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心臓|循環器病あれこれ|

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

[92]心筋梗塞が起こったら

独立行政法人国立循環器病研究センター
心臓血管内科 部門長
安田 聡

倒れている人を発見したら...


もくじ

天皇陛下が狭心症のため、冠動脈バイパス手術を受けられ、手術は無事終了、公務に復帰されました。この経過を伝える新聞やテレビの報道で、狭心症、心筋梗(こう) 塞(そく) 、虚血性心疾患、冠動脈の狭(きょう) 窄(さく) 、バイパス手術、内胸動脈、心臓リハビリ......といった用語をよく目にされたと思います。

この冊子では、狭心症とともに虚血性心疾患と呼ばれる心筋梗塞が起こったらどうすればよいか、症状、応急処置、治療などについて、最新情報をもとに解説します。一般の方にも、心筋梗塞について、これだけは知っておいてほしいという項目を集めました。

心臓のはたらき

しっかり理解していただくために、復習になると思いますが、心臓のはたらきから話を始めます。

心臓は左右の肺の間にはさまれ、体の中心よりやや左、横隔膜の上の方に位置しています。心臓は心筋と呼ばれる筋肉でできており、大きさはその人の握りこぶし程度です。

私たちの心臓は1分間に約70回、毎分約5.6.(ペットボトル大・約3本分)、1日にすると約10万回も収縮と拡張を繰り返すことで、全身に血液を送るポンプの役目をしています。さらに心臓が一生の間に送り出す血液は、15万トンタンカー1隻分に相当しますから、このポンプがいかにタフかがおわかりでしょう。

脳、肺、胃、腸、肝臓などすべての臓器は、心臓から送られる血液によって酸素や栄養分を受け取り、活動しているのです。もしも心臓が止まったら、全身の機能が停止してしまう、直接私たちの生命そのものに関わる臓器なのです。

冠動脈とは?

心臓があたかも冠をかぶったように、心臓の周りを走行している血管が冠動脈で、心臓の筋肉細胞に酸素や栄養を供給しています。

冠動脈は大きく分けて2本あり、左右に1本ずつあります〈図1〉。左の冠動脈はさらに大きく2つに分かれて、左前下行枝と左回旋枝になります。特に左の冠動脈が、血液を送り出す心臓の部屋に酸素や栄養を与えているので、より重要度が高い血管です。

動脈硬化とは?

年齢とともに血管は傷つき、その機能が低下し、しなやかさも失われてきます。動脈硬化とは、血管の老化ともいえるかもしれません。

年齢以上に血管の老化を進める因子には、肥満、高血圧、糖尿病(血糖が高い状態)、脂質代謝異常(中性脂肪やコレステロールが多い状態)など、多くの要因が関係しています。これらが複合的に重なって、動脈硬化が促進されるのです。

動脈硬化は、肌のシワやシミなどの老化現象と異なり、外からはわかりません。気づかないまま、動脈の壁にプラークと呼ばれるコレステロールや脂質などが蓄積した病変が進行し、血液の流れが悪くなる結果、ある日、突然、狭心症や心筋梗塞といった重大な病気を引き起こすのです。

心筋梗塞は増加している:早朝・冬場にご注意

わが国の心筋梗塞の発症数は、〝魚食から肉食〟へ急速に食生活の西洋化が進んだことや、人口の高齢化によって増加傾向にあります。

1979年から30年間の調査では、心筋梗塞の発症数は1979年当時の4倍にも達しています〈図2〉。発症時の平均年齢は男性が65歳、女性が75歳で10歳の違いがあります。女性の発症年齢が遅いのは女性ホルモンの影響と考えられています。中年以上の男性では、特に肥満・高血圧・糖尿病・脂質異常がある場合は、注意しなければならない疾患であるといえます。

心筋梗塞の発症は早朝に多く、また冬場に多いことが知られています〈図3〉。冬場に多い理由は、暖かい室内と寒い室外、同じ室内でも寒い脱衣場と暖かい浴室など温度差で血圧に大きな変動を生じ、心臓・血管に負担をかけるからと考えられています(ヒートショックといいます)。

狭心症と心筋梗塞との違いは?

狭心症や心筋梗塞は、虚血性心疾患(「心臓の血が虚=ない」病気)としてまとめられています。血液の流れが悪くなり、心筋への酸素・栄養の供給が足りなくなった結果生じるのですが、その症状や重症度は大きく異なります。それらの違いを解説します。

狭心症とは?

症状

・胸のあたりに圧迫されるような痛みや苦しさを感じます。

・人によっては、あごやみぞおちに症状が広がる場合もあります。

・数分から長くても15分くらい安静にしていると痛みが治まります。

狭心症は、冠動脈の中が動脈硬化のために狭くなり(冠動脈硬化)、心臓の筋肉に血液・酸素が十分に送られなくなるために起こります。まけいれんた、冠動脈の痙攣(スパズム)により急に縮んでしまう場合(冠動脈スパズム)でも、心臓の筋肉へ血液・酸素が供給できなくなります〈図4〉。血管の痙攣は、早朝、朝方などに起こりやすく、喫煙や寒冷刺激がきっかけになるといわれています。

最近3週間以内に新たに発症した場合や、発作が次第に悪化しているような場合(痛みがひどくなる、発作回数が増える、あまり運動していない、もしくは安静にしているのに発作が起こる、などの変化が現れた場合)は、「不安定型」といい、心筋梗塞へと進みやすいので特に注意が必要です。

心筋梗塞とは?

症状

・胸の中央、または左胸部に鉛のかたまりをのせたような重苦しい強い痛みです。

・焼けつくような激しい痛みで、肩や背中、首などにも痛みが放散します。

・(狭心症とは異なり)30分以上長く続くのが特徴です。

・冷や汗や吐き気、呼吸困難を伴うことがあります。

心筋梗塞は、冠動脈の血流がほとんど止まって通じなくなり、酸欠と栄養不足から、心筋の一部が壊(え) 死(し) するほど悪化した状態をいいます〈図5〉。

心筋梗塞は、動脈内にできたプラーク(コレステロールが蓄積してできた動脈硬化病巣)が破綻し、その破綻部に血栓ができることで起こります〈図6〉。

ただ、今の段階ではこのプラークの破綻がどういう場合に、どういったタイミングで起こるかは、まだしっかりとは解明されていません。

現在では、心臓専門のコンピュータ断層撮影(CT)〈図7〉を用いて、冠動脈の性状をある程度、診ることができるようになりました。しかし、心筋梗塞が将来発症するかどうかを診断することまではやはり難しいのが現状です。

病院を受診すべきタイミングは?

体験したことがない胸痛や、圧迫されるような胸苦しさがみられた場合は、早めに検査を受けるようにしてください。

心筋梗塞によっては、痛みを覚えない場合もありますし、軽い症状でおさまる場合もありますが、自ら感じる症状の強さと病気の重症度は、必ずしも一致しないことがあります。何らかの異常症状があったら、そして繰り返すようならば、その強弱に関わらず早期の専門病院への相談・受診をおすすめします。119番に電話をし、救急車を呼んでください。

睡眠中など深夜に症状が起こった場合、我慢強い人は朝まで様子をみようとして、かえって手遅れになることがあります。また、女性では痛みを感じながらも我慢してしまい、病院へ行くまでの時間が長くかかってしまう傾向にあります。基本的には、早期発見、早期治療が病状の深刻化を避けるために最も大切なことと心がけてください。

注意しなければならないのは、すでに説明した「不安定型」の狭心症の場合です。狭心症の場合、症状が数分から15分以内で落ち着いてしまうことが多く、本人もご家族もあまり深刻には考えません。

しかし、発病して間もない(3週間程度)狭心症、発作が長引くようになったり強くなったりしてきた狭心症、じっとしていても起こるか、ごく軽い作業で発作が起こるように変化してきた狭心症の場合は、心筋梗塞に準じた対応が必要です。

心筋梗塞では早期の受診が重要です

心筋梗塞では亡くなられる方の半数以上が、発症から1時間以内に集中しています。そのため病院に到着する前に亡くなる場合が多いのです。

原因のほとんどが、心室細動と呼ばれる不整脈のためです。心室細動では心臓の血液を全身に送り出す部屋(心室)がブルブル震えて(細動)、血液を送り出せなくなり(心停止状態)、脳や腎臓、肝臓など重要な臓器にも血液が行かなくなり、やがて心臓が完全に停止して死亡してしまう、とても危険な状態です。

この不整脈の危険性があり、心筋梗塞が疑われる場合は、ただちに救急車を呼んで、一刻も早く受診をすることが重要なのです。

救急車内では、脈の乱れを治す電気ショック、つまり自動体外式除細動器(AED)による処置や、酸素吸入などの応急処置が受けられます。また救急車は、ほかの交通手段よりも圧倒的に早く病院に着くことができます。1分1秒でも早ければ、命を救える確率は格段に高まるのです。

のちほど解説しますが、心筋梗塞に最も重要な治療は、閉塞した冠動脈を再び開通させる「再灌流(さいかんりゅう)療法」です。発症6時間以内に「再灌流療法」を受けて成功すれば、壊死に陥る心臓の筋肉の範囲を減らすことができます。

意識がない場合の応急処置

胸が痛いといった後、意識がない状態であれば、肩をたたきながら、大声で呼びかけてください。反応がなかったら、「誰か来て!」と大声で応援を求め、すぐに119番に連絡して救急車を呼びましょう。

また応援の人が来たら、自動体外式除細動器(AED)を持ってきてもらうよう頼みます。倒れている人の胸とおなかの動きを見て、息をしているかどうか確認してください。

呼吸をしていないか、ふだん通りの呼吸でなければ、すぐに心臓マッサージ(胸骨圧迫)を休まずに行ってください〈図8〉。

倒れている人の胸の真ん中に手のひらの根元の部分を重ねてのせ、肘を伸ばしたまま真上から強く(胸が5センチ以上程度沈むまで)押します。

押した後には瞬時にその力を緩めますが、手が胸の真ん中から離れないよう、ずれないようにします。これを1分間に100回以上の速さで繰り返し続けます。

最近の研究では、成人の場合、一般の人が心臓マッサージと人工呼吸の両方を行った場合の救命率よりも、心臓マッサージだけを行ったときの救命率のほうが、同じか、やや高いことや、心臓マッサージによって心臓の細胞が元気になり、AEDが効きやすくなることなども明らかにされています。AEDを使う場合の注意点を〈図9〉にまとめました。

心室細動を起こすと、1分経過するごとに約10%、助かる確率が減っていくといわれています〈図10〉。

救急車が現場に到着するまでの時間は、約5分かかるとされており、救急車をただ待っていたのでは、助かる確率がかなり低くなってしまいます。

家族やその場に居合わせた人が「心肺蘇生法」の心得があれば助かるチャンスが広がります。心停止から蘇生を始めるまでの時間が1分以内であれば、97%蘇生に成功しますが、5分経過すると50%以下の低率となってしまいます。

心肺蘇生法の講習を受けることは、あなたの大切な人の命を守ることにつながります。病院や消防署、日赤などで定期的に講習会が開かれていますので、ぜひ受講してください。

心筋梗塞の治療:再灌流療法

閉塞した冠動脈を再び開通させる「再灌流療法」を迅速、かつ確実にすることが、心筋梗塞に対する治療の鍵です。血液の供給を再開させることによって、閉塞したままでは壊死する心筋を助けられるのです。

発症から6時間以内にこれを実施し、成功すれば最も有効ですが、発症から12時間以内であれば有用性が高いとされています。

再灌流療法の主流は、カテーテルを使って行われるものです。具体的な手順を説明しましょう。

局所麻酔をして痛みをった状態で、手首の付け根や肘、太ももの付け根から2㎜程度の細い管(カテーテル)を動脈の中に入れ、動脈の中を心臓まで進めます。動脈の内側は神経がないため、管(カテーテル)を進めても一般的にはあまり痛みを感じずに検査を受けることができます。

心臓の入り口から出ている冠動脈の根元に管を進め、造影剤を注入して冠動脈の状態を調べます(心臓カテーテル検査、または冠動脈造影検査と呼ばれるものです)。

血管が詰まっているか、細くなっている部分がわかったら、管(カテーテル)の中からまず柔らかく細い針金(ガイドワイヤー)を挿入し、このガイドワイヤーに沿って「風船つきの管」(バルーンカテーテル)を狭窄部まで進めます〈図11〉。

最初は「風船はまだしぼんだ状態」ですが、狭窄部で風船をふくらませて、血栓を砕き、血管の狭窄部分を押し広げ、元々の狭窄も少なくします。これが経皮的冠動脈形成術と呼ばれる治療法です。

風船による治療では血管を広げることが不十分な場合や、血管の内側を被う膜(内膜)に傷がついた場合などには、ステント(血管を内側から支える網目状の金属の筒)を狭窄部にセットする、つまり、留置する治療がよく行われています。

心筋梗塞の約8割の治療で、風船治療に引き続いてステントが用いられており、風船療法とステントで治療を受けた患者さんのうち、90%以上で血流が回復しています。患者さんの身体への負担が少ないという利点がありますが、治療した血管が再び狭くなってしまう(再狭窄)こともあります。

一方、冠動脈バイパス術は外科的な治療で、狭くなったり、詰まったりしている冠動脈の先に、内胸動脈、胃大網動脈などをつなげて血管の迂回路(バイパス)をつくる手術です。

新しい迂回路から心臓に血液が流れるため効果が持続し、再び血管が狭くなる再狭窄や、それに伴う再治療の可能性は少なくてすみます。ただし、開胸手術となるため、準備に時間がかかり、身体的な負担も大きいという面があります。

心筋梗塞の治療は、カテーテルを用いた治療をまず選択し、それでうまくいかないような場合、もしくは、狭くなっている場所がカテーテルを使う治療に適さない場合に、バイパス手術を検討します。

冠動脈疾患用集中治療室(CCU)

心筋梗塞の急性期には、急に心臓の筋肉が壊死してしまうことによる合併症が起こります。この中には、直接、死につながる恐ろしいものも含まれています。そのため発症間もない時期には、冠動脈疾患用集中治療室(CCU;...Coronary...Care...Unit)に収容して、きめ細かく観察します。心筋梗塞に伴う主な合併症は次の通りです。

うっ血性心不全:心筋梗塞によって心臓の筋肉の一部が傷つき、心機能が低下します。このため、心臓とひとつながりになっている肺に水がたまり(肺うっ血)、呼吸困難に陥る状態が、うっ血性心不全です。

不整脈:心筋梗塞になると心筋が傷害されるため、心室頻拍、心室細動といった、脈が非常に早くなる不整脈が出現することがあります。

また一部の心筋梗塞では、心臓の収縮・拡張のリズムを作り出す刺激伝導系という場所が傷つき、洞不全症候群、房室ブロックといった脈が遅くなるタイプの不整脈が出ることもあります。いずれの場合も、血液を十分送り出せなくなります。

心破裂:心臓の筋肉が傷害され、壊死に陥るとしばらくの間その部分がもろくなります。この時期に過度に血圧がかかると心臓の筋肉が破れてしまうことがあります。これが心破裂で、最も恐ろしい合併症です。

専門病院CCUでの入院管理と再灌流療法の普及によって、最近では心筋梗塞の患者さんの死亡率は、5%程度まで下がってきています。

再灌流療法が成功し、急性期の合併症を起こさないで経過すれば、おおむね2週間程度をかけて、医師や看護師が心電図や脈拍・血圧などの反応に注意しながら、患者さんの行動範囲を徐々に広げていきます。この過程を「心臓リハビリテーション」と呼びます。

詳しい内容は、この「循環器病あれこれ」シリーズの13号「心臓リハビリのQ&A」を参照してください。

最終更新日 2014年03月12日

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