[2]脳卒中が起こったら
国立循環器病センター
内科 脳血管部門
部長 峰松 一夫
脳卒中に克つ三原則
もくじ
- 昔からの言い伝えを捨てる
- 症状は百人百様
- 激しい頭痛はクモ膜下出血の疑い
- 脳卒中の症状は体の片側に
- 症状の起こり方は?
- 発病したら、どうするか
- 前触れや“警告発作”がある時
- 前触れがない病変の場合も
- 再発率が高いから
- どんな人が脳卒中を起こしやすいか
- [表1] 脳卒中の代表的な症状
- [表2] 意識のない脳卒中患者の応急措置
昔からの言い伝えを捨てる
脳卒中発作というと、「突然、意識を失って倒れる病気」と思っている方が案外、多いようです。しかし、こうしたひどい症状で発症するのは一部に過ぎません。
脳卒中が起きたら「患者さんを動かさずに、安静にして様子をみる」という昔からの言い伝えも実は間違いです。
このページ は、脳卒中についての誤解を解消するためだけでなく、発作の現場に居合わせた人が適切な手当てをし、発症から3~6時間以内に初期治療を受ければ、劇的な回復が可能なことを知っていただくためにまとめました。
次に、どんな人がかかりやすいか、日々の生活で注意すべき<危険因子>を取り上げ、予防のできる<生活習慣病>であることも示しました。
高齢社会にのしかかる脳卒中も、正しい医療情報とそれにもとづいた実践で克服できる病気です。まさに「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」なのです。
症状は百人百様
脳卒中が起きた時、本人も周囲の人もそれと気がつかず、様子をみている間にどんどん症状が悪化し、病院に運んだ時は手遅れということもまれではありません。
そこで、脳卒中はどういう起こり方をし、どういう症状を伴うのか -- をまずよく知っておくことが大切です。
<突然、意識を失って倒れる>場合は「重症の脳出血やクモ膜下出血、さらに脳塞栓の一部」で脳卒中全体からすればごく一部です。むしろ、脳卒中とはなかなか判断できない症状から始まることが多く、障害を受ける脳の場所やその程度によって百人百様といってよいでしょう。
まずこのページからのイラストを見て下さい。代表的な症状をまとめました。症状の多彩さは一目瞭然です。
こうした症状のうち、ひとつだけが出現することもありますし、いくつかの症状が重複して出る場合もありますから注意が必要です。
表1には、症状を整理し、具体的に記しました。脳卒中発作が疑われる時、このイラストと表1を思い出してほしいのです。
●初期症状(その1) |
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| ろれつが回らない | 食事中にはしを落とす |
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| 片目が見えない | 視野が半分になる |
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顔の半分と片方の手足の 感覚がおかしい |
言葉が理解できない 言いたいことが言えない |
●初期症状(その3) |
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半身に力が入らず 歩きにくい |
バランスがとれず うまく歩けない |
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頭が急に痛くなる 吐き気を伴う |
意識もうろう 興奮し暴れる |
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グルグルとひどい めまい |
けいれん発作 |
激しい頭痛はクモ膜下出血の疑い
症状が百人百様といっても、判断のカギとなる症状はわかっています。
突然、バットで殴られたような激しい頭痛が生じた場合は、クモ膜下出血(脳の表面の血管が破れて出血する)が疑われます。
それ以外の脳卒中(脳梗塞、脳出血)で最も多い初発症状は、手足の力や感覚の異常です。
脳卒中の症状は体の片側に
脳の右側が体の左半分、脳の左側が体の右半分の神経を支配しています。ですから、症状は一般に「体の半分だけ」に出現するという特徴があります。
つまり、顔と手足といった離れた身体部分の、左右どちらか半分だけに運動や感覚の異常が急に出た場合には、まず脳卒中と考えて間違いありません。
症状の起こり方は?
脳卒中の症状は急に現れることが多く、たいていは発症日時がはっきりしています。
夜中にトイレに起きた時や、朝、目覚めた時に異常に気づくか、昼間、仕事中に急におかしくなるというパターンがほとんどです。
最初の症状が、そのまま軽くなり消えることもありますが(一過性脳虚血発作など)、様子をみているうちにどんどん悪化したり、他の症状が加わったり、いったんは消えた症状が、起き上がったとたんに再び出現し、こんどは元に戻らないこともあります。
発病したら、どうするか
<発症後3~6時間以内に初期治療を受けること> -これが鉄則です。初期治療によって、その後の悪化を防ぎ、劇的な効果も望めるようになってきたからです。
反対に、診療の機会が遅れると、みすみす治療による回復のチャンスを失うことになり、症状がさらに悪化したり、複雑な合併症が生じたりします。
脳卒中が起こったら、「一刻も早く、専門医療機関を受診すること」に尽きるといってよいでしょう。自宅で安静にして様子をみるのは、過去の話となりました。
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- 兆候が出たら、すぐ専門の医療機関へ
(1)まず すべきこと……(意識がある時)
とにかく周囲の人に助けを求めること、できるだけその場で横になることが原則です。
横向きに寝る場所が近くになくても、自分で立って歩かない方が無難です。脳の血管が詰まって症状が出ている時には、歩くと脳への血流が悪くなり、脳の障害がさらにひどくなる恐れがあるからです。
周囲の人は、マットや毛布などに患者さんを乗せて動かし、快適な場所に寝かせましょう。これは脳への血流を保ち、血圧の上昇による出血の悪化や、再出血に対する予防のためです。
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- マットや毛布に乗せて動かす
(2)まず すべきこと……(意識がない時)
呼びかけたり、体をゆすったりしても反応がない時、いったん目を開けてもすぐに閉じて眠り込む場合、さらに、目は開いていても応答がとんちんかんの時は、周囲の人が慎重に機敏に対応しなくてはなりません。
この時の手当てのポイントを表2にまとめました。
脳卒中の発症後、ただちに生命が危険となるのは、重症のクモ膜下出血を除けばほとんどありません。だから落ち着いて
- 救急隊が応急処置をしやすく、しかも救急車に運びやすい場所に患者を移す
- 横向きに寝かせる
- 楽に呼吸できるようにし、吐いたものがのどに詰まらないようにする
の3点をすぐに実行してください。
(3)救急車を呼ぶ
脳卒中が疑われる時は、一刻も早く専門医療機関での受診が必要になります。通院治療中で、かかりつけの医師がいる場合は、電話で相談し、専門の医療機関を紹介してもらいましょう。
すぐに連絡がつかない場合は、直ちに119番に電話し、救急車を呼ぶこと。
受診予定の病院には、あらかじめ家族、かかりつけ医、救急隊から連絡し、患者の病状を説明し、受け入れ体制を確かめておくことも大切なポイントです。
重症の場合はもちろん、軽症と思われる時も救急車を利用してください。これは一刻も早く搬送するためであり、また途中で容体が急変することもあるからです
救急車が他の現場へ出動中などで、時間がかかる時は、家族や周りの人が車を運転し、患者さんは座席に横向きに寝てもらって運ぶ必要があります。
患者さん本人が運転して病院へ向かうのは絶対にやめるべきで、現に本人が運転したために大事故を起こすとか、取り返しがつかないほど病状が悪化した例もあるのです。
前触れや″警告発作″がある時
すべての脳卒中が、ある日、なんの前触れもなく、突然、起こるわけではありません。中には、大きな発作が起こる数日~数週間前に一時的な軽い発作が先行することがあります。
脳梗塞の前触れとして、脳梗塞とまったく同じ症状が短時間(多くは数分~数十分、長くても24時間以内)だけ出現するものを、一過性脳虚血発作といいます。
恐ろしいクモ膜下出血の発作前に「軽い頭痛発作(警告発作)」や「ものが二重に見える」などの症状が出ることもあります。
症状が一時的で軽いために、たいしたことはないと安易に考えがちです。しかし本質的には重症の脳卒中発作と同じメカニズムで起きていますから、そのうち再起不能の発作に襲われる危険性が高いとみるべきです。“前触れ現象”をそのまま放置するか、すぐに病院で受診して適切な治療を受けるかによって、その後の人生が大きく変わるのはいうまでもありません。
一過性脳虚血発作
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- マヒが出た よくなった しかし…
前触れがない病変の場合も
小さな脳梗塞の中には、症状の出ないものもあります。クモ膜下出血の原因となる血管の瘤(こぶ)も、人によって軽い頭痛を伴う警告発作がみられますが、ほとんどの場合は瘤が破れるまで症状は出ず、沈黙のままです。
こうした無症候性病変も、最近では発作が起こる前に見つけることが可能になりつつあります。
再発率が高いから
脳卒中発作を起こした人の再発率は、年間5~10%とかなり高いことがわかっています。再発の危険性を考えて、手術や薬物療法のほか、脳卒中の“下地”となる危険因子を避けるなど予防対策が必要なのはもちろんです。日頃から、家族とともに脳卒中の症状などについて知っておき、緊急時にどうするか主治医とよく相談しておきましょう。
発作はどこで起こるかもしれません。その時に備え
- 通院中の医療機関名、電話番号
- 診療科と主治医名
- 常用薬剤名
- 自宅など緊急連絡先と電話番号
などを記したメモをいつも身に付けておきたいものです。
どんな人が脳卒中を起こしやすいか
脳卒中は脳の血管が破れて出血したり(脳出血、クモ膜下出血)、血管が詰まって血液が脳に流れにくくなったり(脳梗塞=脳血栓・脳塞栓)して起こります。しかし、はっきりした原因もなく、突然、発作が起こるのはまれで、たいていは脳卒中になりやすい要因や病気を持っている、つまり“下地”のある人に起こる場合がほとんどです。
脳卒中発生までのプロセスを、次ページにまとめました。
脳卒中は、高血圧や糖尿病など、いわゆる<生活習慣病>を持っている人によく起こりやすいのです。
これらの病気は、脳血管の動脈硬化の原因となったり、心臓内に血液のかたまりをつくり、これが飛んでいって脳血管をふさいだりします。
また、こうした病気には
- 塩分、糖分、脂肪の取り過ぎ
- 喫煙や酒の飲み過ぎ
- 運動不足
- 過剰なストレス
といったライフ・スタイルが深く関係していますから、<生活習慣病>と名付けられています。(以前は成人病と呼ばれていました)
さらに、性別、遺伝的な素因、年齢なども脳卒中発生に深くからんでいます。これらの要因をまとめて 〈脳卒中の危険因子〉と呼んでいます。
危険因子をもつ人は、“脳卒中予備軍”と心得て、ライフ・スタイルを見直して危険因子を減らし、生活習慣病を治療すべきです。それが最も確実な予防法であり、高齢社会を健やかに生き抜く知恵なのです。
脳卒中発生までのプロセス
[更新日: 2009年10月13日]

