国立循環器病研究センター研究所

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組織・各部の紹介 分子病態部

2.日本人の血栓性素因の研究とその成果を用いた個人の体質に合った予防法の開発

血栓症は多因子疾患であり、さまざまな環境因子に遺伝因子が絡まり発症します。私たちは、2006年に静脈血栓塞栓症の遺伝因子として、PROS1(プロテインS)遺伝子のK196E変異を同定しました。本変異ヘテロ接合体は、日本人の約55人に1人、ホモ接合体は約12,000人に1人と計算されます。頻度が高いので、臨床上重要な変異と考えています。本変異は白人種にはないようです。本変異ヘテロ接合体は、プロテインS活性の低下(平均16%の低下)を示すものの、その活性値は広い分布を示し、正常人の活性値と大きくオーバーラップすることから、活性測定だけでは本変異の有無を判定できません。これまでに、プロテインS K196E変異のホモ接合体はわずか3名しか同定されていませんが、いずれも静脈血栓塞栓症を発症した患者に同定されています。静脈血栓塞栓症患者の治療方針に遺伝性の素因情報を生かす試みをしています。

日本人の静脈血栓塞栓症患者173名のアンチトロンビン、プロテインC、プロテインSの遺伝子を調べたところ、55名(約32%)に39種のアミノ酸変異を伴う変異を同定しました。なかでも、プロテインS K196E変異が最も多く15名に見られ、次いで4名ずつの患者に、プロテインCのK193del変異とV339M変異を同定しました。日本人にはこういった変異が多く見られ、血栓症発症リスクを高めているようです。興味あることに、プロテインC K193del変異保有者のプロテインCアミド活性は正常値を示しますが、抗凝固活性は低値を示します。静脈血栓塞栓症患者では、抗凝固活性を測定することが重要です。

2)静脈血栓塞栓症の遺伝的背景:人種差 2)日本人のプロテインS K196E 変異の頻度

2)日本人静脈血栓症患者の遺伝子差異

主な論文:

  • Prevalence of genetic mutations in protein S. protein C and antithrombin genes in Japanese patients with deep vein thrombosis: Miyata et al. Thromb Res. 124, 14-18 (2009)
  • Protein S-K196E mutation as a genetic risk factor for deep vein thrombosis in Japanese patients: Kimura et al. Blood 107, 1737-1738 (2006)
  • Plasma protein S activity correlates with protein S genotype but is not sensitive to identify K196E mutant carriers: Kimura et al. J Thromb Haemost. 4, 2010-2013 (2006)
  • Genetic risk factors for deep vein thrombosis among Japanese: importance of protein S K196E mutation: Miyata et al. Int J Hematol. 83, 217-223 (2006)

トロンボモジュリン遺伝子:トロンボモジュリンは、血管内皮細胞に恒常的に発現しており、凝固反応で生じたトロンビンに結合し、トロンビンがプロテインCを活性化する際のコファクターとして働きます。ですから、トロンボモジュリンの活性低下は静脈血栓塞栓症に繋がる可能性があります。私たちは、トロンボモジュリンのA455V変異を含むハプロタイプが、男性・女性共に可溶性トロンボモジュリン量と関連を示し、男性で静脈血栓塞栓症に関連を示すことを明らかにしました。本多型と可溶性トロンボモジュリン量との関連は、米国の研究でも見られましたが、静脈血栓塞栓症との関連は他の研究では確認されていませんので、慎重に検討する必要があると思います。

組織因子経路インヒビター遺伝子:組織因子経路インヒビターは組織因子経路の凝固反応を抑制するので、本因子の活性低下は静脈血栓塞栓症の素因となる可能性があります。組織因子経路インヒビターはα型とβ型があります。β型はAsn221がglycosylphosphatidylinositolで修飾され血管内皮細胞の表面に係留します。私たちはβ型のAsn221残基のSerへの変異を同定しました。この変異体を持つヒトの血中組織因子経路インヒビター量を調べたところ、Serに変異すると血中量が増しており、変異組織因子経路インヒビターは細胞の表面に係留されないことが分かりました。しかし、本多型と静脈血栓塞栓症には、有意な関連を見いだしませんでした。本変異保有者の内皮細胞表面の抗血栓性は低下していると考えられますので、ある種の病態下では、血栓の発症にかかわるかもしれません。

主な論文:

  • Association of Asn221Ser mutation in tissue factor pathway inhibitor-b with plasma total tissue factor pathway inhibitor level: Ishikawa et al. Blood Coagul Fibrin 20, 22-26 (2009)
  • Haplotype of thrombomodulin gene associated with plasma thrombomodulin level and deep vein thrombosis in the Japanese population: Sugiyama et al. Thromb Res 119, 35-43 (2007)

最終更新日 2011年03月07日

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