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小児循環器内科

医療関係者の皆様へ
肺循環疾患の診断と治療

肺循環疾患の診断と治療

1. 小児の肺動脈性肺高血圧

肺動脈性肺高血圧とは、肺の微小な血管(直径100 μm以下)が壁肥厚や血管平滑筋の収縮などで無数に狭窄することで、肺動脈の血圧が上昇して平均血圧が25mmHg以上となる病気です。原因や病態により様々な種類があります。

小児の肺動脈性肺高血圧の胸部X線写真:
中枢部の肺動脈は拡大する一方で、末梢の肺動脈は痩せ細くなっている。心拡大も認められる。

小児の肺動脈性肺高血圧における小動脈の病理組織写真:
外膜結合織は増成し中膜平滑筋は肥厚し、動脈内腔は内皮細胞の増殖によりほぼ閉塞している。

・小児特発性肺動脈性肺高血圧・小児遺伝性肺動脈性肺高血圧

原因が明らかでないものを特発性、遺伝子異常を伴うものを遺伝性肺動脈性肺高血圧と呼びます。遺伝性では一定の確立で子に病気が発症する場合があります。当科外来では、現在約30名の患者さんの治療・経過観察を行っています。

・全身性疾患に伴う肺動脈性肺高血圧

  • 門脈肺高血圧
    肝臓や門脈循環に問題のある疾患(胆道閉鎖症・肝硬変・門脈低形成など)に伴い肺動脈の血圧が上昇する病態です。
  • 膠原病に伴う肺高血圧
    膠原病(小児の場合は全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病など)に伴い肺動脈の血圧が上昇する病態です。
他にも、新生児の慢性肺疾患、HIV感染症、呼吸不全など様々な疾患に伴い肺動脈性肺高血圧が起こることが知られています。

・小児・成人の先天性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧

先天性心疾患に伴い肺動脈の血圧が上昇している状態です。通常心臓手術後は肺高血圧が改善・解消する場合が大半ですが、術後も肺高血圧が残存したり、術後遠隔期に様々な要因で肺高血が発症する場合があります。


2. 肺動静脈瘻

遺伝(遺伝性出血性毛細血管拡張症)や先天性の心疾患(左側相同心)、肝疾患などに伴い肺の中で動脈と静脈が肺胞を介さず、直接接続している部分のある病気です。酸素化されない静脈血が動脈に流れ込むことから、チアノーゼを起こしたり、奇異性塞栓・脳膿瘍などの原因となります。


3. 肺動脈性肺高血圧の検査・診断法

・心臓カテーテル検査

カテーテルで肺動脈圧を直接測定します。肺高血圧の診断確定には必須の検査です。肺動静脈瘻の確定や治療にも重要です。初回の診断確定時に必須であり、その後は最も適した治療を選択するために、数ヶ月~数年毎に行います。

・6分間歩行検査

6分間での最大歩行距離を評価します。病勢に伴う運動能力の低下や治療による改善を評価する上で簡便で、広く使用されています。

・トレッドミル運動耐容能検査

肺動脈性肺高血圧で運動能の低下がどの程度か、呼気ガス分析をリアルタイムに行い精密に測定します。

・胸部CT検査

肺血管の状態や肺出血の際に必要な検査です。


肺動脈性肺高血圧に合併した肺出血の胸部CT画像

・心臓MRI検査

心臓の心室の大きさ・動きを評価します。カテーテル時に造影しづらい肺動脈性肺高血圧患者では重要な検査です。右心室のサイズ・動きの評価はこの検査が最も適しているとされています。

・心臓核医学検査

肺換気・血流シンチグラムで肺血管・換気の状態を把握すると共に、心筋血流シンチ、MIBGシンチグラムなど肺動脈性肺高血圧に伴う心機能・心不全評価で行います。

・血液検査

肺高血圧の原因疾患を探索し、肺高血圧による心不全や他の臓器障害の程度・経過を血液検査で見ることができます。成人の肺動脈性肺高血圧では、BNPを始め多くの血液検査指標が予後予測や経過の評価に役立つとされています。

4. 治療法

肺動脈性肺高血圧は、治療法と呼べるものがほぼなかった時代の90年代までは、我々の施設でも2年で約半数の小児患者が亡くなっていました。しかし1999年にエポプロステノール持続点滴が発売され、その後もこの約15年で多くの肺血管拡張薬が開発・発売されることで、現在当科では小児の特発性・遺伝性肺動脈性肺高血圧の5年生存率85%となっています。

しかしながら、これらの肺血管拡張薬はそのほとんどが成人を対象に承認・販売されており、小児では適応外使用となっています。当科では小児の肺動脈性肺高血圧薬剤の小児への適応を推進するため、成人で効果の認められている肺血管拡張薬の小児適応治験にも参加しています。

酸素吸入は手間がかかりますが、肺動脈圧の低減には多くのお子さんで効果が見られるため、多くの患者さんで在宅酸素療法を導入しています。原因疾患の治療に関して、当院の体制上では肝疾患や膠原病の治療は難しいことから他施設の先生と連携して治療・評価を行っています。

最終更新日:2021年10月08日

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