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循環動態制御部

部の業績
2012年業績

2012年の業績

研究活動の概要

 循環動態制御部の研究基本理念は、統合的な枠組みによる循環器系の生理的・病態生理的な機能の解明である。生体システムの統合された複雑な状態での重要な特性の解明をめざして以下の方針で研究を構築している。循環動態制御部の研究分野の2つの柱は、「循環器系そのものの力学特性の解明」と「循環調節特性の解明」であり、両分野について基礎研究、応用研究および臨床に資する医療機器としての実用化の各階層にわたる研究を展開している(図)。特に、その結果としての最終目標として急性および慢性心不全の診断・治療の革新をめざした研究に焦点を当てている。さらに心不全の主たる死因である致死性不整脈の克服をめざし、基盤技術として心臓シミュレータ、臨床展開として超ICDを開発している。

本年度、特に注力した研究分野は、1. 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究(図では「低侵襲モニタの開発」)、2. 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究(図では「循環調節特性の解明」)、3. 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による慢性心不全治療の開発(図では「循環バイオニック研究」)、4. 超ICDプロジェクト(図では「超ICDの開発」)の4つである。さらに超ICDプロジェクトに関連して、5. 臨床に直結した研究としては、心磁図を用いた致死性不整脈の詳細な時空間的機序解明を、6. 心臓シミュレータの開発に関する研究としては、超ICDの電極配置と通電波形の最適化を行った。

以下に各項目について、その意義を記し、次項に本年度の成果の概要を列挙する。

  1. 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究:
  2. 心不全などの循環管理では心臓・血管の特性を定量的に把握する必要があり、これが臨床的に可能となれば、急性心不全の自動診断・自動治療が可能となる。そのためには心拍出量・左心房圧の測定は欠かせないが、肺動脈カテーテルによる測定は侵襲が大きく有害事象をもたらして予後を改善していない。正確であるが低侵襲な心拍出量や左心房圧の連続モニタが臨床的に求められており、そのために新しい機器の開発に取り組んでいる。

  3. 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究:
  4. 循環器疾患では心臓や血管系自体の異常に加え、これらの恒常性を維持する制御機構にも破綻をきたしている。このような病態を理解するために、循環制御系がどのような原理で心臓や血管系を制御しているのかを解明する研究を行っている。循環器疾患の新しい診断・治療法(腎神経焼灼術や頚動脈神経刺激治療)の開発に資するため、病態や治療法による循環調節機構の変調についても検討している。

  5. 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による慢性心不全治療の開発:
  6. 生体の循環調節機構に外部より介入することにより、生体自身の調節を超える制御が可能であり、各種循環器疾患の予後を改善できることが明らかとなった。この原理(循環バイオニック医学)をもとにした治療法の開発を推進している。特に、迷走神経の電気刺激や薬物による刺激により重症慢性心不全の予後が改善することが明らかになったが、迷走神経刺激による心保護の機序解明、最適な刺激条件の研究、新たな迷走刺激薬の検索と開発、心筋再生の効果増強に関する研究を行っている。虚血再潅流の早期の迷走神経刺激による梗塞の縮小にも取り組んでいる。

  7. 超ICDプロジェクト:
  8. 従来の植込み型除細動装置(ICD)の限界を克服する新しい独自機能を搭載し、国際競争力のある新しい植込み型治療機器を国内で製品化するための研究を継続している。試作機の大幅な小型化と低消費電力化に成功し、既存機器と同様の使い勝手ながら、独自機能により低電力除細動、正確な早期診断、心機能モニタを可能としている。

  9. 臨床に直結した研究:
  10. 国立循環器病研究センターは多くの重症心不全患者、低心機能の虚血患者、特殊な不整脈患者を診療している。この特徴を最大限に生かし、循環器疾患の診断、病態、治療に密接に関連した研究を行っている。特にわが国で2ヶ所にのみ設置されている心磁図を用いて、従来の心電図では不可能であった心筋内興奮の3次元時空間的な推移を可視化することができるようになった。突然死・致死的不整脈を生じる臨床上重要な種々の心疾患における不整脈発生の機序解明に大きく寄与している。患者ごとの差異より治療法の適応決定にも利用可能となっている。

  11. 心臓シミュレータの開発に関する研究:
  12. ミクロからマクロまでの多階層の生理現象を統合した心臓シミュレータを開発し、仮想のヒト心臓をコンピューター上に再現することにより、新たな医療や創薬に役立てるための研究を行っている。シミュレータの精度は、除細動実験など生体では困難な繰り返し実験を、バーチャル実験として代替できる精度に達している。実際にシミュレータで求めた最適な除細動電極の配置や通電波形を動物実験で検証し、シミュレータがこのような治療機器の開発に役立つことを実証している。

2012年の主な研究成果

  1. 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究:
  2. 低侵襲血行動態連続モニタに関し、低侵襲・高精度心拍出量連続モニタの開発と臨床応用、低侵襲・高精度な左心房圧モニタの開発、無侵襲な血圧連続モニタシステムの開発の研究を行った。その他、左心低形成症候群に対するHybrid手術が心臓エネルギー効率に与える影響の検討に関する研究を実施した。

  3. 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究:
  4. 病態における循環調節の変調に関し、心不全ラットにおける迷走神経性動的心拍数調節の悪化、自然発症高血圧ラットにおけるα2アドレナリン受容体刺激による中枢性迷走神経賦活化の減弱について、薬物や治療による変調に関し、グアンファシンが心臓迷走神経活動に与える影響の検討、腎臓除神経が自然発症高血圧ラットの圧反射機能に及ぼす影響の解明、アゼルニジピンが動脈圧受容器反射に及ぼす影響の同定の研究を行った。その他、交感神経活動の振幅の分布関数に関する検討、心不全ラットの水代謝病態生理及び水分制限の治療効果の解明、圧受容器神経終末メカノセンサーの動脈壁内空間的配置の2光子解析に関して研究を行った。

  5. 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による慢性心不全治療の開発:
  6. 迷走神経刺激による心保護の機序解明(心筋梗塞後重症心不全治療における末梢性α7-ニコチン性アセチルコリン受容体を介したアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)の心臓保護作用、心筋梗塞後の迷走神経刺激による動脈圧反射機能の改善)、迷走神経刺激による心筋再生の効果増強(迷走神経刺激による生体の内在性再生能力の賦活化及び新規心血管再生治療法の開発)に関する研究と行った。その他、圧反射活性化治療における求心性線維の役割の解明に関する研究を実施した。

  7. 超ICDプロジェクト:
  8. 独自機能に関し、低エネルギー除細動のための最適電極配置・通電波形に関する実験的検討、超ICDにおける不整脈の高精度・高速診断アルゴリズムの開発、心不全モニタ機能の開発を行った。既存機器相当の使い勝手を確保するために、植込み型治療機器のシステム設計および試作、電極リードの設計および試作、低侵襲植え込み技術の開発に関する研究を実施した。

  9. 臨床に直結した研究:
  10. 心磁図による不整脈の機序解明と診断精度向上に関し、心磁解析による肥大型心筋症の左室興奮伝播異常の検出とそれによる致死的心室性不整脈イベントの予測、心室頻拍を有する陳旧性心筋梗塞例での心室脱分極異常の心磁評価:右室興奮が心室遅延電位の検出を困難とする可能性の検証に関する研究を実施した。その他、運動誘発性ST上昇による非虚血性拡張型心筋症の予後予測の有用性の検討に関して研究した。

  11. 心臓シミュレータの開発に関する研究:
  12. 心臓シミュレータ上でのバーチャル実験を繰り返すプロトコルを実行し、コンピューター・シミュレーションによる最適な電極配置・通電波形の設計に関する研究を実施した。

研究業績

  1. Kawada T., Akiyama T., Shimizu S., Kamiya A., Uemura K., Sata Y., Shirai M. and Sugimachi M. Central vagal activation by alpha2-adrenergic stimulation is impaired in spontaneously hypertensive rats. Acta Physiologica 206, 72-79, 2012.
  2. Yoshida A., Asanuma H., Sasaki H., Sanada S., Yamazaki S., Asano Y., Shinozaki Y., Mori H., Shimouchi A., Sano M., Asakura M., Minamino T., Takashima S., Sugimachi M., Mochizuki N. and Kitakaze M. H(2) mediates cardioprotection via involvements of K(ATP) channels and permeability transition pores of mitochondria in dogs. Cardiovasc Drugs Ther 26, 217-26, 2012.
  3. Takahama H., Takaki H., Sata Y., Sakane K., Ino Y., Noguchi T., Goto Y. and Sugimachi M. Exercise-induced ST elevation in patients with non-ischemic dilated cardiomyopathy and narrow QRS complexes: novel predictor of long-term prognosis from exercise testing. Circ J 77, 1033-9, 2013.
  4. Shimizu S., Akiyama T., Kawada T., Sata Y., Mizuno M., Kamiya A., Shishido T., Inagaki M., Shirai M., Sano S. and Sugimachi M. Medetomidine, an alpha(2)-Adrenergic Agonist, Activates Cardiac Vagal Nerve Through Modulation of Baroreflex Control. Circulation Journal 76, 152-159, 2012.
  5. Miyamoto T., Inagaki M., Takaki H., Kawada T., Shishido T., Kamiya A. and Sugimachi M. Adaptation of the respiratory controller contributes to the attenuation of exercise hyperpnea in endurance-trained athletes. Eur J Appl Physiol 112, 237-51, 2012.
  6. Kawata H., Noda T., Yamada Y., Okamura H., Satomi K., Aiba T., Takaki H., Aihara N., Isobe M., Kamakura S. and Shimizu W. Effect of sodium-channel blockade on early repolarization in inferior/lateral leads in patients with idiopathic ventricular fibrillation and Brugada syndrome. Heart Rhythm 9, 77-83, 2012.
  7. 川田 徹, 杉町 勝. 心不全における動脈圧反射性交感神経調節の破綻-システム生理学的アプローチによる評価. 医学のあゆみ 243, 466-474, 2012.
  8. 砂川 賢二, 杉町 勝. 【交感神経と循環器疾患Revisited】 最近のトピックス 交感神経とバイオニック医学. Cardiac Practice 23, 139-142, 2012.
  9. 杉町 勝. 【自律神経系と循環器疾患】 動脈圧受容器反射と血圧・心機能調節. 呼吸と循環 60, 237-245, 2012.
  10. 杉町 勝, 砂川 賢二. 我が国の内科領域のトランスレーショナルリサーチとEBM トランスレーショナルリサーチ 自律神経介入による循環器疾患治療の基礎とTR. 日本内科学会雑誌 101, 2539-2543, 2012.

最終更新日:2021年10月01日

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