脳動脈瘤は、破裂するとクモ膜下出血を起こし、ある日突然、今までに経験したこともないような強い頭痛を起こし、吐いたり意識を失ったりします。50%の確率で死亡することもあります。クモ膜下出血の予防のために、脳動脈瘤が見つかった場合には、事前に手術を行うことができます。従来では、脳動脈瘤に対しては開頭によるクリッピング術が一般的でしたが、脳動脈瘤の存在部位が深く手術が困難な場合などにこの塞栓術が試みられます。
脳動静脈奇形は、動脈と静脈の間に異常な血管があって、直接動脈と静脈がつながっている状態のものです。この動静脈奇形の部分の血管は非常に薄くてもろいため、強い血圧がかかると破れて大出血を起こします。また、破れなくてもけいれんなどを頻繁に起こす事があります。また、血液が異常な部分を流れてしまうので、周辺の脳に十分な酸素や栄養がいかず、身体の機能の一部に麻痺などが起こったりします。脳動静脈奇形に対しては開頭手術による摘出が第一選択ですが、脳の深部のものや運動野などのリスクの高い部分に存在する場合やサイズが大きい場合は、治療手段の選択を十分に考えなくてはなりません。近年では、血管内治療やガンマナイフなどの集中放射線療法の進歩によって、これらの組み合わせによる治療が行われており、治療効果が期待されています。
1.脳の構造と働き

- 図1 脳(断面)

- 図2 脳神経(下から見たところ)
1) 脳の構造と機能
脳は、中枢神経系の機能を持つ脳と、末梢神経系である12対の脳神経に分けられます。
形の上では、大脳・間脳・小脳・脳幹(中脳・橋・延髄)から成っています(図1)。
大脳は、運動機能や言語機能、記憶・判断・感情思考などの高次機能、視覚・聴覚・知覚に反映される機能があります。
間脳は、外界からの知覚刺激を大脳に伝える働きをし、自律神経の中枢でもあります。
小脳は、運動や姿勢を保持し、円滑な運動ができるように統合・調整しています。
脳幹は、生命を保つために必要な不随意反射機構(呼吸・血圧など)の維持をしています。
脳組織から主に頭部の各器官へ直接神経線維を出しているのが脳神経です(図2)。12対あり、役割によって名前がついています。頭部・顔面・舌・咽喉頭の知覚や運動をつかさどっています。
2) 脳の循環
脳は心臓から送り出される血液量の15~16%が流れ、全身で消費される酸素のうち、20%が脳で消費されています。脳はその活動を維持するために多量のエネルギーを必要としますが、それを脳に蓄えることができないため、血液の流れにより絶えずブドウ糖や酸素を供給しなければなりません。従って、十分な供給が行われないと、脳細胞は短時間で活動が低下し、死滅してしまいます。数分以上にわたって脳の血流が途絶えると、回復できない神経細胞の障害が起こり始めます。
2.脳動脈瘤・クモ膜下出血とは

- 図4 脳動脈瘤

- 図5 脳動脈瘤の好発部位

- 図6 クモ膜下出血
1)脳動脈瘤とは
脳動脈瘤という病気は、脳の動脈の一部が膨れて動脈瘤というコブができた状態です(図4)。脳動脈瘤の成因は明らかではありませんが、動脈の壁に先天的に弱い部分があり、長い年月の間に風船のように膨らんでくると考えられています。
最近は、脳ドックなどで無症状の動脈瘤が見つかることも多く、予防的に動脈瘤を治療することができるようになりました。
しかし、ある程度大きくても一生破裂しない動脈瘤も存在するように、必ずしもすべての動脈瘤が破裂するわけではなく、外科的手術を適応するかどうかの判断が難しく、慎重な診断が必要となっています。
脳動脈瘤の好発部位(図5)は、ウィリス動脈輪という脳底部にある太い血管です。
多発性の脳動脈瘤は一般的に女性に多く見られますが、統計的には、脳動脈瘤の発症に男女差はありません。
2) 脳動脈瘤の症状
脳動脈瘤自体は無症状のことがほとんどですが、まれに瘤(こぶ)が脳神経を圧迫して脳神経麻痺症状を来すことがあります。
例えば、動眼神経麻痺が起こるとまぶたが下がったり、ものが二重に見えたり、異常にまぶしかったり、眼の奥が痛くなったりします。これらは、内頸動脈などにできた動脈瘤が大きくなって、近くを走行している動眼神経を圧迫しているために起こる症状です。
また、椎骨動脈に動脈瘤ができて脳幹を圧迫すると、ものが飲み込みにくくなったり、手足に麻痺症状が出ることもあります。
時には、動脈瘤の中に血栓ができ、その場で血栓が大きくなり動脈を塞いで脳梗塞を起こしたり、血栓がちぎれて脳の先の細い血管まで飛んでいき、詰まって脳梗塞を起こしたりすることもあります。
3) クモ膜下出血の症状
脳動脈瘤で最も問題になるのは、破裂してクモ膜下出血(図6)を起こすことです。クモ膜下出血の原因の8割以上は脳動脈瘤の破裂によるものです。動脈瘤の壁は通常の血管に比べて弱く破れやすい状態です。普段、無症状であっても、ある日突然これが破裂してクモ膜下出血を生じる可能性があります。
クモ膜下出血を起こすと、突然、今まで経験したことのない激しい頭痛や、首の後ろの痛みを起こします。出血が血管の周りに広がると、脳の血管は自動的に収縮して、破裂した部位からの出血が抑えられ、カサブタができて、一時的に止まります。しかし、また出血してしまう可能性が高く、再出血の場合の死亡率は非常に高いため、早急に外科手術を行います。再出血を起こすことなく経過したとしても、出血により脳の血管が縮み(脳血管攣縮:のうけっかんれんしゅく)、脳に十分な血液が流れなくなるために、脳梗塞を起こすこともあります。
クモ膜下出血は死亡率が50%であり、幸いに命を取りとめたとしても、いろいろな後遺症に苦しまなければならないことがあります。
好発年齢は50~60歳代です。
4) 経過について
統計的に見ると、脳動脈瘤を手術せずに放置した場合、毎年2~3%の割合で破裂して、クモ膜下出血を起こすとされています。
5) 検査について
MRI・MRA(磁気共鳴画像検査)で脳・脳血管の病変がわかります。
この検査で動脈瘤が疑われた場合、3次元CT検査で動脈瘤の大きさや形を確認します。また、手術のために動脈瘤や周囲の血管の情報が必要な場合は、脳血管撮影が行われます。
6) 治療について
脳動脈瘤でもクモ膜下出血でも、開頭術(クリッピング術)と脳血管内治療の適応があります。このどちらを選択するかは、患者さんそれぞれの状態によって違います。担当医グループが状態を判断し、最良と思われる方法を選択します。
未破裂動脈瘤を開頭術で手術した場合の合併症の発生率は、一過性のものまで含めると約3%と言われています。脳血管内治療も、最近の治療成績の向上により、ほぼ同程度と考えられます。
3.脳動静脈奇形とは
1)脳動静脈奇形とは

- 図8 脳動静脈奇形の一例
脳動静脈奇形という病気は、脳の中で異常な動脈と静脈が毛細血管を介さず直接つながっている状態の奇形です(図8)。胎児(約3週間)の時期に、血管は動脈・毛細血管・静脈に分かれますが、この時期に発生する先天性異常です。しかし、動静脈奇形は遺伝する病気ではありません。
動脈と静脈が直接つながっているため、動静脈奇形の部分では血液が異常に速く流れています。また、正常な血管に比べて壁が薄く、破れやすいのです。破れると脳出血、クモ膜下出血を生じ、そのために死亡したり、重い後遺症を残すことがあります。
破れてから脳動静脈脈奇形とわかる場合と、破れなくてもけいれんや手足の麻痺で見つかったり、偶然に検査などで見つかることもあります。
脳動静脈奇形は、脳のどこにでも発生します。全体の80%~85%が大脳で発生し、片側の大脳半球の脳表部に偏在することが多いようです。脳動静脈奇形の出血の好発年齢は20~40代で、2:1の割合で男性の方が多いと報告されています。
2) 症状
脳動静脈奇形は、脳出血を起こしてから発見されるものが約70%を占め、この場合、クモ膜下出血と脳内出血の合併が多くなります。脳動静脈奇形の場合のクモ膜下出血は、脳動脈瘤破裂のクモ膜下出血に比べると程度が軽いものが多いようです。しかし、脳出血の程度により、麻痺や失語症などが起こります。
また、脳動静脈奇形の場合、けいれん発作が35~50%に起こります。これは、異常血管の周囲の循環障害などが原因として考えられています。循環障害は、血管抵抗の少ない脳動静脈奇形へ血液が流れ込み、周囲の血流が悪くなるためとされています。
その他に片頭痛、精神症状などが見られます。
3) 経過について
統計によると、脳動静脈奇形を治療せずに放置した場合、毎年2~3%前後の確率で出血を生じると考えられています。再出血の予測については現在の医学水準では不可能です。しかし、10年、20年という単位で考えると、脳動静脈奇形が再び出血して死亡したり、重い後遺症をもたらす可能性は高いと考えられます。
4) 検査
脳動静脈奇形の検査は、CTやMRI・MRAなどの画像検査や脳血管造影によって行われます。
脳血流を調べる検査(ラジオ・アイソトープを使用する検査など)を行う場合もあります。
5) 治療
脳動静脈奇形の治療方法としては、開頭による脳動静脈奇形摘出術、血管内治療(塞栓術)、ガンマナイフ(集中放射線療法)があります。血管内治療のみで根治できる脳動静脈奇形は全体の10%程度です。病巣のサイズや形態によって、開頭手術やガンマナイフとの組み合わせによる治療が行われます。
4.脳血管内治療(塞栓術)とは

- 図9 脳血管内治療(塞栓術)
1) 脳血管内治療(塞栓術)について
血管内治療:塞栓術とは、脳動脈瘤や脳動静脈奇形などの病巣部に人工的な物質を詰めて固まらせ、病巣部が破裂するのを防ぐ治療方法です。
実際の方法は、大腿部の太い動脈(太ももの付け根部分)から直径2mm前後(ボールペンの中軸程度の太さ)のカテーテルを挿入します(図9)。
その中に直径0.5mm前後のマイクロカテーテルを通し、病巣の血管内にカテーテルを進めていきます。病巣に到達したら、人工的な物質(コイルなど)で異常血管を詰めて完了します。
脳動脈瘤コイル塞栓術(図10)は、カテーテルからコイルを押し出して動脈瘤に詰めます。動脈瘤にコイルを詰め終わると、動脈瘤内に血栓ができて自然に固まります。これにより、動脈瘤の破裂の危険性はほとんどなくなります。
図10 脳動脈瘤コイル塞栓術の一例

塞栓に使用する材料としては、金属製のコイル、ゴム風船様の固型材料や、接着剤様の液体のものなどがあります。
●塞栓術に使用する主な塞栓物質
| 固形 | 絹糸 微線維性コラーゲン ポリビニールアルコール粒 プラチナコイル、リキッドコイルなど |
| 液体 | IBCA NBCA EVAL PVAc などの瞬間接着剤様のもの |
2) 脳血管内治療の実際
施術数日前に入院します。入院時に治療計画の説明などが行われます。また、手術前日までに承諾書への記入、各種検査、インフォームドコンセントなどがあります。疑問点や不安に思うことなどを相談してください。
手術前は、挿入部の除毛とルートの確保が行われます。また、実際に施術が行われる場所の見学や装置の説明などを受けていただきます。
手術当日は、手術5時間前より絶食、2時間前より水分は控えます。
血管内治療・塞栓術はカテーテル検査室で行われます。施術時間は疾患によって異なりますが、おおよそ4~5時間です。
手術後は、翌朝までベッドの上で安静となります。特に、太もも付け根のカテーテル挿入部は動脈を穿刺しているため、両下肢の安静が必要になります。血栓予防のために、水分を多く摂るよう医療スタッフから指導があります。
翌日には、CT検査や採血などがありますが、病室で普通に生活できます。2日目には入浴も可能です。
問題がなければ、退院指導の後、術後3日か4日目には退院になります。
3)退院後
治療後に血栓・塞栓症などの合併症が起こる場合もありますので、正しい薬の服用が必要となります(5.脳血管内治療の合併症を参照)。
退院前に薬の服用についての指導がありますので、作用や副作用の説明をよく理解し、指示に従って正しく服薬してください。
日常生活における特別な注意点はありませんが、異常があった場合には、なるべく早く医師や医療スタッフに報告し、受診してください。
定期的な通院は必要となりますので、通院の期間や頻度については、主治医または医療スタッフにお尋ねください。
4)長期予後
半年後に脳血管造影検査で根治が得られている場合には、治癒と判断されます。当院においては、ほとんどの場合、完治しています。
5.脳血管内治療の合併症
1) 脳動脈瘤の治療の合併症
(1)脳血栓・脳塞栓
動脈瘤内にコイルが置かれると、その周りに血栓(血の塊)ができます。まれにこの血栓が近接する動脈を詰めてしまったり、より細い動脈へ塞栓を飛ばし、新たな症状が出現する可能性があります。血栓ができる理由としては、血管の壁を障害することが原因となったり、塞栓術に使用した材料についた血栓が離れて血流に乗って飛んでいったり、コイルを詰めた部位で血液がよどんで血栓がつくられ、ちぎれて飛んでいき、他の場所で血管を詰まらせる原因になる場合などがあります。それらは、術中、術後の抗凝固・抗血小板治療を的確に行うことで防ぐことができます。
(2)動脈瘤の増大による圧迫症状
大きな動脈瘤では、動脈瘤内にコイルを置くと、血栓ができる過程で瘤はわずかですが大きくなります。その場合、瘤に接している脳神経や動脈が圧迫され、症状が出てくる可能性があります。
2) 脳動静脈奇形の治療の合併症
手術によって脳内の血流が変化し、急激な脳腫脹を起こすことがまれにあります。
また、血管塞栓術の合併症としては、主に血栓・塞栓症と、病変からの出血があります。塞栓術による血栓・塞栓症は、脳動脈瘤塞栓術において8.2%という報告がありますが、当科での最近2年間の成績では0%です。
3) 血管内治療(塞栓術)の長所・短所
(1)長所
- 開頭しなくても治療ができる(開頭手術に比べ身体への影響が少ない)
- 開頭術の難しい場所でも治療できることがある
- 入院期間が短い
(2)短所
- 完全閉塞ができない場合もある
- 術後にコイル塊が縮む、瘤が大きくなることなどによる再破裂の可能性がある
- 長期予後が不明で、退院後も脳血管撮影による検査が必要である











