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[44] カテーテル治療の実際

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
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2004年5月1日 発行

-風船治療とステント治療-

元国立循環器病研究センター
心臓内科CCU
医長 宮崎 俊一

動脈を守れ!多様な治療法

イラスト:動脈を守れ!多様な治療法

もくじ

風船治療とは、ステント治療とは

風船治療とステント治療の話をするには、まず、カテーテル検査について説明しなければなりません。カテーテル検査というのは、足の付け根、手首、ひじなどにある動脈から、直径2mm程度の細い管(これをカテーテルと言います)を心臓の近くまで挿入し、心臓の筋肉に血液を供給している冠動脈(冠状動脈)という動脈を映し出す検査です。

この冠動脈が動脈硬化などのために狭くなる病気が狭心症です<図1>。

風船治療は、冠動脈造影法というカテーテル検査の技術を応用した方法で、「経皮的冠動脈形成術」、「PTCA」、「冠動脈インターベンション」、「PCI」など、いろいろな呼び名があります。この治療法が始まったのは1977年ですから、すでに四半世紀が経過しています。

風船治療では、<図2>のように、まず狭くなった冠動脈へ、先端に風船(バルーン)をつけた極細のカテーテル(バルーンカテーテル)を入れます。この風船をふくらませることで、狭くなっている冠動脈も大きく広がることになります。そのあとバルーンカテーテルは抜き取ります。これが風船治療の仕組みです。

ステント治療は、この風船治療を応用したものです。ステントは、ステンレスなどの金属でできた小さい網目模様の筒を乗せた構造をしています。これを風船治療に使う風船でふくらませます。<図3>は実際のステントを風船で拡張した時の写真ですが、このように冠動脈の狭窄部位でステントを拡張することで病変部を治療するわけです。

つまり、風船治療はバルーンによって動脈硬化部位を広げるだけでしたが、ステントを使って広げると、ステントが支え棒のようになって固定されますから、しっかりと広げることができます。植え込まれたステントは取り出すことはできませんが、風船治療に比べ次のような長所があります。

1.風船治療では、せっかく狭い部分が広がっても30~40%程度の患者さんでは再び狭くなってしまいます。これを再狭窄といいます。普通は治療後3か月以内に起こることが知られています。逆にいうと、3か月の時点で再狭窄がなければ、おおむね治癒したと判断します。

ステント治療はこの風船治療の欠点を補う方法で、再狭窄率は20%前後になります。再狭窄が生じる時期は6か月以内と風船治療よりも長くなりますので、治癒判定時期は少し遅くなります。

2.風船治療中に、まれに冠動脈が閉塞してしまい、急性心筋梗塞となる危険が発生することがありますが、ステント治療を追加することで、いったん閉塞した冠動脈を再び大きく開くことができます。

通常は、ステントを入れることで良くないことが起こることはありません。ただし、まれに冠動脈内に挿入したステントに血栓(血の塊)ができて、急に閉塞する場合がありますので、これを防ぐために、治療後の2~4週間はチクロピジン、アスピリンなどの薬の服用が必要です。

もし、アレルギーや肝障害、胃かいようなどのために、この薬が飲めない場合、ステント治療にはとくに注意が必要です。

図1 冠動脈ってなに?
図1:冠動脈ってなに?
図2 カテーテル治療によって狭窄が広がる様子
図2:カテーテル治療によって狭窄が広がる様子
図3 金属が網目状になったステント
図3:金属が網目状になったステント

狭心症にはカテーテル治療か、バイパス手術か?

狭心症の患者さんがどのような場合に、カテーテル治療が望ましいか、それともバイパス手術が適しているか-については、未確定の部分もありますが、基本的には「どの程度、冠動脈が障害されているか」によって判断しています。

3本の冠動脈が全部障害された患者さんが、どのような経過をたどったかを治療法別に追跡調査した結果を<図4>に示しました(この図は1990年までの成績ですので、新しい薬ができたり、ステントが登場したり、人工心肺を使わない外科手術など、医療技術が進歩した現代では、もっと治療成績が向上していると考えられます)。バイパス術(バイパス手術)やカテーテル治療した患者さんの方が、薬で治療した患者さんよりも死亡率が低いのがおわかりと思います。

これまでのさまざまな研究の結果、大まかには次のように考えて治療しているのが現状です。

A.バイパス術が勧められる場合

左冠動脈の付け根に狭窄がある場合と、3本の大きな冠動脈すべてに狭窄または閉塞がある場合です。これ以外でも、カテーテル治療が極めて困難と思われる場合は、2本以下の狭窄であってもバイパス術をお勧めすることがあります。

逆に3本の冠動脈に問題があっても、カテーテル治療が簡単にできる場合には、バイパス術ではなくカテーテル治療が望ましいケースもあります。ですから、最初に述べた考えはあくまでも原則です。

B.薬物治療が勧められる場合

大きな左冠動脈(左前下行枝)以外の1本の冠動脈だけに問題があり、しかも、薬による治療で心筋虚血(心筋への循環血液量が不足した状態)が十分に治療できていることが、運動負荷試験などの検査でわかっている場合です。

AとB以外の場合で、しかも冠動脈の狭窄または閉塞がカテーテル治療に適している場合には、カテーテル治療を勧めます。それをまとめたのが<図5>です。

カテーテル治療でもバイパス術でも、治療している最中に、避けることができない合併症が生じることがあります。

たとえば、脳梗塞や心筋梗塞が起こることがまれにあり、最悪の場合は死亡の可能性もゼロではありません。一般的にカテーテル治療のために死亡する確率は0.1%と言われています。

どのような治療を受けるかは、十分に説明をしてもらい、よく理解したうえで選ぶようにすることが大切です。

図4 どの治療がよいのか カテーテル治療、それともバイパス術?
図4:どの治療がよいのか カテーテル治療、それともバイパス術?
図5 どの場合に、どの治療が向いているか
図5:どの場合に、どの治療が向いているか

ただちに治療が必要な急性心筋梗塞

急性心筋梗塞とは、冠動脈が急に詰まって、心臓の筋肉が壊れてしまう病気です。急性心筋梗塞になった場合には、できるだけ早くカテーテル検査を受けて、詰まった冠動脈をもう一度血液が流れる状態に戻す「再灌流療法」が最も適切な治療です。

この治療には、薬で行う場合(血栓溶解療法)と、カテーテル治療で行う場合との二つの方法がありますが、近くにカテーテル治療ができる病院があれば、すぐに緊急入院してカテーテル治療、とくにステント治療をしてもらうことが良い結果を生みます。

ただし、カテーテル治療ができる病院へ行くのに時間がかかる場合は、再灌流療法までの時間を短くすることが一番肝心なことですから、まず近くの病院で薬による再灌流療法を受けてから、遠くのカテーテル治療ができる病院へ行ってステント治療を受けるという二つの治療の組み合わせも良い治療です。その流れを<図6>に示しました。

再灌流療法は急いで実施することが何よりも大切なことです。循環器の専門医たちは、急性心筋梗塞の再灌流療法には、発症してから6時間以内をゴールデンアワーと呼んでおり、この治療法が有効な時間帯とみなしています。もっとも、6時間以内ならすべて同等に有効ということではなく、1~2時間以内に実施できれば、もっと良い結果となります。急性心筋梗塞の可能性がある場合には、すぐに近くの医療機関で受診して上記の治療法を一刻も早く実施することが重要です。

図6 急性心筋梗塞の治療は時間が勝負
図6:急性心筋梗塞の治療は時間が勝負

カテーテル治療の実際

実際のカテーテル検査はどう行われるのでしょうか。<図7>はその検査の様子を写したものです。

患者さんは清潔な布に覆われて、検査台の上にあお向けになります。足の付け根にある動脈からカテーテルを入れます(手の動脈から入れることもあります)。最初に細い針で注射して局所麻酔をしますので、カテーテルを入れる際の痛みは感じません。

次に、カテーテルを冠動脈に入れて造影剤を注入し、狭窄の場所を撮影します。この時に『息を止めて』などの掛け声を何回か掛けますので、指示に従ってください。造影剤が入ると一時的に体が熱くなる感じがしますが、数秒で消えますから心配ありません。

狭い部位を風船でふくらませたり、ステントを入れたりする時に、狭心症と同じ症状を感じますが、約1分間で風船をしぼませると症状は消えます。これも心配ありません。

冠動脈の治療が終了した後に、カテーテルを入れた穴からの出血を止めます。通常は医師の手で圧迫して止めますが、特殊な器具(クローザー、アンギオシール、バゾシールなど)で止める方法もあります。出血が止まってからも再出血しないように安静にしていただきます。

ただし、安静にすると腰が痛くなるなど、長い安静時間に耐えられない場合は、先に挙げた特殊な器具で止血すると安静時間は短くてすみます。

ステント治療の場合は冠動脈に入れたステントの中で血液が固まらないようにチクロピジンなどの薬を追加して服用することが必要です。

図7 カテーテル治療の実際
図7:カテーテル治療の実際

新しいカテーテル治療 -薬物溶出性ステント-

カテーテル治療は、もともとカテーテル検査から発達した治療ですので、外科的なバイパス術と比べると、患者さんの体にとっては負担の少ない治療です。しかも狭心症の治療ではバイパス手術と同様の効果が得られるので、特に高齢の方などには良い治療法です。

カテーテル治療には欠点もあります。30%程度の再狭窄が発生するという点がカテーテル治療のアキレス腱でした。最近、これを避けるためステントに薬液を染み込ませた新しいステント<図8>ができました(薬物溶出性ステントという名前です)。

新しいステントで治療した場合の再狭窄率は数%と見込まれていますので、これまでの通常のステントで治療した場合の半分以下となっています。まだ開発されてからの期間が短く、長期間にわたる評価については、完全にわかっているわけではありませんが、これまで再狭窄の問題で苦しんでいた患者さんには朗報となるでしょう。

図8 薬物溶出性ステントの構造
図8:薬物溶出性ステントの構造

その他のカテーテル治療

狭心症の患者さんへのカテーテル治療として、風船治療とステント治療について説明しましたが、この治療以外に(1)ロータブレーター(2)方向性アテレクトミー(3)血栓吸引療法などの特殊なカテーテル治療があります。

これらの治療法の特徴は、冠動脈から動脈硬化を生じている病変や血栓などを取り除くことができる点です。

狭窄の形が複雑な場合や、枝分かれしたところにある場合、石のように硬くなっている場合、あるいは血の塊がある場合などには、それぞれの治療法を適切に選べばうまく広げることが期待できます。

ただし、これまでの報告によると、これらの特殊治療をしても再狭窄が減るわけではありません。

患者の身体に負担が少ないカテーテル治療
イラスト:患者の身体に負担が少ないカテーテル治療

心臓以外にも頭の血管、腎臓の動脈、腹や胸の大きな動脈、足の動脈などに対して風船治療やステント治療が行われています。とくに最近開発された大動脈瘤に対するカテーテル治療は、高齢者や手術自体が困難な場合にも実施できるため注目されています。

<図9、10、11>は胸部大動脈瘤の患者さんにカテーテル治療(ステントグラフト留置術とも呼びます)した時の写真です。<図9>の写真で矢印のところが大動脈の瘤になっています。<図10>は実際にステントグラフトを留置した際の画像ですが、前もって作成したステントグラフトを、カテーテルを用いて胸部大動脈瘤の部位へ留置しています。<図11>の矢印で示すように治療後には瘤そのものが消失するわけではありませんが、ステントによって瘤の内部が固まって血流が消失していることがわかります。このような治療は基本的にカテーテル技術を応用した治療ですので、外科手術に比べると体にとっての負担は少なくなります。ただし、それぞれのカテーテル治療は対象となる臓器によって事情が異なりますので、必ず専門医に相談することが必要です。

図9 胸部大動脈瘤のカテーテル治療(矢印が大動脈瘤)
図9:胸部大動脈瘤のカテーテル治療(矢印が大動脈瘤)
図10 大動脈瘤に留置したステントグラフト
図10:大動脈瘤に留置したステントグラフト
図11 瘤(矢印)は消失しないが、内部が固まって血流がなくなった
図11:瘤(矢印)は消失しないが、内部が固まって血流がなくなった

国立循環器病センターの治療成績

国立循環器病センターでは1985年以来、冠動脈疾患に対するカテーテル治療を行ってきましたので、<図12>に経年変化を示します。近年では700人弱の患者さんに対して実施していますが、ステント治療を追加している患者さんは約2/3へと増加しています。<図13>に初期成功率の変化を示しますが、全体としては約95%で成功します。“初期成功”という意味は“大きな合併症なく冠動脈の狭窄を広げることができる”という定義になっています。

“大合併症”はカテーテルの際にやむを得ず生じてしまう重篤な不具合のことです。具体的には<図14>に示しますが、急に冠動脈が閉塞して緊急手術が必要となったり、急性心筋梗塞が発症してしまったりすることがあります。最悪の場合は死亡することもゼロではありません。ただし、死亡は0.05%以下の発生頻度です。また、初期成功が得られない場合の大部分は、治療前の状態が慢性的に(3か月以上)完全閉塞している血管に対して実施した場合の不成功によって占められています。ちなみに慢性完全閉塞に対してカテーテル治療した場合の初期成功率は約70%です。このような現在の結果は、これまで加えられた工夫の積み重ねによって得られた成果ですが、より良い治療成績を目指して工夫が続けられていますので、将来はもっと良い結果が得られるようになるでしょう。

図12 ステント治療は増えている
図12:ステント治療は増えている
図13 初期成功率は約95%
図13:初期成功率は約95%
図14 “死亡”は0.05%以下
図14:“死亡”は0.05%以下

 

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