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心臓外科

冠動脈バイパス術(Coronary artery bypass grafting: CABG)

1960年代より開始された冠動脈バイパス術は現在日本で年間約21,000件施行されている手術です。冠動脈の動脈硬化によるプラークで狭くなった部分より先の部分に小さなメスで穴を開け、グラフトと呼ばれる自分の体に存在する血管を縫い付けます。グラフトが冠動脈に縫い付けられた部分を吻合部といいます。グラフトから流れてきた血液は吻合部を通り、冠動脈へ流れ込み、心筋へと入り込むさらに小さな微小冠動脈に流れ込んでいきます (図5)。狭窄部分や閉塞部分はそのままにしておきます。

図5 グラフトと冠動脈の血流図

冠動脈バイパス術の目的は、狭窄や閉塞により血液が不足している心筋へ新たな血液を供給することで心筋の活動を助けることと、狭心症の予防、そして心筋梗塞の予防です。これらを達成することで、患者さんの生活の質を向上させ、生命予後を改善します。

グラフトを縫い付ける場所の冠動脈内腔の大きさは1.0mmから2.0mmほどなので、このサイズに適した大きさのグラフトが必要です。そのため使用できるグラフトは前胸部の内側にある内胸動脈(右、左)、前腕にある橈骨動脈(右、左)、下肢にある大伏在静脈(右、左)、胃大網動脈と限られています。

1990年代から2000年代において動脈グラフト(内胸動脈、橈骨動脈、胃大網動脈)の良好な遠隔期成績が示されたことから、当院では積極的に動脈グラフトを使用しています。主なグラフトのデザインは、両側の内胸動脈と左右どちらかの橈骨動脈を使用する方法(図6)と、左右どちらかの内胸動脈と橈骨動脈を使用する方法です。橈骨動脈を採取する際には前腕に長い傷が出来ますが、患者さんによっては内視鏡システムを用いて小さな傷で採取することができます (図7)。動脈グラフトが足りない患者さんや、動脈グラフトの使用がふさわしくない患者さんには、大伏在静脈を使用します。

図6 左右内胸動脈と橈骨動脈を用いた冠動脈バイパス術(吻合カ所: 4カ所)の1例。赤い矢印は血液の流れを示す。
図7 橈骨動脈採取後の創部の違い (手術1年後)

冠動脈バイパス術の際には、人工心肺装置という心臓を補助する機械を用いて行う方法(On-pump CABG)と人工心肺装置を使用せずに心臓を動かしたまま行う方法 (Off-pump CABG)があります。世界的な流れとして手術に低侵襲という概念が広がってきた1990年代始めより、人工心肺装置の使用による体へのダメージを減らすためOff-pump CABGが行われるようになり、1990年後半より成績が安定してきました。当センターでは2000年より積極的にOff-pump CABGを行っており、良好な成績を得ています (図8)。

図8 当センターでの冠動脈バイパス術件数と術式別の件数

冠動脈バイパス術の適応は、主に以下のいずれかになります。

①冠動脈主幹部あるいは左前下行枝の根元近くに狭窄・閉塞病変がある場合全て
②左前下行枝、回旋枝、右冠動脈のすべてに狭窄・閉塞病変がある
③カテーテルによる治療が何らかの原因により不適切な場合

以上より、冠動脈バイパス術が適応となる患者さんは、冠動脈のいろんな場所に狭窄・閉塞病変を有する場合が多いため、当センターでの患者さん一人あたりの平均吻合カ所(バイパスカ所)は約4カ所です。①--③以外の場合はカテーテル治療が適応となります。患者さんにとって冠動脈バイパス手術とカテーテル治療のどちらが適切であるかは、心臓血管外科チームと循環器内科チームによるハートチームにより総合的に判断して決定します。

川崎病の後遺症として小児期から成人にいたるまで冠動脈の瘤化、狭窄、閉塞が問題となることが有り、当センターではこの川崎病後遺症による冠動脈狭窄・閉塞に対しても動脈グラフトを用いて冠動脈バイパス術を施行しており良好な成績を得ています。

冠動脈バイパス術は胸骨正中切開という大きな傷が必要です。最近では、さらなる低侵襲化のため、より小さな傷で行うこともあります。これをMinimally invasive direct coronary artery bypass grafting (MIDCAB)といいます。左胸部の小切開で行うことが多く、この場合、手術支援ロボット(da Vinciサージカルシステム、Intuitive Surgical社)を用いて内胸動脈をはがしてきて使用できるようして冠動脈に縫い付けます (図9)。通常、人工心肺装置は使用しません。ただしこの方法は、主に左前下行枝の根元近くの病変のみか、左前下行枝以外の狭窄病変がカテーテル治療に非常に適しており、MIDCAB前後でその部位にカテーテル治療を安全かつ適切に行うことができる場合に限られています。当センターでのMIDCABの件数を図8に示しています。

図9 左小開胸、da Vinciシステムを用いた冠動脈バイパス術(MIDCAB)

最終更新日 2016年07月08日

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