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血管外科

対象疾患
慢性血栓塞栓性肺高血圧症

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の手術について

ここでは、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療のうち、肺動脈血栓内膜摘除術について紹介します。
その他の治療法や、肺高血圧症全般については、心臓血管内科部門 肺循環科のページをご覧ください。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送る肺動脈に血栓ができて詰まることで、肺高血圧症となる病気です。原因である血栓を取り除くための手術が、肺動脈血栓内膜摘除術です。

長い時間、肺動脈の中に詰まっていた血栓は、肺動脈の壁と一体になっています。このため、元々血栓であった部分とぶ厚くなった肺動脈の内側の膜を、同時に、直接取り除きます。

詰まっていた血管が開通するので、高かった肺動脈圧を下げる効果は大きく、症状も劇的に改善します。また、多くの患者さんで長期にわたってその効果持続することが確認されています。

日本では、一年に50~60件の肺動脈血栓内膜摘除術が限られた施設で行われています。国立循環器病研究センターでは、国内の他の施設に先駆けて1982年にこの手術を開始し、現在までに250人もの患者さんに手術を行ってきました。この手術は、他の心臓血管外科の手術よりさらに高度で繊細な技術を必要とするため、今までの経験を継承しながら、最新の機器や方法も取り入れて、ひとりひとりの患者さんの手術を丁寧に行っています。

手術前の検査

手術前の検査は、患者さんの地元の病院や、国立循環器病研究センターの肺循環科に入院していただいて行っています。

心エコーのほか、肺シンチグラム(換気と血流)や胸部CTといった検査によって、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診断がほぼ確定しますが、さらに、心臓カテーテル検査や肺動脈造影を行って、最適な治療法を選択し、肺動脈血栓内膜摘除術を行う場合の詳しい方法を検討します。

どのような患者さんに肺動脈血栓内膜摘除術を行うのでしょう。

心臓カテーテル検査で、平均肺動脈圧(正常9-18mmHg)が30mmHg以上に上昇している場合や、肺血管抵抗値が300 dyne/sec/cm-5以上に上昇している場合に手術を行います。

平均肺動脈圧や肺血管抵抗値がもっと高いと、肺高血圧症がさらに重症になり、手術の危険性も高くなりますが、手術が行えないわけではありません。また、平均肺動脈圧や肺血管抵抗値がそれほど高くなく、肺高血圧症が軽度であっても、息切れ等の症状が強くて日常生活に支障を来している場合には、肺動脈血栓内膜摘除術を行うこともあります。

肺動脈血栓内膜摘除術は、すべての患者さんに行えるわけではなく、血栓が肺動脈のどこにあるのかが重要な判断材料になります。

右肺と左肺はそれぞれ3つと2つの肺葉に分かれます。肺葉はさらに肺区域に分かれ、右は10の肺区域、左は9の肺区域に分かれます。肺動脈も、左右に分かれた後、肺区域と同じ数の区域枝に分かれ、さらに細かく(亜区域枝)分かれます。

肺動脈血栓内膜摘除術で、血栓と内膜を取り除くことができるのは亜区域枝までですが、区域枝や亜区域枝の血栓と内膜は十分に取り除けないこともあります。


図1

半分ぐらいの方で、左右の肺動脈分かれてすぐ、心臓に近い(中枢側)肺動脈の中に血栓があり、血栓と内膜を取り除きやすいことが多いようです。残りの半分ぐらいの方では、区域枝から亜区域枝の血栓と内膜を取り除く必要があり、細かく枝分かれした肺動脈の先まで取り除くため、さらに繊細な手術が必要になります。(図1)

肺動脈血栓内膜摘除術は薬物治療やカテーテル治療と比べて体の負担の大きい手術ですので、国立循環器病研究センターでは、肺循環科と血管外科がよく相談して、患者さんに最も適した治療法を選択してお勧めしています。

肺動脈血栓内膜摘除術の手術前後はどのような状態になるのでしょう。

肺動脈血栓内膜摘除術は心臓血管外科の手術の中でも、特に、体の負担の大きい手術です。すでに、肺高血圧症のために右心不全や呼吸不全に陥っている方であっても、できるだけ全身状態を良くしてから、手術に臨んでいただくようにしています。

このため、遠方からの方も含めて、手術の数週間前から入院していただき、体の状態を詳しく確認しています。

手術直後は1週間程度、集中治療室で治療します。数日は人工呼吸器が必要で、そのあとも、酸素や様々な薬物治療が必要になることが多いようです。

この期間を乗り越えると、肺循環科に移って、さらに、薬物治療やリハビリテーションを行い、手術による改善を確認するための検査を行います。手術によって肺動脈圧や肺血管抵抗は低下しますが、低酸素血症の改善には時間がかかるので、時間をかけてリハビリテーションを行います。

末梢型で血栓と内膜が十分に取り切れず、肺高血圧が残った場合にはカテーテル治療を追加することもあります。

早ければ1ヶ月程度で、長いと2年ぐらいかかる患者さんもいますが、徐々に症状や酸素化が改善して、2/3の患者さんが術前に必要であった在宅酸素療法を必要としなくなります。

最終更新日:2021年10月08日

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