[19]脳卒中にもいろいろあります
-種類と対応は?-
国立循環器病センター
病院長 山口 武典
ふえている脳卒中 入院患者数は第2位
もくじ
はじめに
「脳卒中」という言葉を漢語辞典で引くと「卒然として邪風に中(当)たる」とあります。つまり「突然、悪い風に当たって倒れる」という意味です。
昔の人は「悪い風」が原因だと考えたのですが、いまではその正体は、脳の血管が詰まったり、破れたりすること、とわかっています。ですから、脳卒中とは「脳の血管が詰まったり、破れたりして、いろいろな脳の症状が現れるすべての状態」を指しているのです。
脳卒中は「脳血管障害」とも呼ばれますが、脳血管障害という場合は、最近、脳ドックなどの検査でしばしば行われるCTやMRIなどで偶然、発見されるものも含んでいます。
- *CT
- 検査したい体の部位や臓器に、少しずつ角度を変えながら(360度回転する)エックス線を当て、透過したエックス線の量をコンピューターで計算し、その部位の断面を輪切りにして描く方法。
- *MRI
- エックス線の代わりに強い磁気を当て、細胞の中の水素原子の動きの差を検出して、コンピューターで計算し、より詳しい断面像を得る方法。
脳卒中のさまざまなタイプ
大まかにいうと、脳卒中は(1) 血管が詰まってブドウ糖や酸素が行き渡らなくなって脳の細胞が死んでしまう「脳梗塞」と、(2) 血管が破れて起こる「頭蓋内出血」に分けられます。
さらに、脳梗塞は、ごく細い動脈が詰まる「ラクナ梗塞」、大きな動脈が詰まる「アテローム血栓性梗塞」、心臓の中にできた血の塊(血栓)がはがれて脳の動脈に流れ込んで起こる「心原性脳塞栓症」に分けられます。
頭蓋内出血の方は、脳の中の細い動脈が破れる「脳出血」と、脳の表面を走る大きな動脈にできたこぶが破れる「くも膜下出血」に分類されています。
死亡原因の第3位
わが国では脳卒中による死亡者数が非常に多く、1951年から約30年にわたり国民死亡原因の第1位を占めてきましたが、今ではがん、心臓病に次いで第3位となっています(1998年現在)<図1>。
ただ、高齢化社会を迎えた現在、脳卒中の発症は決して減少したとはいえず、有病率(患者さんの数)は増加しています(約170万人)。入院患者の数も第2位で、国民医療費の約10%が費やされています。
かつて脳卒中で死亡する人の大部分は、脳出血でした。しかし、食生活の欧米化(脂肪摂取の増加、塩分の減少)、高血圧治療の普及などによって、脳梗塞がしだいに増え、1970年代半ばから脳梗塞による死亡者数が、脳出血によるそれを上回るようになっています<図2>。
図1 主な死因別にみた死亡率の年次推移
図2 脳卒中病型別死亡率の変化
-
- 「厚生省の指標」より
主な症状と徴候
血管が詰まって起こる脳梗塞と、破れて起こる脳出血は、まったく違う状態なのに、現れる症状にあまり大きな違いはありません。なぜなら、両方とも脳の細胞が損傷されるからです。
脳梗塞も脳出血も、現れる症状は脳の病変がどの部位に起きたかによって異なります。
大脳がやられると、体の半身の運動麻痺(片麻痺)や感覚障害、ろれつが回らない、言葉が出ないなどの言語障害が主な症状です。
脳幹や小脳に障害が起こると、物が二つに見える(複視)、ふらついて手足がうまく動かない(体幹・四肢失調)などさまざまですが、最もひどいときは意識がなくなります(意識障害)<図3>。
図3 脳卒中の主な症状
脳卒中が起こったら-その応急措置
もし家族の方に、急に脳卒中と思われる症状が起こったら、なるべく頭を動かさないように、静かな場所に寝かせます。
衣服はゆったりとなるよう、胸のボタンをはずし、おなかのベルトはゆるめてください。このとき、枕はしないか、首の下や肩に当てた方が楽に呼吸ができます。おう吐があるようだったら、顔を横に向けて、吐物が気管に入らないようにします<図4、図5>。
こうした応急処置をまずしてから、かかりつけの医師や救急車を呼んでください。このとき、『いつ、どこで、何をしているとき、どんなことが起こったか』を手短に伝えることが大切です。
脳卒中は初めは軽くても、1~2時間のうちにどんどん悪くなることがありますから、必ず入院することが必要です。とにかく脳卒中の治療はできるだけ早く始めることが肝心です。
図4 脳卒中が起こったときの寝かせ方
(息がつまらないようにする)
図5 おう吐があるようだったら、麻痺側を上にして横向きに
(吐物が気管に入らないようにする)
タイプ別の特徴
すでに説明した分類に従い、それぞれの特徴をまとめてみましょう。
図6 脳卒中の種類
(ラクナ、アテローム血栓性梗塞) (主として心原性)
図7 脳卒中のタイプ
1.脳梗塞
(1)ラクナ梗塞
日本人に最も多いタイプで、脳梗塞の半数近くを占めます。脳の細い動脈が高血圧のために損傷を受けて、詰まってしまい、脳の深い部分に小さな梗塞巣ができるものです。
症状は比較的軽い場合が多いのですが、繰り返し起こると血管性痴呆やパーキンソン症候群を起こすことがあります。
*パーキンソン症候群・・・手足の動きが鈍く、安静時に手のふるえ(振戦)があり、歩行は小股になって日常動作に支障をきたす病気。
(2)アテローム血栓性梗塞
頸の動脈や頭蓋内の比較的大きな動脈の硬化(アテローム硬化)が原因となって起こる脳梗塞です。欧米人に多く、日本人では脳梗塞の約20%を占めています。
もう少し詳しく説明しますと、アテローム硬化によって動脈が狭くなり、そこに血栓ができて完全に詰まってしまったり、その血栓がはがれて流れ出し、先の方で詰まったりするために起こる梗塞です。
アテローム硬化は、高脂血症、糖尿病、高血圧が原因で起こりますから、こうした成人病(生活習慣病)が危険因子といえます。
症状は片麻痺や感覚障害だけでなく、失語や失認など「高次脳機能障害」をしばしば伴います。さらに、心筋梗塞や四肢の閉塞性動脈硬化症も合併しますからあなどれません。
*高次脳機能障害・・・大脳の皮質が傷害されたときにみられる症状で、失語(言葉が出てこない、他人のいうことが理解できないなどの症状で、言語中枢に傷害が生じた時に起こる。右利きの人では、通常、言語中枢は左の大脳にある)、失認(人の顔がわからない、物が判別できないなど、これまで識別できたことができなくなる)、失行(運動麻痺や失調がなく、目的の行為が何であるかを理解しているのに、うまく行えない)などが含まれます。
(3)心原性脳塞栓症
心臓にできた血栓がはがれて流れ出し、脳に運ばれて動脈をふさぐものです。正常な心臓の中で血栓ができることはまずありません。しかし心臓病があると心臓の拍動のリズムがおかしくなったり、動きが悪くなったりするため、血液が鬱滞して血栓ができるのです。
血栓ができやすい心臓病には、心房細動、リウマチ性心臓病(弁膜症)、心筋梗塞、心筋症などがあります。
心原性脳塞栓症は脳梗塞の中の20~25%を占めますが、それまで正常に流れていた動脈が突然、詰まるため、バイパスができる時間的余裕がありません。ですから、脳梗塞の範囲は広くなる場合が多く、症状もひどくなります。
図8 心臓病が原因で脳梗塞になる場合も
2.脳出血
高血圧が続くと、脳内の細い動脈に絶えず高い圧力がかかるため、だんだんもろくなり(血管壊死)、ついには破れて脳出血を起こします。
脳出血は発症したときに頭痛やおう吐を伴うことがあります。症状は出血の部位によって異なりますが、多くは片麻痺、感覚障害を伴い、重症例では意識障害をきたします。意識障害を伴う脳出血の予後はあまりよくありません。
3.くも膜下出血
脳動脈にできたこぶ(動脈瘤)が破れて、脳の表面(くも膜下腔)に出血するものです。大部分は先天性の動脈瘤ですが、高血圧によって大きくなるといわれています。
くも膜下出血が起こると、猛烈な頭痛と吐き気、おう吐を伴い、多くはそのまま意識を失ってしまいます。出血が軽い場合、意識は回復しますが、出血量が多いときや脳内に破れ込んだ場合は、生命の危険があります。
1回目の発作は軽くても、その日のうちに再び破れることが多いので、入院して絶対安静が必要です。
根本的な治療は、動脈瘤にクリップをかけて破れないようにしなければなりません。そのため、くも膜下出血では必ず脳血管撮影を行い、動脈瘤の場所を確かめる必要があります。
図9 油断大敵、高血圧
急性期の治療
すでに説明しましたように、脳卒中の治療は早ければ早いほど効果が上がります。脳卒中らしいと思われたら一刻も早く専門病院に入院しましょう。
脳卒中の治療で基本となるのは、注意深く全身をケアすることと、一般内科的な集中治療です。なかでも高血圧への対応が大切ですが、どのタイプにも共通するのは、脳浮腫に対する高浸透圧溶液(10%グリセロール)の使用です。
1.脳梗塞
血管内の血栓がそれ以上増えないように、しかも病巣周辺の血液循環をよくする目的で、プロスタグランディン製剤や抗トロンビン剤が使われます。発症して3時間以内であれば、血栓を溶かす薬が劇的に効くことがあります。
血圧が少々高いからといって薬で急速に下げると、症状が悪くなることがあります。
2.脳出血
脳浮腫を減少させる薬以外に、血腫を小さくする薬はありません。出血した部位によっては、外科的に血腫を取り除く手術をすることがあります。とくに小脳の出血では、手術のタイミングを考えながら様子をみることが必要です。
3.くも膜下出血
再発防止のために、脳動脈瘤の根っこをクリップで止める手術を行います。
図10 一刻も早く専門病院へ
再発を予防するには
脳卒中を起こす危険因子として、まず高血圧、その他に糖尿病、高脂血症、肥満などがあり、生活習慣としては喫煙、大量飲酒などが挙げられています<図11>。
再発予防でも、基本的には危険因子を除くことが大切ですから、これらのコントロールを十分に行わなければなりません。ただし、脳梗塞の血圧管理については、血管の病変の程度によってはあまり下げすぎない方がよい場合があります。
血管に原因がある脳梗塞(アテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞)の再発予防には、アスピリンなどの抗血小板薬が有効です。なぜなら、動脈内での血栓形成は血小板という血液成分がまず凝集することによって始まりますから、この血小板の凝集を抑える薬を使えば血栓はできにくくなるわけです。
一方、心臓内で血栓ができるのはフィブリンという物質の働きが主体となるため、これを抑制する抗凝固薬(ワーファリン)を使わねばなりません。
この薬は、血液が固まる程度をうまくコントロールしないと、出血しやすくなったり、効き目がなくなったりします。だから心原性塞栓症の患者さんは、少なくとも1か月に1回は血液の凝固の具合を調べる検査(プロトロンビン時間)を受ける必要があります。
図11 脳卒中を起こす危険因子の病気や症状
○高血圧
○糖尿病
○高脂血症
○肥満
おわりに
一口に脳卒中といってもさまざまなタイプがあること、その症状が疑われるときには、一刻も早く専門病院での治療を受けないとその後の明暗を分けることなど、ぜひ知っておいていただきたい点を中心に説明してきました。
脳卒中は怖い病気だと改めて実感された方も少なくないでしょう。確かに寝たきり患者の4割は、脳卒中が原因であることを考えれば、高齢社会に立ちはだかる深刻な病気です。
しかし、ある日、突然起こるわけではなく、危険因子という”爆弾”を抱えた方にしか起こりません。日々のライフスタイルを見直し、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、さらに喫煙、大量飲酒などの危険因子をできる限り取り除く生活を心がけてください。<図12>
危険因子を避ける生活は、単に脳卒中を予防するだけではありません。はつらつと、ぼけずに長寿を全うするための現代人必須のマナーと心得て、実践してほしいのです。
図12 脳卒中のもとになる悪い生活習慣
●危険因子となる習慣
・塩分をとりすぎる
・糖分をとりすぎる
・タバコをすう
・脂肪をとりすぎる
・酒を飲みすぎる
・食べすぎる
・運動不足になる
●きっかけとなる習慣
・適度の水分補給を忘れる
・寝不足になる
・過労になる
・熱い風呂、長風呂に入る
[更新日: 2009年10月11日]
