[12]予備軍合わせ1370万人の糖尿病-その2-
糖尿病コントロールの指針・・・運動・食事・くすり
国立循環器病センター
動脈硬化代謝臨床栄養内科
部長 原納 優
あなたのインスリンの”分泌と働き”は大丈夫ですか
もくじ
糖尿病はコントロールできる
糖尿病は一生、つき合わねばならない病気です。ただしコントロールができる病気です。-その1-では、糖尿病に(1)1型糖尿病(2)2型糖尿病(3)特定の原因によるその他の型(4)妊娠糖尿病の4つのタイプがあることを説明しました。今回はどうコントロールしていけばよいのか、患者さんのほとんどを占める2型糖尿病を中心に説明しましょう。
2型糖尿病では、膵臓から早期に分泌されるインスリンの量と働きが落ちていますから、インスリンの効き方をいかによくするかがコントロールのカギです。そのためには食事、運動療法が大切で、こうした療法を続けても血糖やその他の代謝が改善されないときは薬物療法が必要になります。
血圧は糖尿病合併症の予防に特に重要で、130/85以下を目標にしてください。
失神したNさんの場合
会社を経営するNさんは、55歳の働き盛りで周りがうらやむほど元気でした。ところが最近、人込みの中で息苦しいと感じることがよくあり、仲間と出かけたゴルフ場でホールを移動中に失神発作を起こしました<図1>。気がつくと胸が締め付けられるように痛み、私どものセンターを受診されました。
胸の痛みの原因は、心電図とカテーテル検査で狭心症とわかりました。しかし、心臓を養う血管(冠動脈)は狭くなったり、詰まったりしておらず、一時的に冠動脈がけいれんし、狭心症が起きたのです。では、なぜ狭心症の発作が起きたのでしょうか。
Nさんは身長が166センチで、体重は73キロと太りぎみ。血圧は160/100。朝食前血糖140、糖負荷試験で2時間血糖値は240、インスリン値190。総コレステロール260、善玉(HDL)コレステロール35、中性脂肪160でした。
本人に自覚症状はなかったのですが、血糖検査や高いインスリン値から2型糖尿病の初期と診断しました。肥満、高血圧、高脂血症などの”下地”があって、膵臓からインスリンは出ているのに、その働きが落ちる、つまり「インスリン抵抗性」が生じ、2型糖尿病に進んでいたのです。
インスリンの働きがよければ、心臓を養う血管も拡張しますが、作用が不十分だとけいれんしやすく、また、狭心症を起こしやすくする原因にもなります。
Nさんの例からも、糖尿病は循環器病を招く重大な危険因子であることがおわかりいただけたと思います。
図1 糖尿病がもとで狭心症に
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- Nさんは、肥満ぎみ、高血圧、高脂血症だった。
インスリンの効能を高める減量作戦
2型糖尿病で最も大切なのは、膵臓から分泌されるインスリンの効き方をよくすることです。そのためにどうするかを<表1>にまとめました。
インスリンの効き方に最も関係するのが体重ですから、体重の調整、つまり減量作戦は極めて大切です。
標準体重の計算には「ボディ・マス・インデックス(Body Mass
Index=BMI)」を使います。
体重(キロ・グラム)÷{身長(メートル)×身長(メートル)}
の式で計算し、22が標準体重となります。
Nさんの場合、身長166センチ、体重73キロですから、
73÷(1.66×1.66)=26.5
となり、明らかに肥満です。目標体重のBMI23以下にするには、63キロ程度まで減量しなくてはなりません。
インスリンの効き方が最もよいのは、理想体重よりマイナス5%程度のときですから、患者さんによってはさらに厳しい減量を目標にします。
BMIが20~23の方は従来どおりの摂取カロリーでよく、23以上ではカロリー制限が必要になります。効果的な減量には当然、運動量を上げることが大切です。
高度の肥満で入院した場合、摂取カロリーを1日400~800キロ・カロリーまで下げ、1か月で8キロ・グラム減量することもありますが、外来では普通、1か月で1~2キロ・グラムの減量を目標にします。
表1 インスリンの効き方(感受性)をよくする方法
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- (注)例えばウエスト90センチ、ヒップ100センチの場合、W/H比は0.9になる
食事療法
日本糖尿病学会編の「糖尿病食事療法のための食品交換表」(文光堂刊)の使い方をまずマスターしてください。「食品交換表」は医師から指示された食事の量と、栄養素のバランスを考えた食事の献立を患者さんが自分の好みに合わせて作れるようにしたもので、食べる量と献立のものさしになります。
糖尿病食は、一般の方にも健康食としてお勧めできる食事です。種々の食品を1単位80キロ・カロリーとして計算し、生活と身体維持に必要なエネルギー、栄養素、ビタミン、ミネラル、線維をとるための目安にします。
1日に必要な適正エネルギーは
- 主に部屋の中で生活している場合・・・1200~1300キロ・カロリー
- 事務系管理職の人・・・・・・・・・・1400~1600キロ・カロリー
- 体力を使う人・・・・・・・・・・・・1600~2400キロ・カロリーか、それ以上
となります。減量する場合はこのカロリー量より少なくします。
Nさんの場合は入院時1日1200キロ・カロリーの食事療法を指示しました。
カロリーを少なくした場合も、ミネラル、ビタミン、線維、塩分(3グラム)、たんぱく、必須脂肪酸などが不足しないようにとる必要があります。
以前は高たんぱく食を指導した時期もありましたが、たんぱくの過剰摂取は、腎臓の負担となり、糖尿病の合併症である腎症を進めることがわかってきました。腎症のない患者さんの適正たんぱく摂取量は、体重1キロあたり1日に1~1.2グラムで、体力を使う職業の方は適宜、量を増やします。
たんぱく尿が出るなど腎症が進むと、たんぱくを体重1キロあたり1日0.8~1グラム以下に抑え、塩分も1日3~7グラムに制限しなくてはなりません。「糖尿病性腎症の食品交換表」(文光堂刊)も活用してください。
脳、神経、赤血球などの組織のエネルギー源はブドウ糖ですから、ご飯など糖質は1日最低100グラム(400キロ・カロリー)とる必要があります。
食品の種類は1日に30種以上をとるようにしてください。必要な栄養素が含まれておれば、食事療法として1日800キロ・カロリーまで下げることができますが、それ以下の食事にするには、入院するか特殊食品を利用する必要がありますから、医師・栄養士の指導が必要です。
世界的に勧められている糖尿病・動脈硬化の予防食は<1日に脂肪50グラム以下、コレステロール300ミリ・グラム以下、食塩7グラム以下、魚など不飽和脂肪酸と、大豆など線維性食品を多く>となっています。要は脂肪、コレステロールを含む食品、塩分を少なくし、魚、豆腐などをしっかりとることを心掛けてください。<図2>。
砂糖は高脂血症の原因になるほか、血糖を上げ、インスリンの分泌を促します。間食でも砂糖をできるだけ控えるようにして、砂糖の代わりにパルスイート、マービー、ノンシュガー、シュガーカットを使うようにします。
大切なのはインスリンの貯蔵には限度があることです。例えばショートケーキ(50グラム)は、ご飯1杯分に相当し、ケーキを1個食べるたびにインスリンの備蓄を減らすことになります。
アルコールは、カロリーのとり過ぎになりやすいこと(ビール中ジョッキ1杯、ウイスキーのダブル1杯、ワイン3杯、酒1合で、それぞれご飯1杯=160キロ・カロリー=に相当)、高脂血症になりやすいこと、さらに糖尿病の薬を服用中は低血糖になる場合があり、原則は「たしなむ程度」の少量に抑えることが原則です。
つまり、血糖が適正範囲内にコントロールされている方だけ、適量をよく考えて、たしなんでもいいといえます。
図2 糖尿病、動脈硬化の予防食
●減らす・・・・・・肉、脂肪、コレステロール食品、塩分、砂糖
●ふやす・・・・・・魚、大豆食品、野菜
●たしなむ程度・・・酒類
運動療法
まず、運動をしてよいかどうか、するとすれば運動量はどれくらいがよいか、が問題になります。
合併症があり、安静が必要な状態では、運動療法はしないでください。出血しやすい網膜症、腎不全を伴う腎症、体を動かすことで血圧が変動(低下)する自律神経障害、さらに皮膚潰瘍を伴う壊疽(えそ)などがあるときも、この場合にあたります。
高血圧、狭心症、動脈瘤などで医師から運動制限を指示されている場合も同様です。Nさんには、狭心症のため激しい運動は控えてもらい、散歩を勧めました。<図3>。
糖尿病のコントロールが不良のときは、血糖が逆に上昇することがあります。運動は避けてください。
運動療法の基本は、1日に6000~8000歩以上を歩くなど、身体活動を活発にすることです。ラジオ体操、屈伸、ヨガ、ダンベル体操、ゴルフクラブ・テニスラケット・バットの素振りや、ダンス、各種スポーツのイメージトレーニングなど、楽しく、気軽に継続して行えるものがお勧めです<図4>。
図3 安静が必要なときは安静第一 せいぜい散歩
図4 楽しく、気軽に、継続して行えるものがよい
●ラジオ体操
●クラブ、バットの素振り
●ヨガ、ダンス
●水泳
●歩く(1日6000歩以上)
運動は1日に20~30分程度でも続ければ効果的です。運動をしてみて脈を測り、40、50歳代では1分間の脈拍が120以下、60、70歳代では100以下にとどまる運動を目安にします。最低、週2、3回、1回10~30分の運動を続けてください。
糖尿病の薬かインスリンを使用している患者さんが、1時間以上の軽い運動か、15~30分以上にわたり中程度の運動をする場合、低血糖を防ぐため運動途中かスタート時に糖質を含む食品をとることを勧めています。
この方法で低血糖を防いでもよいのですが、減量中は余分な糖質はとらないのが原則ですから、むしろ薬を減らすようにします。<図5>。
Nさんの場合、肉食に偏りがちだった食事を魚中心に切り替えました。果物好きで、毎日バナナ2本のほか、果物2、3個を食べていたのを、果物半個に減らし、歩行はそれまでの約3倍、1日8000歩へと生活習慣を改善しました。
8か月後、体重は10キロ減って目標体重の63キロになり、血糖、血圧、脂肪とも正常範囲になり、狭心症はカルシウム拮抗剤の服用でコントロールされています<図6>。
体重が標準を上回る2型糖尿病では、運動・食事の両面作戦を根気よく続ければ、Nさんのように血糖値が正常に戻る場合が多いのです。
「歩行5000歩、50分」、「ジョギング20分」がご飯1杯(160キロ・カロリー)に相当することを念頭に置き、食べ過ぎたときはこうした運動で調整してください。
図5 減量中は薬を減らす
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- 運動療法時の糖類の摂取は低血糖症状かその予防の場合だけに限るのがよい
図6 2型糖尿病を克服した Nさんの場合
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薬物療法
食事・運動療法でも糖尿病の代謝コントロールが不十分な場合、薬を使います。主な薬を<表2>にまとめました。
空腹時血糖が130以下、食後2時間値が200以上の場合は糖吸収阻害剤などを用います。もし空腹時血糖が140を超えるときは、インスリン感受性改善剤、ビグアナイド、もしくはSU剤を使います。
これらの薬剤ではコントロールが不十分な場合は、インスリン注射を少量から始めます。
インスリンと他の薬の併用も、インスリンを導入しやすい点が有利です。さらにインスリン量を節約できるという点から有効です。
以上述べた薬物療法は原則で、患者さんにより処方は異なります。
膵臓からインスリンがほとんど分泌されない1型糖尿病の初期(普通1年以内)では、インスリンの注射回数を増やす強化療法によって血糖をほぼ平常に保つことで、一時的にインスリンが不要になり寛解すること(”ハネムーン現象”と呼ばれる)がしばしばです。
いかにこの期間を延ばすかが医師の腕の見せ所です。
表2 糖尿病の主な薬物療法
| 分類 | 種類 | 商品名 | 作用の仕組み | 低下する血糖値 |
単剤での低血 糖症状の発現 |
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|---|---|---|---|---|---|---|
|
空腹時 (朝食前) |
食後 | |||||
| 糖吸収阻害剤 | 吸収阻害剤 |
グルコバイ ベイスン |
糖質の消化吸収を遅らす | △ | ○ | なし |
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インスリン 作用増強剤 |
ビグアナイド 感受性増強剤 |
グリコラン ジベトスB ノスカール |
インスリン作 用を増強(肝、 脂肪組織、筋 など) |
○ | ○ | △ |
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スルフォニー ル尿素 |
SU剤 |
グリミクロン オイグルコン ダオニール |
インスリン 分泌を促進 |
◎ | ◎ | ○ |
| インスリン |
速効性 中間型 混合型 |
ペンフィルR ペンフィルN ペンフィル30R 他にヒューマ カートなど) |
最大作用時間 1~3 4~12 2~8 |
◎ 注射時間と量 により変動 |
○ | |
○作用あり ◎強い △弱い
コントロールの目標数値
最近、米国で1型糖尿病について、熊本で2型糖尿病についてコントロールの指針となる注目すべき研究が行われました。
グリコヘモグロビン(HbA1c)を「6.5~7%」に保つように血糖コントロールをすることで、網膜症、腎症、神経障害の発症がなんと40~60%も減り、その他の報告で動脈硬化の予防にも役立つことがわかりました。
<図7>は、グリコヘモグロビンと空腹時血糖値が高いと網膜症や腎症がどれだけ進むか、逆に低ければどれだけ、これらの合併症を防げるかを示しています。
グリコヘモグロビン(HbA1c)は、赤血球のヘモグロビンにブドウ糖が結合したもので、2~3か月間の平均血糖の状態を示します。だから検査前の数日間だけ節制し、検査日の血糖値がよくてもグリコヘモグロビンの数値はごまかすことはできません。この数値は6.5~7%以下が目標となります。
血糖、血圧、脂肪、体重、血中インスリンの目標値を<表3>に示しました。これを目標に達成してください。
糖尿病で薬やインスリンを使用される方には、低血糖を避けるためやや緩やかな目標値になっています。ただし、コレステロールと中性脂肪は動脈硬化予防のため、やや厳しくしています。
運動や少量のアルコールは、HDL(善玉)コレステロールを増やす効果があります。
糖尿病予備軍の方は、正常血糖(空腹時110以下、食後2時間値140以下)を目指してください。
糖尿病とわかっても、怖がることはありません。糖尿病がどの段階にあるかをよく知って最善の努力をすれば、予防したり、進行を防止したりすることができ、初期ならば治すことも可能です。
図7 血糖コントロールと網膜症・腎症の悪化率
-
- (熊本スタディ:七里元亮ら調査)
◇
グリコヘモグロビン(HbA1c)が7%、空腹時血糖が140mg/dl以上になると、網膜症や腎症が進行する率が高くなる
◇ 「患者100人/年」は1年間に患者100人のうち何人に起こるかを示す
表3 糖尿病コントロールの目標値
| 血 糖 |
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| 血 圧 | 130未満/85未満 | ||||||||||
| 血清脂質 |
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||||||||||
| 体 重 | BMI 23以下 | ||||||||||
| 高インスリン血症の是正 |
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(注)アポBはコレステロールや脂肪を血中で運ぶたんぱく。高いと動脈硬化を促進する
糖尿病患者の心得12か条
ゴルフをされる方がマナーを大切にされるように、糖尿病ではとくにこの病気とつき合うマナーが、その後を左右します。
私は「糖尿病とつきあうマナー12か条」を患者さんに守っていただくよう指導してきました。
- 空腹と食後の血糖を正常化しよう
- 高血圧さようなら
- コレステロール・中性脂肪・アポBを正常範囲に
- 生活に必要なエネルギー以外は口にしない・・・肥満解消の第一歩
- 砂糖と間食を最小限に
- 塩分少なく、1日7グラム以内に
- 魚、豆腐、豆類を多く(ただし、過剰にならないように)
- 脂肪と卵は少なく
- 野菜、カルシウム、ビタミン、食物線維は多く
- きっぱり禁煙
- 適正血糖時以外は禁酒
- 体を使い運動しよう
患者さんや予備軍の方は、これらのマナーをしっかり守って、快適な生活を送ってください。
12か条は糖尿病の予防にもつながるものです。一般の方にも糖尿病予防の指針となるのを願っています。
[更新日: 2009年10月10日]
