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[64] 心臓病の新しい画像診断

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

2007年9月1日 発行

-CTとMRI-

元国立循環器病研究センター
病院長 内藤 博昭

心臓の検査はどんどん楽になる

イラスト:脳梗塞の新しい治療法-CTとMRI-

もくじ

画像診断-画像で体の中の様子を調べる

いまや病気の診断や治療に欠かせなくなった「画像診断」-。それは、目に見えない体の情報、例えば体の中の様子などを、見えるようにして調べる検査の総称です。

1895年にドイツのレントゲン博士が発見したX線を使った写真撮影がその始まりで、おなじみの「レントゲン撮影」には100年以上の歴史があるのです。画像診断の方法は、その後も次々と高性能のものが開発されました。中でも1970年ごろに登場したX線CT(コンピュータ断層撮影法)と、少し遅れて現れたMRI(磁気共鳴画像診断法)は、現在の主力選手といえるでしょう。

このようにCTとMRIは決して新しい検査ではないのですが、心臓の画像診断法として注目されるようになったのは、実は最近のことです。装置や撮影技術の急速な進歩で不得意な部分が改良されて、心臓の検査でも両方法の長所を生かせるようになったのがその理由です。

このページでは、特に話題になっている、CTとMRIの虚血性心疾患への応用について、画像も見てもらいながら紹介します。画像が難しくてよくわからないと感じられる方もおられましょうが、私たちが患者さんに知っておいてほしいと考える点は文章で説明しています。画像と文章によって基本的なところを理解していただければ、と願っています。

以下は、これらの検査を受けられる患者さんと、その家族の皆さんに、ぜひ知っておいてほしい最新情報です。

虚血性心疾患の新しい画像診断

心臓から出る大動脈のつけ根のところから、心臓の筋肉に栄養を与える血管、冠動脈(冠状動脈)が枝分かれします<図1A>。動脈硬化症が原因で、この血管の壁に粥腫(じゅくしゅ、おかゆ状の沈着物)、または動脈硬化斑(プラーク)と呼ばれるかたまりができて、血液の流れる内腔が狭くなり(狭窄(きょうさく))<図1B>、心筋への血のめぐりが悪くなって起きる病気が「虚血性心疾患」です。

これは最も重要な心臓病の一つで、その中には心筋の血流が不十分で胸の痛みを生じる「狭心症」と、冠動脈が詰まって心筋が死んでしまう「心筋梗塞(こうそく)」という病気が含まれます。<図1C>は画像検査でもよく使われる「短軸断面」と呼ばれる心臓の輪切り像で、心筋の一部に起きたばかりの梗塞のところが描かれています。

そこで虚血性心疾患の診療では、冠動脈と心筋の様子を調べることが欠かせません。最近、これにCTとMRIが非常に有効なことがわかってきました。CTで冠動脈を見る検査と、MRIで心筋梗塞を見つける検査の二つが、虚血性心疾患の新しい画像診断として注目を集めています。

図1 虚血性心疾患とは
図1:虚血性心疾患とは
心筋に栄養を与える冠動脈の血液の流れが悪くなると、狭心症や心筋梗塞を発病する

心臓のCT-冠動脈をCTで見る

CTとは

CTは体のある断面部分をねらって、多くの方向からスリット状にX線を照射し、そのデータからコンピュータで体のX線輪切り像を作る検査法です。X線の投影データを集める撮影の作業は「スキャン」とも呼ばれています<図2A>。

できあがったCTの画像では、骨や石灰化部分は白く、空気を含む肺や皮下脂肪などの脂肪組織は黒く、筋肉や血管壁などは灰色に表示されます<図2B>。血液はそのままでは灰色で、心筋や血管壁とのコントラストが付かないので、血液部分を白く強調するためにヨード造影剤の静脈注射をします。冠動脈のCT検査でも造影剤の注射はほぼ必須といってよいでしょう。

図2 CTの原理
図2:CTの原理
CTはコンピュータでX線の輪切り像をつくる検査法

最近の進歩-ヘリカルスキャンとマルチスライスCT

CT技術の最近の大きな進歩は「ヘリカルスキャン法」と「マルチスライス装置」の登場です。そしてこの二つの新技術を組み合わせて、薄い断面で広い範囲を撮影することが、短い時間でできるようになったのです。

「ヘリカルスキャン」のヘリカルは「らせん状」のことで、かみくだいていうと、X線管が検査を受ける人の周りをらせん状に取り巻いて動きながら照射し、撮影することになるので、この名前がついています<図3A>。やや専門的になりますが、正確にいうと、X線管を連続回転してX線を出し続けながら、検査台を移動する撮影法のことです。

ある断面のスキャンと、次の位置への検査台の移動を交互に繰り返す古い撮影法に比べて、スキャンと移動が同時進行のこの方式では撮影時間が著しく短縮されました。

もう一つの進歩は検出器の多列化で、薄い多数の断面の撮影が同時に行えるようになりました<図3B>。このような装置は「マルチスライスCT」、または「多検出器列CT(MDCT)」と呼ばれています。

検出器の多列化は2000年ごろから一気に加速し、2列、4列、8列、16列から64列装置に至っていて、今後もさらに進むかもしれません。

図3 CT技術の進歩
図3:CT技術の進歩
二つの新技術を組み合わせると、薄い断面での広い範囲のCT撮影が短い時間で行える

CTで心臓が見えるようになった

これまで、CTは心臓の撮影が苦手でした。それは心臓がよく動くので画像がブレてしまうためなのですが、この問題はスキャンの高速化と、心電図に合わせたデータ収集法によってほぼ解消されています。

マルチスライス装置で、心電図に合わせて撮影する「心電図同期ヘリカルスキャン」を行うと、薄い画像の積み重ねで心臓の静止三次元データを得られるようになりました。<図4A>は心臓全体をカバーする多くのCT画像の一部です。そしてこのデータをうまく表示してやると、心臓や冠動脈の様子が<図4B>のように立体的に診断できるようになったのです。

冠動脈は大動脈に近いところでも4mmほどの太さしかないのですが、CTの画像は1mm程度のきめの細かさがあるので、冠動脈の主要な部分の狭窄は十分に調べられます。

図4 心臓のマルチスライスCT
図4:心臓のマルチスライスCT
薄いCT断面を積み重ねた体積データを使って、心臓や冠動脈の三次元画像診断ができる

冠動脈のCT血管撮影-狭窄診断能力はカテーテル法にほぼ匹敵

心臓カテーテルの時に冠動脈の入り口にカテーテルを入れてヨード造影剤を注入し、X線撮影を行う方法-これが最も信頼性の高い冠動脈狭窄の検査です<図5A>。ただ、足の付け根や手の動脈に針を刺してカテーテルを入れる必要があるので、負担の軽い検査ではありません。

<図5B>をご覧ください。今では、造影剤を静脈注射するCT血管撮影(CTA)でもカテーテル法に近い画像が得られます。CTでは血管壁の石灰化プラーク(すでに説明した動脈硬化斑と呼ばれるかたまりに石灰が付いたもの)や、ステント(冠動脈の狭くなった部分を広げておく金網状の筒)が白く見えすぎて、その部分を調べにくいのが欠点ですが、おおよその血管の様子は同じように見えていることがおわかりいただけると思います。

またCTには冠動脈の長軸に沿う曲がった断面や、輪切り断面での表示法もあって、これも狭窄の診断に非常に有効です。<図6A>は左冠動脈が途中でほぼ完全に詰まってしまっている例、<図6B>は左冠動脈の入り口に軽い狭窄がある例の、冠動脈長軸を含む断面表示型のCTAです。

では、冠動脈CTAの診断はどれくらい正確なのでしょうか。16列マルチスライス装置を使ってカテーテル法と比較した報告では、CTAの狭窄診断精度は90%以上とされ、最近の64列装置ではさらに少し精度が向上しています。

また100%に近い「無病予測率」がCTAの特徴です。具体的にいうと、CTで「冠動脈狭窄がない」と診断した場合はまず大丈夫、という意味です。

図5 冠動脈狭窄を調べるには
図5:冠動脈狭窄を調べるには
同じ症例を二つの方法で撮影。冠動脈の狭窄は、二つの撮影法でほとんど同じように見つかっている
図6 断面表示による冠動脈CTA
図6:断面表示による冠動脈CTA
断面表示型のCTAでは、冠動脈の内腔の狭窄とともに、冠動脈の壁の様子もわかる
イラスト:CTAが「冠動脈狭窄がない」と診断すれば、ほぼ100%安心

CTで冠動脈壁を見る-不安定プラークの診断

CTAには、カテーテル法ではわからない冠動脈の異常が診断できるかもしれない、という期待もあります。<図6>の断面表示型のCTAでは、内腔のほかに冠動脈の壁の様子も見えていて、例えば<図6B>では大きなプラークが狭窄の原因となっていることがわかりますが、これはカテーテル法では見えないところです。最近、このような冠動脈壁が注目される背景には、心筋梗塞の起こりかたについての考え方の変化があります。

昔は、心筋梗塞は冠動脈の動脈硬化が進んで狭窄が強くなり、そのなれの果てに起きるものと考えられていました。もちろんそういった場合もあるのですが、最近では、まだ狭窄が軽いうちに脂質を含む軟らかい動脈硬化プラークが破綻して血栓ができ、それが冠動脈を閉塞して梗塞を引き起こすほうがずっと多いことがわかってきました<図7>。

そこで、このような破綻しやすい「不安定プラーク」を前もって見つけることができれば、心筋梗塞の発症予防につながる可能性があります。CTで脂肪は黒く見えるので、プラークの大きさだけでなく、中の性状もわかるのではないか、と期待されていて、CTAによる不安定プラーク診断の研究が進められています。

図7 心筋梗塞の起こりかた
図7:心筋梗塞の起こりかた
心筋梗塞は、まだ狭窄が強くないときに軟らかいプラークが破綻し、そこにできた血栓が冠動脈を閉塞して起きることが多い

心臓のMRI-心筋梗塞をMRIで見つける

MRIとは

次は心臓のMRIの話です。本題に入る前に、MRIはどのような検査かについて、簡単に触れておきましょう。

MRIでは、まず地球の磁気の数万倍の強さをもつ磁石を装備した筒状の装置の中に体を入れ<図8A>、次にラジオの周波数帯の弱い電波を照射して、体のある断面の中に含まれる水素の原子核に電波のエネルギーを吸収させます<図8B>。そして電波の照射を止めると、吸収されたエネルギーは放出されて元に戻り<図8C>、そのときに得られる信号をコンピュータで画像化します<図8D>。理屈は複雑ですが、簡単に言うと磁石と電波を使って水素の原子核の状態を絵にする方法です。

なおMRIでは電波を当てるたびに機械の振動音が発生し、それがかなりやかましい場合もあります。ただ、この検査は放射線を使わないので、「被ばく」の心配はありません。

画像の特徴-断面の自在性と多彩なコントラスト

MRIの断面、つまり電波のエネルギーを吸収させる場所は、機械の操作で自由に決められるので、断面が自在に設定できます。これがMRI画像の特徴の一つで、<図8D>はちょうどCTと同じ体の水平横断の輪切り像です。

画像のコントラストが多彩なこともMRIの特徴です。CTでのヨード造影剤と同じように静脈注射で使うMRI用の造影剤はガドリニウム造影剤で、病気の部分にコントラストをつけるのに使われていますが、その効果はCTのヨード造影剤よりさらに強力です。そして心臓では心筋梗塞の場所が造影されて白く光ること-つまり「遅延造影効果」と呼ばれる見え方が今、話題になっています。

図8 MRIの原理
図8:MRIの原理
MRIでは強い磁石と弱い電波を使って水素原子核を画像化する

MRIの遅延造影効果-非常に鋭敏な心筋梗塞の指標

<図9>にその遅延造影効果の例をお示しします。心筋梗塞の方の心臓の輪切り像、ちょうど<図1C>と同じ「短軸断面」のMRI画像で、ガドリニウム造影剤を注射して10分以上たってからの撮像です。白く光る心筋梗塞のところは、<図9A>では左心室の壁の厚さ全体を占める「貫壁性」なのに対して、<図9B>では壁の左心室に面する部分に限られる様子がよくわかると思います。<図9A>の例は心筋梗塞の場所も<図1C>の模式図にそっくりですね。

ガドリニウム造影剤を注射して数分以上経過すると心筋梗塞の場所が白く染まってくる現象は、実は20年前からわかっていました。それが最近の撮像法の改良ではっきり見えるようになってリバイバルし、大ヒットになりました。

血のめぐりが悪いはずの梗塞部がよく造影されるというのは不思議な気がしますが、これは心筋細胞が死んで数が減り、造影剤がゆっくりと広がってたまる細胞外の隙間(すきま)が正常の心筋よりずっと広くなったためと考えられています。

心筋梗塞の遅延造影の第一の特徴は、梗塞の検出感度の高さで、例えば左心室の内膜側や右心室などのわかりにくい場所にできた梗塞でも、ほぼ100%見つけることができます。

第二の特徴は遅延造影と実際の梗塞の大きさがよく一致することです。このため<図9B>の例では、心室壁の左心室に面した遅延造影部分の外側に、梗塞になっていない「生きた」心筋が残っているのがわかります。ですから、例えばその場所の心筋の収縮が悪くても、カテーテル治療や手術で冠動脈の血流を改善してやれば、働きの回復が期待できることが、この画像から言えるのです。

造影MRIでは心筋梗塞の重症度もわかる

遅延造影効果は心筋梗塞の広がりをよく表すので、その大きさや心室壁内の分布から重症度を判定できることは当然なのですが、起こったばかり、つまり急性期の心筋梗塞では、MRIの造影効果は典型的な遅延造影だけでなく、重症のものとそうでないものに違いがあることがわかってきました。

<図10>はある心筋梗塞の方の急性期と慢性期での遅延造影MRI検査の画像で、<図9>と同じ心臓の短軸断面像です。急性期の心筋梗塞での最も重症の心筋傷害のパターンは、<図10A>のように梗塞部が十分な遅延造影を示さないもので、中心に造影されない黒いところがかなり大きく残っています。このような造影パターンの場所は、慢性期には強い傷跡の状態になってしまって、心筋が薄く、収縮の働きがなくなるのが普通です<図10B>。つまり梗塞心筋の慢性期での回復状況が、急性期の造影MRIである程度、予想できることになります。

図9 心筋梗塞の遅延造影MRI
図9:心筋梗塞の遅延造影MRI
ガドリニウム造影剤を注射して5分以上たつと、心筋梗塞のところはよく造影されて白く見える(遅延造影効果)
図10 梗塞による重症の心筋障害では
図10:梗塞による重症の遅延障害では
急性期に心筋梗塞のところが十分な遅延造影を示さないと、慢性期には強い傷あとの状態になる

古くて新しい心臓のCTとMRI-まとめ

良いところと気になるところ

イラスト:必ず検査の前に申し出てください

CT、MRIともに検査を受ける人にとって負担が少ない「低侵襲(ていしんしゅう)的検査」といわれています。ここで紹介した心臓の検査は、体のほかの場所の検査に比べて少し手が込んではいますが、例えばカテーテル検査に比べると安全で、ずっと楽なことはまちがいありません。

冠動脈のCTと心筋梗塞のMRI検査に共通した問題点はなんでしょうか。気になるところは、造影剤の副作用です。

ヨード造影剤で約3%、ガドリニウム造影剤で1%程度に、むかつきや嘔吐(おうと)、じんましんなどが出ることがあり、重症の副作用は数千人に1人、死亡は数十万人に1人と言われています。

過去に造影剤で副作用のあった方や喘息(ぜんそく)の患者さんは、ない場合に比べてずっと副作用が出やすいので、そのようなことがあれば必ず申し出てください。

冠動脈CT検査の問題点は、X線の被ばくが普通のCTより多いことで、撮影の仕方によってはカテーテル検査の時のX線撮影に匹敵するか、さらに多いとの意見もあります。もちろん、すぐに障害が出るような被ばく量ではありませんが、被ばくを減らすための装置や撮影法の改良は、今後も続ける必要があるでしょう。

MRIはペースメーカ装着者の検査ができないなど、対象者が制限されることが問題ですが、これは心臓や心筋梗塞のMRI検査だからというものではありません。現在のところ、地磁気の数万倍という強い磁場にさらされることによる人体への悪影響は確認されていません。ただ、体内に金属異物があると、体に障害が出る可能性があるので、これも必ず申し出て下さい。

CTとMRIは心臓病の診療に大きな進歩をもたらす

「古くて新しい」心臓のCTとMRIについて紹介してきました。

冠動脈のCT検査は、かなり信頼性の高いことがわかってきたため、カテーテル検査に代わって冠動脈の病気の診断から経過観察まで、広く使われようとしています。

また心筋梗塞のMRI検査も非常に感度が高いので、梗塞の診断だけでなく、その重症度判定や経過の予測にも使用できることが確認されています。

心臓の低侵襲的な画像診断法には、ほかにも超音波検査や核医学検査などの優れた方法があります。それらに新しいCTとMRIを加えてうまく役割を分担すれば、「より優しい検査で、より高度の診療」を提供できるはずです。

ここで解説しました二つの検査には、心臓病の診療に大きな進歩をもたらす可能性があると考えています。

イラスト:より高度の心臓診療へ、より優しい検査で

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