ホーム > 診療科・部門のご案内 > 心臓血管外科部門 > 血管外科 > 大動脈人工血管置換

血管外科

大動脈人工血管置換(基部、上行、弓部、下行、胸腹部、腹部)

従来から施行されている手術法として、大動脈瘤の部分を切除して人工血管と置き換える「人工血管置換術」があります。人工血管は合成繊維のポリエステル(ダクロン)でできており、長期間にわたる充分な耐久性を有しています。

治療の原則は、瘤を破裂させないことです。大動脈瘤が破裂した場合には全体の10~20%程度しか救命できないと言われています。運よく病院まで来ることができても、成功率が低いことが知られています。したがって、破裂の危険性がある場合には、未然に大動脈瘤を手術治療することが望ましいということです。
破裂の危険性は瘤の大きさが一番の目安になります。胸部大動脈瘤であれば55-60mm、腹部大動脈瘤であれば45-50mmをその目安としています。手術は充分準備をすれば、ほとんどの場合安全に手術が可能です。手術の準備として、全身の様々な検査を行います。心臓、肺、脳等の画像検査や血液検査を行い、適切な手術の方針を検討します。

従来から施行されている手術法として、大動脈瘤の部分を切除して人工血管と置き換える「人工血管置換術」があります。開胸または開腹手術による人工血管置換術は長い歴史を有し、手術後の経過や起こりうる合併症等の予想がつきやすいのが特徴です。いったん治療を受けた場合には瘤はなくなり、追加の治療が必要になることはほとんど無いことが判っています。置換部位によっては、まだまだ体の負担が小さくない手術ではありますが、様々な改良が加えられて、近年は安全性が高い治療になってきたと言えます。

動脈瘤の部位別、主な治療法の写真または図解

1. 大動脈基部

この場所の大動脈瘤は大動脈弁に異常を併せ持つことも多く、弁の手術と動脈の手術を同時に行う基部置換術が一般的です。自分の大動脈弁(自己弁)を残す方法と、人工弁(機械弁もしくは生体弁)に取り換える手術の二通りの方法があります。ステントグラフトは使用できません。

【自己弁を温存する手術】(デービット手術)
自己の大動脈弁を温存し、基部を作り替える方法です(写真)。人工弁を使用しないのが特徴で、人工弁にまつわる様々な問題点がありません。比較的歴史が浅い手術ではありますが、これまでのところ良好な結果が報告されています。近年では術前に高度大動脈弁逆流を認めるような、弁そのものが傷んでしまっている患者さんの場合にでも弁形成手技(自分の弁を修復すること)を加えることで以前では人工弁を使用せざるを得なかった患者さんにも自己弁温存が可能となってきています。

【人工弁を使う手術】(ベントール手術)
自己弁の温存が困難な症例においては、ベントール手術(写真)という人工弁を用いた方法で治療を行います。40年以上前から行われている術式であり、安定した良好な長期成績が得られています。ただし人工弁として機械弁を使用した場合には、生涯血液をさらさらにする抗凝固療法のためにワーファリンと言う薬を服用する必要があります。また、生体弁を使用した場合には、このワーファリンの内服は不要ですが、生体弁の劣化による交換が10~15年の経過で必要になります。

【写真.大動脈基部置換: 自己弁温存(デービット手術)、弁付き人工血管置換(ベントール手術)】
写真

2. 弓部大動脈

人工血管置換術は、人工心肺装置を用いて、体温を25-30度まで下げ、全身の血液の流れを一時的に止め(循環停止法)、また心臓を一時的に冬眠状態とした上で行います。体の負担は低くなく、手術の後で特に脳障害(脳梗塞、脳出血など)が発生する可能性があります。以前に比べれば安全性はきわめて高く、この部位の大動脈瘤に対する治療法としては確実性があり、大多数の患者さんにお勧めしています(写真①)。

【写真① 弓部大動脈瘤人工血管置換】
写真①

高齢の患者さんで、この人工血管置換術では体の負担が大きすぎると判断した場合に、脳へ栄養を送っている血管に新たな通り道を作った上で、ステントグラフトを留置することもあります。
また、動脈瘤が広い範囲に渡り存在している場合には、これら二つの方法を組み合わせることも行っています。(写真②)

【写真② 弓部大動脈人工血管置換+ステントグラフト治療】
写真②

3. 胸部下行・胸腹部大動脈

下行大動脈は背骨に沿って比較的まっすぐに存在し、大きな枝分かれがないため、従来行われていた人工血管置換術よりは、ステントグラフト治療が行われることが多くなってきました。ただし、弓部に近い位置に瘤の存在する例や、解離性大動脈瘤の場合では、人工血管置換手術の方が望ましい症例もあります(写真)。

【写真:胸部下行大動脈瘤・人工血管置換・ステントグラフト】
写真

胸腹部大動脈瘤は文字通り、胸部から腹部にわたる広範囲に発生する大動脈瘤です。一般的に大動脈瘤の存在する場所によって4つのタイプに分類します(クロフォード分類:前述)。手術方法に関しても、この4つのタイプによってそれぞれ置換範囲が変わります。

【胸腹部大動脈置換:クロフォードII型】
写真

この下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤の手術に際しては、特徴的な合併症として、脊髄障害が挙げられます。これは、下行大動脈または胸腹部大動脈から背骨の中にある脊髄という太い神経の束を養う血管が分枝していることに関係しています。背骨に並行して走っている下行大動脈や胸腹部大動脈を人工血管で置換すると、脊髄への血液の流れが悪くなってしまうからであると考えられています。
この血流障害を受けることで、脊髄が部分的に壊死を起こすことがあります(脊髄梗塞)。この結果、脳からの電気刺激が足へ伝わらず、足が動かなくなり(対麻痺と言います)、排尿、排便が困難になることがあります(膀胱直腸障害と言います)。脊髄障害を完全に予防する方法は、世界中の研究者が検討を重ねていますが、未だにありません。しかし、術前のCTやMRIによる綿密な精査を行い、この脊髄への血液の流れに大きくかかわっている血管(アダムキュービッツ動脈といいます)を手術の前に確認することや、手術中に低体温、肋間動脈の再建、脳脊髄液ドレナージなどの多種多様な手法を用いることで、この脊髄障害の発生率は劇的に改善されつつあります。

アダムキュービッツ動脈

4. 腹部大動脈

腎臓へ血液を流す腎動脈よりも体の下側にある大動脈です。この部位の大動脈瘤は胸部大動脈瘤に比較して、動脈硬化がより強く関係していると考えられています。男性は女性の5倍の有病率があり、特に60歳以上になると増加することがわかっています。また、喫煙習慣や高血圧、家族歴がある人も腹部大動脈瘤になる可能性が高いといわれています。
治療法に関しては、比較的若い患者さん(70歳代以下)の方にはおなかを開ける必要のある人工血管置換術(耐久性の点で信頼性が高い)を行うことが多く、高齢の方(70~80代以上)には体の負担の少ないステントグラフト治療を行うことが多くなってきています。どちらかを選択するかに関しては、患者さんの状態や既往歴、あるいは大動脈瘤の形を把握した上で、ご希望を踏まえながら決定していくこととなります(写真)。

【写真:腹部大動脈瘤・人工血管置換・ステントグラフト治療】
写真

当科での新しい試み:胸部大動脈瘤手術、腹部大動脈瘤手術における小皮膚切開手術

当科で担当している胸部大血管手術は、体への侵襲が大きく、その手術成績が生命を左右します。そのため創を小さくすることで外科医の手術操作がやりにくくなっては、患者さんの命にかかわる可能性があり、従来、視野の確保のため皮膚切開は非常に大きなものでありました。

実際には、のど元からみぞおちまで皮膚を切開、更にその下にある胸骨を全長にわたって縦切開し、心臓や大血管全体を見えるようにして手術をする必要がります。しかし、その代償として手術後の創の痛みや創痕による美容上の問題が生じます。

その為、当科では近年の手術成績が安定してきたことから、これらの問題を最小限に抑えるために、大血管手術においても、症例に応じて小さな創で手術を行っております。これを小皮膚切開手術と呼びます。手術の内容(例:冠動脈バイパス術を合併施行する場合など)によっては小皮膚切開を行うことが困難な場合もあります。

また、腹部大動脈瘤手術においても可能な範囲(動脈瘤の範囲が小さい場合など)で、小皮膚切開手術を行う場合があります。

【実際の皮膚所見(上段:胸部手術、下段:腹部手術)】
胸部手術の写真
腹部手術の写真

小皮膚切開手術の導入により従来の胸部・腹部大血管手術に比べて手術侵襲を軽減することが可能になります。外科侵襲の軽減は、手術創が小さくなるという美容的な面と共に早期退院と医療費削減などに貢献することが今後期待されています。

最終更新日 2016年07月01日

ページ上部へ