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遺伝性不整脈 医療従事者向け

1. 遺伝性不整脈とは

遺伝性不整脈疾患には、QT延長症候群(LQTS)、Brugada症候群、QT短縮症候群(SQTS)、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)、進行性心臓伝導欠損(PCCD)、家族性洞機能不全、家族性心房細動などが含まれます(表1)。遺伝性不整脈のうち原因遺伝子が特定されているタイプは、各遺伝子変異によって発現する蛋白とそれに関連するイオンチャネルに異常をきたし、特徴的な心電図変化や不整脈を発症すると考えられています。このようなイオンチャネル異常に基づく不整脈疾患を総称して「イオンチャネル病」とも言われています。最近の遺伝子型と表現形(心電図や臨床所見)との詳細な検討により、遺伝子型別あるいは遺伝子変異部位別の予後、特異的治療などが可能となりつつあります。

遺伝子変異の有無や遺伝子型による臨床病態の違いや治療に対する反応性を検討することにより、病気の重症度評価、予後の予測、有効な治療法の選択ができる可能性があります。

表1 遺伝性不整脈 遺伝子型とイオンチャネル異常

2. QT延長症候群

a.疾患概念

遺伝性不整脈の中で最も頻度の多い先天性LQTSは、心電図でのQT時間延長に伴いTorsade de Pointes (TdP)と呼ばれる致死性の多形性心室頻拍(VT)を引き起こし、失神発作や突然死の原因となる疾患です。一般に心拍数補正した修正QT時間(QTc=QT/√RR)が440msec以上をQT延長と定義しますが、LQTSの診断にはQT時間の延長以外にT-U波の形態など複数の項目から診断します(表2)。

表2 先天性QT延長症候群の診断基準

b.遺伝子異常

先天性LQTSは、変異のある遺伝子の種類により現在1~13のタイプに分類されていますが、LQT1~3型が9割を占め、主に心筋Kチャネルの機能低下やNaチャネルの機能亢進によって活動電位が延長するためQT延長と不整脈を発生させると考えられています。LQTSでは遺伝子診断率は50~60%と検査した半数以上の患者で診断が確定されます。先天性LQTSでは各遺伝子型により、心室性不整脈発作の誘因や抗不整脈薬治療の有効性が異なることがわかってきました。このため本症候群における遺伝子診断は、患者様に対する適切な生活指導や有効な治療法を選択する上で、臨床上重要な診断法となっています。(詳細は「不整脈通信 第3号」を参照)

b.心電図所見

代表的な心電図として、LQT1では早期から生じる幅広い(broad-based)T波、LQT2は振幅が低く(low-amplitude)、時に2相性の(notched or biphasic)T波、さらにLQT3では非常に遅く立ち上がる(late onset)T波を認めます(図1)。しかし必ずしも全ての症例で遺伝子型(genotype)と表現形(phenotype)が一致する訳ではありません。

図1 先天性QT延長症候群の心電図
【図1 先天性QT延長症候群の心電図】

c.不整脈と治療

失神やTdP・VFなど心室性不整脈による心事故の誘因は遺伝子型によって大きく異なり、LQT1では運動とくに水泳中が多いのに対し、LQT2では安静・睡眠中と急激な緊張(音刺激)が半数ずつ、そしてLQT3では睡眠・安静時に多いのが特徴です(図2)。従ってβ遮断薬はLQT1ではが70-80%の例で有効であるのに対して、LQT2では約6割、そしてLQT3ではβ遮断薬はあまり有効ではなくむしろNaチャネルを抑制するメキシレチンが有効であり、また徐脈を改善する目的でペースメーカの植え込みも有効です。また薬剤抵抗性やVF蘇生後などの重症例では植え込み型除細動器(ICD)が適応となることもあります。

図2 遺伝子型別の心事故の誘因 (発端者)
【図2 遺伝子型別の心事故の誘因 (発端者)- 平成18-20年度厚生労働科学研究班 ~2008 -】

3. Brugada症候群

a.疾患概念

Brugada 症候群は、心電図のV1~V2(V3)誘導におけるST上昇という特徴的な心電図と致死性不整脈である心室細動(VF)を主徴とし、中高年男性の夜間突然死の原因となる疾患です。Brugada症候群は日本をはじめとするアジア人の成人男性に多く、俗に言う“ポックリ病”の多くは本症候群ではないかとも考えられています。

b.心電図所見

Brugada症候群に特徴的なcoved型ST上昇(type1) (図3)は、自律神経などの影響により経過とともに大きく変化し、普段は正常ないしsaddle back型(type2)でもVF発作直前には著しいcoved型のST上昇が認められることもあります。

Brugada型心電図は検診時にも約0.1-0.7%程度散見されます。VFの既往のある(有症候性)Brugada症候群ではVF発生率は約10%/年と高率であるのに対して、これまで無症状あるいは失神のみの“無症候性”例ではVF発生は0~1%/年以下と非常に低いと考えられています。しかしながら無症候例であっても、突然死の家族歴があり自然発生coved型ST上昇(type1)心電図を認める場合には要注意と考えられています。

図3 ECG of the Brugada syndrome
【図3 ECG of the Brugada syndrome】

c.遺伝子異常

Brugada症候群では現在11の遺伝子型が報告されていますが、心筋Naチャネルに関係する遺伝子(SCN5A)の変異以外は非常にまれです。しかもSCN5Aですら異常が見つかるのはBrugada症候群の15~30%であり、さらにSCN5AはBrugada症候群以外の遺伝性不整脈疾患でも認められることから、SCN5A変異の有無による予後予測、あるいは有効な治療法の選択までに至っているとは言えません。

d.治療

Brugada症候群における治療は、突然死を2次予防には現在ICDが唯一無二の治療法です。日本循環器学会ガイドラインでは、心停止・蘇生例や自然停止する心室細動、多形性心室頻拍が確認されている例ではICDは絶対適応(class I)です。VF・心停止などの既往がないcoved型ST上昇心電図を有する例でも、①失神の既往、②突然死の家族歴、③電気生理学的検査による心室細動の誘発、から2項目以上該当すればICDのclass IIa(相対的適応)で、1項目のみではclass IIbとなっています。

薬物治療としてはVFによる頻回のICD作動(VFストーム)の抑制にはβ受容体刺激薬(isoproterenol)の点滴が有効ですが、長期的な予後改善効果のエビデンスのある薬物治療法はありません。

4. QT短縮症候群

a.疾患概念

QT短縮症候群(SQTS)は心電図上QT時間が極端に短く、発作性心房細動や心室細動などを合併することもある疾患です。LQTSなどと同様にイオンチャネル異常が原因の遺伝性不整脈疾患の一つにあげられている。さらにSQTSの一部には早期再分極の合併もあることから、特発性心室細動や早期再分極症候群とのoverlapも考えられています。 

b.心電図

QT短縮の明確な定義はありませんが、一般的にQT<350ms(男性)、360ms(女性)はSQTSを考慮すべきと考えます。またQT時間の短縮に加えてT波高が高いのも特徴です(図4)。心電図以外に失神やAFの既往、突然死の家族歴などを有する場合にはその可能性が高くなります。表3のようなSQTSの診断基準が提唱されています。

図4 心電図
【図4】
表3 QT短縮症候群の診断基準

c.遺伝子異常

SQT1、SQT2、SQT3はQT延長症候群のLQT2、LQT1、LQT7の原因遺伝子と共通です。LQTSではK電流が減少する機能喪失型(loss-of-function)の変異により心筋活動電位が延長し心電図のQT時間が延長するのに対して、SQTSでは逆にいずれも各K電流を増強させるタイプ(gain-of-function)の変異によってQT時間が短縮すると考えられています。

一方SQT4~6はL型Caチャネルのα、βまたはδサブユニットをエンコードするCACNA1CCACAB2b, CACN2D1に変異が見つかっています。いずれの変異もCa電流を減少させるloss of functionの変異であり、活動電位持続時間を短くします。なおSQT4~6ではBrugada症候群との合併が報告がされています。

d.治療

心肺蘇生、VFなどの既往のある場合にはICDの適応です。一方で心電図異常のみの患者に対する一次予防としてのICD治療については明確な基準はありません。これまで無症状であっても突然死などの家族歴や遺伝子異常のある場合にはICDの適応まで考慮する必要があります。

薬物治療としては、QT時間を延長させる作用のある硫酸キニジンの有効性が報告されています。

5. カテコラミン誘発性多形性心室頻拍

a.疾患概念

カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)は主に運動中などの交感神経緊張時に特徴的な2方向性VTや多形性VTが出現し、小児期の突然死の原因となる疾患です。安静時心電図からはややQT時間が長くU波の増高を認め、VTが運動誘発性なためLQT1との鑑別が必要になることがあります。

b.遺伝子異常

CPVTでは筋小胞体(SR)のリアノジン受容体遺伝子RyR2およびカルセクエストリン2遺伝子(CASQ2)に異常が発見されています。これら遺伝子異常の診断率は比較的高く、臨床的にCPVTと診断された例の5割以上で遺伝子異常が見つかります。このようなリアノジン受容体の異常によってSRからのCa2+漏出が生じ、細胞内Ca濃度が上昇することで特徴的な2方向性VTが出現すると考えられています。

c.治療

薬物治療としてはβ遮断薬やCa拮抗薬の併用が有効と考えられてきました。最近では特にRyR2の変異例においてNaチャネル遮断薬のフレカイニドがRyR受容体に作用し不整脈の抑制に有効であると言われています。しかしVFや心肺蘇生例に対しては二次予防としてICD植え込みが適応されます。

6. 進行性心臓伝導欠損と家族性洞機能不全

進行性心臓伝導欠損(PCCD)は明らかな基礎心疾患を伴わないにも関わらず、脚ブロック、房室ブロックなどの心臓内伝導障害(CCD)が進行性(progressive)に出現する疾患群です。以前から原因遺伝子が第16(CCD3)や第19(CCD1)染色体に存在することが知られていましたが、それとは別にSCN5A変異(CCD2)が報告されました。SCN5A変異の一家系ではBrugada症候群、LQT3とCCDの合併が認められています。またSCN1Bの変異ではBrugada症候群(BrS5)とCCDの合併が報告されています。

先天性(家族性)の洞不全症候群(SSS)はペースメーカチャネルのHCN4(SSS1)とNaチャネルのSCN5A(SSS2)に異常が見つかっています。SSS2では同遺伝子異常を共有するLQT3, Brugada症候群、Lenegre病とのoverlapが至適されています。SCN5A異常はその表現形は非常に多様で全てをまとめて「Naチャネル病」とも呼ばれます。

7.家族性心房細動

家族性心房細動の例で遺伝子異常が見つかる場合の多くは、LQTSやSQTSと同様のKチャネルの異常が原因である。SQTSと同様にK電流の増強(gain-of-function)となる変異が多く、心房筋の活動電位の短縮による不応期の短縮から心房細動の発現と維持をもたらすものと考えられています。

 

文責:清水 渉 相庭 武司

最終更新日 2012年05月02日

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