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[24]老化とぼけ

ビーエフ研究所
所長 澤田 徹

老人の血管性痴呆は正しい生活習慣で防げる!

イラスト:老人の血管性痴呆は正し生活習慣で防げる

もくじ

老人ぼけに2種類

「顔は思い出せるけれど、名前の方がどうも出てこない」

「物の名前もとっさに浮かばず、『あれ』『これ』『それ』で済ますことが増えてきた。ぼけたんだろうか」

50代も半ばになると、こうした記憶のあやふやさが話題に上ります。

「年をとると物覚えが悪くなる」とよくいわれます。

これは事実であり、物覚えだけでなく、身体のいろいろな機能も年をとるとともに低下してきます。

個人差はあっても、だれにも共通してみられることで、自然の成り行きと受け止めねばなりません。

しかし、日常生活に大きな支障をきたすほど物忘れがひどくなることは、まずありません。

例えば「自分の家族の名前をすっかり忘れてしまう」「自分の家がわからず、外へ出たら帰れなくなる」といったことは、年をとっただけでは起こらないのが普通です。

年をとると、頭の中で情報を伝え処理する神経の刺激伝達速度も遅くなり、情報処理に時間がかかります。

一見すると物覚えが悪くなったようにみえますが、ものを覚える効率が下がったと考えるべきで、お年寄りも、時間をかければ新しいことを覚えるのは十分可能です。

しかも、長年、蓄えた知識は保存されていますから、目の前で起こるいろいろな事柄を、過去の経験に照らして迅速、的確に対応できます。

一方、若い人は未経験なことに遭遇することが多く、試行錯誤を繰り返しながら正しい対応を探らねばならず、かえって時間がかかることも少なくありません。

「年をとると物覚えが悪くなる」とは、新しいことには情報処理に時間がかかり、若い人のように覚えられないということです。

これが加齢による「ぼけ」の正体といえます。

日常生活に大きな支障をきたすことはなく、「忘れっぽくなった」という自分の能力の低下を自覚しているのが普通です。

しかし、中には日常生活に支障をきたすような記憶障害や判断力の低下を示す人がいます。この場合は単なる加齢現象とはいえず、病的な状態と考えねばなりません。これが「痴呆」といわれる状態です。

「老人ぼけ」という言葉は、加齢に伴う脳の機能低下を表現する言葉として使われる場合と、老人にしばしば現れる「痴呆状態」をさしている場合とがありますが、両者は区別する必要があります。

加齢ぼけと痴呆とは違う

イラスト:加齢ぼけと痴呆とは違う

○加齢による物忘れは病気ではない
○外出して自宅に帰る道がわからなくなったら病気

 

痴呆とは

「正常な脳の発育があり、知能も正常であった人が、脳に何らかの器質的異常を生じて知能の低下をきたした状態」-痴呆はこのように定義されています。「器質的異常」とは、脳の機能異常ではなく、脳そのものに損傷が起こって異常が生じている状態です。

だから、脳の発育障害などで知能の発達が遅れたり、十分でなかったりする知能障害者は「痴呆」とはいいません。

国際的に用いられている精神障害の診断基準、DSM-IV(ディー・エス・エム・フォア=米国精神医学会による「精神障害の診断および統計マニュアル第4版」の通称)では、痴呆性の病気に共通する「痴呆」の基本的な診断根拠として<表1>のような項目を挙げています。

かみくだいて言いますと、まず、(1)新しいことを覚えたり、昔のことを思い出したりすることができない「記憶障害」があること。それに加え、(2)表の中で説明されている失語、失行、失認などの大脳機能の障害があること。更に(3)物事を計画したり、まとめたり、筋道のたった説明をしたり、事柄の本質を把握したりする大脳機能のいずれかに障害があり、それが以前に比べて明らかに低下して社会生活(家庭内の対人関係を含めて)や仕事の妨げとなる場合-この状態を「痴呆」と呼んでいます。

しかも、このような症状は意識障害(例えば「錯乱状態」)に限らず、十分に覚醒していて意識がしっかりしている時にもみられることが診断の条件になっています。

つまり、頭を打ったり、熱が出たりして、意識がもうろうとしている時にこのような症状が出ても痴呆とはいいません。ですから、年をとって多少物覚えがわるくなっても日常生活に大きな支障のない場合は「痴呆」とはいわないのです。

年をとって物覚えが悪くなるのは、自然の経過として現れる知能の減退ですが、「痴呆状態」は備わっているべき知能の一部、または全体を脳の障害のために喪失した状態であり、本質的に違うのです。

以上の症状は、医学的には「認知機能障害」と呼ばれ、<表1>の条件に当てはまる形でこうした症状が出た時に「痴呆」と診断します。

しかし、痴呆を起こす原因疾患によっては、ほかにも種々の症状がみられます。とくに「徘徊」や「夜間せん妄」(昼夜が逆転して、夜中に訳のわからないことをいったり、騒いだりすること)のような行動の異常がみられます。うつ状態や意欲の低下などもしばしば認められます。

こうした行動異常や精神的な症状は、知能障害がなくてもみられることがあり、痴呆の「中核症状」(その症状があれば痴呆といえる症状)ではなく、痴呆患者に認められることがある「随伴症状」とされています。随伴症状として、精神症状のほか、歩行障害や手足の運動障害などの身体症状が現れることもあります。

痴呆患者にみられる症状をまとめると<図1>のようになります。

表1 痴呆の基本的な診断基準(DSM-IV)

イラスト:失語症患者
A. 次の2点で示されるさまざまな認知障害

 (1) 記憶障害(新しい情報を獲得する能力の障害または過去に獲得した情報を想起することの障害)
 (2) 次の認知障害が1つ以上ある
(a) 失語(言語障害)
(b) 失行(運動器官に異常がないにもかかわらず、運動行為の遂行ができない)
(c) 失認(感覚器官に異常がないにもかかわらず、対象物の認知または同定ができない)
(d) 統合的機能(計画、組織化、論理化、抽象能力など)の障害
B. 前項A(1)およびA(2)の障害のいずれもが、社会的能力または職業的能力の明らかな障害となり、過去の能力水準からの明らかな減退が認められる
 

図1 痴呆患者の症状

図1:痴呆患者の症状

痴呆になる原因

繰り返しになりますが、痴呆は「器質的な損傷が生じて」起こる知能障害です。脳に損傷を生じ痴呆の原因となるのは、頭部外傷、脳炎や梅毒などの感染症、脳腫瘍、薬物や有毒物質による中毒などがあります。とくに問題となるのは原因がまだはっきりしない脳の変性疾患(アルツハイマー病に代表される)と、脳梗塞などの脳血管障害です。

痴呆患者が高齢者に圧倒的に多いのはよく知られています。ほとんどがアルツハイマー病か脳血管障害です。この二つの病気について説明しましょう。

アルツハイマー病とは

100年ぐらい前まで、お年寄りに痴呆が多いのは単に脳が年とともに萎縮して機能が衰えるからだと考えられていました。また、梅毒患者の末期には特有の知能障害がみられることから、梅毒も痴呆の大きな原因として挙げられてきました。しかし、19世紀末ごろから、脳の動脈硬化があると特有の変化が脳に生じ痴呆を起こすことがわかり、老年者の痴呆は脳の動脈硬化も原因になるといわれるようになりました。

20世紀の初め、ドイツの精神神経学者アルツハイマーは、痴呆がしだいに進み死亡した55歳の女性患者の解剖所見から、それまで知られていた脳の変化とはまったく違う変化に気づき、新しく発見された痴呆性疾患として報告しました。その後、同様の患者が多く認められ、「アルツハイマー病」と呼ばれるようになりました。最初の患者が初老期だったので、老人痴呆とは区別して、当初は初老期痴呆と呼び、高齢の痴呆患者で同様の所見が見られる場合は、アルツハイマー型の老年痴呆と呼んでいました。しかし、現在ではアルツハイマー型の痴呆として年齢に関係なく同じように扱っています。

アルツハイマー病の特徴は、大脳の後半部(側頭葉、頭頂葉、後頭葉)の萎縮が次第に進むことです。最も変化が早くみられる部分は側頭葉の内側にある海馬と呼ばれるところです。この部分は記憶機能に深く関係しており、その損傷があるといろいろな形で記憶障害が現れます。

脳組織の変化としては、<図2>のように「アミロイド」と呼ばれるたんぱく質の沈着(アミロイド斑とか老人斑という)と<図3>のように、非常に溶けにくい「タウたんぱく」からできる神経原線維が出現することです。

アミロイドの沈着は、お年寄りでは痴呆患者でなくてもみられ、そのために老人斑とも呼ばれています。アルツハイマー病では比較的早期から、側頭葉を中心にこの沈着が認められ、その程度も強いのが普通です。このため、脳の後半部に高度の萎縮がみられるようになります。

こうした変化とともに、正常な神経細胞が徐々に脱落し、痴呆状態になっていくのです。

病理学者のブラークは、初期の軽い変化の状態から、最も進んで神経細胞がほとんど脱落した状態まで6段階に分けています。痴呆の症状が出始めるのは3期の終わりから4期の始めにかけてといわれています。

アルツハイマー病にみられる神経組織の変性は、実際に痴呆症状が現れるかなり前から始まっており、発病中の全期間の中頃から症状がはっきりしてくる、極めて長い経過をとる進行性の病気です。

病気の原因はまだわかっていません。しかし、全体の10%を占める「家族性アルツハイマー病」ではいくつかの遺伝子異常が判明、アミロイドたんぱくの沈着や神経細胞脱落のメカニズムも次第に明らかになってきました。また、非家族性のアルツハイマー病でApo E(アポ・イー)という物質に関する遺伝子異常が多いことがわかっています。

さらに、慢性関節リウマチで長期にわたって炎症を抑制する薬剤を服用している患者ではアルツハイマー病の発生が際立って少ないことが判明し、アルツハイマー病の病態として何らかの炎症性変化があることもわかっており、少しずつ病態を解明する手がかりが得られています。

アルツハイマー病は次第に進行する痴呆が特徴的です。先に説明した精神障害の診断基準(DSM-IV)では<表1>に加えて<表2>のような症状の特徴を挙げています。

実際には70歳を過ぎてから痴呆症状が出るのが普通で、男女比はほぼ2:3で女性に多く、痴呆が出てから死亡までの平均罹病期間は約5年といわれています。症状の出現はいつからかははっきりせず、その後は徐々に痴呆が進み、最後は全身衰弱や肺炎などの感染症で死亡する場合がほとんどです。その間、歩行障害や、筋肉が固くなる、失禁などの身体症状を伴うことがあります。一方、時間や場所を正しく認識する「見当識」が次第に崩壊し、幻覚や妄想が現れたりしますが、本人はその病識がなく、無欲状態やうつ状態、もしくは多動、いらつき、不安、だれに対しても強い敵意を抱くなどの精神症状を伴うことがしばしばです。これで、社会的行動と個人の習慣も次第に崩壊していきます。

図2 アルツハイマー患者のアミロイド班

図2:アルツハイマー患者のアミロイド班
(老人班)

図3 アルツハイマー患者の神経原線維

図3:アルツハイマー患者の神経原線維
(鍍銀染色で黒く染まっている部分)

表2 アルツハイマー型痴呆の特異的診断基準項目

(表1の追加分)
C. 徐々に発症し、持続的に症状が進行する経過が特徴的である
D. 診断基準(表1)のA(1)およびA(2)は以下のいずれによるものでもない

 (1) 記憶および認知機能を徐々に障害する他の中枢神経系疾患(脳血管障害、パーキンソン病、ハンチントン病、硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍など)
 (2) 痴呆の原因となりうるとされている全身性疾患(甲状腺機能低下症、ビタミンB 12または葉酸欠乏症、ニコチン酸欠乏症、神経梅毒、HIV感染症など)
E. 痴呆症状はせん妄状態のみに限って出現するものではない
F. 病像は精神障害性疾患(うつ病、分裂症など)では十分に説明できない

血管性痴呆の場合

痴呆性老人の原因疾患で、アルツハイマー病と並んで多いのは脳血管障害です。脳血管障害には脳出血やくも膜下出血のような出血性のものと、脳血栓症や脳塞栓症などによる脳梗塞のような虚血性のものとがあります。

これら脳血管障害が原因となって起こる痴呆を総称して「血管性痴呆」と呼んでいます。いずれの場合も脳に損傷を起こし、痴呆の原因になることがありますが、実際には脳梗塞、しかも多発性の脳梗塞による場合が多いのが現状です。ですから、血管性痴呆を「多発梗塞性痴呆」と呼ぶこともあります。

血管性痴呆は脳血管障害にみられる症状の一つです。危険因子には加齢、高血圧、糖尿病、喫煙、各種の心疾患の合併などがあり、脳卒中の危険因子と同じです。つまり、加齢以外の危険因子は、日々の生活習慣を改善することで、ある程度避けられますから、予防が可能な痴呆なのです。

血管性痴呆の中には、長期にわたる高血圧などのため脳の細い動脈に血流障害が起こり、神経細胞よりも神経線維(脳の白質と呼ばれる部分)がとくに侵され痴呆になる特殊なもの(ビンスワンガー病と呼ばれる)もありますが、これも危険因子は高血圧と考えられています。

痴呆状態を引き起こす脳の障害部位は、患者さんごとにばらつきがあり、むしろ損傷部位に一定の傾向がないのが脳血管痴呆の特徴です。

<図4>は、ポジトロン・エミッション断層撮影(PET)で、脳の活動ぶりをブドウ糖消費量でみたものです。上の段のアルツハイマー病では大脳後方部の脳活性が低下し、暗くなっていますが、下の段の多発性脳梗塞による血管性痴呆では脳活性の低下した部分が分散しており、一定の傾向はみられません。

精神障害の診断基準(DSM-IV)では、血管性痴呆の診断基準として、<表1>の基本症状に加え、<表3>に示す各項目を追加しています。それによると、脳血管障害として片まひや歩行障害のような何らかの局所的な神経症状と、脳梗塞など病変が存在することを診断根拠として挙げています。

図4 痴呆性患者のPET(脳ブドウ糖消費量)画像

(前後断層像)
図4:痴呆性患者のPET(脳ブドウ糖消費量)画像
上段がアルツハイマー病、 下段は多発性脳梗塞による血管性痴呆

表3 血管性痴呆の主な原因と特異的診断基準項目


血管性痴呆の原因
虚血性の脳血管障害

○大血管の閉塞(脳塞栓症または脳血栓症) 単発性大梗塞

○小血管の閉塞(多発性梗塞) ラクネ

特殊な形(白質障害) ビンスワンガー病
出血性の脳血管障害

○脳実質内出血 単発性または多発性

○くも膜下出血 正常圧水頭症

○慢性硬膜下血腫 外傷性静脈出血
その他

特異的診断基準項目
神経局所症状(たとえば、深部腱反射の亢進、伸展性足底反射、仮性球まひ、歩行異常、四肢のいずれかの運動まひなど)、または痴呆と関係すると判断されうる脳血管障害(大脳皮質および皮質下の白質の多発性梗塞など)の存在を示す検査所見がある
痴呆症状はせん妄状態のみに限って出現するものではない

アルツハイマー病との違い

同じ痴呆患者でも血管性痴呆は、アルツハイマー病とは症状に違いがあります。年齢はアルツハイマー型の痴呆よりやや若く、平均年齢は65歳前後。男女比は3:1で男性に多くみられます。罹患期間に一定の傾向はなく、発症は急に起こります。症状は動揺性ですが、増悪発作を繰り返しながら進行し、最終的には脳血管発作、心疾患などの循環器疾患や肺炎などの感染症の併発などで亡くなる場合がほとんどです。

大脳の機能障害としては、記憶障害のほかに失語や失認などの限られた領域の脳損傷によるものがしばしばみられ、これに片まひなど神経症状、高血圧、糖尿病などの身体症状が合併しているのが一般的です。

発作的に一時的な錯乱や幻覚が起こることがありますが、長期間持続するのはまれです。人格はあまり変わらず、一見ふだんどおりのようにみえますが、よく観察すると“まだら状”に知能の脱落のあることがわかります。

妄想が出現するのはまれで、初期には本人も痴呆が進みだしたという認識があります。不安や抑うつなどの感情障害がしばしばみられ、末期には感情が鈍くなったり、逆にすぐ泣いたり笑ったりする「感情失禁」がみられることがあります。アルツハイマー病では感情障害はあまりみられませんので、この点が大きく異なります。

社会的行動や個人習慣の崩壊は断続的か、ゆっくり発作的進行を繰り返しながら進んでいくのが普通です。

その他の痴呆性疾患

アルツハイマー病や脳血管障害以外でも、痴呆の原因となる病気はたくさんあります。アルツハイマー病と同じように神経変性が起こる「ピック病」や「びまん性ルイ小体変性症」などがあり、さらに脳炎後や頭部外傷後に痴呆状態になる患者もいますが、老年者の痴呆患者としては数が少ないといえます。

痴呆患者の数は

痴呆患者の正確な数、つまり発生頻度は、これまでの調査では痴呆の診断方法や調査対象によって微妙な違いがあります。65歳以上の高齢者を対象とした調査では100人につき4~6人の間でばらついていますが、痴呆症状がはっきりしている患者は平均すると65歳以上の人口100人につき5.5人くらいと考えられています。

ですから、現在わが国では100万人弱の痴呆性老人がいることになります。2020年には全人口の35%が65歳以上の高齢者になると予測されており、痴呆性老人の数も200万人を超えると推定されています。

高齢者の痴呆患者のうちアルツハイマー病患者の占める割合が、海外では60~70%と多いのに対し、日本ではむしろ血管性痴呆が多いといわれてきました。しかし、最近の調査では血管性痴呆とアルツハイマー病との比率はほぼ50%ずつと同じくらいになっているといわれます。

痴呆は治るか

治る痴呆

以前の医学教育では痴呆は治らない病気であり、治療可能な知能障害は痴呆とはいわないと教えてきました。しかし、最近ではこの考え方が改められ、「治る痴呆」と、治す手段がまだ見つかっていない「治らない痴呆」とに分けて考えるようになっています。

くも膜下出血の後遺症として、脳脊髄液の循環障害が起こって頭に水がたまり、次第に脳が圧迫されて機能障害を起こし、痴呆が現れることがあります。こうした場合、手術で脳に水がたまらないようにすると痴呆症状が劇的に改善することがあります。

本人や家族が気づかない軽い頭部外傷(ドアに頭が当たった程度)でも高齢者では頭蓋骨の内側(硬膜下腔)に静脈の出血がじわじわと起こり、1~2か月後には大きな血腫となって脳を圧迫し、いろいろな精神症状とともに痴呆症状が現れることがあります。これも手術で血腫を取り除くと症状が完全にとれることが少なくありません。

ですから、身近なお年寄りの言動がおかしくなり、ぼけが始まったと思われる時は、まず専門医に相談して「治る痴呆」かどうかを確かめることが大切です。

発病を抑えられる痴呆

大脳に損傷が起こるアルツハイマー病や血管性痴呆では、失われた脳組織を元に戻すことは残念ながら現時点では不可能です。その意味では有効な治療手段があるとはいえません。これらの痴呆性疾患にかからないように予防することが重要です。

血管性痴呆は病気の成り立ちが脳卒中と本質的に同じです。高血圧や糖尿病の予防や治療を的確に行い、喫煙や飲酒習慣を改めるなど、生活習慣病(成人病)の予防に努めることで、発症をかなり抑えられます。

治療が困難な痴呆

アルツハイマー病など原因がわかっていない痴呆性疾患は有効な治療法がまだ見つかっていません。患者数の多いアルツハイマー病については世界的なレベルで原因探索と治療法の開発が進められており、記憶障害の進行抑制に有効な薬剤などが開発されつつありますが、まだ十分な効果を上げる薬はでていません。

しかし、痴呆患者、とくにアルツハイマー病患者の症状は記憶や認知障害など中核症状だけでなく、いろいろな随伴症状が出現します。介護の立場から考えると、記憶障害よりも、徘徊や夜間せん妄などの行動異常や精神症状が問題となります。

実際には痴呆症状など中核症状の重症度よりも随伴症状に手を焼くことが多いからです。つまり、介護の立場からみた痴呆患者の重症度は、痴呆症状の重症度とは必ずしも一致しないのです。そのことを<図5>に示しました。

痴呆患者の治療は全体的な立場から考える必要があり、種々の向精神薬などを利用して精神症状や行動異常の抑制はある程度可能ですので、介護の負担を軽くするための治療手段は残されています。

こうした点を含めると、痴呆症状そのものは治療できなくても痴呆患者の全体像、とくに介護負担を減らす治療はある程度可能なのです。

図5 重症度評価

痴呆症状から見た場合 介護の立場からみた場合
図5:重症度評価
痴呆重症度の立場から評価する場合は、記憶障害など痴呆中核症状に重点を置いて重症度が評価される(左)。患者管理の立場からは介護に問題のある行動異常などの精神症状に重点を置き、診療上の重症度が検討される(右)。

痴呆対策の今後

痴呆とくに老齢者の痴呆は、単に本人の問題だけでなく、介護にあたる家族など周辺にも大きな影響を与える病気ですから、人口の高齢化とともにこの点が社会的な問題になっています。

まず、予防できるものはできるだけ予防して患者数を少なくし、予防できないものはなるべく早期に診断し、痴呆が顕著になる前に進行を止める手段を開発することが必要になります。このために、現在、世界中の研究者が痴呆の病態解明や、早期診断方法と有効な発症抑制手段の開発に努めており、近い将来、必ず光が見えると期待しています。

[更新日: 2009年10月10日]