[21]動脈硬化
-これだけは知っておきたい-
国立循環器病センター
臨床検査部・病理
部長 由谷 親夫
硬化予防は若いうちから ―運動と食事で―
もくじ
- 誤解されがちな動脈硬化
- 血管の仕組みと働き
- 血管が粥のようになって発病
- 無症状で進行する
- 硬化はどう進むのか
- “おかゆ”状病変が崩壊・破綻する時
- 5つの危険因子
- 動脈硬化の検査いろいろ
- 悪い生活習慣の改善を
誤解されがちな動脈硬化
いったい「動脈硬化」とはなんでしょう。改めて問われてみると、なんとなくわかっているようで、本当のところはよくわからない、という方が多いのではないでしょうか。誤解も少なくありません。
動脈の変化は、中高年になってから起こるものだと信じている人が多く、これが最も誤解されている点です。
実は、ゼロ歳の時点ですでに主な動脈に「硬化」の初期病変がみられ、10歳前後から急に進んできます。30歳ごろになると、まさに“完成”された「動脈硬化」が現れるようになります。
生まれた時から一生つき合わねばならない血管の変化ですが、変化を起こし、進める「危険因子」を避け、食事、運動などに気をつければ、予防でき、進行を食い止めることもまた可能です。
生活習慣が欧米化したのに伴って、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心臓病が年々増えてきました。こうした病気の原因の大部分は、動脈硬化が進むことによって起こりますから、この変化を抑え、いかに若々しい血管を保つかは、現代人の健康法のイロハのイにあたる大切なことです。
この変化がどうして起こり、どのように進むのか? その「危険因子」は何か? 危険因子と食事療法や運動療法はどう関係するのか? 今回はこうした点を中心に考えてみましょう。
循環器病の患者さんには回復への指針として、危険因子を抱えている方には、それらを一つでも減らし、循環器病を予防するガイドとして役立ててもらえればうれしい限りです。健康な人、若い人にも血管をいたわる健康法として読んでいただければ幸いです。
30歳で動脈硬化が
血管の仕組みと働き
まず血管の構造と働きの話から始めましょう。
私たちの体は、血管を通じて血液が糖分や酸素など生活に必要なものを運び込み、その一方で、炭酸ガスや体内でできた老廃物を運び出して処理する仕組みになっています。
動脈も静脈も、基本的には「内膜」「中膜」「外膜」の3つの層からできています。
<図1>をご覧いただくとわかるように、血液と接しているのが「内膜」で、その表面は「内皮細胞」という細胞の層に覆われています。この細胞層は血液から必要な成分だけを取り込むフィルターの役目をしています。
動脈硬化との関係で特に重要なのは「内膜」と「内皮細胞」です。まずこの二つをしっかり覚えてください。
内膜の外側の「中膜」には、血管としてのしなやかな弾力性を保つための成分(平滑筋細胞など)でできた層があります。動脈には、心臓から血液が送り出されるときの圧力がかかりますから、この層は厚くなっています。一方、静脈は圧力の低い血流なので、この層は動脈ほど厚くありません。
中膜の外側を囲んでいるのが「外膜」の層で、ここには血管の外から細い血管を通じて栄養分などが運ばれてきます。
図1 動脈の仕組み
下の図は、外膜、中膜、内膜の表面の部分を削りとって、それぞれの下がどんな風になっているか分かるように描いたものです。
血管が粥のようになって発病
「動脈硬化」とは「動脈の壁が厚くなったり、硬くなったりして本来の構造が壊れ、働きがわるくなる病変」の総称です。もともと病理学で使う呼び方で、病名ではありません。
病理学では三つのタイプに分けていますが、一般に動脈硬化といえば「粥状動脈硬化」を指す場合が多く、ここではそれを動脈硬化として説明します。
「粥状」とは難しい表現ですが、「おかゆ」か「ヨーグルト」、もしくは「柔らかいチーズ」のような状態を思い浮かべてください。
この血管の変化は、内膜や中膜が比較的よく発育した動脈に起きやすいので、心臓を養う冠状動脈、大動脈、さらに脳、頚部、腎臓、内臓、手足の動脈などによく起こります。
内膜の中にコレステロールが蓄積し、次第に脂肪分が沈着して、血管が狭くなり、血栓、潰瘍をつくる原因になります。これが原因になり、狭心症、不安定狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、大動脈瘤、腎梗塞、手足の壊死などが起こります。
無症状で進行する
「硬化」はどう進むのか、その過程をご説明しましょう。
年齢が高くなるにつれ、内膜の中にたまったコレステロールを中心とした脂肪沈着は、やがて「脂肪斑」と呼ばれる状態になります。20~30歳ごろから始まり、この「脂肪斑」などが大きくなり、血管の内側に向かって盛り上がってきますから、50~60歳になると血管自体は狭くなってしまいます。
その結果、スムーズな流れだった血流と内膜の間に無理(ストレス)が生じ、内膜を覆っている細胞(内皮細胞)が壊れ、血の塊(血栓)ができます。この塊で血管が詰ると、急性心筋梗塞などの発作として、初めて症状が現れるようになります。
ですから、症状が自覚できるようになった時は、すでに20~30年に及ぶ沈黙の「動脈硬化の進行」があったと考えなくてはなりません。硬化は無症状のまま進行することをしっかり覚えておいてください。
硬化はどう進むのか
では、動脈の変化はどのように進むのでしょうか。
健康な人の血管の内膜表面を覆っている「内皮細胞」の層は、血液から必要な成分を取り込み、他の成分は入り込まないようにしていることはすでに説明しました。このほかに、血液が固まるのを防いだり、血液が内皮細胞にくっつかないようにしたりする大切な役目も果たしています。
最近になって、内皮細胞の層でさまざまな物質(生理活性物質)がつくられ、放出されていることがわかってきました。この細胞の役割は極めて大きいのです。
<図2>を見てもらいながら、話を進めます。心臓・血管に悪い影響を与える高血圧や糖尿病や感染などが刺激になって内皮細胞が傷害されると、血中の単球(白血球)が内皮細胞にくっつくようになります。さらにこの単球は内皮細胞の間から潜り込み、「マクロファージ」と呼ばれる状態に変身します。
血液中のコレステロールが多すぎると、この「マクロファージ」が“呼び寄せ役”になって、脂肪物質がどんどん取り込まれてたまり、内膜が厚くなってきます。時間の経過とともにこの“呼び寄せ役”自体も壊れて、先に説明したように「粥状」になります。
少し難しい説明になりましたが、「高血圧や糖尿病などが刺激になって内皮細胞が傷つけられると、その部分の血管壁の中に脂肪物質がたまって厚くなり、“おかゆ”のような状態になる」と覚えていただければ結構です。
図2 粥状硬化ができるまで
“おかゆ”状病変が崩壊・破綻する時
この“おかゆ”状の病変を「粥腫」といいます。粥腫のなかには、きわめて脂肪分に富んだものから、脂肪分が乏しく線維性成分が目立つものまで、さまざまなタイプがあります。
冠状動脈を断面でみたのが<図3>で、「粥腫」が次第に厚くなり、血栓ができるまでを示しました。
この病変部分がくずれる(崩壊・破綻)こと自体が、急性心筋梗塞の原因とされています。
崩壊の結果、<図3>のように血栓ができ、それが血管をふさいで急性心筋梗塞の起こることが、はっきりと確かめられてきました。不安定狭心症の患者さんでも冠状動脈で血液が固まってしまうことが認められています。
冠状動脈が詰ってしまうと、心臓の筋肉に酸素が十分に送られなくなり、心筋の細胞は壊死します。
予後の悪い不安定狭心症や急性心筋梗塞では、冠状動脈での「粥腫の破綻」と、その結果できた「血の塊」が原因であることが明らかになり、最近では「急性冠症候群」と呼ばれています。
とくに問題となるのは、破綻・崩壊しやすい不安定な“おかゆ”状病変です。その特徴として「脂質の占める部分が多い」ことなど、いくつかの点が病理学的検査や血管内エコー、血管内視鏡の検査結果からわかってきました。現在、この病変が破綻しないようにするいろいろな治療法の開発が期待できる段階まできています。
逆に「白みがかった脂質と炎症細胞が少なく、厚い被膜を持つ粥腫」は破綻しにくいといわれています。
では、“おかゆ”状病変の崩壊をどうすれば予防できるのか、何に気をつけたらよいのか……。それには、動脈硬化の「危険因子」についてよく知っておき、それらをなくす必要があります。
図3 冠状動脈の硬化はこう進む
5つの危険因子
動脈硬化の原因は一つではありません。
この変化を起こしたり、進めたりする条件を「危険因子」と呼んでいますが、その中には「男性であること」「齢をとること」のように、自分ではどうにもならないものから、「高血圧」「高脂血症」「喫煙」「肥満」「糖尿病」「ストレス」などのように、自分の意志次第でコントロールできるものもあります。
こうした危険因子を多く持つ人ほど、動脈硬化が加速度的に速まることがわかっています。危険因子の中でも「高血圧」「高脂血症」「喫煙」は特に重要で、3大危険因子になっています。
米・マサチューセッツ州のフラミンガムで、危険因子と心臓病の関係を明らかにするための疫学調査が行われました。その結果、<図4>のように、総コレステロールに高血圧、喫煙、耐糖能異常(糖尿病)、さらに心電図異常(左室肥大)が加わるにつれ、心筋梗塞や狭心症など“心臓事故”の頻度が高くなっています。
図4 危険因子が重なるにつれ“心臓事故は増えていく”
(フラミンガムでの調査)
| コレステロール | 185⇔335 | 185⇔335 | 185⇔335 | 185⇔335 |
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| 耐糖能異常 | 0 | + | + | + |
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| 収縮期血圧 | 105 | 195 | 195 | 195 |
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| 喫 煙 | 0 | 0 | + | + |
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| 心電図左室肥大 | 0 | 0 | 0 | + |
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(1)高血圧
アメリカでは、高血圧を「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼んでいます。静かに忍び寄ってきて、やがては心筋梗塞や狭心症の下地になりかねないことを警告しています。
高血圧は、細い動脈の硬化を促すだけでなく、より太い動脈に生じる硬化も進める重大な危険因子です。塩分の取り過ぎや肥満で血圧が高くなっていくのは、皆さんよくご存じのことです。
動脈硬化が進みやすい血圧は「収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の場合」で、血圧が高いほど脳梗塞や心臓病などにかかるリスクは当然、高くなります。
心臓のポンプ作用を反映する収縮期も、血管の抵抗性を示す拡張期の血圧も、同じように動脈硬化に影響を与えています。
(2)高脂血症
血液中の脂肪が高い「高脂血症」も強い危険因子です。脂肪分のうち増えると動脈硬化を促すのは、総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、高トリグリセライド(中性脂肪)血症、Lp(a)、レムナントなどで、反対に減ると動脈硬化を進めるのはHDL(善玉)コレステロールです。
厚生省の発表によると「総コレステロール値は220mg/dl以上、LDL(悪玉)コレステロール値は140mg/dl以上、またHDLコレステロール値は40mg/dl以下」になると、狭心症や心筋梗塞の合併が増えるとされています。
(3)喫煙
1日20本以上の喫煙者では、虚血性心臓病の発生が50~60%も高くなります。喫煙は、がん、肺や消化器などの病気だけでなく、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症といった動脈硬化性疾患の発症を促す強力因子です。
さらに悪いことに、喫煙はほかの危険因子にも影響し、総コレステロール値、LDL(悪玉)コレステロール値を高め、逆にHDL(善玉)コレステロール値を下げますから、二重のリスクをもたらすのです。
喫煙で血が固まりやすくなり、血栓症を起こす危険も高まります。血管も収縮しやすい状態になります。動脈硬化の予防・治療にまず禁煙が必要なのはいうまでもありません。
喫煙者だけでなく、そばにいて、たばこの煙を吸わされる「受動喫煙者」にも健康被害を与えていることをよく知ってほしいのです。
(4)肥満
肥満の程度を示す指標としてBMI(ボディ・マス・インデックス)があります。次の式で簡単に求めることができますから、時々チェックして正常体重にするよう努力してください。
BMI値=体重(Kg)÷[身長(m)×身長(m)]
例えば、体重65キロ、身長170センチの人ですと
65÷[1.7×1.7]で、BMI値は22.5となります。
日本肥満学会の基準では、19.8~24.2は「正常範囲」、24.2~26.4は「過多体重」、26.4以上は「肥満」としています。
肥満した人は血液中の脂肪が過多になりやすく、さらに高血圧、高尿酸血症、糖尿病などを合併しやすいので、ほかの危険因子にも大きな影響を及ぼしますから、あなどれません。例えば、肥満が進むと収縮期、拡張期とも血圧が明らかに上昇します。
(5)糖尿病
糖尿病の発症には、遺伝的な素因も関係しますが、生活習慣、とりわけ過食、運動不足、飲酒など、心がけ次第で改善できる習慣が大きく影響しています。
患者さんには、首の動脈の肥厚、脳血管障害、虚血性心臓病、大動脈硬化、足の閉塞性動脈硬化症などが、糖尿病でない人に比べ高頻度に、しかも全身にわたって起こりやすくなります。
糖尿病になると、ほかの危険因子、とくに高血圧、高トリグリセライド血症、低HDL血症などがしばしば起こるようになります。
こうみていくと、危険因子は相互に関係しており、因子が増えれば雪ダルマ式にリスクが高まる反面、一つでも因子を減らせば、よい影響も雪ダルマ式に広がります。治療にも予防にも5つの危険因子を減らすことがいかに重要な意味をもつか、おわかりいただけたと思います。
硬化を促す5つの危険因子
○高血圧
○高脂血症
○喫 煙
○肥 満
○糖尿病
動脈硬化の検査いろいろ
どんな検査が行われるか、項目を挙げてみましょう。
◆危険因子の有無を調べるチェック項目
- 血圧
-
空腹時の血液中の脂肪
総コレステロール値・HDL(善玉)コレステロール値・トリグリセライド(中性脂肪)値・LDL(悪玉)コレステロール値・アポ蛋白A-1、B値・Lp(a)値・レムナント - 空腹時血糖
- 喫煙歴
- 血液の尿酸値
- 身長・体重・ウエストとヒップの周囲径の計測
◆動脈硬化の程度を知る検査
- 冠状動脈:血管内エコー・シンチグラム・MRI・血管内視鏡・冠状動脈造影
- 脳動脈:シンチグラム・MRI・脳動脈造影
- 頸動脈:エコー・血管造影・MRI
- 大動脈:CT・MRI・エコー・大動脈造影
- 下肢動脈:シンチグラム・エコー・脈波・血管造影
これらの多くは何か症状がある場合の検査で、直接、動脈硬化の程度を知ることができますが、一般の診療では次の3項目の検査が心臓、脳、下肢の動脈硬化の程度を知る手がかりになります。
- 心電図
- 眼底検査
- 上腕動脈と足関節上部で測定する血圧の比、脈拍の触れ方、左右差
日常の診療でも触診で動脈の硬さや、走行具合を、また胸部レントゲン写真で動脈の石灰化をチェックできます。
悪い生活習慣の改善を
動脈硬化について、みなさんにぜひ知っておいていただきたい点を説明してきました。
『薬を飲んでいるから大丈夫』と思い込んでいる人が案外多いのですが、これは間違いです。病院で渡された薬だけを頼りにして、病気のことや毎日の生活習慣について無頓着であれば、薬の効果はどんどん帳消しになってしまうのです。
病気についての理解と知識は欠かせません。それらを身につけるには“がんばり”が必要です。生活習慣が循環器病の多くをつくりだしているのですから、食事や運動についての知識と実行力を発揮して、生活習慣を変えることができれば、動脈硬化による病気は予防できます。
こうした点をよく理解して、がんばりと根気を長く、いつまでも続けてほしいのです。
[更新日: 2009年10月10日]
