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病態代謝部

家族性高コレステロール血症に関する臨床研究

1. 遺伝子解析

家族性高コレステロール血症(FH、参照: http://fh-ncvc.com/cholesterol/index.html)では、血中LDLを取り込むLDL受容体遺伝子(以下LDLR)やLDLRの分解に関わる遺伝子PCSK9の変異が原因として報告されています。現在、我が国の心筋梗塞患者の10%はFHであることが報告されており、FHは我が国の循環器疾患において最も重要な基礎疾患の1つといえます。FHの確定診断には、臨床検査や症状による診断基準に加え、遺伝子検査が必要です。これまでに、我々は、外来において経過観察中のFHヘテロ接合体患者(注1)のうち、269例についてLDLR及びPCSK9について遺伝子解析を行いました。その結果、53%にLDLR変異が、13%にPCSK9 変異(注2)がありました(図1)。また、LDLR 変異とPCSK9のうちV4I変異(注3)の双方を有する患者(全体の3.6%)はLDLR変異のみの患者よりLDL-C値が高いこと、さらに狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患の頻度も高くなることが判明しました(研究成果1)。つまり、二つの遺伝子変異が組み合わされるとLDL-Cが増加し、冠動脈疾患に罹患する可能性が高くなることが判りました。このことから、FH患者の遺伝子解析はFHの診断だけでなく、重症度を早期に判断する方法としても有用であるといえます。また、LDLRやPCSK9遺伝子に変異を認めない群において、次世代シークエンサーによる新規FH原因遺伝子の検索も行っており、原因不明のFH患者の新たな原因遺伝子の探索と病態生理的意義の解明についても研究を行っております。

図1. FHヘテロ接合体患者におけるLDLR及びPCSK9変異の分布
※血縁関係者をのぞいた224名

図1. FHヘテロ接合体患者におけるLDLR及びPCSK9変異の分布

LDL アフェレシス治療効果のメカニズム解析

我々は、FHホモ(注3)及び重症へテロ接合体に対してLDLアフェレシス(注4)治療の実態調査、LDLアフェレシス排液のプロテオーム解析を行っています。LDLアフェレシス治療は、ストロングスタチンが処方されるようになり離脱例が散見されましたが、それらの例の中に突然死を誘発する例が、国循を含め国内でいくつか報告されました。そこで我々は、LDLアフェレシスはLDL除去以外の効果を有すると考え、LDLアフェレシス排液を用いて蛋白質の網羅的解析を行い、凝固、炎症、血栓関連及び接着因子等多くの蛋白質を同定しました(研究成果2)。最近、我々は近年コレステロール低下薬の開発ターゲットとなっているPCSK9もLDLアフェレシスにより除去されることを見出しました(研究成果3)。PCSK9は血中ではLDLR分解活性を有する「成熟型 PCSK9」と細胞内の酵素により切断され、活性の低い「切断型PCSK9」として存在することがわかっていますが、これまでこの両者を分けて測定することができず、またこの両者が存在する臨床的意義も分かっていませんでした。我々は、株式会社ビー・エム・エルと共同で、「成熟型PCSK9」と「切断型PCSK9」を分けて測定できる新しいELISA法(注5)の開発に成功しました。成熟型及び切断型PCSK9は、LDL吸着法ではFHホモ接合体で55~56%、ヘテロ接合体で46~48%除去、二重膜濾過法ではヘテロ接合体で同様の除去効果を得ることができました(図2)。さらに、閉塞性動脈硬化症におけるLDLアフェレシス排液の網羅的解析についても高感度のLC-MS/MSを用いて行っております。

図2. FH 患者における LDL アフェレシス前後の血漿中成熟型及び切断型 PCSK9

図2. FH 患者における LDL アフェレシス前後の血漿中成熟型及び切断型 PCSK9


注釈

(注1)家族性高コレステロール血症(FH)ヘテロ接合体

「ヘテロ接合体」という言葉には、「臨床診断で判断基準となる項目」と「遺伝子的な組み合わせの種類」の 2 つの意味があるが、今回は前者を指す。

<臨床診断基準>

  1. 未治療時の血清 LDL-C 値が 180 mg/dL 以上
  2. 腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫
  3. 2親等以内の血族にFHの家族歴あるいは早発性冠動脈疾患(男性 55 歳未満、女性 65 歳未満)の家族歴がある

⇒上記のうち 2 項目以上に該当すること。


(注2)PCSK9 変異

PCSK9 の変異は、機能欠損型と機能亢進型の2つのタイプがある。

PCSK9変異種類LDLR分解能 血中LDL-C濃度 冠動脈疾患発症率
機能欠損型 抑制 減少 減少
機能亢進型 ※ 亢進 増加 増加?

※ここでは、British Heart Foundation によって公開されているFHの遺伝子変異のデータベース (LOLDv.1.1.0) にて、機能亢進型と予測されている V4I、E32K、R496W をさす。


(注3)FHホモ接合体

高コレステロール血症の素因を両親から受け継いだ患者さんのことで、通常、総コレステロール値450以上です。薬剤はほとんど無効ですので、LDLアフェレシス治療が必要です。


(注4)LDLアフェレシス

FHホモ接合体や、重症ヘテロ接合体に対して行われている透析に似た治療法で、LDLを吸着して除去するLDL吸着法と分子の大きさの違いを利用してLDLを除去する二重膜濾過法の2種類があります。


(注5)ELISA法

免疫学的手法により、試料中に含まれる蛋白質の濃度を測定する方法です。


研究成果

  1. Ohta N*, Hori M*†, Takahashi A, Ogura M, Makino H, Tamanaha T, Fujiyama H, Miyamoto Y, Harada-Shiba M† (*equal contribution, †corresponding author): Proprotein convertase subtilisin/kexin 9 (PCSK9) V4I variant with LDLR mutations modifies the phenotype of familial hypercholesterolemia. J Clin Lipidol. in press
  2. Yuasa Y, Osaki T, Makino H, Iwamoto N, Kishimoto I, Usami M, Minamino N, Harada-Shiba M. Proteomic analysis of proteins eliminated by low-density lipoprotein apheresis. Ther Apher Dial. 2014; 18: 93-102
  3. Hori M, Ishihara M, Yuasa Y, Makino H, Yanagi K, Tamanaha T, Kishimoto I, Kujiraoka T, Hattori H, Harada-Shiba M: Removal of plasma mature and furin-cleaved proprotein convertase subtilisin/kexin 9 (PCSK9) by low-density lipoprotein-apheresis in familial hypercholesterolemia: development and application of a new assay for PCSK9. J Clin Endocrinol Metab. 2015; 100: E41-49

最終更新日 2016年07月01日

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