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[130] 最近、大きく進歩している糖尿病治療... ─ 新たな取り組みとこころの持ち方 ─

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

1.新たな取り組み

国立循環器病研究センター 生活習慣病部門長
ゲノム医療部門長 動脈硬化・糖尿病内科部長 細田 公則

2.こころの持ち方...臨床心理士の立場から

同志社大学心理学部助教
国立循環器病研究センター 動脈硬化・糖尿病内科
臨床心理士 大屋 藍子

低血糖にも注意 ストレス発散しよう

もくじ

  1. 新たな取り組み
  2. こころの持ち方...臨床心理士の立場から

1.新たな取り組み

この号では、お読みになる方がすでに糖尿病と診断され、治療を受け、血糖コントロールを続けておられることを前提に話を進めます。

最初に「新たな取り組み」を中心に紹介、後半の「2.こころの持ち方」で、血糖をコントロールする際、患者さんは、目先の利益を優先しがちで本来すべきことがなおざりになりがちなことを踏まえ、健康的な生活を身に着ける日々の暮らしのアドバイスをしてもらいます。

新たな取り組みでまず知ってほしいのは、患者さんの糖尿病の療養に大きな進歩が起きていることです。

まず、次の点から説明しましょう。

低血糖を減らし心血管系合併症を減らすこと

こういうと、〈あれっ、「低血糖を減らし」は「高血糖」の間違いではないか。もともと糖尿病は高血糖状態があって起こるから、低血糖は問題ないのでは〉と思われる方が多いはずです。ところが高血糖を抑えすぎ低血糖状態が続くと問題が起こることが分かってきました。何事も過ぎたるは及ばざるが如しなのです。しかも低血糖になったことが、患者さんにも医療者側にもわからない場合が多く、やっかいな事態です。

患者さんは、胸がドキドキする感じや、冷や汗、しんどい感じなどの低血糖の症状を自覚されないかもしれません。低血糖が繰り返しあると、低血糖症状は自覚されない特徴があります。以下の高齢者糖尿病の説明に書いていますが、高齢になると低血糖を自覚しにくくなります。だから、低血糖の症状がなくても、検査をしないと、低血糖があるかどうかは、分かりません。

具体的に説明します。最近、分かってきたことですが、インスリンやSU薬などの血糖降下作用の強い薬を使う場合、気をつけないと70mg/dl以下の低血糖まで血糖が低下することがあり、狭心症や心筋梗塞の誘因になることがあるのです。これは患者さんにぜひ知っていてほしい点です。

おさらいしておきますが、糖尿病の血管合併症には「細小血管障害」と「動脈硬化性疾患」があります。細小血管障害は眼の網膜や腎臓の合併症として起こり、動脈硬化性疾患は狭心症や心筋梗塞、脳卒中など心臓や血管の合併症として起こります。

細小血管障害の予防には平均血糖の指標となるHbA1c(ヘモグロビンA1c)は7未満に保つ必要があり、狭心症や心筋梗塞など動脈硬化性疾患の予防については、特にインスリンやSU薬などの血糖降下作用の強い薬を使っている場合、70mg/dl以下の低血糖を引き起こさないよう注意することが必要であることが分かってきたのです。

その予防には、〈図1〉のように「持続血糖モニタリング(CGM)」と呼ばれる新しい装置や、低血糖を防ぐ新しい薬剤が必要です。これらについては後で説明します。

図1 14日間の血糖変動を記録する持続グルコースモニタリング(CGM)装置

グルコースモニタリング(CGM)装置

サイレントキラーを忘れるな

「知っておきたい循環器病あれこれ」でも、これまで何度も取りあげてきましたように、糖尿病で肝心なのは次の点です。

糖尿病患者さんで最も多い症状は、無症状です。血糖が高くても、眼、腎臓、心臓、血管などの合併症があっても、ほとんどの場合、無症状です。だから糖尿病は「サイレントキラー」(沈黙の殺人者、患者さんが気づかない間にどんどん悪化するという意味です)と呼ばれます。

外来受診時に血糖の平均の指標であるHbA1cの検査、尿中アルブミンの検査、年に最低1回以上の眼科で網膜の検査を受けることが大切です。

動脈硬化性疾患の予防には、患者さんが男性で55歳以上、女性で65歳以上の場合、動脈硬化性疾患を起こしやすいので、主治医の先生と相談して、心臓を含めた動脈硬化性疾患の検査を受けて下さい。

眼や腎臓に起こりやすい細小血管障害
眼や腎臓の細小血管障害の予防にはHbA1c7未満、腎臓の合併症の予防には血圧130/80mm Hg未満を目指すことが必要です。

動脈硬化性疾患の予防には

糖尿病の動脈硬化性疾患、つまり、心臓の冠動脈や、脳の動脈など太い血管の異常、つまり、狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患や脳卒中の予防には、禁煙、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)120mg /dl未満(狭心症や心筋梗塞がすでにある場合、70-100mg /dl未満)、血圧130/80mm Hg未満にし、さらに、70mg /dl以下の低血糖を避けることが大切です。

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標
高齢者(65歳以上)では、自律神経症状の発汗、動悸、手のふるえなどの低血糖の症状が弱くなるので、低血糖を自覚しにくくなり、その結果、高齢者では「無自覚性低血糖」が起こりやすくなります。お年寄りは脱水を自覚しにくく、熱中症になりやすいのと同じことと理解して頂いたら結構です。

高齢者では、厳格な血糖コントロールを行うと、無自覚性低血糖や、意識障害などを伴う「重症低血糖症」を起こしやすくなります。高齢者の糖尿病では、HbA1cの低値または低血糖は転倒や骨折を引き起こしやすくなります。また、高齢者では、HbA1cが高い場合のみならず、HbA1cが低い場合でも、動脈硬化性疾患の発症率や死亡率が上昇すると報告されています。

こうした理由から、高齢者の糖尿病では、厳格な血糖コントロールはすすめられていません。むしろ低血糖を起こさない血糖コントロールがすすめられており、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標は高めに定められています。

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標は、認知機能と日常生活動作の低下の程度に合わせて、HbA1cの血糖コントロール目標が定められています。また、重症低血糖が危惧されるインスリン製剤、SU薬、グリニド薬の使用の場合にも、HbA1cの血糖コントロール目標の上限は高めに定められており、しかも、低血糖を起こさないように、HbA1cの血糖コントロール目標の下限も定められています。

以上をまとめると、糖尿病の治療でインスリンやSU薬など血糖低下作用の強い薬を使う場合、動脈硬化性疾患予防のため、さらに高齢者糖尿病の血糖コントロール目標の点からも、低血糖を避けることが極めて大切です。

そのために
・血糖70mg/dl未満の低血糖を避けること
・特に高齢者の場合にはHbA1cも下げすぎないこと
では、具体的にどうするかを考えます。

14日間、血糖を連続測定する新装置

糖尿病の治療目標は、患者さんの合併症出現と進行を予防して、健康な人と同じ健康寿命と質の高い生活を送れるようにすることです。目標の実現には、高血糖も低血糖も避ける血糖コントロールが欠かせません。しかし、高血糖や低血糖があっても、自覚症状に乏しいので、日々の生活で低血糖の有無や、血糖変動の有無を患者さん自身も医療者も知ることは困難です。高血糖と低血糖を避け、変動幅も狭めることが、合併症抑制と安全確保のために求められています。

この問題に対して、従来、インスリン治療の患者さんでは、指先を穿刺して得た血糖による測定の自己血糖測定が行われていましたが、1日数回の測定では血糖の日中変化のごく一部の流れしか把握できません。

そこで登場したのが、〈図1〉で見ていただいた、14日間の血糖を連続して測定・記録可能な「持続血糖モニタリング(CGM)」です。

この装置は、連続して皮下の間質液のグルコース値を測定し、血糖値を推定します。血糖値のコントロールがむずかしい糖尿病患者さんに、これまでの自己血糖測定では発見しにくかった、夜間・早朝の低血糖を含め血糖の上下動などをモニターできるようになりました。

しかし、以前から使われていたこのタイプの装置は3日間の測定のみで、主に入院患者さんで使われていました。

最近、開発された「持続血糖モニタリング(CGM)」〈図1〉を再度見てもらいながら説明します。500円玉大のCGMセンサー(図1の左側)を上腕に取り付け(装着)、グルコース値を15分おきに最長14日間、測定・記録し、次の外来受診時などでCGMリーダー(図1の右側)によって読み取り、グルコース変動レポートが印刷されます。

〈図2〉に、センサーはどこに装着されるのか、データの読み取りはどのように行われるのかを説明し、さらに、レポートの作成までの経過をまとめました。

〈図3〉は、どのようなレポートが作成されるかを示しています。1日分の記録ですが、グルコース値の大きな変動ぶりがよくわかります。

これで自分では自覚できない、隠れていた高血糖や低血糖を把握できるようになります。センサーは耐水性で、水深1メートルで最長30分間の耐水性があります。装着したまま風呂、プール、海に入ることも可能です。

装置の装着とデータの読み取りも大変簡単で、装着時にもほとんど痛みはありません。

ただし、CTやMRIなどの画像検査では外す必要があり、外すと、そこで測定は終わりとなります。「持続血糖モニタリング(CGM)」は、経口薬を含めて糖尿病薬を使っている場合で、低血糖のおそれのある患者さんは保険の適応になります。

図2 センサーの装着、リーダーによるデータの読み取り、グルコース変動レポート作成

図3 隠れていた高血糖、低血糖を把握できるグルコース変動レポート1日分の記録

リアルタイムで測定表示できる新機器も

「持続血糖モニタリング(CGM)」とは、異なる機能を持つ機器が最近、登場しました。

「フラッシュグルコースモニタリング(FGM)」と呼ばれる新装置〈図4〉で、上腕に500円玉大のセンサーを装着し、14日間、測定できる点は「持続血糖モニタリング(CGM)」と変わりません。

図4 リアルタイムで皮下間質液中のグルコース濃度を測定・表 示するフラッシュグルコースモニタリング(FGM)

しかし、新装置では〈図5〉のように、センサーにリーダーをかざすと、皮下間質液中のグルコース値が読み取られリーダーに表示されます〈図6〉。つまり、リアルタイムでグルコース値が測定できるようになったのです。

図5
センサーにリーダーをかざしてスキャンし、
グルコース値を読み取ります

図6
センサーにかざしてスキャンした結果、
リーダーに表示される画面


これだけではありません。この装置のリーダーには、グルコース値がどう変動するのか、推移の方向が「グルコース値トレンド矢印」〈図7〉として表示されるのです。

図7 FGMリーダーで表示されるグルコース値トレンド矢印

患者さんはリーダーをセンサーにかざしたとき、自分の間質液中のグルコース値とトレンド矢印から、食事や運動や薬物の影響や効果をリアルタイムで知ることができるようになりました。

ただし、注意点もあります。間質液中のグルコースは血管内のグルコース、つまり血糖が間質液まで滲み出たものなので、間質液中のグルコース値の動きは血液から得られる血糖の動きに比べて約10分程度、またはそれ以上に遅れたものになります。

つまり間質液中のグルコース値はある程度、血糖とずれる可能性があるので、指を穿刺して行う自己血糖測定の補助として位置付けられています。

センサーのグルコース表示は血糖よりも10分以上遅れた動きになるので、血糖が上昇しているとき、センサーのグルコース値はより低く表示される可能性があり、また、血糖が低下しているとき、センサーのグルコース値はより高く表示される可能性があります。

センサーは「持続血糖モニタリング(CGM)」のセンサー同様、耐水性で、装着したまま風呂、プール、海に入ることができます。このセンサーの装着時にも特に痛みなどはありません。CTやMRIなどの検査では外す必要があり、外すと、そこで測定は終わりとなります。

この「フラッシュグルコースモニタリング(FGM)」はインスリン製剤やGLP-1受容体作動薬の自己注射の患者さんで、低血糖の危険性のある場合に保険適応となります。14日間装着のFGMセンサーの外来で処方可能な枚数については、それぞれの患者さんの病態に応じて、1カ月あたり、1枚の場合と2枚の場合の両方あります。14日間装着のFGMセンサーが1カ月あたり1枚のみ処方されている場合、2週間はFGMセンサーを使えますが、残り2週間については、通常の自己血糖測定器のみで血糖測定して頂く事になります。

最近登場した糖尿病薬の動向

糖尿病治療薬も大きく進歩し、低血糖になることが少なく、体重増加のない薬剤が登場し、これによって心臓血管系の合併症の悪化も抑えられることがわかってきました。

「持続血糖モニタリング(CGM)」や「フラッシュグルコースモニタリング(FGM)」などで低血糖とわかった患者さんが、インスリンやSU薬などの低血糖を起こしやすい薬から、低血糖を起こしにくい薬に変更すれば、心臓血管系の合併症の悪化を抑えることができるようになってきました。この点を詳しく説明します。

糖尿病の病態と治療法をもう一度
話を進める前に、糖尿病の病態と治療法をおさらいしておく必要があります。

血糖を下げるホルモンは膵臓から分泌されるインスリンで、インスリンの作用不足により血糖は上昇します。作用不足の原因には、「インスリン分泌の低下」と、「インスリン抵抗性(インスリンの効き方の程度)」の二つがあります。

インスリン分泌低下の原因には加齢などがありますが、これは改善しようがありません。

インスリン抵抗性の主な原因は肥満で、これは食事療法・運動療法により改善が可能です。このようにインスリン分泌低下とインスリン抵抗性の病態に合わせて、インスリン分泌を改善する治療法とインスリン抵抗性を改善する治療法があります。

基本は、食事療法と運動療法で、それに加えて多くの薬剤がありますが、さまざまな副作用や問題点があります。高齢者では、低血糖を自覚しにくく、低血糖のためにふらついて転倒する可能性もあり、また認知機能を悪化させる可能性もあるので、一部の糖尿病の薬は、高齢では、慎重に、より少量で使う必要があります。高齢になると腎機能が低下しやすいことなどが問題となります。高齢化社会がどんどん進行し、従来の薬では糖尿病の治療が難しい状態になっています。

新しい治療薬の特徴

最近、DPP -4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬などが登場しました。これらの薬は低血糖を起こしにくく、体重を増やさない特徴があります。

特にGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は体重を減らします。SGLT2阻害薬は心不全を改善し、心臓血管系の死亡を減らすことが分かっており、GLP-1受容体作動薬は心筋梗塞や脳卒中などの心血管系合併症を減らすことが報告されています。

また、これらの薬では、低血糖や重症低血糖が起こりにくく、認知機能の低下を防ぐことも期待されています。

どの新しい薬に変更するか?
低血糖を起こしやすいインスリンやSU薬を使用している場合、「持続血糖モニタリング」などで低血糖が見つかった患者さんの場合、DPP -4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬への変更が行われます。高齢者では、血糖コントロール目標がより高い血糖値になりますので、低血糖を起こしにくいDPP -4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬が特に選ばれます。ビグアナイド薬も高齢者では慎重投与なので、これらの薬剤への変更が行われます。

腎機能の低下した患者さんの場合、インスリンやSU薬が体内に貯留しやすく、低血糖を起こしやすいので、DPP -4阻害薬、GLP-1受容体作動薬が選ばれます。

内服忘れが少ない薬も
DPP -4阻害薬で週に1回だけの内服の薬や、GLP-1受容体作動薬注射で、週に1回だけの注射の薬が登場しており、これら以外でも、SGLT2阻害薬のすべてと、DPP- 4阻害薬の大半は、1日1回の内服ですので、内服忘れが少なく、血糖コントロールが良好になりやすく、しかも内服の心理的負担も少なくなります。

低血糖が少なく、肥満を招きにくいという点で、DPP -4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬は、糖尿病患者さんの生活の質(Quality of Life=QOL)の向上につながる薬でもあります。

ただし、これら新たな糖尿病の薬が十分に効果を発揮するには、糖尿病の治療の基本である食事療法と運動療法をきっちりと守る必要があり、主治医の先生の指導を受けて頂くようにお願いします。

では、患者さんのこころの持ち方について、大屋先生にバトンタッチします。

2.こころの持ち方...臨床心理士の立場から

血糖値が思うように下がらない。そういう経験をした方は少なくないはずです。そのとき「血糖値が下がらないのは私の意志が弱い」と感じたことはありませんか?物事がうまくいかないとき人はそう考えがち です。では意志を鍛えればうまくいくのでしょうか?実は、血糖値をコントロールする場合、「意志」が強いかどうかという考えから、いったん離れて考えた方がより健康的な生活に近づくことになります。

糖尿病の正しい知識を持ち、頭ではどうすればいいか分かっていても、「続かない」、「面倒くさい」は自然に起こります。なぜでしょう?この現象は人の行動の習性が関係しているからです。人は自分にすぐに役立つと思える「メリット」のある行動は続けやすく、すぐには役立つと思えないデメリットのある行動はしなくなる習性があるのです。

人は目先の利益に飛びつく

例えば、健康に良い食事をしても、その直後に病気が治るというすぐに役立つメリットは生じません。このように、自分の行動と結果の関係が見えない状況では、人は行動を続けることができません。

患者さんの中には、忙しい職場で働いているため、すきま時間に食事を急いでとらないといけない、家族が忙しくて夜遅くに食事をとるのでそれに合わせなければならないなど、自分の健康どころではない事情の ある方が多くいます。

仕事や家族のために自分の健康を後回しにする行動は、実は生活全体を円滑に動かすメリットが大きく、力も大きいのです。

頭では分かっていても、つい不健康なものを食べてしまうといった衝動的行動にも、行動の習性が関係しています。人は遠い将来のメリットと近い将来のメリットでは、近い将来の価値が高いとみなす傾向がある と報告されています。

つまり、将来の健康になるイメージよりも、今目の前にある美味しそうなお菓子を食べたい気持ちや、今浮かんだ面倒くさいという気持ちの方が、自分の食事や運動をコントロールしやすいのです。これらは行動 の習性上自然なことであり、意志の強さの問題ではないと言えます。

〈図A〉に、その関係をまとめてみました。人間は目先の利益を優先しがちだということがお分かりいただけたと思います。

図A 適切だが実行しにくい行動の流れ(上段)と、不適切だが実行しやすい行動の流れ(下段)

無理矢理するとストレスに

また、やろうと決意し、強い意志で無理矢理、生活習慣を変えようとすると、治療自体がストレスになる危険があります。食事や運動、血糖値を毎日気にかけることによるストレスが報告されており、ストレスの ある方の割合(有病率)は18~45%と報告されています。

生活習慣や将来の合併症のことを考え「他の人は食事を楽しめているのに不公平だ」、「将来どうなってしまうのだろう」といった気持ちが生じるのはごく自然なことと言えます。

これに対し、ストレスへの対処の仕方を身につければ、血糖値をコントロールしやすくなることが分かってきました。行動の習性を踏まえ、健康的な食事や運動する際に、小さなメリットを増やすことが大切です。 血糖値が下がることも重要なメリットですが、それ以外のメリットを作れば作るほど健康的な生活は長く続きます。具体的に説明しましょう。

例えば、友達と一緒にウォーキングをすればおしゃべりが楽しめ、作りすぎた食事をおすそ分けすれば相手も助かるかもしれません。コンビニでサラダを買うときに、新商品の味を批評し合うのも楽しいかもしれ ません。

食事を終えてお腹がすくときには、温かいお茶を丁寧に入れてゆっくり味わってみる、我慢と思っていた時間そのものに楽しみを作り出すこともできるのです。

また、糖尿病による心臓血管合併症を抑えたいなど、将来やってくるメリットに価値があると認識すると、衝動的な食事・行動とは距離を置くことができます。まさに、健康的な生活を続けるには、人の行動の習 性やストレスとの付き合い方にヒントがありそうです。

例えば、自分は人生でどんなことを大切にしているのか、どんな人でいたいのか、想像してみてください。余裕を持って仕事をしたい、娘の育児を支えたい、そのイメージを意識して生活することが衝動的行動を 踏みとどまる助けになります。

趣味豊かにストレスを発散

糖尿病のストレスへ対処するためには、自分のものの考え方や行動パ ターンを知ることが第一歩です。自分のストレス発散方法を知り、その 種類を増やすようにしましょう。読書や美術鑑賞、散策やスポーツ、座 禅や様々な習い事など自分がこれまで実践しなかった活動にも目を向け てみてください。

また、やりきれない気持ちや将来への不安に巻き込まれないためには、 自分の考えや気持ちと距離をとる練習が有効です(詳しくは参考文献を ご覧ください)。

〈図B〉に、こうした点をまとめました。

健康的な生活は、自分がより楽しく充実した人生を生きるための一つ の方法ととらえ直すことができます。こころと上手に付き合いながら、 健康的な生活を楽しく続けていく方法を探してみるのはいかがでしょう か。

図B 健康的な生活を楽しく続けるためにストレスの発散が大切

参考文献:ジェニファー・A・グレッグ、グレン・M・キャラハン、スティーブン・C・ヘイズ[熊野宏昭・ 野田光彦 監訳](2013)糖尿病をすばらしく生きるマインドフルネス・ガイドブック--ACT(アク セプタンス&コミットメント・セラピー)によるセルフヘルプ・プログラム. 星和書店

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