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脳血管リハビリテーション科

医療関係者の皆様へ

脳血管リハビリテーション科2022年 研究活動概要

Ⅰ.診療実績

 脳血管リハビリテーション科は、急性期脳卒中患者さんへのリハビリテーションのみならず、心不全であまり動けない患者さんや全科からの廃用症候群(長期間の安静によって身体能力が極めて低下した状態)の患者さんに対するリハビリテーションを行っています。スタッフは、横田医長(脳血管内科併任)、セラピスト26名(理学療法士15名、作業療法士6名、言語聴覚士5名)、事務助手(非常勤)2名の計29名です。
 診療実績の概要は、依頼科別(2022年)では、依頼総数3,951名のうち、脳卒中を中心とした脳血管系診療科(脳内科、脳外科)より52%、成人心臓血管系診療科(心臓内科、心臓外科)より39%、小児心臓系診療科(小児循環器内科、小児外科)、重症心不全・移植科などのその他の診療科より9%となっています(図1)。診療科別依頼件数の年次推移(5年間)では、2017年 2,357件でしたが2022年には3,951件と約1.7倍に増加しました(図2)。内訳は、2017年から2022年にかけて脳内科は1,095件より1,564件(1.4倍)であったのに対し、心臓内科では542件より1,015件と約2倍に増加しました。この結果は、サルコペニア(筋肉量の減少による身体機能の低下)、フレイル(虚弱)、低栄養を合併した離床困難な高齢慢性心不全患者さんの増加を示しています。そこで現在私たちは、急性期脳卒中に特化した専門的なリハビリテーションだけでなく、高齢慢性心不全患者さんの早期離床を目指したリハビリテ-ション法の開発にも取り組んでいます。

Ⅱ.研究活動の概要

  1. 急性期脳卒中に対する新たなリハビリテ-ション法と評価法の確立
     現在、脳梗塞超急性期において、再潅流療法(血栓溶解療法および機械的血栓回収療法)が転帰を改善することが知られていますが、実施可能な施設の制約等のため、急性期再潅流療法の実施率は脳梗塞治療全体の20%未満と推定されています。脳出血に関しては、効果的な急性期内科治療は未開発です。従来、脳卒中リハビリテーションは、主に急性期での合併症抑制と早期離床、回復期での機能回復治療を目的に実施されていました。しかし、脳卒中発症早期より失った機能に特化した集中的な訓練は、神経可塑性を促し、良好な機能回復に繋がることが期待されます。急性期脳卒中リハビリテーションの意義は、患者さんの「機能の底上げ」と患者さんが元の生活に戻るための「方向づけ」と考え、現在、急性期での新たなリハビリテーション法の開発に取り組んでいます。
    1)急性期脳卒中後、上肢機能障害例に対する新たな評価指標の開発
     従来、脳卒中リハビリテーションにおける運動機能評価は、自立度や課題到達度に着目されてきました。一方、こうした指標は、一定の運動機能の到達がなければ、機能改善として反映されないため、脳卒中急性期という短期間での判定、あるいは重症麻痺のある患者さんでの詳細な機能回復の判定には、不向きといえます。こうした問題点を解決するため、2019年より、東京電機大学理工学部との共同研究をはじめました。本研究では、麻痺した腕の自動(自分で動かす)運動と他動(療法士が動かす)運動では、異なる運動特徴があることから、両者の皮膚表面形状の違いを解析することで「随意性(自ら動かそうとする意志)の抽出と定量化」を目指しています。こうした新たな視点での運動評価指標の開発は、新たなリハビリテーション法導入時の効果判定にも使えます。更に、本評価システムでは、患者さんの運動によって得られた皮膚形状変化を可視化し、「他動動作による目標動作」と「随意運動の達成状態」の提示(バイオフィードバック)によるリハビリテーションが行えます。
    2)急性期脳卒中例におけるlateropulsion合併の実態と新たなリハビリテーション法の開発
     急性期脳卒中患者さんでは、しばしば運動麻痺や筋力低下がないにも関わらず、不随意に(自らの意志に関係なく)一側に身体が傾き、転倒傾向を示す症候(lateropulsion)が見られます。本症候が見られる患者さんは、自覚的視性垂直位(患者さん自身が垂直と感じる軸)が偏倚しているため、歩行リハビリテーションが進まないという大きな問題点があります。一方で、lateropulsionの患者さんの頻度、病巣との関連、回復過程には不明な点が多く残されています。そこで現在私たちは、lateropulsion合併の実態を調べ、合併した患者さんの回復過程を追いながら、歩行再建に向けた新たなリハビリテーション法の開発に取り組んでいます。新たなリハビリテーションとしては、奈良先端大学院大学との共同で、歩行運動療法を支援するためのリハビリテーショングラスの開発を行っています。

  2. 慢性心不全・心疾患患者に対する早期離床、ADL改善を目指したリハビリテーション法の開発
     高齢化が進む本邦では,サルコペニア・フレイル、低栄養合併の高齢心不全例が増加傾向にあり、その対応が喫緊の課題とされています。一方, サルコペニア・フレイル,低栄養合併の高齢心不全患者さんに対しては,ガイドラインで示されている最適運動様式は確立されていません。当科では、独歩困難な慢性心不全を中心とする心血管疾患患者さんのリハビリテーションを行っていますが、その依頼件数は、冒頭に述べた通り、5年間で約2倍に増加しました。そこで心血管リハビリテーション科との共同で、患者さんの病状に応じて、自立支援用ロボットHybrid Assistive Limb腰タイプ(腰HAL)、和温療法、座位用エルゴメーター、フレイルクラス(少人数集団療法)でのリハビリテーションを行っています。和温療法は、乾式遠赤外線サウナ装置により患者さんの身体を加温する我が国独自の治療法であり、心不全の血行動態や運動耐容能の改善効果が報告されており、和温療法と座位用エルゴメーターとの運動を組み合わせた独自の方法でリハビリテーションを行っています。今後、慢性心不全の患者さんに対して、どのようなリハビリテーションが長期的に身体機能,身体活動性,日常生活自立度,精神・認知機能に効果があるのか、明らかにしたいと考えています。

  3. 包括的循環器リハビリテーションの実施:「フレイル予防ネット」事業の立ち上げ 
     脳卒中、急性心筋梗塞、慢性腎臓病などの循環器疾患は、共通した危険因子(喫煙・高血圧・糖尿病など)や病態を有しています。そこで、2019年より心血管リハビリテーション科と共同して、「包括的循環器リハビリテーション」プログラムの策定に着手しました。「包括的循環器リハビリテーション」とは、心疾患、脳卒中、慢性腎臓病の患者さんを対象とし、各々の病態に応じた最適な運動療法の提供、生活指導、啓発を行い、再発防止と社会復帰を促す取り組みです。心疾患の患者さんに対しては、心血管リハビリテーション科にて、入院中より外来に至るまで、一貫した運動療法、生活指導を含めた心臓リハビリテーションが行われます。脳卒中発症後間もなく当院に入院となり、自宅退院可能となった患者さんに対しては、心疾患を合併していれば、心血管リハビリテーション科の外来心臓リハビリテーションへの積極的な導入を行っています。外来心臓リハビリテーションの適応とならない患者さんに対しては、「包括的循環器リハビリテーション」の一環として「フレイル予防ネット」への参加を促しています。
     「フレイル予防ネット」とは、患者さんの療養に関連した医療、福祉、社会資源を効果的につなげて活用できるしくみを作る目的で、2021年11月より立ち上げた事業です。具体的には、退院後3ヶ月の間に、患者さんがお住まいの地域包括支援センターのスタッフによる家庭訪問と患者さんのライフスタイルに応じた運動プログラムへの参加を準備しています。運動プログラムには、自転車エルゴメーターを用いた在宅トレーニング、スポーツジムでの特別運動プログラムBrain & Heart Refreshing、インターネット上での運動プログラムがあり、希望される患者さんには3ヶ月間無料で参加していただけます。これとは別に、退院3ヶ月後、リハビリテーション外来を受診していただき、医師による診察に加えて、療法士による機能評価が行われます。これらのデータは全てデータベース化され、エビデンスに基づいたリハビリテーションプログラムの作成に役立てています。現在、「フレイル予防ネット」で連携している地域包括支援センターは吹田市と摂津市ですが、今後、更に近隣の自治体との連携を進める予定です。こうした取り組みによって、患者さんの退院後の活動量、筋力、生活の質(QOL)の向上、更には健康寿命の延伸に繋げたいと考えています。「フレイル予防ネット」の詳細は、こちらをご参照ください。

Ⅲ.学会発表

  1. シンポジウム:横田千晶、太田幸子、鎌田将星、川見知佳、川田美穂、重光典子、乾裕、黒田雅子、村山靖子、佐野直樹、藤本康之:急性脳卒中/TIA発症後自宅退院患者に対する社会復帰に向けた「吹田フレイル予防ネット」事業のとりくみ、第47回日本脳卒中学会学術集会、WEB, 大阪、2022年3月17日〜20日
  2. シンポジウム:横田千晶、鎌田将星、太田幸子、三浦弘之、青木竜男、藤本康之:軽症脳梗塞患者に対する心臓リハビリテーションの運動耐容能への効果、第9回日本心血管脳卒中学会、WEB、徳島、2022年4月23日
  3. 島田幸洋、三浦弘之、柳英利、福井教之、碇山泰匡、賀川尚美、上谷祥紘、小西治美、山田沙織、富樫ともよ、藤井沙也子、下北千恵美、父川拓朗、庵地雄太、岡田厚、青木竜男、 横田千晶、泉知里、 野口輝夫:包括的心臓リハビリテーションが心アミロイドーシス症例にもたらす効果、第86回日本循環器学会、WEB, 2022年3月11日〜13日
  4. 鎌田将星、三浦弘之山本壱弥、碇山泰匡、小治美、藤本 康之、青木竜男、村田峻輔、西村邦宏、横田千晶:軽症脳梗塞例に対する外来心臓リハビリテーションの効果、第86回日本循環器学会、WEB, 2022年3月11日〜13日
  5. 太田幸子、藤本康之、横田千晶:急性期脳卒中/一過性脳虚血発作 自宅退院例の退院後の活動量低下の関連因子について、第47回日本脳卒中学会学術集会、大阪、2022年3月17日〜20日
  6. 鎌田将星、山本壱弥。太田幸子、藤本康之、横田 千晶:軽症脳梗塞例に対する包括的心臓リハビリテーションプログラムの効果、第47回日本脳卒中学会学術集会、大阪、2022年3月17日〜20日
  7. 鎌田将星、島野克朗、堂田大嗣、西薗博章、横田千晶:自覚的視性垂直位の偏位は急性期脳卒中患者のlateropulsion合併と関連する、第20回日本神経理学療法学会学術大会、大阪国際会議場、2022年10月15日〜10月16日
  8. 上谷祥紘、三浦弘之、林田佳一、岩永光史、望月宏樹、碇山 泰匡、西薗博章、青木竜男、横田千晶、塚本 泰正、野口暉夫:重症右心不全の緩和医療として和温療法を導入した1例.第1回和温療法学会学術集会.東京,11.27
  9. 山路実加、高木正仁、横田千晶:左尾状核出血により記憶障害を呈した一症例、第46回日本高次脳機能障害学会学術総会、山形、2022年12月2日~3日

最終更新日:2023年02月13日

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