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心臓|循環器病あれこれ|

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

[53]心不全治療の最前線

独立行政法人 大阪医療センター
循環器科
科長 安村 良男

生活習慣の改善、ご家族も協力を

イラスト:「生活習慣の改善、ご家族も協力を」

もくじ

慢性と急性の心不全はどう違うのか

心臓の病気で「心不全」という言葉をよくお聞きになると思います。心不全は病名だと思っている人が少なくありませんが、実は病名ではなく、心臓の働きが不十分な結果、起きた体の状態のことをいいます。その状態には「慢性」と「急性」とがあります。どう違うのでしょうか。

症状の程度を問わず、状態がほぼ一定している場合を「慢性心不全」といいます。もともと心臓病を持っている慢性心不全の患者さんが何かの原因で症状が急速に悪化した場合や、心臓病を持っていない人で急に心臓の働きが低下して心不全症状が出た場合を「急性心不全」といいます。

急性心不全は原因が明らかでない場合もありますが、多くは風邪、過労、ストレス、お薬の中断、高血圧の放置、貧血の出現などが引き金になります<図1>。急性心不全では入院のうえ安静が必要で、多くの場合、酸素吸入や数日間から数週間の点滴注射が必要です。この点滴は患者さんの症状を改善させるのが主な目的です。

慢性心不全は一般的にはお薬によって治療します。そのお薬は症状を軽くしたり、症状が出ないようにしたりするものと、心臓がどんどん悪くなっていくのを抑えるものに分類できます。急性心不全と異なり、慢性心不全では、心不全の重症度に合わせて適度な運動も必要です。

心臓病の原因やその程度は、患者さん一人ひとりで異なり、心臓病を持っていてもほとんど症状の出ない人や、日常生活に支障をきたす人までさまざまですが、ここでは「心不全」という状態に焦点を合わせて話を進めます。

図1 心不全の引き金は、風邪、過労、ストレス、お薬の中断、貧血など
図1:心不全の引き金は、風邪、過労、ストレス、お薬の中断、貧血など

心不全の原因となる病気の治療

心不全は心臓の働きが何かの原因で低下し、それが起こしている状態ですから、治療の原則は、心臓の働きを低下させた原因をはっきりさせ、その原因となる病気を治療することです<図2>。

高血圧、糖尿病、高脂血症は、心不全患者さんに多く合併する病気であり、心臓そのものや、心臓を取り巻く環境に悪影響を及ぼすため、これらの治療はもちろん重要です。

狭心症や心筋梗塞が原因であれば、冠(状)動脈にステント(血管を広げたままにしておく固定具)を挿入したり、場合によって冠動脈バイパス手術をしたりすることが必要です。心臓弁膜症では弁を修復したり、取り換えたりする手術が必要です。

心臓をつくる筋肉自体の病気である拡張型心筋症も心不全の原因となりますが、この心筋症は原因が不明で、根本的な治療法はいまのところありません。わが国で心臓移植の対象となる患者さんのうち最も多いのは拡張型心筋症ですが、すべての拡張型心筋症の患者さんが心臓移植の適応になるわけではありません。その心筋症の程度も軽いものから重症までさまざまです。

これらのほかにも、心不全の原因となる病気はたくさんあります。

図2 心不全の原因、下地となる病気
図2:心不全の原因、下地となる病気

慢性心不全にまず必要な薬物療法

原因はなんであれ、慢性心不全であれば共通の治療法があります。

体内の余分な水分を取り除く「利尿薬」、心臓の働きを手助けする「ジギタリス製剤」が、従来から一般的に用いられてきました。

心房細動や心臓の働きが高度に低下している場合、心臓の中で血液が固まりやすくなり、小さな塊が心臓から飛び散って脳の血管に詰まると、脳梗塞が起こります。その予防のために「ワルファリン」が使用されています。

これらのお薬は症状を軽くしたり、症状が出ないようにしたりするためのものです。つまり、いまの状況に対応するお薬ですが、慢性心不全の患者さんの場合は、心臓が長年にわたり徐々に悪化するのを防ぎ、さらに、突然死などの事故を防ぐことも大切で、長期的な予防に役立つ薬も必要です。

今日では「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」「アンジオテンシン拮抗薬」「アルドステロン拮抗薬」「β遮断薬」などが、心臓の負担を軽くして、心不全の悪化を防ぎ、さらに、長期的にみて予防に効果のあることが証明されています。これらのお薬は患者さんの状態によって組み合わせで使用されます。

「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」は“から咳”が出ることがありますが、怖い副作用ではありませんので、心配はいりません。お薬の中止は主治医とよく相談してください。

「β遮断薬」は従来、狭心症や高血圧の治療薬として用いられてきました。このお薬は心臓の働きを抑える作用がありますから、心臓の働きが低下している心不全患者さんでの使用は禁忌とされてきました。しかし、少量から開始し、時間をかけて徐々に増量すれば、心臓の働きはむしろよくなっていくことがわかり、今日では慢性心不全治療には欠かせない基本的な治療薬となりました。

ちなみに、慢性心不全は、β遮断薬により心臓の働きや症状が劇的によくなることはありますが、決して治る病気ではありません。心不全症状がよくなったからといって、このお薬を中止すると心不全が悪化することがあります<図3>。このお薬は絶対に自己判断で中止してはいけません。もちろん、β遮断薬の開始や増量時に心不全症状が悪化し、β遮断薬の服用を続けられない患者さんもいらっしゃいます。

図3 薬の中断、それが危ない
図3:薬の中断、それが危ない

心不全患者さんの不整脈治療

心不全の患者さんにはしばしば不整脈が認められます。しかし、不整脈が認められたからといって、すぐ不整脈を抑えるお薬をのむのは賢明ではないことがわかっています。不整脈による症状が強いか、危険な不整脈の場合は、お薬をのむことはあります。

中には、もし出現すれば命取りになる可能性のある危険な不整脈があります。この不整脈が出た場合にこの不整脈を停止させてくれる装置、「植え込み型除細動器(ICD)」があります。この装置は見かけは従来のペースメーカーに似ています。患者さんによっては非常に大切な装置です。

心臓のポンプ機能は大きく二つに分けられる

心臓は血液を送り出すポンプによく例えられます。“心臓の筋肉の働きが低下して、ポンプの馬力が落ちると心不全になる”といわれると、一般の方もなんとなく理解できるのではないかと思います。

心臓は血液を送り出す以上に、血液を受け取るという重要な働きをしています。この血液を受け取る働きが低下しても心不全になり、拡張不全と呼ばれています。拡張不全は高血圧を持った高齢女性に多い傾向があります。高齢化が進むにつれ、拡張不全は増加する可能性があります。

拡張不全の治療は従来の心不全治療と大きくは変わりませんが、現在新しい治療法が開発されています。しかし、拡張不全は高血圧とのかかわりが強く、ふだんから高血圧の治療をしっかり行っておくことが重要です。

ぺースメーカーによる治療(両心室ぺーシング)

心不全患者さんの心臓のポンプ力は低下しています。その大きな原因は心臓をつくっている細胞の働きが低下しているためですが、同時に心臓のポンプとしての動きがぎこちない場合があります。このぎこちなさは心臓のポンプ力を低下させます。

ぎこちなさを修正してくれるペースメーカーがあります<図4>。この装置は従来のペースメーカーと似ていますが、従来の装置が心臓の歩調(ペース)を取り戻すのに使うのに対し、心不全の場合は「両心室ペーシング」という方法で心臓のポンプ力をアップするために使いますから、使用する目的が全く違っています。

慢性心不全であれば必ずこのペースメーカーが有効というわけではありません。現在、どのような患者さんに対してより有効かが少しずつわかってきている状況です。このペースメーカーを用いたとしても、従来の内科的治療が基本であることには変わりはありません。

図4 両心室ペーシング
図4:両心室ペーシング
心不全患者さんのポンプ力をアップするために使う。ぎこちない心臓の動きが正常になる。

心不全の外科治療

心臓が非常に大きくなり、しかもポンプ力が非常に低下した場合、お薬だけの治療では、心不全症状の改善や進行の予防に限界があります。このような時は外科的治療を選択する場合があります。しかし、“お薬がだめなら手術”というわけにはいきません。手術に向いている心臓と、向いていない心臓があり、熟練した心不全専門医の判断が必要です。

こんな病気が心不全の外科治療の候補に

(1)虚血性心筋症:心臓に栄養や酸素を供給する血管を冠動脈といいます。この血管が動脈硬化で細くなったり、閉塞したりして心臓の働きがひどく低下することがあります。通常の心臓バイパス手術のみでよくなる場合もありますが、この手術だけでは不十分と考えられる場合、高度に障害された部分を切除するなど、心臓のサイズを小さくする手術が行われることがあります。

この病気では、往々にして僧帽弁の閉まりが悪くなり、左心室から大動脈に拍出されるべき血液の一部が左心房に逆流して、心不全症状の出現に拍車をかけています。この場合は、僧帽弁の逆流を減らすために僧帽弁形成術(場合により人工弁に替える僧帽弁置換術)という手術が同時に行われます<図5>。

(2)拡張型心筋症:この病気は心臓をつくる筋肉、つまり心筋そのものの病気です。すでに説明しましたように、わが国では心臓移植の基礎疾患として一番多い病気です。この病気のときも僧帽弁形成術(場合により置換術)が行われる場合があります。また条件を満たせば虚血性心筋症と同様、心臓のサイズを小さくする手術(バチスタの手術)が行われることもあります。

図5 僧帽弁形成術で血液の逆流を減らす
図5:僧帽弁形成術で血液の逆流を減らす

補助人工心臓

最適な内科的・外科的治療を尽くしても、強い心不全症状が残る場合は、心臓移植を検討して、条件を満たした場合は心臓移植待機となります。心臓移植待機の患者さんの多くは、心不全症状を軽くするために点滴を続ける必要があります。

点滴を続けても強い心不全症状が続く患者さんでは補助人工心臓を装着します<写真1>。この機械をつければ、ほとんどの場合、心不全症状が改善した状態で心臓移植を待つことができます。また、限られた患者さんでは補助人工心臓によってご自分の心臓の働きがかなり改善する場合があります。このような場合は補助人工心臓を外し、またもとのように外来へ通院しながら生活できる可能性があります。

写真1 補助人工心臓

体外設置型の国立循環器病センターの「国循型」(東洋紡製)
制御が簡単で信頼性の高い空気圧駆動方式。
血液ポンプ、制御駆動装置とも体外に設置。

写真1の1:補助人工心臓1 写真1の2:補助人工心臓2

心臓移植と植え込み型人工心臓

心臓移植は現在、わが国では提供される臓器が少ないために年間、数例程度しか行われていません。これはわが国の臓器移植法が国際的にみて極めて特異な法律になっているからです。現在考えられているような法律の改正が行われれば、この数は年間、数百例に増える可能性があります。

心臓移植の成績は、この手術がわが国で始められる前に、いろいろと危惧されていたようなものではなく、手術を受けた人の大部分は元気に普通の生活を送っておられます。しかし、拒絶反応を防ぐためお薬をのむことが必要です。

また、拒絶反応や感染症を完全に抑制する方法はまだできていません。日本の成績は諸外国に比べると良好ではありますが、5年生存率は80%を少し超える程度です。

一方、植え込み型人工心臓は、かつては心臓を取り換える形の全置換型人工心臓が考えられていましたが、現在はもっと単純な形で、左心室だけを補助するタイプのものがいろいろと考案されています<写真2>。原理的には、先に説明しました補助人工心臓と同じで、すでに外国では臨床応用が始まり、わが国でも最近、臨床試験が開始されています。このような植え込み型の人工心臓に、心臓移植と同じような機能を期待することはできませんが、それでも臨床に使えるようになれば、たくさんの慢性心不全の患者さんたちに大きな福音になると思います。

写真2 補助人工心臓「ノバコア」
写真2:補助人工心臓「ノバコア」
血液ポンプ体内設置型の補助人工心臓。電磁石を利用して往復運動をつくりだし、血液を拍出するソレノイド駆動プッシャープレート型「ノバコア」。

運動療法(非薬物療法)

心不全の重症度に合わせた運動制限も必要です。ただし、過度の運動制限は逆効果です。心不全の程度に見合った運動は、運動能力のアップにつながり、日常生活の質の改善が得られる可能性があります。運動の程度は主治医とよく相談してください。

成人病予防も重要

高血圧、糖尿病、高脂血症などは動脈硬化の原因となる有名な成人病です。これらの病気は心臓病の原因ともなり、最近はこれまで以上にその治療の重要性が指摘されています。新しい治療薬の開発がさかんに進められています。しかし、禁煙はもちろんのこと、食生活や運動習慣など日常生活の注意がいかに大切かはいうまでもありません。

これからの治療

心臓の働きが大きく低下した場合は、治療効果にも限界があります。心臓移植のドナーが不足している今日、人工心臓への期待は大きく、小型の長期間使用可能な装置が開発されれば、患者さんに大きな恩恵になることは間違いありません。このように心臓をまるごと取り替えるのでなく、心臓細胞や血管を再生させる治療も開発されつつあります。しかし、治療法に限界がある今日では、心臓が悪くならないように普段から注意をしておくにこしたことはありません。

心不全とは何か、どう対応すべきか、と治療法の最前線を解説してきました。心不全の下地となる生活習慣病などを予防することが大切ですし、万一、心不全になっても悪化させないためにどうすべきかのポイントもおわかりいただけたと思います。

このページが心不全の患者さんだけでなく、患者さんのご家族、心不全の予防を考えている方にも、理解を深める指針になればと期待しています。

運動は医師の指示に従って
イラスト:運動は医師の指示に従って

 

最終更新日 2014年03月12日

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