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[3] 肥満さよならの医学

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

1998年11月1日 発行

元国立循環器病研究センター
内科 動脈硬化代謝内科
医師 洪 秀樹

健康の大敵、肥満

イラスト:健康の大敵、肥満

もくじ

飢えの歴史が肥満の下地!

肥満と飢餓は正反対の状態ですが、現代人の肥満の問題は、人類が絶えず飢えにさらされてきたことと深い関係があります。

約400万年におよぶ人類の歴史はまさに飢餓との闘いで、何度もおとずれた氷河期は、人類に多くの試練を与え続けました。

人類が安定して食料を得ることができるようになったのは、人類が経験した最後の氷河期が終了した約1万年前、中東シリアで農耕が始まってからにすぎません。農耕はまたたく間にヨーロッパに広がり、日本には約3500年前、縄文後期に中国から稲作が伝わってきました。

しかし、それまでは、先史時代の厳しい食料事情の中で、乏しい食物から得られたわずかなエネルギーを出来る限り効率よく利用し、残りはすべて体の中に蓄えておく仕組みが、人類に必要でした。それは生命が生き延び、繁殖するために不可欠なことです。

食物から体内に取り入れたエネルギーを効率よく蓄えるには、余ったエネルギーをすべて脂肪に変え、皮下か内臓に蓄えねばなりません。つまり、飢餓と対抗して、体内に大量の脂肪を蓄積する能力を身につける必然性が、人類にはあったのです。

脂肪過多は健康の敵

しかし、今日では、生き抜くために欠かせなかったこの能力が、かえってマイナスの作用をしていることがはっきりしてきました。

私たちの日々の生活をみますと、車社会になってあまり歩かなくなったし、肉体労働が減り、家事も電化によって負担が軽くなり、消費するエネルギーは明らかに減っています。

脂肪を蓄えた細胞は燃焼してエネルギーを供給する必要がなくなり、エネルギーをためることだけが仕事になりました。「収入」だけあって「支出」が少なくなるのなら、家計にとって大変、結構な話ですが、体では使われずにたまる一方の脂肪が深刻な問題となります。

成人のエネルギー摂取量は、ここ20年間、横ばい、もしくは減少傾向なのに、消費エネルギーが減ったために、肥満者が徐々に増え、その傾向は男性でとくにはっきりしています。以前はあまり見かけなかった高度の肥満もよく見かけるようになりました。

イラスト:大昔、脂肪蓄積は生命維持に必要だった
大昔、脂肪蓄積は生命維持に必要だった

肥満度が高くなるにつれ、睡眠中の呼吸障害をきたしやすくなり、突然死や睡眠時死亡を引き起こすことがあります。

さらに肥満は糖尿病、高脂血症、高血圧、痛風、胆石症、骨粗しょう症などの下地にもなりやすく、そのため狭心症、心筋梗塞など、虚血性心臓病や脳卒中の原因になります。乳がん、子宮体がん、大腸がんの原因にもなりますから「肥満は万病のもと」といっていいのです。

いかに肥満を予防するか・・・・それは、現代人にとって日々心がけねばならない重要なテーマなのです。

イラスト:肥満は万病のもと
肥満は万病のもと

肥満と正常との境界線

<脂肪組織に正常以上に脂肪が蓄積した状態>が肥満です。

イラスト:内臓脂肪にご用心
内臓脂肪にご用心

人の体重の50~60%は水分が占め、次いで多いのが脂肪分(体脂肪量)です。脂肪分の体重に占める割合(体脂肪率といいます)が、男性で20%、女性で25%を超えると『肥満』と判定されます。

体の脂肪量は、生体電気インピーダンス法や二重X線吸収法といった機器によって正確に測定できますが、身長と体重からでも簡単に推定できますから、時々チェックするのが肥満予防の第一歩です。

現在、体脂肪量の推定によく用いられているのは「体格指数」(Body Mass Index、略してBMI)です。

計算式は

体重(kg)÷ [身長(m)×身長(m)]

です。

例えば、Aさんの体重が75kg、身長1m65cmとすると
75(kg)÷[1.65(m)×1.65(m)]
となり、《27.6》という数値が出てきます。

日本肥満学会では、体格指数の理想値を《22》とし、その20%以上、つまり《体格指数26.4以上》を肥満と決めていますから、Aさんは明らかに肥満で、減量しなくてはなりません。

脂肪の量だけでなく、蓄積している場所も重要です。皮下に脂肪がたまる「皮下脂肪型肥満」よりも、腸間膜に脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」の方が、糖尿病、高脂血症、高血圧、虚血性心臓病などを起こしやすく、より危険だからです。

肥満の基準《体格指数26.4》以下でも、しばしば内臓脂肪の蓄積がみられる方がいます。確かに体格指数では太っていることになりませんが、たまっている場所が問題で、この場合は内臓脂肪型肥満と同様の注意が必要になります。

一方、「至適体重」(ベストウェイト)という考え方があることも知っておいてほしい点です。身体活動に最も適した体重、つまり仕事や運動をする時に最も活動しやすい体重を意味しています。

これは、少々太っていてもよく運動をしている人は、少ししか運動しない標準体重の人に比べて死亡率が低い、という事実に基づいています。要するに、毎日を楽しく、快適に暮らし、活発に仕事をこなせる体重が、その人にとってベストということなのです。

なぜ太ってしまうのか

現代人の肥満は、食べすぎ、運動不足に加え、食べ方の異常、(摂食パターンの異常)、遺伝的体質、さらに食事や運動をした後や体温を一定に保つために、体は生理的に熱を発生しますが、この働きが低下している場合(熱産生障害)などが原因になっています。さらに、最近のライフスタイルの急激な変化が、大きく影響しているのはいうまでもありません。

食べすぎると、当然のことですが、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回って、残りは貯蔵に回ってしまいます。

イライラしたり、いつも不安感がある場合、それから逃避したいために、つい食べすぎてしまいがちです。運動が不足すれば、消費エネルギーが減り、普通量の食事でも太る原因になります。

肥満者の食事回数は、必ずしも多いというわけではく、むしろ回数が少ない方が、太りやすいこともわかってきました。

イラスト:“至適体重”になるには
“至適体重”になるには

朝食を抜いて、夜間にたくさん食べる“まとめ食い”や、1日の食事の半分以上を夜間にとる“夜食症候群”などが問題です。夜間は消化管の吸収機能が昼間より高まりやすく、エネルギーが貯蔵に回りやすいからです。

肥満者の行動パターンには、なにかをしながら無意識のうちにたくさん食べてしまう“ながら食い”のほか、“早食い”のため満腹感を覚えにくい、いつも手の届くところにお菓子などを置いている-といった特徴があります。

イラスト:スリム氏の午前0時 これではスリムになれませんね
スリム氏の午前0時 これではスリムになれませんね

肥満の原因は、遺伝3:環境7

1994年に「肥満遺伝子」が発見され、体内に大量の脂肪を蓄積する能力は遺伝することがわかってきました。この遺伝子を持つ人が、食べすぎ、運動不足、摂食パターンの異常などの生活習慣になじんでしまった時に、肥満になると考えられています。肥満が生活習慣病の1つに挙げられているのは、こうした理由からです。

現在、肥満の原因は「遺伝3に対して環境7」とされていますから、生活習慣のゆがみをまず正すことがより大切です。

現代の高度情報化社会では、しばしば不規則な生活を強いられる場合が増えてきました。不規則な生活によって、自律神経のバランスが崩れ、肥満になりやすくなりますから、この点も要注意です。

自律神経のバランスが崩れると、体内の脂肪の燃焼と貯蔵をコントロールしている交感神経の働きが低下し、脂肪が燃えて熱に変わる機能が落ち、やせにくくなるため、結果として肥満の原因になるのです。

生活習慣病としての視点

肥満は生活習慣病だと、日頃から認識しておくことが重要です。たとえ遺伝的に肥満体質であっても、肥満は必ず予防できるからです。

太り始めるきっかけが必ずあります。生活環境ががらりと変わった時が要注意で、女性では、結婚、妊娠、出産、閉経などホルモンバランスの急激な変化が、男性の場合は、仕事上のストレス、転勤(単身赴任)など職場環境の変化が、きっかけになりやすいのです。

ライフスタイルが変わったことも見逃せません。欧米型ファーストフード店が増え、高たんぱく・高脂肪・高塩分の食事をとる機会が多くなったこと、コンビニエンスストアの普及による“24時間型食生活”の日常化、自動販売機の普及、慢性的な運動不足、精神的ストレス・・・・・と現代の暮らしには肥満を招く要因がそろいぶみの状態です。

肥満を治すには

大人と子どもでは、肥満の事情も違います。小児の肥満は脂肪細胞の数が増えていく「脂肪細胞増殖型肥満」ですが、大人の場合は脂肪細胞自体が大きくなってしまう「脂肪細胞肥大型肥満」で、こちらは小児の肥満より治療しやすいのです。

肥満の治療には

(1)食事療法 (2)運動療法 (3)行動療法 (4)薬物療法 (5)外科療法

などがあります。

手術によって胃を縮め、食物を入りにくくする外科療法は、高度な肥満に限られます。薬物療法は長期の服用で肺高血圧症など肺や心臓に合併症が起こることがあり、これも対象患者は少なく、治療の中心は食事、運動、行動療法となります。

肥満の背景には、太るのが当然の生活習慣がありますから、これを改めずに、食事療法だけいくら続けても減量は成功しません。

運動療法を行わず、食事療法で減量しようとすると、体脂肪が減らず、筋肉や骨の方が減ってしまうことがあります。

だから、食事、運動、行動療法は互いに極めて密接な「三位一体」の関係にあり、どれ1つ欠けても長期的な減量効果は期待できません。

イラスト:あなたはどっちを選ぶ?
あなたはどっちを選ぶ?

三位一体療法のススメ[その1]食事療法

減量には、入ってくるエネルギーをこれまでより減らし、消費するエネルギーを増やすことが必要ですから、食事療法は欠かせません。どれくらい摂取エネルギーを減らすのか。それにはまず自分の標準体重を知っておかねば話になりません。

標準体重は<身長(m)×身長(m)×22>

の式で求めることができます。例えば身長1m70cmのBさんの場合<1.70×1.70×22>で、63.6kgとなります。

次に表に示した「1日の必要エネルギー量」を見てください。
Bさんが一般事務のサラリーマンだとすると、標準体重1キログラム当たりの必要エネルギー量は表から、25~30キロカロリーですから、1日の必要エネルギーは<体重63.6kg×25~30kcal>で、1590~1908kcalになり、これが食事療法の目安となります。
しかし、摂取エネルギー量を極端に制限すると、逆効果になることがありますから
<男性では1600キロカロリー程度>
<女性では1400キロカロリー程度>
を限度にします。

1日の必要エネルギー量

日々の生活での活動強度 職種など 体重1キロ・グラムあたりの必要
エネルギー量(キロ・カロリー)
I 比較的軽度の活動 一般事務、技術者、幼児
のいない主婦
25~30
II 中程度の活動 製造・加工業、サービス
業、幼児のいる主婦
30~35
III やや重い活動 農業、漁業、建設作業 35~40
IV 重労働 農繁期の農作業、林業、
プロスポーツ選手
40~

注:体重は標準体重={身長(メートル)×身長(メートル)×22}の式から計算

次に、三大栄養素の割合を考えねばなりません。まず、ご飯、パン、うどん、そばといった炭水化物の必要量を決めます。炭水化物は脳や腎臓のエネルギー源としても重要で、制限しすぎて、体内のグリコーゲンの貯蔵量が減ると食欲がわきますから、1日の摂取エネルギーの60%を炭水化物から摂取するようにします。

たんぱく質は、摂取エネルギーを減らすと、その利用効率が低下しますので、標準体重1キロあたり1.1~1.5グラムとやや多めにとるようにします。

  • 1日のエネルギーの60%・・・炭水化物で
  • たんぱく質は多目に
  • 脂肪は少な目に。極端な制限は禁物
  • ビタミン、ミネラルは十分に
イラスト:食事に栄養のバランスを
食事に栄養のバランスを

脂肪は制限しますが、ビタミンA、D、E、Kのような脂溶性ビタミンは脂肪と一緒に吸収されますから、極端な制限は禁物です。脂溶性ビタミンが欠乏すると、夜盲症、骨粗しょう症などが起こりやすくなり、皮膚の色つやがなくなることがあります。

代謝を活発にするためにビタミン、ミネラルを十分含んだ食品をバランスよくとるよう心がけてください。さらに、食物繊維の豊富な食品には (1)消化しにくい (2)栄養素の吸収を遅らせる (3)そしゃくに時間がかかり、食欲をおさえる、などの利点がありますので、これも積極的にとるよう心がけてください。

食事療法にも短所があることが、最近わかってきました。

摂取エネルギーを制限すると、まず安静時の代謝率が低下します。そして、食物を摂取した後、消化、吸収、貯蔵、それぞれのプロセスで体は熱を発生しますが、この食後の熱産生も低下します。これらによって、減量のスピードが鈍ったり、反対に体に脂肪が増えたりする“はねかえり現象”(反動)が起こることがあるからです。

さらに、減量の目的である体脂肪が減らずに、筋肉や骨の方が減りやすくなり、やつれてプロポーションが悪くなる場合もあります。

筋肉が減るために、炭水化物の利用を高めるインスリン(インシュリン)の働きが低下することも、食事療法のマイナス作用として知っておく必要があります。

イラスト:三位一体療法で魅力的なスタイルに
三位一体療法で魅力的なスタイルに

三位一体療法のススメ[その2]運動療法

運動がいいのは、エネルギー代謝を確実に高めますから、食事療法のように、安静時にも代謝率が低下しなくなる点です。筋肉や骨が減る心配はなく、反対に強くし、プロポーションはよくなります。

また、筋肉が増えると熱産生の良い体になり、体脂肪の減少にもつながります。さらに、体を動かすことで交感神経の緊張状態が適度に保たれて、体脂肪が燃えやすくなり、効率よく減らすことができます。

肥満ではないが内臓に脂肪が蓄積した“かくれ肥満”では、インスリンが働きにくくなります。しかし、運動によって内臓脂肪を減らすことができます。運動は食事療法の泣き所を補ってくれるのです。

運動療法は、歩く、自転車エルゴ、プールの中で歩く水中歩行などの「有酸素運動」を適宜、組み合わせ、継続して行います。ダンベル体操は場所をとらず手軽にでき、お勧めしたい運動の1つです。

さて、運動の回数や強度は、どれくらいを目安にすればいいのでしょうか?

一回に30分以上、週に3~6回、週に計3時間以上を目指してください。

運動の強さは血圧も脈拍もそれほど上がらない程度が望ましく、たとえば、運動中の適正な心拍数を138から年齢の半分を引いた数
<138-(年齢の1/2)>
で求める方法があります。

食事療法だけより、歩行を加えた方がはるかに効果的なのは当然で、「1日1万歩以上」の歩行によって、肥満者に多く見られる、インスリンが働きにくい状態も改善することができます。

活動的な日々にすることが、必要なことはいうまでもありません。

イラスト:歩け、歩け! 1日1万歩
歩け、歩け! 1日1万歩

三位一体療法のススメ[その3]行動療法

肥満につながる生活習慣・行動をはっきりさせて、その改善をめざす・・・・・・それが、行動療法です。

まず、問題となる習慣・行動を分析し、次いで、そう行動させる誘因は何かを明らかにしてから、誘因に対する肥満者の反応を改善するようにします。

問題となる習慣や行動は、例えば、ストレス解消の“気晴らし食い”や、“イライラ食い”、家族の食べ残しをもったいないと口にする“残飯食い”(代理摂食)、人の勧めを断わりきれない“つきあい食い”、目の前の食物につい手が出てしまう“衝動食い”など、思いあたる人が多いはずです。

無意識のうちに、こうした行動をとり続ける肥満者がほとんどなので、行動療法ではまず、「食事日記」を書いてもらい、自分の食行動の異常に気づかせます。

食事の開始・終了時間、食事内容(可能な限り詳しく)、おおよそのエネルギー量、食事した場所、どんな状況で食事したかなどを、その日のうちに記録してもらいます。毎日の生活をグラフ化し、食事時間の偏りを見つけやすくする方法もあります。

食行動をできる限り、客観的に評価し、問題の行動を改善するようにするわけです。毎日の体重の記録をグラフにし、どれだけ効果があったかを観察するのもいいのでしょう。

肥満は生活習慣病であることを忘れずに、いつも前向きに、体質とライフスタイルの改善に取り組んでほしいのです。そうすれば必ず<健康的でスリム>という目標に到達できるはずです。

参考文献

  1. 肥満・肥満症の指導マニュアル、日本肥満学会 肥満診察のてびき編集委員会編 医歯薬出版株式会社 1997
  2. 体脂肪が気になる人の内臓脂肪型肥満予防 池田義雄監修 女子栄養大学出版部 1997

 

最終更新日 2014年03月12日

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