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[42] ここまできた人工心臓

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
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2004年1月1日 発行

元国立循環器病研究センター
移植部門長 中谷 武嗣

心臓移植ができれば・・・

イラスト:心臓移植ができれば・・・

もくじ

はじめに

人類は、働きが悪くなり回復不能になった臓器を取り換えて、健康を取り戻せないかと長い間、考えてきました。その結果、臓器移植や人工臓器が登場しました。ここでは人工臓器の中でも重要なものの一つ、人工心臓についてご説明します。

心臓は血液を全身に送り出すポンプとして休むことなく働いています。そのポンプの働きが落ちてくると心不全になりますが、原因によって治療法は異なります。

原因が心臓の弁の異常や、心臓に栄養を与えている冠動脈が狭くなったり、詰まったりしているときには、外科手術やカテーテルを用いる治療によって、心不全から回復させることができます。一方、心臓の筋肉に生じた異常が原因の場合は、まず、薬による治療が行われます。しかし、それが重症の場合は、心臓ポンプの働きを補助したり、代行したりすることが必要で、心臓移植や人工心臓が用いられてきました。

心臓移植は、これまでに世界で6万例以上行われました。成績はよく、80%以上の人が1年以上、半数の方が9.3年以上生存されており、生活の質も良好です。ただし、心臓移植にはドナー(提供者)が必要で、移植実施時期を決めることはできず、また数にも限りがあります。これに対し、人工心臓は必要な時に治療できる手段として期待されており、心臓移植に代わり得るシステムの開発が進められています。

人工心臓には二つのタイプ

人工心臓には、大きく分けて二つのタイプがあります。

心臓の働きが落ち、重い心不全となった患者さんの心臓をそっくり取り除き、その場所に埋め込んで心臓の働きを代行する「全置換型人工心臓(total artificial heart : TAH)」と、重症の心不全になった患者さんの心臓はそのままにし、心臓のそばに置き、その働きを助ける「補助人工心臓(ventricular assist system : VAS)」です。

これらの人工心臓は、血液ポンプ、ポンプを動かす駆動装置、それを制御する装置、さらに駆動装置を働かせるエネルギー系、情報処理系などから成り立っています。これらを「基本構成要素」と呼んでいます。

血液ポンプがどこに置かれるかによって<図1>のように、「体外に設置するタイプ」と、「体内に収納するタイプ」があります。さらに「体内に収納するタイプ」は、制御装置やエネルギー系を体外に設置する「携帯型」と、基本構成要素はすべて体内に収め、皮膚の上からエネルギーを送ったり、制御したりする「完全埋め込み型」とがあります。

図1 人工心臓のタイプ
図1:人工心臓のタイプ

ポンプもいろいろな方式

血液ポンプには(1)人の心臓同様「ドクッ、ドクッ」と脈を打たせながら血液を送り出す「拍動流ポンプ」と(2)水道水が流れるように、拍動がないまま血液を送り出す「無拍動流ポンプ」とがあります。

(1)の拍動流ポンプには<図2>a、b、c、dのように「ダイアフラム型」「サック型」「チューブ型」「プッシャープレート型」があり、人の心臓(自然心臓)と同じように流入したり、流出したりする側に弁が必要で、人工弁が取り付けられています。

(2)の無拍動流ポンプには、スクリューやプロペラのような仕組みで血液を送り出すeのような「遠心ポンプ」や、「軸流ポンプ」と呼ばれる方式があります。この無拍動流ポンプでは人工弁などを必要としないので小型化できます。しかし、このポンプによる血液の流れには脈がありませんから、患者さん自身の心臓の機能低下が大きな場合、脈が触れなくなります。

図2 ポンプのいろいろな型
図2:ポンプのいろいろな型

人工心臓を動かすには

人工心臓を動かす方法を駆動法といいますが、その方法には(1)「空気圧方式」(2)「電気-機械方式」(3)「電気-流体方式」があります。

「空気圧方式」は、空気圧の差を利用して膜やチューブを動かし、血液を送り出します。「電気-機械方式」は、モーターの回転運動を往復運動に変えて血液の拍出を行います。この方式には電磁石を利用して往復運動をつくりだす「ソレノイド駆動法」もあります。「電気-流体方式」は、電動ポンプによる油圧で動かします。また、無拍動ポンプではスクリューやプロペラなどを回転させることで血液を送り出します。

患者さんの心臓を温存したまま取り付ける補助人工心臓では、(1)「患者さん自身の心臓の拍動に合わせて駆動する方式」と、(2)「患者さんの心臓の拍動リズムとは連動しないで駆動する方法」とがあります。「患者さん自身の心臓の拍動に合わせて駆動する方式」では、患者自身の心臓が拍出するときには人工心臓からの拍出を行わず、自分の心臓が拡張する時に人工心臓から拍出が起こるので、患者自身の心臓への負担が軽くなります。

患者さん自身の心臓で不整脈が多い時は、十分な拍出が行えなくなります。そうした場合に「患者さんの心臓の拍動リズムとは連動しないで駆動する方法」が行われます。

以上の人工心臓の仕組みは、わかりにくかったかもしれませんが、説明図<図1、2>を見て、おおまかな仕組みを知ってもらえばよいのです。

人工心臓開発の歩み

人工心臓の開発は、まず1957年にわが国の阿久津、米国のコルフ両博士によって、「全置換型人工心臓」の動物実験が行われ、世界で初めて、自然心臓ではなく人工心臓により全身の循環が維持されました。その翌年には米国のクセロー博士が「補助人工心臓」の実験を行いました。

1962年には、初めてローラーポンプと呼ばれるポンプを用いた左心室の補助が行われ、翌63年には、補助人工心臓による左心室補助の臨床応用が行われました。また、全置換型人工心臓は1969年、心不全の患者さんに対し、心臓移植が実施できるまでの期間を受け持つ、"ブリッジ"(つなぎ)として臨床応用が開始されました。

補助人工心臓

ここで補助人工心臓のことを詳しく説明し、次の項で全置換型人工心臓について解説します。

【1】拍動流型補助人工心臓

(1)血液ポンプ体外設置型

拍動流型で血液ポンプが体外に設置されているタイプの補助人工心臓で、急性重症心不全に対し1か月程度の使用を目的として開発が進められてきました。制御が簡単で信頼性の高い空気圧駆動方式が用いられ、血液ポンプ、制御駆動装置とも体外に設置されています。

わが国では東京大学の「東大型」(日本ゼオン/アイシン精機製)<図3>と、国立循環器病センターの「国循型」(東洋紡製)<図4>が開発されました。

どちらも血液ポンプは、体に接して設置されるので患者さんは歩くことができます。また、血液ポンプを装着した患者さんのQOL(生活・生命の質)をよくするため、国立循環器病センター研究所で小型の駆動装置の開発を進めています。

「国循型」の血液ポンプは、血栓ができにくく機械的耐久性に優れた「セグメント化ポリウレタン製」のダイアフラム(膜)型で、欧米の人に比べ小柄な日本人のことを考えて1回の拍出量は70ミリ・リットル、1分間の最大拍出量は7リットルにしています。

制御駆動装置は、補助人工心臓の拍動数を患者さん自身の心臓の拍動数とは別個に設定できます。これを「固有レート」といいます。また、患者さん自身の心臓の動きに合わせて駆動させる(これを「心電図同期」といいます)ことが可能で、最新型の駆動装置では病棟や病院内での歩行が可能です。

これまでは、左心房から血液を補助人工心臓に引き込む「左房脱血方式」が用いられてきましたが、最近は機能が低下した左心室から直接血液を補助人工心臓に引き込む「左室脱血方式」が多く行われています。この方式の方が自然心臓内で血栓のできる可能性が少なく、また安定した補助ができます。

図3 「東大型」(日本ゼオン/アイシン精機製)
図3の1:東大型1 図3の2:東大型2
図4 「国循型」(東洋紡製)
図4の1:国循型1 図4の2:国循型2
(2)血液ポンプ体内設置型

拍動流型で血液ポンプが体内に設置されているタイプの補助人工心臓には、現在二つのタイプが臨床応用されています。

一つはプッシャープレート型の「ハートメイト」と呼ばれるタイプで、空気圧駆動装置体外設置型とモーター駆動携帯型<図5>があります。また、ソレノイド駆動プッシャープレート型として「ノバコア」があります<図6>。

両方とも米国で開発され、体格が70~80kg前後の人への装着を想定しているため、体の小さい人への応用には問題があります。

図5 「ハートメイト」
図5:ハートメイト
図6 「ノバコア」
図6:ノバコア
(3)体内完全埋め込み型

モーター駆動プッシャープレート型の「ライオンハート」が、ヨーロッパや米国で臨床応用され始めました<図7>

図7 「ライオンハート」
図7:ライオンハート

【2】拍動流型補助人工心臓の臨床応用

わが国では1970年代後半から本格的に人工心臓の開発が進められ、1980年代初頭には「東大型」と「国循型」の臨床応用が心臓手術後の心不全の患者に行われました。その後、両タイプとも1986~88年に臨床応用する試験が行われ、1990年に製造承認が得られました。さらに1994年4月からは、急性心不全への治療として、世界に先駆け健康保険が適用されるようになりました。また、拡張型心筋症による慢性心不全が急に悪化した患者さんにも、1992年から用いられています。

米国で開発された携帯型の拍動流型補助人工心臓の「ノバコア」「ハートメイト」も臨床応用試験が行われ、「ノバコア」は健康保険への採用が検討されています。

健康保険の適用
イラスト:健康保険の適用

【3】補助人工心臓の成績

日本臨床補助人工心臓研究会の集計によると、2002年までに補助人工心臓は557例の治療に使われました。このうち、心筋症以外の急性心不全に使われたのは398例で、大半が「国循型」と「東大型」でした。使用期間は平均18日で、成績は補助心臓から離脱した患者が42%、生存は25%でした。

心筋症の159例では、体外設置型の「国循型」「東大型」に加え、「ノバコア」「ハートメイト」が使用されています。

全例の平均使用日数は185(最長1090)日で、国循型では「左室脱血方式」で264(最長1005)日でした。また、159例中 17例が後に心臓移植を受け、19例が補助人工心臓による補助が不要になる状態に回復し、補助人工心臓を取り外すことができました。

これまでにわが国では17例の心臓移植が行われていますが、全例とも退院し生存中です。うち11例は「補助人工心臓」が取り付けられた患者さんで、取り付けていた期間は長く、6例では1年以上でした。内訳は、7例が「国循型」(最長669日)、2例が「ノバコア」(最長1089日)、2例が「空気圧駆動方式のハートメイト」(最長590日)でした。

臓器移植法が制定されてから、国立循環器病センターで心臓移植の適応と判定された患者さん97例の生存率をみますと、1年、2年、3年でそれぞれ85%、71%、52%と良好な成績となっています。これは補助人工心臓を用いなければ亡くなったであろう人々が生存することができるようになったからであり、もし補助人工心臓を装着していなければ、患者さんはその時点で亡くなっておられると思われるので、生存率は54%、48%、36%となっていたはずです。このように補助人工心臓の使用により患者さんの生存率は明らかに改善されています。

世界的にみると、携帯型の「ハートメイト」「ノバコア」に加え、体外設置型の「ソラテック」などが使われています。「ハートメイト」は1851例に、また「ノバコア」は978例に用いられ、補助期間は、それぞれ平均148日、307日で、最長補助期間は944日、1512日でした。また、装着した患者の50~60%は心臓移植を受けています。「ソラテック」は、体格の小さい人や両方の心室を補助する場合など1841例(うち1300例は心臓移植までの"つなぎ")に使用され、補助期間は最長566日、平均2か月弱となっています。

【4】補助人工心臓で治療したケース

3人の患者さんの実例を紹介します。

その1 40歳代の男性が重症の大動脈弁閉鎖不全症による重症心不全になり、大動脈弁を置換する手術をしました。手術後、集中治療室(ICU)で難治性の不整脈が起きて循環維持が困難となり、「大動脈内バルーンパンピング」(IABP)、「経皮的心肺補助法」(PCPS)によって機械的循環補助をしました。循環は良好に維持されましたが、患者さん自身の心臓の回復はみられず、数日後には出血などの合併症を伴うようになり、さらに長期の循環補助が必要となりました。このため、家族のインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)を得て、両方の心室に補助人工心臓を装着しました。

3週間後に右心室の機能が改善して、右心補助人工心臓を取り除き、さらに1週間後には左心室の機能も改善したので左心補助人工心臓も外しました。その後、カテコラミンの投与やリハビリを行い、患者さんは半年後に退院されました。仕事も行える状態になり、現在7年たっていますが、元気に生活しておられます。

その2 10歳代後半の男性。風邪症状から心不全となり、近くの病院で受診、拡張型心筋症と診断されました。心不全は改善せず、国立循環器病センター病院に転院、内科的治療を続けましたが、心不全が悪化したため、大動脈内バルーンパンピング ※注を装着しました。それでも状態はよくならず、左心室の働きを支える補助人工心臓を装着しました。

装着後、血液循環は安定し、補助心臓をつけたまま病室で歩行できるようになりました。その後、一般病棟に移りリハビリを続け、全身状態が安定してきました。徐々に補助人工心臓による補助を少なくし、患者さんの運動量を増加させましたが、特に循環状態に変わりはなく、患者さん自身の心臓の機能が回復していることがわかりました。

そこで、カテーテル検査などで心臓の機能を検査し、補助人工心臓がなくても十分循環の維持が可能と判断し、3か月後に補助人工心臓を取り外しました。その後も心臓の機能は良好で、退院されて9年、投薬治療を行いながら外来で経過観察中です。

※注大動脈内バルーンパンピング:鼠径部から動脈の中へ風船(バルーン)付きのカテーテルを挿入し、下行大動脈の部分に留置し、心臓の動きに合わせて風船を膨らませたり収縮させることで心臓の働きを助ける補助循環の一つで、急性心筋梗塞や狭心症で多く用いられる。

その3 30歳代の男性。数年前から心不全症状があり、各種の内科的治療が行われていました。その後、急激に心不全が悪化したため入院し、強心薬を投与しましたが、心不全が改善しないため左心補助人工心臓が必要となりました。

補助人工心臓により全身動態が安定した段階で、心臓移植の適応と判定され、日本臓器移植ネットワークの待機リストに載りました。その後、自己の心臓の機能は回復せず、左心補助人工心臓に依存した状態で移植を待ち、結局、1年10か月後に脳死者からの心臓の提供があり、心臓移植が無事行われました。免疫抑制療法を続けていますが、移植後2年半以上たった現在、元気に仕事をしておられます。

脈打たない人工心臓も
イラスト:脈打たない人工心臓も

全置換型人工心臓

米ユタ大学で開発された「ジャービック型」が、拍動流型全置換型人工心臓として1982年から臨床応用されました。ポリウレタン製の血液ポンプを持つ空気圧駆動ダイアフラム型のものです<図8>。

1980年代後半には心臓移植への"つなぎ"として積極的に利用されていましたが、製造上の問題で中止されました。その後、他社が引き継ぎ、現在も両心室不全例の心臓移植待機患者に使われています。

また、米国では完全埋め込み型全置換型人工心臓の開発が進み、電気-流体方式の「アビオコア」の臨床応用が、心臓移植の対象とならず、生命予後が短期間と考えられる症例を対象に行われています。

また、国立循環器病センター研究所を含め米国、韓国、日本で開発が行われています。

図8 「ジャービック型」
図8:ジャービック型

無拍動流型人工心臓

これまで人や動物が、拍動のない状態で生存できるとは考えられていませんでした。しかし、米クリーブランドクリニックでの無拍動流型人工心臓を使った動物実験によって、無拍動流でも3か月間、動物が生存したことが報告されてから、血液ポンプとして無拍動流が注目されるようになりました。無拍動流ポンプは、拍動流で必要とされる人工弁が不要であること、耐久性が向上する可能性があること、体格の小さな患者への応用も容易なシステムになり得ることなどの利点があり、世界の多くの研究チームが開発を進めています。

無拍動流ポンプの画期的なシステムとして、患者さんの胸を切り開かずに、血液ポンプ本体を大動脈内に留置する「大動脈内軸流血液ポンプ(ヘモポンプ)」が開発されました<図9>。

その後、無拍動流ポンプの一つ「軸流ポンプ」の臨床応用が始まり、1年以上の補助例もみられるようになりました。<図10>にその一つであるジャービック2000を示します。しかし、軸流ポンプは高速回転を必要とするため、その耐久性に問題があると考えられています。このため長期使用には、もう一つの無拍動流ポンプである「遠心ポンプ」が優れているとして、数社が臨床試験を目指してシステムの検討を進めています。

また、無拍動流血液ポンプを用いた長期補助による生理学的な影響についても研究が進められています。今後の臨床応用でも、拍動がないことの影響には、注意深い検討が必要と考えられています。

図9 「ヘモポンプ」
図9の1:ヘモポンプ1 図9の2:ヘモポンプ2
図10 「ジャービック2000」
図10:ジャービック2000

今後の展望

重症心不全で心臓のポンプ機能を置き換えることが必要な患者さんは、米国では数万人、わが国でも数千人と推定されています。これらの患者さんに、心臓移植を行うことができれば、いい成績が期待できますが、最初に説明しましたように、提供者が必要なため実施には限界があります。だからこそ、心臓移植に代わる人工心臓の開発が必要なのです。最近、心臓移植の適応とならない末期心不全患者に対し、補助人工心臓の「ハートメイトVE」と内科的治療とを比較する臨床試験が行われ、補助人工心臓装着患者の成績がよかったことが報告されました。重い心不全の最終治療手段として人工心臓が期待されています。

しかし、人工心臓が心臓移植と同等の代替治療となるために解決すべき課題として、長期の抗血栓性・生体適合性・安全性・信頼性・耐久性をどう確保するか、また長期間、安定して作動する計測・制御機構やエネルギーシステムをどうするかなどがあります。

今後わが国でも、心臓移植の定着化を図りながら、代替治療法としての人工心臓の開発、およびその臨床応用を目指すことが必要です。

最終更新日 2016年04月08日

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