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小児循環器内科

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研究情報

研究情報

3Dプリンティング技術を活用した"超軟質精密心臓レプリカ"作成の試み
外科手術シミュレーション、医学教育、研究ツールの確立をめざして

小児循環器部 白石 公

先天性心疾患は出生100人に約1人の割合で発症し、生まれつきの病気として最も頻度の高いものです。小さい穴では自然に閉鎖することもありますが、治療には多くの患者さんで心臓外科手術が必要です。先天性心疾患の特徴は、対象となるこどもの心臓が極めて小さいことと、病気のバリエーションが広く立体構造が複雑なために、患者さんによって病態が大きく異なることです。このように小さく複雑な心臓病を正確に診断し、患者さんに応じた治療を実践するには、平面モニターに映る断層心エコーや心血管造形造影の2次元もしくは3次元画像だけでは必ずしも十分ではありません。実際に手にとって触れることができ、あらゆる場所を切開して心臓内部を観察できる実物大の柔らかい心臓レプリカがあれば、より確実な治療を実現できる新たな手段になると考えられます。

私たちは、先天性心疾患の診療には心臓レプリカが必要であることを早くから認識し、2004年より患者さんのCTデータから、精密3Dプリンターである"光造形法"を応用して、複雑先天性心疾患のレプリカ作成を試みてきました。最初は硬いプラスティクのレプリカしかできませんでしたが、2009年より"光造形法"と"真空注型法"をハイブリッドさせることにより、世界でも類を見ない超軟質で精密な心臓レプリカが作成できるようになりました。その高い技術が認められ、共同開発企業は2013年に"第5回ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞"を受賞しました。しかしながら技術的には未完成であり、CT装置の限界のために、弁や腱索などの心臓内部の細かい重要な組織の再現はできませんし、実用化のための製作時間の短縮やコスト削減も不可欠です。現在、心臓の感触に近づけるためのレプリカ素材の改良や、迅速で精密な新しい3Dプリンター装置の開発を進めています。

このような患者さん自身の臓器レプリカは、先天性心疾患の治療にとどまらず、大動脈疾患、脳血管疾患、心臓弁膜症、補助人工心臓などの循環器疾患での手術やカテーテル治療、さらには肺や肝臓の内視鏡手術や将来のロボット手術においても有効な補助手段になると考えられます。また若手医師の教育、患者さんへの説明、希少疾患のアーカイブ化、新しい治療法の開発、再生医療の足場など、多方面への応用が期待されます。必要とされる特定の疾患に対して心臓レプリカに保険が適応され、当たり前の診療補助手段となる日を少しでも早く実現するため、今後も技術開発を進めたいと考えています。


新生児心エコー画像に基づく先天性心疾患の心血管形状モデル構築支援システムの開発

小児循環器部 黒嵜 健一、医療情報部 中沢 一雄

先天性心疾患の患者説明を行う医師を支援するシステムとしてベクトルシェーマシステムの開発を行ってきました。本システムは、ベクトル型データとして作成された電子的シェーマに、形態的異常や病名などのキーワードを持たせ、素早くシェーマを見つけ出す機能や、心臓を部位別に分け、それぞれに対して典型的なパーツを用意して、それらを組み合わせてシェーマを作成する機能を持ちます。これらによって、医師は高品質なシェーマを手軽に作成することができ、患者説明を支援することができます。本研究では、それぞれの知識やイメージ差を小さくする仕組みとして、ベクトルシェーマシステムを位置付け、専門医が短時間でより効率の良い意思伝達を行うことのできる、医療従事者間のコミュニケーションツールの開発をゴールとしています。


経胸壁断層心エコーから3次元画像を再構築するシステムの開発

小児循環器部 黒嵜 健一、医療情報部 中沢 一雄

水平断面のエコー画像を胸壁下部から上部に向けてスキャンし、その画像を3次元表示するシステムです。複雑な血管の走行などを簡単に3次元表示できるため、将来臨床応用が期待されます。


乳児特発性僧帽弁腱索断裂の治療法の確立に向けた臨床研究

小児循環器部 白石 公

生来健康である乳児に、数日の感冒様症状に引き続き突然に僧帽弁の腱索が断裂し、急速に呼吸循環不全に陥る疾患が存在します。余り知られていない病気ですが、これまでの報告例のほとんどが日本人乳児という特徴があります。発症早期に的確に診断され、専門施設で適切な外科治療がなされないと、短期間に死に至る。また外科手術により救命し得た場合も、人工弁置換術を余儀なくされたり、神経学的後遺症を残すなど、子どもたちの生涯にわたる重篤な続発症をきたすことが多い。僧帽弁腱索が断裂する原因として、ウイルス感染、母体から移行した血中自己抗体、川崎病などが報告されており、何らかの感染症や免疫異常が引き金となる可能性が考えられますが、詳細は不明です。

私たちは、厚生労働科学研究費難治疾患克服研究事業「乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病因と診断治療の確立に向けた研究」により、過去15年間に発症した国内95症例の臨床的特徴をまとめ、2014年に国際誌に発表しました (Circulation. 2014;130:1053-1061)。現在も、病因病態の解明および治療法の確立に向けた研究を継続しています。


【患者の年齢分布(4-6ヶ月に多発)】

【男女比】

【季節別の発症】


【患者の臨床像】

【患者の血液生化学検査所見】


【患者の外科治療】

【患者の病理組織像】


先天性心疾患の長期予後の視点に基づいた介入のあり方に関する研究

日本医療研究開発機構委託研究開発費
循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業

外科手術成績の向上により、患者さんの90%以上が救命され成人期に到達するようになった先天性心疾患は、もはや小児科だけの病気ではなく、成人の循環器内科においても看過することのできない診療領域となってきました。先天性心疾患の診療には、小児期から成人期までの長期にわたる患者診療情報の整理が必要ですが、 このような診療情報の入力には医師に大きな労力を必要とするために、これまで小児期から成人期までの一貫した診療データベースは十分に整備されて来ませんでした。今回の研究では、既存の複数のデータベースをコンピューター内で統合させることにより、先天性心疾患の小児期から成人期までの新たな診療データベースを、医師の特別な労力を伴うことなく整備することです。方法としては、先天性心疾患に関連した学会(小児科、心臓外科、循環器内科)主導の患者データベース、病院 DPC もしくはレセプトなどの診療データベース、小児慢性疾患克服研究事業などのデータベースを匿名化の状態で収集し、確率論的に各々を統合させることにより、新たな総合的な患者データベースを構築するものです。このシステムが完成しますと、先天性心疾患患者さんの小児期から成人期までのデータベースが確立し、患者さんの便宜が図られるのみならず、長期予後から見た小児期の外科手術の正しい選択、今後必要となる様々な臨床研究の基礎となるデータとして、そして最終的に医療行政にも大きく貢献する可能性があります。国立循環器病研究センターでは、循環器病統合情報センターを中心として、この研究を継続して行く予定です。

最終更新日:2021年10月08日

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