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病態代謝部

循環器疾患に対する核酸医薬を用いた新しい治療法の開発

近年、DNAやRNAなどといった核酸を応用した医薬、いわゆる核酸医薬の研究、臨床応用が進んでいます。当研究室では、家族性高コレステロール血症(FH)をはじめとした脂質異常症について研究を行っており、大阪大学大学院薬学研究科の小比賀聡教授との共同研究のもと、このような疾患の治療を目的とした核酸医薬の開発を進めています。

我々は、核酸医薬の中でも特にアンチセンス法を用いた医薬の開発に取り組んでいます。アンチセンス法とは、mRNAに対して相補的に設計されたオリゴ核酸を細胞内へ導入し、細胞内で標的mRNAと結合させることでタンパク質の翻訳を抑制する手法です(図1)。アンチセンス法は、現在の主流である小分子薬よりも容易かつ選択的にあらゆるタンパク質の発現抑制が可能であり、ポストゲノム時代である現代では魅力的な技術です。これまでアンチセンス医薬は生体内安定性や標的mRNAへの結合力の乏しさから実用化が困難とされてきましたが、小比賀らが独自に開発した種々の新規人工核酸(図2)はこれらの問題を克服し、アンチセンス医薬は実用可能なレベルにまで達しています。その人工核酸の代表としては、糖部架橋型核酸2',4'-BNA/LNAが挙げられますが、我々は実際にこれを用いた脂質低下薬を開発し、モデル動物でその優れた治療効果を実証してきました。

図1. アンチセンス医薬の作用機序

図1. アンチセンス医薬の作用機序

図2. 天然のDNAと各種人工核酸の構造

図2. 天然のDNAと各種人工核酸の構造

我々は、重度高コレステロール血症の治療を目的としてProprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)を標的としたアンチセンス医薬の開発に取り組んでいます。PCSK9の機能獲得型変異はFHの原因因子として同定された遺伝子変異です。通常、体内に循環するコレステロールはリポタンパク質と呼ばれる粒子に乗り、肝臓のLDL受容体によって回収されます。PCSK9はこのLDL受容体を分解へと誘導するタンパク質で、コレステロールの代謝を阻害します。従ってPCSK9を阻害することで、血中のコレステロール値が低下することが期待されます。実際に、当研究ではPCSK9の発現を効率的に抑制が可能なアンチセンス分子の開発に成功し、コレステロール値を低下させることが可能であることを実証しています(図3)。

また、近年、高中性脂肪血症と冠動脈性疾患のリスクとに深く関与することが示されたapolipoprotein C-Ⅲ(apoC-Ⅲ)に対するアンチセンス医薬の開発も進めており、モデル動物への治療効果を検証しています4。

大阪大学大学院薬学研究科の小比賀教授と、これらのアンチセンス医薬の臨床化に向けた取り組みがスタートしており、少しでも早く難病患者のもとへ届けたいと考えております。


図3. 抗PCSK9アンチセンスの薬理効果(関連論文1一部変更)

図 3. 抗PCSK9アンチセンスの薬理効果(関連論文1一部変更)

a) 肝臓におけるPCSK9 mRNAの発現抑制効果、b) 肝臓におけるLDL受容体のタンパク質量、c) 各リポタンパク質分画におけるコレステロール値 P900S; 従来型アンチセンス、P900SL; 2',4'-BNA/LNA搭載型アンチセンス


関連論文

  1. Yamamoto T, Harada-Shiba M, Nakatani M, Wada S, Yasuhara H, Narukawa K, Sasaki K, Shibata MA, Torigoe H, Yamaoka T, Imanishi T and Obika S. Cholesterol-lowering Action of BNA-based Antisense Oligonucleotides Targeting PCSK9 in Atherogenic Diet-induced Hypercholesterolemic Mice. Molecular therapy Nucleic acids. 2012;1:e22.
  2. Wada S, Obika S, Shibata MA, Yamamoto T, Nakatani M, Yamaoka T, Torigoe H and Harada-Shiba M. Development of a 2',4'-BNA/LNA-based siRNA for Dyslipidemia and Assessment of the Effects of Its Chemical Modifications In Vivo. Molecular therapy Nucleic acids. 2012;1:e45.
  3. Yamamoto T, Yasuhara H, Wada F, Harada-Shiba M, Imanishi T and Obika S. Superior Silencing by 2',4'-BNA(NC)-Based Short Antisense Oligonucleotides Compared to 2',4'-BNA/LNA-Based Apolipoprotein B Antisense Inhibitors. Journal of nucleic acids. 2012;2012:707323.
  4. Yamamoto T, Obika S, Nakatani M, Yasuhara H, Wada F, Shibata E, Shibata MA and Harada-Shiba M. Locked nucleic acid antisense inhibitor targeting apolipoprotein C-III efficiently and preferentially removes triglyceride from large very low-density lipoprotein particles in murine plasma. European journal of pharmacology. 2013;723:353-9.
  5. Yamamoto T, Fujii N, Yasuhara H, Wada S, Wada F, Shigesada N, Harada-Shiba M and Obika S. Evaluation of Multiple-Turnover Capability of Locked Nucleic Acid Antisense Oligonucleotides in Cell-Free RNase H-Mediated Antisense Reaction and in Mice. Nucleic acid therapeutics. 2014;24:283-90.
  6. Yamamoto T, Yahara A, Waki R, Yasuhara H, Wada F, Harada-Shiba M and Obika S. Amido-bridged nucleic acids with small hydrophobic residues enhance hepatic tropism of antisense oligonucleotides in vivo. Organic & biomolecular chemistry. 2015.

最終更新日 2016年07月01日

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