[17]循環器病の食事療法
-予防と回復のために-
市立泉佐野病院
内科医長 小松 良哉
合併症(糖尿病・高脂血症・高血圧)にはまず食事療法をしっかり
もくじ
はじめに
循環器病の中でも、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など、動脈硬化による病気の重要な「危険因子」として、高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙などが挙げられています。とくに虚血性心臓病(心筋梗塞、狭心症)の下地となる動脈硬化をもたらす危険因子として、高脂血症(高コレステロール血症)が大きく取り上げられてきました。しかし、コレステロールが高いというだけで動脈硬化が起きている人は、それほど多くはありません。
むしろ、いくつかの危険因子が重なり合って発症する場合の方が多く、危険因子が重なることが、動脈硬化を招く、より重要な要因だと考えられるようになってきました。
そこで、危険因子の代表である「糖尿病、高脂血症、高血圧」の食事療法に共通する大切なポイントをまず説明し、次いで糖尿病、高脂血症、高血圧のそれぞれについて、食事療法のポイントを考えてみます。
循環器病の患者さんには回復の指針として、また、危険因子をお持ちの方にはそれを1つでも減らし、循環器病を予防する指針として、役立ててもらえるよう願っています。健康な方には、循環器病予防の健康法として読んでいただけたら、と思います。
共通する4つの項目
糖尿病、高脂血症、高血圧の食事療法の大切な点をまとめると<表1>のようになります。
この中で
- 適切なエネルギー量を
- 脂肪をとりすぎない
- アルコールは控えるか、控えめに
- 食物繊維を多く
の4項目は、いずれの場合も同じです。共通する食事療法のポイントから説明しましょう。
表1
糖尿病の食事療法
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〔1〕エネルギー量を適切に
適切、適正なエネルギー量をとることは、言い換えれば「食べ過ぎない」ことです。肥満であれば、減量のためにさらに厳しいカロリー制限が必要なのはいうまでもありません。
摂取カロリーはどれくらいがいいのでしょう? その目安は<図1>のように、まず標準体重を求めたうえ、日々の活動量の程度によって、標準体重に25~40を掛けて計算します。
例えば、身長165センチの方ですと、標準体重は
1.65(m) × 1.65(m) × 22 = 59.9(Kg)
となります。
この方の仕事が「軽い仕事(25~30)」であれば
59.9(Kg) × 25 = 1497
59.9(Kg) × 30 = 1797
が摂取カロリー量になります。つまり、1500~1800Kcalがこの人の1日のカロリーです。
運動をすると、どの程度の消費エネルギーがあるかを<図2>に示しました。散歩だと30分、少し速足で歩いて15分で80Kcalを消費できる程度です。散歩の場合、1時間で、やっと小さめのお茶わんに軽く1杯のご飯という計算になります。やはり運動でエネルギーを消費するのは大変だ、というのが実感です。
ただし、活動量が同じでも、消費エネルギーには個人差があります。最終的には標準体重を維持できるエネルギーをとることが必要です。適切なエネルギー量をとることは、循環器病の予防に最も大切な食事療法の基本なのです。
太り気味の人の場合、適正なエネルギー量をとることで多くの異常が解決し、病気が消えてしまうこともよくあります。かなり太っている方がいきなり標準体重を目標に減量するのは無理でしょうが、いまの体重を5%でも減量すれば、目に見えた効果が現れます。その効果を長続きさせるため、さらに5%減量すれば、3年以上にわたって効果が続く方が多いのです。
図1 適切なエネルギー摂取量
図2 80Kcal相当の運動量
〔2〕脂肪をとりすぎない
厚生省の調査では、日本人の脂肪摂取率は年々増え、逆にご飯など糖質が減ってきました。<図3>で示したように、カロリー摂取量自体はやや減ってきましたが、その中で脂質は次第に増加しています。男性では年々肥満傾向の人が多くなっています。
脂肪は、糖質やたんぱく質に比べ、摂取したエネルギーが効率よく体内に蓄積するといわれています。だから、同じ量のカロリーをとっても、糖質より脂肪でカロリーをとった方が太りやすいのです。
太ることは、糖尿病、高脂血症、高血圧のすべての悪化につながります。肥満対策に脂肪の制限は欠かせません。
糖尿病でも、脂肪の摂取率は総摂取エネルギーの25%以下が望ましいとされています。高脂血症では、さらに脂肪制限が必要になります。どの食品に脂肪が多いかは、糖尿病の食品交換表など参考にして知っておいてください。
図3 摂取エネルギーの栄養素別構成比(年次推移)
国民栄養の現状:平成9年国民栄養調査結果
(厚生省・平成11年3月)
次に大切なのは、脂肪酸の種類です。いまや日本人も血の中のコレステロールは欧米人とあまり変わらないのですが、日本人が欧米人に比べて心筋梗塞がまだ少ないのは、脂肪酸のうち「不飽和脂肪酸」を多くとり、「飽和脂肪酸」が少ないからと指摘されています。
<表2>に脂肪酸の種類とそれを含む食品をまとめました。牛肉、豚肉といった食品は「飽和脂肪酸」が多く、これを多くとると血中コレステロールが増えます。一方、魚には「不飽和脂肪酸」が多く含まれ、この不飽和脂肪酸が血中のコレステロールを下げる効果があることがわかっています。
このほか、紅花油、大豆油などの植物油にも、リノール酸という不飽和脂肪酸が多く含まれており、日本人に心筋梗塞が少ない理由になっていました。
しかし、最近ではこのリノール酸よりも、オリーブ油に含まれるオレイン酸という不飽和脂肪酸の方が、長期的には心筋梗塞予防には、より効果があると考えられています。オリーブ油を大量に使う地中海地方に住む人は血清脂質が低く、心筋梗塞、狭心症が少ないことが以前から知られているからです。
不飽和脂肪酸(リノール酸やエイコサペンタエン酸)の摂取を増やすと、血圧が下がったという報告があります。<表2>にある不飽和脂肪酸を十分にとるよう心がけてください。
表2 脂肪酸の種類とそれを含む食品
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脂肪酸の種類 | 含有食品 | |
| 飽和脂肪酸 |
ミリスチン酸 C14:0 パルミチン酸 C16:0 ステアリン酸 C18:0 |
牛、豚、鶏などの脂、乳製品、卵 | |
| 不飽和脂肪酸 | ω9系 | オレイン酸 C18:1 | オリーブ油 |
| ω6系 |
リノール酸 C18:2 アラキドン酸 C20:4 |
紅花油、大豆油、コーン油、菜種油など | |
| ω3系 |
αリノレイン酸 C18:3 エイコサペンタエン酸 C20:5 ドコサヘキサエン酸 C22:6 |
大豆油 魚油 魚油 |
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クリニカルプラクティス高脂血症 医歯薬出版 1980 村井 淳志
不飽和脂肪酸は十分に
〔3〕アルコールは控えるか、控えめに
アルコールは理論上、1グラム当たり7Kcalのカロリーがあります。しかし、実際にはそれほどはなく、カロリー過剰になることはあまりないといわれています。むしろ、問題なのは、アルコールによって基本となる食事療法が偏ったり、乱れたりしやすいことです。
これを避けるため、糖尿病、高脂血症、高血圧の患者さんでアルコールをたしなむ場合は、適量(1日ビール中瓶1本、日本酒1合、ウイスキーダブル1杯まで)を守ってください。
アルコールは食事でとった脂肪の代謝を抑制し、中性脂肪が高い高脂血症の重要な原因とされていますから、中性脂肪の高い人が禁酒をすれば、きわめて有効な治療となります。これは是非とも実行してほしい食事療法です。
〔4〕食物繊維を多く
食物繊維の効果は、さまざまな点にわたっています。
まず、摂取量の割にきわめて低カロリーですから、日々の摂取カロリーを減らす際に大切な食品となります。
コレステロールや糖質の吸収を抑制したり、遅らせたりする作用があり、糖尿病、高脂血症、そして高血圧にも効果があるとされています。食物繊維を多く含む野菜をできる限り多くとることが、ビタミンの補給にもなり、動脈硬化の予防にいい影響をもたらします。
食物繊維の多い食品は、食品交換表などをみて、積極的にとるようにしてください。
酒は適量か禁酒、食物繊維は多く
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- 日本酒なら1合まで 食物繊維は多く
薬を使わず治した実例
ここで糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満を合併した方で、食事療法と運動療法だけで、薬を使わずにほとんどの病気を消してしまわれた実例をご紹介しましょう。
54歳の女性で、40歳ぐらいから太り気味になり、50歳のとき、のどの渇きや体のだるさのために、近くの病院を受診、糖尿病と診断されて、薬をもらっていたそうです。しかし、時々しか薬をのまず、血糖値は高いままだったようです。
のどの渇きがひどくなり、尿の量もずいぶん多いと当院に来られました。初めての診察のときは、身長147cm、体重56kg。血液検査で、空腹時血糖が248mg/dl(正常は110mg/dl以下)もあり、総コレステロールは242mg/dl(正常は220mg/dl以下)、中性脂肪も256mg/dl(正常は150mg/dl以下)、血圧も162/96mmHgと高く、糖尿病、高脂血症、高血圧の診断がつきました。
図4 食事・運動療法の効果
54歳の女性。 受診→入院→退院2年後
そこで、まず食事療法を説明しました。そのうえで、自覚症状としては糖尿病によるものがいちばん出ていたので、スルフォニールウレア剤という糖尿病の薬の中でもっとも一般的で、作用も強い薬を少しだけのんでもらいました。
1か月後に血糖は158mg/dlまで下がったのですが、食事療法がなかなかうまくいかず、体重が急激に増加、3か月後には62Kgまで太ってしまい、血糖も232mg/dlと悪化しました。これでは薬を出しても、かえって病気を悪くしてしまうと考えて、食事・運動療法を徹底的に身につけてもらうために入院していただきました。
入院後は1日1200Kcal(1.47 × 1.47 × 22 × 25 = 1189 ≒ 1200)の食事と、1日1万~2万歩とかなりの運動療法にも積極的に取り組んでもらいました。
その効果は<図4>のように、どんどん現れ、血糖、コレステロール、中性脂肪、血圧はかなり下がりました。患者さんも食事、運動の大切さを体験され、退院して2年間、薬なしで糖尿病、高脂血症、高血圧をうまくコントロールされた状態です。
では、この方の糖尿病、高脂血症、高血圧が完全に治ったのかというと、そうともいえません。食事、運動などの生活習慣が乱れればすぐに病気の状態に戻ってしまうからです。
しかし、この方のように生活習慣を身につけていれば、旅行や行事でたまに食事療法が乱れても、すぐ元に戻せて、再び病気が出てくることはありません。
糖尿病、高脂血症、高血圧はほとんど症状がありません。そのため病気が出たり、悪化したりしていても、気づかないことが多いので、毎日のチェックが必要です。血圧、体重などは比較的安価な道具で測定できます。生活習慣の変化を数字としてとらえるのに役立てましょう。
血糖やコレステロール、中性脂肪などは病院でないと測れません。定期的に受診して、チェックを受けてください。
食事療法のポイント
糖尿病、高脂血症、高血圧のそれぞれについて、食事療法のポイントを解説しましょう。
糖尿病
糖尿病の場合、とくに避けるべき食品というのはありません。糖質、たんぱく質、脂肪をバランスよくとることが基本です。食品交換表などを利用して、食品について正確な知識を持つことが欠かせません。
知っておいてほしいのは、同じエネルギー量の食事でも、摂取回数の多い方が血糖の変動は少なくなることです。食事を抜いて、一度にたくさん摂取するよりは、三度の食事を規則正しく、適量食べる方が血糖を含め体の状態は安定するからです。
高脂血症
高脂血症、とりわけコレステロールの高い人は、コレステロールの摂取制限と脂肪酸の摂取に気をつけなければいけません。コレステロールの摂取量を1日300mg以下に制限するよう心がけてください。
この量は鶏卵1個に含まれる量に相当します。バター、チーズ、レバーなど動物性食品にもコレステロールが多く含まれており、これらの食品を極力避けることが必要になります。
しかも、加工された食品には卵や乳製品が含まれることが多く、知らず知らずのうちに過剰なコレステロールを摂取してしまっていることもあります。
どの食品にコレステロールがどれくらい含まれているかを知っておくこともきわめて大事です。
高血圧
塩分を減らす減塩が、高血圧ではとくに大切な食事療法となります。
厚生省の国民栄養調査(平成9年度)では、1日の食塩摂取量は12.9gで、10g以下という目標にはなかなか達していません。その半分以上は、しょうゆ、みそ、食塩などの調味料からの摂取で、これらを減らすことが大切です。できれば6~7gを目標にすべきです。
ただし、高血圧の患者さんの中には、食塩の摂取量で血圧が大きく変動する「食塩感受性」の方と、そうでない「非食塩感受性」の方がおられます。減塩食は食塩感受性の方により有効です。
死の四重奏に食事療法
10年ほど前から高血圧、高脂血症、耐糖能異常(糖尿病や、境界型糖尿病といわれる状態)、肥満、高インスリン血症などのうち、いくつかの疾患が重なる状態を「シンドロームX」「死の四重奏」と呼ぶようになりました。
これらの危険因子が重なり合うことで心筋梗塞の発症がどんどん増えることがわかってきたからです。
高血圧、高脂肪血症、糖尿病という別々の病気が、たまたま同じ人に起こるのではなく、「インスリン抵抗性」と「肥満」が下地になっていると考えられています。
ですから、すべての危険因子を総括的に治療するには、食事療法がもっとも効果的です。しかも、その方法も多くが共通していますし、日常生活の中でできることです。これがいちばん有力な治療法であることをよく知ってほしいのです。
知識、工夫と家族の協力
食事療法をするには、どういう食事をすればよいのかという知識がまず必要です。それがわかっていても、実行するにはさまざまな問題があります。例えば、家族が多人数の場合はおかずの好みも人それぞれで、とくに若い人、子どもさんと同じ食事をとるとなると、ここに書いてある食事では不平が出るかもしれません。しかし、同じ肉を食べるにしても、砂糖としょうゆをふんだんに使ったすき焼きと、肉の脂を落としてポン酢で食べるしゃぶしゃぶとでは、カロリーが格段に違います。調理の工夫と家族の協力で、みんな楽しく食事ができるようにしてほしいものです。
具体的な調理については栄養士さんが相談にのってくれます。病院や保健所の栄養指導を積極的に利用してください。
仕事で忙しい方には外食の問題がつきまといます。食事療法を実行するには、なるべく外食はしないように、と説明するのが一般的ですが、実際には無理な注文になるかもしれません。外食の際には、勇気をもって残すことが大事です。<図5>のように、油を使った料理はカロリーが高いものです。お店が工夫して、おいしくなるよう隠し味の調味料をふんだんに使っていることも多いようです。
できれば低カロリーの外食をするのが望ましいのですが、やむを得ずカロリーの高い食事をとる場合は、健康のためと割り切って食事を残す習慣をつけてください。
単身赴任などで男性がひとりで食事をしなければならない場合も、外食やできあいの食品で済ますことが多いでしょう。しかし、自分で調理してみると、食事を作るのにどれだけの材料と時間がかかるのかが実感できます。単身赴任は食事に理解を深めるいい機会と考えましょう。
食事療法は、粗末な食事をしなさい、というものではありません。食品の素材選び、調理、味付けをすることで、食文化に関する知識がどんどん増え、人生が豊かになるのは、素晴らしいことです。
一般的に女性の方が食事療法を実行しやすいとされています。やはり実際に調理をするからでしょう。作ることから始めるとなると大変です。でも、人生を豊かにするためと考えれば、楽しく取り組めるのではないでしょうか。
図5 油を使った料理はカロリーが高い
必要な がんばり
循環器病の食事療法には、病気と食事の両方の理解と知識が必要で、その習得にはがんばりが必要です。
その知識を生かして食事療法を実行するには、もっとがんばりが必要です。適切な食事、生活習慣を長く続けるとなると、もっともっとがんばりが必要で、実は大変なことです。
また、病院で渡された薬だけを頼りにし、病気のことや毎日の生活習慣に無頓着であれば、薬の効果はどんどんなくなってしまいます。生活習慣が循環器病の多くをつくり出しているのですから、食事についての知識と実行力を発揮して、生活習慣を変えることができれば、動脈硬化による病気は予防できるものです。
これらの点をよく理解して、できるかぎりの“がんばり”を、長く、いつまでも続けてほしいと思います。
[更新日: 2009年10月10日]
