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補助人工心臓[Ventricular assist device (VAD)]

補助人工心臓 [Ventricular Assist device (VAD) ]は、様々な原因により急性あるいは慢性の経過から重度の心不全状態(急性心原性ショックを含む)に陥ってしまった心臓の代わりとして、血液循環を補助するポンプ機能を補う医療機器です。この装置は通常手術により直接心臓に取り付けられますが、術後に状態が回復すると装着している患者さんもある程度自由に動き回ることができます。

補助人工心臓には血液ポンプが体外に位置する体外設置型のタイプと血液ポンプが体内に埋め込まれる植込型の2種類が存在します。それぞれの機種は患者様の状態や治療の目的によって使い分けられます。補助人工心臓を装着することで、薬物やペースメーカー治療といった従来行われる治療では治療困難な心不全の患者さんの血液循環を大幅に改善させることができます。時に補助人工心臓を装着することで弱った心臓を休ませることができ、その回復を図ることが可能です。回復が望めない場合には、心臓移植までのつなぎとして利用することもできます。

国立循環器病研究センターでは補助人工心臓を使った重症心不全患者さんの治療のみならず、併設する研究所において新たな補助人工心臓の開発も行っており、補助人工心臓診療については研究開発と臨床応用の両輪をもった国内有数の施設です。研究所で開発された新たな人工心臓はその後に病院での臨床現場にて使用され、多くの患者さんの救命並びに予後改善に寄与してきました。研究開発、臨床医学のそれぞれの専門家が直接意見を出し合うことでより実用的かつ安全、安心な機器の開発につなげていけると考えています。

国循が補助人工心臓治療に関して卓越した施設として認定されました

当施設は2018年に米国の補助人工心臓メーカーからセンターオブエクセレンスとして表彰されました。これは同メーカーが製造販売している補助人工心臓を使用している施設として世界的にも良好な臨床成績を上げていることを評価され、補助人工心臓治療に関して世界でも有数の卓越した施設として表彰されたものです。これに伴って、当施設にはアジアを中心として海外の様々な施設から多くの医療者がその良好な臨床成果のポイントを学びに来ています。これからもセンターオブエクセレンスの名に恥じぬよう患者さんの予後改善につながる治療を第一に目指して診療を続けていきます。


目次

  1. 心臓のしくみと病気
  2. 補助人工心臓(VAD)とは
  3. VADの適応
  4. 合併症
  5. 日常生活の留意点
  6. 補助人工心臓:装着後の経過について
  7. ご家族の方へ

1. 心臓のしくみと病気

まず初めに基本的な心臓の構造と働きについて、続いて心臓の病気について、お話ししましょう。

図1 心臓の構造

図2 血液循環

1) 心臓のしくみ

心臓は、全身に血液を循環させるポンプの働きをしています。心臓の内部は、右心房・右心室・左心房・左心室という4つの部屋に分かれています(図1)。
身体の中を流れることで全身に酸素を受け渡し、二酸化炭素を多く含む血液(静脈血)は右心房に集められ、右心室を通って肺に送り出されます。肺で二酸化炭素を受け渡し、酸素を十分に得た血液は再び心臓へと戻ってきて左心房に集められ、僧帽弁を通過して左心室から大動脈を通じて全身へ向けて送り出されます(図2)。
全身のすみずみまで血液を送るために、心臓は左心室、右心室の筋肉組織を規則正しく収縮、拡張を繰り返すことで、勢いよく血液を拍出しています。

人間の身体は血液が運ぶ酸素と栄養とを常に必要としています。そのために、心臓は、人間の意思や睡眠とも関係なく、絶え間なく動き続けます。心臓は一般に1分間に5リットル以上もの血液を拍出するといわれており、その働きを人間が生きている何十年もの期間の長きにわたって続けることを考えてみると、心臓のそのすばらしい性能に驚かされます。

2) 心臓の働きが悪くなる病気

このように丈夫で働き者の心臓ですが、いつでも万全であるわけではありません。加齢やさまざまな病気によって、心臓のポンプ機能が損なわれることもあります。

心臓の働きを示す指標に「心拍出量」というものがあります。1分間に心臓が送り出す血液の量のことです。例えると、ちょうど風船を膨らませるときに吹き込む息の量(強さ)のようなものです。ある程度の息の量と勢いがないと風船は膨らみません。風船の場合、膨らむときの抵抗はゴムの力ですが、心臓では末梢血管の抵抗がこれに当たります。前項に記したように健康な心臓は1分間に5リットル以上もの血液を拍出しますので、心臓は毎心拍毎心拍風船を膨らませるような抵抗に打ち勝って永遠に血液を拍出していることになります。

心臓のポンプとしての働きが悪くなると、この心拍出量が低下します。心拍出量が少なくなると身体中に送られる血液の量が少なくなるので、やがて身体中のさまざまな臓器で血液が足りないため障害が生じます。

その他に、本来であれば心臓から送り出されるはずだった血液が心臓の中に残っているため、心臓の中や、心臓からつながる肺血管の圧力が上昇し、心臓へ戻ってくる血液を取り入れる余裕もなくなります。心臓や肺血管の圧力の上昇は肺うっ血として呼吸を障害し、さらには心臓に戻れなかった余分な血液や水分は身体のあちこちに溜まるため、むくみが生じたり、腹水が溜まったりします。

このような心臓のポンプ機能が悪化した状態を「心不全」と呼びます。心不全は病名ではなく、様々な疾患から低下した心臓の状態ということになります。心不全の原因は様々ですが、大きく分けて、心臓自体に原因がある場合と心臓以外に原因がある場合の2つに分けられます。心臓自体に起こりうる疾患としては心筋梗塞や心筋症といったものがありますし、心臓以外の血管などが主原因となる疾患としては高血圧などがあります。

また、心拍出量が低下して心不全に至るまでの経過の速さによって、急性心不全と慢性心不全とに分けられます。

急性心不全とは、何らかの理由で急激に心臓の機能が悪化したもので、すぐに身体も非常に危険な状態に陥ります。急性心筋梗塞や急性心筋炎などの急性に発症する疾患などで発症することが多く、症状の自覚から数分~数時間で命に係わる危険な状態に陥ることもあります。

その点、慢性心不全は、心筋症のように時には何年も時間をかけて病状が進行していくので、すぐに症状・病気になって現れません。なぜなら、心不全に陥る前の段階では、その機能が低下していても心臓自身の収縮する力をより強くしたり、収縮の回数を多くしたりして、何とか低下した心拍出量を補おうとします。しかし、休みなく働いている心臓がさらに頑張り続ければ、いずれは限界がきます。心臓は大きくなるものの、効率よく血液を送り出すことができなくなります。もともとは心臓に原因がなかった場合でも、心臓に負担をかけ続ければ、やがては心臓自体が障害され、はっきりとした症状が現れるようになります。

2. 補助人工心臓(Ventricular assist device, VAD)とは


図3 体外設置型補助人工心臓

図4 植込型補助人工心臓

補助人工心臓には、ポンプの役割をする血液ポンプが体内に埋め込まれるタイプ(植込型)と、体外に露出しているタイプ(体外設置型)の2機種があります。これら2機種の補助人工心臓はその装着様式は大きく変わりますが、循環の補助様式は基本的に同じであり、いずれも左(右)心室から血液をポンプにより吸引し、大(肺)動脈に送血します(図5)。多くの補助人工心臓は全身の血液循環を補助するために左心室に装着されるため、左の補助人工心臓としてL(left)VADと言われますが、一部の特殊な例ではLVADとともに右心系を補助するために右心室に取り付けられます(RVAD)。

図5 循環補助様式

植込型補助人工心臓

補助人工心臓は薬物やペースメーカー、通常の外科的手術といった従来行うべき治療によっても改善しない重症心不全の患者さんを対象として行われますが、植込型補助人工心臓は原則心臓移植適応が承認された患者さんを対象として心臓移植待機目的にのみ使用することができます。現在国内では3機種の植込型補助人工心臓が保険償還されており、さらに近々もう1機種が新たに保険償還される見込みです(図6)。


図6-1 EvaHeart

図6-2 Jarvik2000

図6-3 HeartMate II

EvaHeartは国産の補助人工心臓です。国内で使用できる補助人工心臓の中では唯一の遠心ポンプ式の人工心臓であり、ハイパワーの機種となります。またポンプの特性から血圧に拍動性が出やすく、生体にとって生理的な血液循環が期待できます(図6-1)。

Jarvik2000は軸流ポンプ式の人工心臓でポンプそのものが左心室内に埋め込まれる形で装着されます。3機種内で最もサイズが小さく、欧米人と比較して体格の小さな日本人には使いやすい機種となっています。またポンプの出力を患者さん自身がワンタッチで変更できるため、運動時には出力を上げる、就寝時には出力を上げるなどの患者さん自身での変更も可能です(図6-2)。

HeartMate IIは軸流ポンプ式の人工心臓であり、世界および国内で最も使用されている機器となります。これまでの多くの使用経験から数多くの研究報告があり、装着時のコツや管理上のポイントなどについても具体的な指針が構築されています(図6-3)。

また現在新規機種の臨床治験が行われており、近く承認される予定です。本機種が承認されればさらに患者さんにとっては選択肢が増えることになり、よりそれぞれの患者さんに合った治療が提供できると期待されています。

植込型補助人工心臓の場合、血液ポンプは体内に埋め込まれるものの、駆動装置や電源供給は体外に位置するため、体外にも機械の一部が付属します。しかし電力供給をバッテリーにかえることで自由に活動することができ、病状によっては外出・外泊ができ退院も可能です。植込型補助人工心臓が保険償還されたことによって、心臓移植待機患者さんは自宅にて比較的安定した状態で移植待機をすることが可能となりましたが、高度な生命維持装置である本機器を装着して自宅に退院するには、患者さん自身とそのご家族が機械の管理について学び、自宅にて管理できるようになる必要があります。また原則、植込型補助人工心臓を管理できる病院の近隣2時間圏内に居住し、機械の管理ができるご家族と24時間同居することが義務付けられます。当院では2011年の保険償還以降すでに130人以上の患者さんに装着しており(2018年1月現在)、多くの患者さんが自宅にて移植待機されていますが、条件が整えば復職や復学も可能であり、一見健康な時と同じような生活を送りながら心臓移植を待機されている患者さんもいらっしゃいます。さらに欧米では心臓移植への橋渡し目的以外にも重症心不全の最終的な治療として使用することができ(Destination therapy, DT)、日本でも現在DTの保険償還を目指した臨床治験が進行しており、近い将来植込型補助人工心臓のDT使用が見込まれています(2018年5月現在)。

体外設置型補助人工心臓

一方体外設置型補助人工心臓は心臓移植適応が不明な重症心不全の患者さんにも使用できる機器であり、多くは急性に発症する心原性ショック症例などに対する救命目的に使用されます。急性心筋梗塞や急性心筋炎といった急性に発症する疾患によって体外設置型補助人工心臓を装着した患者さんでは補助人工心臓の装着によって全身の血液循環を改善させ、全身状態を改善させることが可能となります。その中で一部の患者さんでは心臓を休ませている間に自分の心臓機能が回復し、補助人工心臓から離脱することも可能ですが、自分の心臓機能が回復しない場合には心臓移植適応が承認された後に植込型補助人工心臓に切り替え、自宅退院が可能となる場合もあります。

3. VADの適応

ここでは補助人工心臓の適応となる病態および個々の疾患について記載します。
補助人工心臓は原則薬物やペースメーカー、通常の外科的手術といった従来行うべき治療によっても改善しない重症心不全の患者さんを対象として行われますが、植込型補助人工心臓を装着するには心臓移植適応を承認される必要があります(心臓移植の適応については心臓移植についての記載を参照ください。65歳未満の方が対象となります)。

植込型補助人工心臓の適応疾患

  1. 拡張型心筋症
  2. 拡張相肥大型心筋症
  3. 虚血性心筋症(心筋梗塞などにより心臓が傷害され、心機能低下に陥った状態)
  4. 心筋炎後心筋症
  5. 一部の先天性心疾患
  6. 一部の神経・筋疾患に伴う2次性心筋症(筋ジストロフィーなど)
  7. 一部の希少心筋疾患(ダノン病、ミトコンドリア心筋症、先天代謝異常症に伴う心筋症など)

実際の適応は患者さんの状態にもよるため、移植適応検討を含めた詳細な事前検査が必要です。それには一定の期間が必要ですので、心臓移植適応を考慮すべき患者さんがいる場合には病状が悪化する前に余裕をもって評価することが重要です。本来であれば心臓移植適応が承認され、植込型補助人工心臓の適応となって元気に回復する可能性のあった患者さんが、当院への紹介が遅れてしまったためにその機会を失ってしまった経験をこれまでに数多くしています。病状が安定しているときにこそ、積極的に相談してください。

体外設置型補助人工心臓の適応疾患

  1. 上記植込型補助人工心臓適応疾患の急性増悪、心原性ショック例
  2. 劇症型心筋炎による心原性ショック例
  3. 広範急性心筋梗塞による心原性ショック例
  4. 開心術後の低心拍出症候群
  5. 難治性不整脈による心原性ショック例

原則体外設置型補助人工心臓はすべての心原性ショック症例が適応となりえますが、高齢や全身状態不良(多臓器不全や敗血症など)により補助人工心臓の装着手術に耐えられない状態と判断される例や、補助人工心臓装着手術のリスクが得られるメリットを上回る場合には適応となりえません。また体外設置型補助人工心臓により救命できたとしても自己心機能が回復しなかった場合に、心臓移植の適応が承認された症例では植込型補助人工心臓への切り替えを行い、退院することが可能となりますが、心臓移植適応が承認されない症例では体外設置型補助人工心臓装着下での入院治療を継続することになります。そのため65歳以上の症例ではすでに年齢により心臓移植適応が承認されえないため、体外設置型補助人工心臓の適応は慎重に行われることになります。

体外設置型補助人工心臓の適応となる病態では多くの症例が心原性ショックにより経皮的心肺補助装置(ECMO, VA-ECMO)が装着された状態です。経皮的心肺補助装置の長期補助は様々な合併症につながる可能性があり、補助人工心臓の適応を失う可能性もあるため、経皮的心肺補助装置が装着された場合には迅速に当院にご連絡ください。

4. 合併症

VADの合併症には、次のようなものがあります。

1) 血栓塞栓症

血液ポンプは、抗血栓性に優れたチタンを用いています。しかし、チタンも人体にとっては異物であるために、どうしても血液が固まりやすく、血栓ができやすくなります。血栓は血の塊ですから、血流に乗って全身へと運ばれ、臓器の動脈血管をふさいでしまうこともあります。このようにして生じる病気を血栓塞栓症と呼びます。例えば、脳の動脈に詰まれば脳梗塞になり、麻痺や意識障害などを発症しますし、腎臓に詰まれば腎梗塞となり、腎機能低下や腎不全、透析へと陥る可能性があります。

2) 出血

血栓ができるのを予防する目的で、血液を固まりにくくする抗凝固薬(ワーファリンや低分子へパリン)と抗血小板療薬(アスピリン等)を併用します。しかし抗凝固療法および抗血小板療法を行っていると出血しやすくなります。このため何らかの原因で出血が起こると血が止まりにくくなります。例えば脳の血管で出血が起きる脳出血では、通常よりも症状が重くなることがあります。健康な方ではあまり問題にならない鼻出血などでも出血が止まりにくいために貧血になり、外科的な処置や輸血が必要となる場合もあります。

3) 感染症

体外設置型人工心臓では体外の血液ポンプにつながる脱血管や送血管の貫通部に、植込型補助人工心臓では体内血液ポンプと駆動装置をつなげるドライブラインの皮膚貫通部に傷が残るため、同部に感染が起こりやすく、いったん感染を起こすと治りにくくなります。ドライブラインの感染がその後に悪化すると感染は血液ポンプにまで到達し、心臓を介して全身性の感染症、敗血症に陥り、重篤な状態になることもあります。

5. 日常生活の留意点

補助人工心臓を装着する手術を受けた患者さんは、その後の日常生活において様々な注意すべきことがあります。本項では、植込型補助人工心臓を装着した患者さんの注意点を述べます。

1) 装置を扱う際の留意点について

補助人工心臓をより安全に使用いただくために守っていただきたいことがあります。

  • 毎日指導されたように補助人工心臓機器のチェックを行う。
  • 定期的なバッテリー交換を行う。
  • 補助人工心臓の駆動装置につながるドライブラインを引っ張らないようにドライブラインをしっかり固定する。
  • 動作時には不用意にドライブラインをひっかけないように注意する。
  • 補助人工心臓の駆動装置をカバンなどにしまう際に、カバンのジッパー、チャック等でドライブラインを傷つけないように注意する。
  • 装置の警告(アラーム)音に注意して行動する。

2) 生活習慣における留意点について

補助人工心臓治療をより効果的にするために、守っていただきたいことがあります。

  • 血液をサラサラに維持するために積極的に水分を摂取してください。水分摂取量は個人によって異なりますが、最低でも2000ml~3000mlは飲んでいただきます。季節によって汗をかく場合などにはさらに増量してください。
  • 夏場などの汗をかく季節にはドライブライン皮膚貫通部の消毒頻度を増やし、同部の清潔を保つようにしてください。
  • ドライブライン皮膚貫通部を悪化させないために、自宅の環境と整え、体をひねったり、屈んだり、しゃがんだりしないようにして下さい。
  • 抗凝固療法の効果判定のために自宅にて週に2回コアグチェックという抗凝固薬の自己判定機を使ってもらいます。結果に応じて患者さんが抗凝固薬の量を調整してください。
  • 食前やトイレの後に手洗いを行う(感染症の予防のため)。
  • 歯磨きを積極的に行い、齲歯の発生を予防する。定期的な歯科診察を行い、口腔内清潔を維持する(齲歯などからの感染は人工心臓への細菌感染につながることがあります)。
  • 小さなお子様やペットとのふれあいの際には補助人工心臓機器に注意してください。

3) 合併症の早期発見

次のような症状は、補助人工心臓治療中に起こりうる様々な合併症の初期症状である可能性があります。これらの症状を自覚したら、直ちに医療スタッフに知らせてください。また場合によっては救急車を呼んでいただき、当院もしくは自宅近くの病院に緊急搬送が必要となることもあります。当院では24時間体制で補助人工心臓診療の経験豊富な専門医師へ相談できる体制が整っていますので、安心してご相談ください。

  • 手足が冷たく感じる・しびれる・力が入らなくなる(脳梗塞の可能性があります)。
  • 頭痛・腹痛、その他の身体の部位が強く痛む(脳出血や全身の血栓塞栓症の可能性があります)。
  • ろれつが回らない(言葉がうまく発音できない)(脳梗塞や脳出血の可能性があります)。
  • 身体がだるい(右心不全や大動脈弁閉鎖不全症悪化の可能性があります)。
  • 動悸がある(不整脈の可能性があります)。
  • ドライブライン皮膚貫通部が痛い、赤くなっている(同部の感染症の可能性があります)。
  • 高熱が出ている(人工心臓に関連した敗血症の可能性があります)。
  • 尿が紅茶のような色になった(溶血の可能性があり、人工心臓に血栓が付着している可能性があります)。
  • 歯ぐきからの出血や鼻血などで、血がなかなか止まらない(抗凝固療法が効きすぎている可能性があります)。

6.補助人工心臓:装着後の経過について

        
図7 補助人工心臓装着後の経過

当院では補助人工心臓装着後、2か月から3か月での退院を目指して治療を進めていきます。安定した状態で手術を受けられた場合、患者さんは手術当日もしくは翌日には麻酔から覚め、人工呼吸器から離脱します。そして術後急性期の数日は集中治療室(ICU)にて慎重に観察いたしますが、その後重症心不全病棟に転棟します。術後の痛みは1~2週間ほど続きますが、徐々に軽快し、2~4週間目には病棟内を普通に歩けるまでに回復します。術後3~4週間目からは家族の方も交えて補助人工心臓機器管理についての講義が始まります。3回の講義が終わると筆記試験、実技試験を実施し、それらをクリアすれば次には外出訓練、外泊訓練が各2回ずつ行われます。このころには患者さんは自分で補助人工心臓を壁のコンセントからバッテリーに切り替えて、動くことができるようになっており、補助人工心臓装着による心不全改善効果も併せて、普通の方と変わらない程度に回復される方もおられます。その後はシャワーやドライブライン皮膚貫通部の自己消毒などの訓練を経て、退院となります(図7)。

自宅ではケアギバーとして認められた家族の方と同居していただきますが、穏やかな日常生活を送るのにはほぼ問題ないくらいにまで回復される方がほとんどです。補助人工心臓機器の管理、ドライブライン皮膚貫通部の消毒など人工心臓関連の日常の管理を行いながら、安定している方では月一回の外来受診をしていただきます。患者様の病状にもよりますが、安定した方であれば術後6か月を過ぎたころから復職、復学などを検討される方もいらっしゃいます。復職、復学される際には我々医療者と職場、学校の関係者との面談を経て、職場、学校の環境調査を行います。また職場や学校の方々にも補助人工心臓機器管理について学んでいただき、より安全を期した形での社会復帰を目指しています(図8)。

植込型補助人工心臓を装着されている方は原則心臓移植待機患者さんであるため、このような生活のなかで、数年後に訪れる心臓移植の機会を待つことになります。

図8 職場復帰を果たした患者さん

7. ご家族の方へ

補助人工心臓による治療の効果を高め、より安全・安心な療養生活を患者さんに送っていただくためにも、ご家族の協力が必要です。そのため、これまでに述べた注意点を、患者さんとともにご家族の方々にもぜひ理解し、ご協力いただきたいと思います。また、合併症の症状について知識があれば、合併症を早期に発見できる可能性が高くなります。早期に異常が発見されれば、いち早く診断・治療も行え、大事に至らずに済む場合もあります。また、補助人工心臓における治療においては、患者さんの心理的な問題も考えられます。心臓という大事な身体の一部を機械にゆだねなければならない不安、自分の病気がもっと悪くなるのではないかという不安、長期におよぶ治療に必要な費用に関する不安などから、心の状態が不安定になることもあるでしょう。このような患者さんの心の中の悩みに気がついたときには、医療スタッフまでお知らせください。専門家としての知識と経験を備えた医療スタッフは、身体のことだけではなく心の問題についても適切に対応できるよう努めています。

最終更新日 2018年08月15日

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