
心磁図に関する研究
心臓から発生する磁場を多チャンネルの磁場センサーで計測し2次元マッピング解析を行う心磁図検査は、原理的に心電図法よりも高い空間分解能・高い感度で心臓電気活動を評価できると期待されています。本検査は、先進的診断法として循環器診療に大きく貢献できる可能性があり、2007年に当病院の生理機能検査部門に導入されました。しかし、心磁図法でしかなしえない固有の利点を明確に示した研究はごく限られたものしかなく、心電図法を超える診断ツールとして広く認知されるには至っていませんでした。最近の私たちの研究により、心磁図解析が心電図法では検出できない心臓電気現象を鋭敏に検出・評価できることが明らかになってきました。
(1) 左室内興奮伝播様式の非侵襲的可視化
胸壁の正面に磁気センサーを配置する従来からの正面記録法に加え、背面と左側面からの記録を分析することにより、左脚前枝と左脚後枝を介した左室内興奮伝播過程を別々に非侵襲的に可視化(図1A)することに世界で初めて成功しました。また、このアプローチを、高度左室機能低下を伴う心不全例に応用することにより、これらの例では心電図上QRS幅の延長がなくとも、健常者とは全く異なる顕著な心室内伝導障害や伝導遅延を有することが明らかになりました(図1B)。この方法は、今後、心不全例の左室内伝導異常(電気的同期不全)や致死的不整脈の原因となる伝導遅延を評価し得る強力な診断ツールとなることが期待されます。
図1A 健常者の正面と左側面のマッピング(QRS)
健常者では、心電図のseptal-q波に一致する初期中隔興奮(右向き、前向き)の後、(1)左室前方から下向きの電流と(2)左室後方から上向きの電流が明瞭に分離して観察されます。左室全体の興奮はQRS開始からおよそ50~55msまでに終了し、その後は右室興奮(特に右室流出路へ向かう上向き電流)が観察されました。
![]()
図1B 心不全例の正面と左側面のマッピング(QRS)
心不全例では、QRS時間が正常であっても左室興奮の延長が認められ、左室興奮伝播過程も健常者とは大きく異なるパターンを呈しました。
関連成果等
- Kawakami S, Takaki H, Oishi S, Sato H, Shimizu W, Kamakura S, Sugimachi M. A novel magnetocardiographic approach for estimating the whole ventricular activation with use of 3-directional measurements. Eur Heart J. 2010;31,265 (ESC2010, Abstract)
- Kawakami S, Takaki H, Sato H, Shimizu W, Kamakura S, Sugimachi M. A novel magnetocardiographic approach for estimating the whole ventricular activation with use of 3-directional recordings Circulation. 2010;122:A13636 (AHA2010, Abstract)
(2) 完全左脚ブロックを呈する心不全例における中枢性と末梢性伝導障害の鑑別
心電図上完全左脚ブロックが見られる場合には、それが左脚自体の伝導障害(中枢性)によるものか、あるいは、心筋障害に伴う2次的な末梢性伝導障害によるものかを心電図から判定することは全く不可能でした。高い空間分解能を有する心磁図では、正常左室機能+脚自体の伝導障害による完全左脚ブロック(isolated CLBBB、図2 A)と高度左室機能障害+心筋障害に伴う末梢性伝導障害による完全左脚ブロック(図2 B、C、D)とを明確に区別できることが可能になりました。
図2 QRS vector magnitudeの64チャンネル重ね書き表示(CLBBBまたはIVCD例)
A:QRS初期の立ち上がりが鋭く全体の波形が均一なパターン、B:QRS初期波形の立ち上がりが緩徐(slowed initiation)なパターン、C:QRSが不均一で棘状に分離した成分(fragmentation)が見られるパターン、D:slowed initiationとfragmentationの両者がみられるパターン。左室機能が正常なisolated CLBBBは全8例がAのパターンでしたが、左室機能障害を有するCLBBB(14例、左室駆出率23±8%)ではパターンBが4例、Cが2例、Dが3例で、パターンAは5例のみでした。
関連成果等
(3) 左心室内の電気的同期不全の評価と心室再同期療法(cardiac resynchronization therapy、CRT)効果の予測
心室同期不全は、心不全例の血行動態を増悪させますが、その正確な評価法に確立したものはありません。また、心室同期不全に対して行われるCRTが奏功する例(responder)と無効例(non-responder)をCRT前に予測することは極めて困難でした。CRT治療を必要とした重症心不全例で心磁図解析を行ったところ、左室興奮伝搬(電流)が右から左へ一様に進行するもの(uni-directional伝導パターン;図3 A)とQRS中期の電流が同時に別々の方向に向かうもの(multi-directional伝導パターン;図3 B)の2つのパターンに分類され、その分類はCRT有効・無効の予測に極めて有用でした(uni-directionalパターンは8例中1例を除く7例がresponder、multi-directionalパターン7例中1例を除く6例がnon-responder)。
![]()
図3 心室伝導パターンの分類(QRSマッピング)
関連成果等
(4) 重症心室性不整脈発生の器質となる伝導遅延検出と部位同定
右室心筋の脂肪変性・線維化を特徴とする不整脈源性右室心筋症(ARVC)は、右室起源の心室頻拍、心不全、突然死の原因になります。本疾患では右室内の局所的な伝導遅延が心室頻拍発生に深く関わっており、その一部は心電図上でQRSの直後の結節(ε波)として観察されますが、微小で判別困難な場合もあります。心磁図では、図4のように、QRS後半からST部分にかけて不規則な棘状の磁場信号が明瞭に観察可能であり、右室内の著明な末梢性伝導異常と伝導遅延を明確に検出することが可能でした。さらに、2次元マッピング解析により伝導異常・遅延の部位同定が可能となり、その同定部位は侵襲的電気生理学的検査(CARTO)の結果とよく一致していました。異常電位の部位を正確に同定できることは、加算平均心電図(遅延電位の検出)には不可能であり、心磁図法独自の利点と言えます。
図4 不整脈源性右室心筋症における右室内伝導遅延(64Ch重ね書き波形)
心筋障害のない右脚自体の伝導障害(CRBBB、図左)とは明らかに異なり、不整脈源性右室心筋症4例では、右室内の著明な末梢性伝導障害と伝導遅延を示す不規則な棘状の磁場信号(↓矢印)が観察された。;









