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血管外科

対象疾患
閉塞性動脈硬化症

1. 閉塞性動脈硬化症とは?

動脈硬化による狭窄(細くなる)や閉塞(詰まる)は、全身の動脈に起こります。脳の動脈が狭窄・閉塞すると一過性脳虚血発作や脳梗塞を起こし、心臓の冠動脈が狭窄・閉塞すると狭心症や心筋梗塞を起こします。
手や足の動脈が狭窄・閉塞して栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなると、手先や足先が冷たくなったり、筋肉の痛みが出たりします。このような状態を閉塞性動脈硬化症と言います。
閉塞性動脈硬化症の原因である動脈硬化は、コレステロールなどの成分が動脈の内部に付着したり、高血圧や喫煙などで常に血管に負担がかかってしまうことで引き起こされます。

動脈硬化の危険因子は?

高血圧、脂質代謝異常症、加齢、糖尿病、喫煙、運動不足、肥満

2. どんな症状が出るのか?

閉塞性動脈硬化症の症状は4つの段階(Fontaine分類)に分けることができます。狭窄や閉塞が悪化すると、症状が段階的に進行します。

I度:冷感・しびれ感
II度:間欠性跛行(かんけつせいはこう)
しばらく歩くと、ふくらはぎなどが締めつけられるように痛くなり歩けなくなるが、休憩すると痛みが無くなって歩ける。狭窄や閉塞が悪化すると、次第に歩ける距離が短くなる。"以前は駅までなんとか休まずに歩けたのに、最近は3回休まないと駅にたどり着かない、、、"など。
III度:安静時痛
次第に歩く距離が短くなり、歩かずに安静にしていても痛みが続く。
IV度:潰瘍・壊死(かいよう・えし)
皮膚や筋肉の血流が不足して、小さな傷や低温やけどなどをきっかけに、皮膚に潰瘍や壊死を起こし、細菌感染や真菌感染を伴って治らない。

閉塞性動脈硬化症は上肢の動脈にも起こりますが、骨盤や下肢の動脈に起こることの方が多く、「下肢閉塞性動脈硬化症」と呼ばれることもあります。

閉塞性動脈硬化症の検査

手術を含む治療の適応を決める時に最も重視するのは、症状がどれくらい重症かですが、次のような検査で、重症度を客観的に評価して、狭窄や閉塞している場所を特定します。

1)下肢動脈圧測定

手の血圧は上腕にマンシェットを巻いて肘(上腕動脈)で測定しますが、足の血圧はふくらはぎにマンシェットを巻いて足の甲(足背動脈)や内側のくるぶしの近く(後脛骨動脈)で測定します。足の血圧は、手の血圧と比べると同じか、少し高いのが普通です。血流障害が疑われるときは、両手と両足の血圧を測って、ABI(Ankle-brachial Index:足関節上腕血圧比)を計算して、障害の度合いを評価します。

2)動脈超音波検査

足や腕の動脈を、直接、超音波で見ることで、狭窄や閉塞を調べることができます。さらに、ドップラー検査を追加すると、血液の流れの状態を詳しく調べることができます。

3)CT検査

血管の動脈硬化の程度、特に、石灰化と呼ばれる石のように硬くなった部分が分かります。さらに、造影剤を点滴しながらCTを撮影すると、血液の流れている部分が白く映るので、動脈の狭窄や閉塞の場所や程度が分かります。

4)血管造影検査

狭窄や閉塞している場所の近くにカテーテルを入れて、造影剤を注入することで、動脈の狭窄や閉塞の場所や程度が最も詳しく分かります。カテーテルによる血管内治療(後述)につながる検査です。なお、閉塞性動脈硬化症の患者さんは、心臓の冠動脈にも病気のあることが多いので、心臓カテーテル検査を同時に行う場合があります。

3. どんな治療法を選ぶのですか?

閉塞性動脈硬化症の治療法は、症状の程度(Fontaine分類)によって異なります。
冷感やしびれ感(I度)程度であれば、経過を観察します。禁煙を厳守し、歩くことを心掛けてください。
間欠性跛行(II度)がみられる場合には、禁煙を厳守し、生活習慣の改善や薬物療法、運動療法を行います。血糖や血圧、コレステロールの管理も重要です。また運動療法も効果的です。それでも症状が改善しない場合や、悪化する場合には血行再建術を行うことがあります。
外科的治療である血行再建術を行うかどうかは、患者さんのライフスタイルによります。

例えば、100mは歩けるという場合、身の回りのことができればよいという患者さんであれば薬物療法を続けるだけでも構いませんが、仕事や趣味でよく歩くという患者さんには外科的治療について相談することになります。
安静時痛(III度)や潰瘍・壊死(IV度)がみられる場合には、痛みを取り除くためや、感染を併発して全身状態の悪化を招くことを防止するために外科的治療が必要になります。血行再建術を行うのが原則ですが、動脈硬化が進んでいると血流を回復させることができないために、切断せざるを得ないこともあります。

禁煙は厳守してください

たばこに含まれるニコチンは、毒性の強い物質であるばかりでなく、血管を収縮させる作用があります。また、血液中の中性脂肪を増加させるとともに、高血圧、動脈硬化の原因になります。禁煙できなければ、症状が悪化するうえ、血行再建術を行っても症状が再発してしまいます。
国立循環器病研究センターでは、「禁煙外来」で禁煙のサポートをします。

手足の保護と清潔維持に注意してください

足が冷えると血管が収縮し、血液の流れがさらに悪くなります。
靴下や電気毛布を使って、保温に努めてください。入浴も血行改善に役立ちます。
閉塞性動脈硬化症の患者さんでは、小さな傷や低温やけどなどがなかなか治らず、感染を起こすことや、壊死に悪化することがあります。
爪を切る際は、深爪をしないようにしましょう。
四季を通じて素足を避け、靴下を着用して足を保護し、靴も足先のきつくないものを選ぶようにしましょう。
足はいつも清潔にして、水虫などの皮膚病にかからないように心掛けましょう。
電気あんかや湯たんぽを使用すると、低温やけどを起こすことがあります。手足に直接あたらないよう、間接的な保温になるよう注意しましょう。特に、糖尿病のある方は、四肢の感覚障害を伴っていて、やけどに気づくのが遅れる場合があるので要注意です。

歩行

「歩く」ことは特別な用具や場所を必要とせず、また体への無理な負担がなく、安全性にも優れています。閉塞性動脈硬化症のために間欠性跛行で足が痛くなるようになると、歩かなくなる患者さんがおられますが、歩くことによってそれまであまり使われていなかった細い血管(側副血行路)の血流が増えて、症状が緩和されます。痛みのでる一歩手前で休みながら、繰り返し歩くよう心掛けましょう。無理をして、痛みがでるまで歩くのはお勧めできません。

4. 血行再建術とは?

狭窄や閉塞している場所の上流(心臓に近い方)から下流(心臓から遠い方)に血液を流す方法です。もともとの動脈を広げたり、開通させたりするカテーテルによる血管内治療が広まっていますが、硬くなった血管の内膜を取り除く血栓内膜摘除術や、人工血管や静脈を用いたバイパス手術も行います。
血管内治療は局所麻酔で行えるので、痛みが少なく、入院期間も短くて済みますが、狭窄や閉塞の場所や長さによっては血管内治療ができないこともあります。血栓内膜摘除術やバイパスといった手術は全身麻酔が必要で、入院期間も長くなります。
世界的な研究(TASC)で、狭窄や閉塞の場所と長さによって、血管内治療とバイパス手術のどちらが適しているかが分かっています。
国立循環器病研究センターではCT検査や血管造影検査を行って、ひとりひとりの患者さんに適した方法を勧めています。

1)血管内治療

足の付け根の動脈(大腿動脈)や肘の動脈(上腕動脈)から、カテーテルを挿入して行います。バルーンの付いたカテーテルで狭窄や閉塞を広げ、同時に、金属の網の筒であるステントを押し広げておきます。

参照:心臓血管内科部門 血管科 のホームページ

2)手術治療

手術治療には、狭窄や閉塞している動脈の内膜を取り除く血栓内膜摘除術と、狭窄や閉塞の上流から下流に血液を流すためのバイパス手術があります。
血栓内膜摘除術は血管内治療を行うことが難しい、足の付け根の動脈(大腿動脈)に行うこと(図1)が最も多く、動脈を切開して、硬く、分厚くなった内膜と付着した血栓を剥がし取ります。動脈硬化の無い外膜だけを残し、切開した部分は人工血管や静脈を用いてパッチを充てるように広げておきます。8mm~10mmの比較的太い動脈に作り直すことができるので、再発が少ない手術です。
なお、バイパス手術の時に血管をつなぐごく限られた範囲の血栓や内膜を取り除くこともあります。

図1

バイパス手術には人工血管(ポリエステル繊維もしくはフッ化エチレン膜)や足の静脈(大伏在静脈)を用います。
代表的な手術は、太ももの動脈が閉塞した(浅大腿動脈閉塞)時に行う、足の付け根から膝の上までの大腿動脈−膝窩動脈バイパスです。(図2)人工血管を用いることができれば、2か所を切開することで手術を行うことができます。(図3)

図2
 
図3(左)、図4(右)

できるだけ太く、短いバイパスにする方が、再び狭窄したり、閉塞したりすることが少ないのですが、やむなく細い血管(5mm以下)につながなければならないときには、大伏在静脈を用います。(図4)
バイパス術では経路も重要です。腹部大動脈や骨盤の中の腸骨動脈が閉塞した場合に、開腹して、元々の動脈と同じ(解剖学的)経路を通してバイパス手術を行えば、短くて太い人工血管を使うことができます。しかし、開腹手術を行うことが難しい患者さんでは、鎖骨の下をくぐって手に向かう腋窩動脈から足の付け根の動脈(大腿動脈)に、元々の動脈にはない(非解剖学的)、長い経路を通してバイパスを作ることがあります(図5)。

図5

人工血管の保護

人工血管を使ったバイパス術の後は、人工血管への強い衝撃、圧迫・屈曲を避けるため以下のことに注意してください。

・ゆったりとした衣服の着用 
・急激に体をねじらない
・洋式トイレを利用する
・あぐら、正座をさける
・膝関節、股関節を90度以上屈曲しない

なお、バイパスの場所によって注意事項が異なりますので、詳しくは主治医に相談してください。

人工血管の感染

ごく稀ですが、手術創の感染や歯の治療の後などに人工血管の感染を起こして、人工血管を取り除くなど困難な治療が必要になることがあります。38度以上の高熱が続くときや、手術創が赤くなったり、腫れたりしていたら、主治医に相談してください。
特に、足の付け根に手術創がある患者さんは、尿や汗などで汚染しやすいので、常に清潔に心掛けてください。

抗凝固療法・抗血小板療法について

閉塞性動脈硬化症の薬物療法や、血管内治療や人工血管によるバイパス手術の後の薬物療法には、血液中に血のかたまり(血栓)が出来ないようにする抗凝固剤(ワーファリンなど)や抗血小板剤を服用します。
大切な薬ですが、効きすぎると出血を引き起こし、効き目が弱いと血管の閉塞が再発します。

参照:循環器病情報サービス [80]血液をさらさらにする薬 薬に関する正しい知識 抗血栓薬(バイアスピリン、ワーファリン等)

最終更新日:2021年10月08日

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