・運動・エネルギー消費などの解析を推進した。また、心筋細胞に多く発現するCa2+結合蛋白質CHP3はNCS-1同様に機能未知な蛋白質であるが、ノックダウンさせると心筋細胞の肥大化を引き起こすことが見出された。さらにCHP3はインスリン受容体シグナルを抑制したことから、生理的心肥大の形成に関わる因子である可能性が示唆された(論文執筆中)。

他方、心筋のNa+/H+交換輸送体(NHE1)のホルモンによる活性化が心肥大・心不全発症にかかわるCa2+シグナルを惹起するのに充分であるというこれまでの結果(Circ.Res., 2008)を踏まえ、NHE1活性化の特異的な阻害が病態改善につながるという観点から、活性制御に極めて重要な領域(脂質結合ドメイン)の生化学的解析とこの領域と相互作用する薬物のスクリーニングによって、NHE1活性化の分子機序を検討した。その結果、まずNHE1はATP結合蛋白質であり、ATPはこの脂質結合ドメインに結合することが判明した(FEBS J., 2013)。さらに、ATPとの競合アッセイによって、NHE1活性化を抑制するstaurosporine等の少数の薬物を見出し、創薬への足掛かりとした(Mol.Pharmacol., 2014)。これらの結果により、NHE1活性化はこの領域の形質膜との脱着に伴う構造変化によって細胞内H+親和性が変化することによって起こることが明らかになった。これまでの成果をまとめたReviewをJ.Mol. Cell. Cardiol. (2013)に発表した。また東工大との共同で、脳の脈絡叢において、pH制御機能を持つトランスポータNBC4の新しいタイプを見出し、その性質を解析した(Biochemical J., 2013)。

研究業績

  1. Fukuda H, Hirata T, Nakamura N, Kato A, Kawahara K, Wakabayashi S, Chang MH, Romero MF and Hirose S. Identification and properties of a novel variant of NBC4 (Na+/HCO3- co-transporter 4) that is predominantly expressed in the choroid plexus. BIOCHEMICAL JOURNAL. 450, 179-187, 2013.
  2. Iwata Y, Ohtake H, Suzuki O, Matsuda J, Komamura K and Wakabayashi S. Blockade of sarcolemmal TRPV2 accumulation inhibits progression of dilated cardiomyopathy. CARDIOVASCULAR RESEARCH. 99, 760-768, 2013.
  3. Shimada-Shimizu N, Hisamitsu T, Nakamura TY and Wakabayashi S. Evidence that Na+/H+ exchanger 1 is an ATP-binding protein. FEBS JOURNAL. 280, 1430-1442, 2013.
  4. Maekawa K, Hirayama A, Iwata Y, Tajima Y, Nishimaki-Mogami T, Sugawara S, Ueno N, Abe H, Ishikawa M, Murayama M, Matsuzawa Y, Nakanishi H, Ikeda K, Arita M, Taguchi R, Minamino N, Wakabayashi S, Soga T and Saito Y. Global metabolomic analysis of heart tissue in a hamster model for dilated cardiomyopathy. JOURNAL OF MOLECULAR AND CELLULAR CARDIOLOGY. 59, 76-85, 2013.
  5. Nakamura-Nishitani TY, Nakao S and Wakabayashi S. Neuronal Ca2+ sensor-1 promotes cardiomyocyte survival under stress. Journal of Molecular and Cellular Cardiology. 65, s125, 2013.
  6. Wakabayashi S, Hisamitsu T and Nakamura TY. Regulation of the cardiac Na+/H+ exchanger in health and disease. JOURNAL OF MOLECULAR AND CELLULAR CARDIOLOGY. 61, 68-76, 2013.
  7. Iwata Y and Wakabayashi S. Decreased sarcolemmal sialic acid level as a sensitive marker for muscle injury in muscular disorders. Journal of Pharmacological Science. 121, S150, 2013.
  8. Kamauchi S, Iwata Y and Wakabayashi S. Increased excretion of urinary metabolites of prostaglandin D2 in animal models of dilated cardiomyopathy. Journal of Pharmacological Science. 121, S162, 2013.
  9. Hisamitsu T and Wakabayashi S. The Na+/H+ exchnager NHE1 directly binds to calcineurin A and amplifies the downstream NFAT pathway via 6-residues binding motif PVITID. Journal of Physiological Science. 63, S218, 2013.
  10. Nakao S, Nishitani-Nakamura TY and Wakabayashi S. Analysis of nuclear Ca2+ transient in mouse cardiomyocytes with GECO, a recently developed genetically encoded Ca2+ indicator. Journal of Physiological Science. 63, S179, 2013.
  11. Nishitani-Nakamura TY, Nakao S and Wakabayashi S. Regulation of cardiomyocyte survival by Neuronal Ca2+-Sensor-1. Journal of Physiological Science. 63, S118, 2013.
  12. Inagaki T, Tsuchimochi H, Nishitani-Nakamura TY, Wakabayashi S and Shirai M. The role of NCS-1 in the development of right ventricular hypertrophy with chronic hypoxia in mice. JOURNAL OF PHYSIOLOGICAL SCIENCES. 63, S182, 2013.
  13. Wakabayashi S. pH regulation by the Na+/H+ exchanger 1: upstream and downstream signaling pathways leading to cardiac hypertrophy. JOURNAL OF PHYSIOLOGICAL SCIENCES. 63, S84, 2013.
  14. Iwata Y, Suzuki O and Wakabayashi S. Decreased surface sialic acid content is a sensitive indicator of muscle damage. MUSCLE & NERVE. 47, 372-378, 2013.

最終更新日 2016年07月01日

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