ホーム > 循環器病あれこれ > [41] 弁膜症とのつきあい方

[41] 弁膜症とのつきあい方

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

元国立循環器病研究センター
心臓血管内科
医長 中谷 敏

自分の症状を知ろう

イラスト:自分の症状を知ろう

もくじ

弁膜症とは

心臓にはいくつの部屋があるかご存じでしょうか?答えは四つです。では部屋の名前はご存じですか?少し難しいですね。「右心房」「右心室」「左心房」「左心室」といいます。

血液はこれらの部屋を順番に一方通行で流れて行くようになっています。全身から戻ってきた静脈血が流れ込むのが右心房、そこから血液は右心室に入り、次いで肺動脈を通って肺に送り込まれて、そこで酸素化されます。肺で酸素化され、きれいになった血液は左心房に戻り、そこから左心室を経て大動脈に送り出され、全身を巡るわけです<図1>。

このように血液はこれらの部屋を流れて行きますが、一方通行で流れるために部屋と部屋との間に弁(一方弁)が合計四つあります。右心房と右心室の間の弁を「三尖弁」、右心室と肺動脈の間の弁を「肺動脈弁」、左心房と左心室の間の弁を「僧帽弁」、左心室と大動脈の間の弁を「大動脈弁」といいます<図2>。

余談ですが僧帽弁はどうして僧帽弁というかご存じですか?僧帽弁は2枚の帆のような形をした「弁尖」といわれる膜からできています。この2枚の弁尖が合わさった形が、仏教でもキリスト教でも偉いお坊さんのかぶる帽子に似ているから僧帽弁というのだそうです<図3>。

さて、これらの弁は心臓の収縮拡張に従って開いたり、閉じたりして血液がスムーズに、しかも逆流することなく流れるように手助けしています。しかし何らかの原因によって弁の開きが悪くなり、血液がスムーズに流れにくくなったり、あるいは弁の閉じ合わせが悪くなったりして血液が逆流することがあります。これが「心臓弁膜症」といわれる病気です。

弁の開きが悪くなり、血液が流れるのに余分な抵抗がかかる状態を「狭窄症」、弁の閉まり具合が悪くなり逆流が出る状態を「閉鎖不全症」といいます。もちろん、一つの弁で両方の病態が存在する場合もあります。そのときは「狭窄兼閉鎖不全症」ということになります。

図1 心臓と全身の循環
図1:心臓と全身の循環
図2 心臓の中の四つの部屋と弁
図2:心臓の中の四つの部屋と弁
図3 お坊さんの帽子と僧帽弁
図3:お坊さんの帽子と僧帽弁

弁膜症の原因と症状

どうして弁の開きが悪くなったり、閉まりが悪くなったりするのでしょうか。また、そのことによってどんな症状が出てくるのでしょうか。弁ごとに弁膜症の原因と症状をご説明しましょう。弁膜症で症状が出たり、手術治療が必要となったりする弁は主に左側の弁、すなわち「僧帽弁」「大動脈弁」です。したがって、まず「僧帽弁弁膜症」について説明し、ついで「大動脈弁弁膜症」について述べることにします。

1. 僧帽弁狭窄症

以前は、弁膜症といえば、子供の時にかかったリウマチ熱の後遺症として中年以降に発症する僧帽弁狭窄症が大半を占めていました。しかし最近はリウマチ熱に対する治療が迅速に行われるようになったためか、僧帽弁狭窄症はずいぶん少なくなっています。それでもやはり中年から高齢者の方でときどき見かける病気です。

僧帽弁が十分に開かないとどうなるでしょう。僧帽弁は左心房と左心室の間の弁でしたね。その弁が十分に開かないと左心房の血液は左心室にスムーズに流れなくなり、その結果、左心房に負担がかかり、左心房は大きくなります。大きくなると「心房細動」といわれる不整脈が出たり、左心房内に血液がよどんだりするようになり、場合によっては血の塊(血栓)ができることもあります。

ときどき弁膜症の方が脳卒中を起こされますが、この多くは僧帽弁狭窄症のため左心房の中にできた血栓が、血液に乗って流れ出し、脳血管に詰まることによります。また、左心房だけではなく、その手前にある肺にも水がたまって、ときには「心不全」といわれる状態になることもあります。

2. 僧帽弁閉鎖不全症

この病気の原因にはリウマチ性のものもありますが、最近よく見かけるものに「僧帽弁逸脱症」とか「腱索断裂」と呼ばれるものがあります。腱索というのは僧帽弁を左室側から引っ張っている「ひも」のようなものです。何らかの原因(原因不明が大半です)でこの一部が伸びたり、切れたりして、弁を支える力が弱くなり、弁の一部が左房側にひっくりかえるようになって逆流が起こる病気です。

この病気では左心室から大動脈へ送られる血液の一部が逆流するわけですから、その分、左心室は余分に仕事をしなければなりません。その結果、左心室は大きくなってきます。もっと進行すると、左心室は大きくなるだけではなく、動きまで悪くなって心不全につながります。また逆流した血液は左心房に負担をかけますので、僧帽弁狭窄症のときと同じように息切れが出たり、肺に水がたまったりすることにもなりかねません。

3. 大動脈弁狭窄症

大動脈弁の狭窄症はリウマチ熱の後遺症で生じることもありますが、最近は、それよりも高齢者の方で大動脈弁が硬くなって一部に石灰組織が沈着し、開きの悪くなったケースが増えてきました。これは加齢に伴う大動脈弁狭窄症といわれるもので、弁を長年使い込んできたために硬くなってきたからと考えられていますが、高血圧や高コレステロール血症などと関連があるのではないかともいわれています。

比較的若い方でも大動脈弁狭窄症が生じることがあります。これは「大動脈二尖弁」といわれる先天的な弁の異常によるものです。本来、大動脈弁は弁尖といわれる膜が3枚あって、それがうまく弁口をふさぐことによって弁が閉じる構造になっていますが、その弁尖が生まれつき2枚しかないために弁に負担がかかり、硬くなったり、逆流したりするものです。この疾患は決してまれなものではなく、ごく軽い場合まで含めると100人に1~2人が二尖弁だといわれています。

大動脈弁の開きが悪くなって血液が流れるのに抵抗が生じても、左心室はその抵抗に打ち勝って全身に必要なだけの血液を大動脈の方に送らなければなりません。そのため左心室は壁が分厚くなってしまいます。これが「心肥大」です。

重症になると狭い大動脈弁口から送り出される血液が十分な量ではなくなり、心筋の酸素不足が生じて胸痛が生じたり、失神を起こしたりすることすらあります。また左心室への無理がたたって心不全になることもあります。

4. 大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁の閉鎖不全症は、リウマチ熱の後遺症、加齢に伴う変化、二尖弁など大動脈弁そのものの変化から生じるだけでなく、「大動脈瘤」や「マルファン症候群」といわれる大動脈の病気によっても生じます。この病気では大動脈弁が完全に閉じないために、左心室から大動脈に送り出した血液の一部が再び左心室に戻ってくることになり、左心室はその分、余分な仕事をしなければなりません。そのため左心室は心肥大を示すのみならず、しだいに大きくなってきます。この病気でも、最終的には体を動かしたときの息切れなどの心不全症状が出てきます。

5. その他

これまで説明しましたように、僧帽弁疾患や大動脈弁疾患など左側の心臓の病気では、いずれもその手前にある肺に負担がかかる可能性があります。肺に負担がかかれば、その手前の右側の心臓にも負担がかかってきます。三尖弁は右心房と右心室の間の弁ですが、そのような負担によって閉鎖不全症が生じることがよくあります。高度の三尖弁閉鎖不全症では肝臓がはれたり、足がむくんだりすることがありますが、多くは利尿剤でコントロールすることが可能で、日常生活であまり大きな問題になることがありません。

これ以外にも三尖弁狭窄症や肺動脈弁狭窄症、閉鎖不全症といった病気もありますが、それほど多いものでもなく、また、あまり日常生活に支障をきたすこともありません。

なお弁膜症では二つ以上の弁が悪くなることがよくあります。このような病態を「連合弁膜症」といいます。症状は、それぞれの弁膜症に応じた症状をいわば足し算したものになります。

弁膜症の診断や重症度評価は、いまは心エコー検査で簡単にできます。心雑音があるといわれた方は、ぜひ一度、心エコー検査を受けて下さい。心エコー検査は痛くもなく、それほど手間のかかる検査でもないので、経過を追うのにも最適の方法といえます。

痛くないエコー検査 手間もかからない
イラスト:痛くないエコー検査

弁膜症の治療

軽症から中等症の弁膜症で自覚症状もない場合は、特に治療をせずに経過だけを見ます。経過を見なければいけないのは、何年か後に進行してくる例があるからです。

中等度以上の弁膜症でも心臓の機能が障害されていないときは、日常生活で自覚症状が出るのを遅らせたり、心筋の機能を保護したりする意味合いから薬物治療を行います。重症例で内科的治療の限界にある場合には、手術治療(僧帽弁狭窄症に対するカテーテル治療を含む)が必要となります。特に大動脈弁狭窄症では有効な薬物治療がないため、症状がある場合は手術以外に治療方法がありません。

一般的に弁膜症の手術は(1)日常生活で症状があるとき(2)心機能が低下してきたときに考慮します。しかし、病気の種類によってはゆっくりとしか進行しない例もあり、手術時期には比較的幅のあることがあります。詳しくは主治医とご相談ください。

どういうことに気をつけるか-手術前

弁膜症の多くはゆっくりとではありますが、しだいに進行してきます。しかも、その進行度合いは個人によってまちまちで、一概に予測することはできません。ですから、手術の至適時期を逃さないためには、特に症状に変化がなくても、1年に1度程度は心エコー検査で弁膜症の進行度合いをチェックしてもらった方がいいでしょう。もちろん自覚的に何か変化が出てきたときには、早めに検査を受けるようにしてください。

弁膜症の自覚症状は、すでに説明しましたように息切れなどの心不全症状が多いのですが、不整脈や血栓塞栓症(できた血栓が血液の流れに乗って身体の各部位に詰まること)に伴う脳卒中や、その他臓器の塞栓症状で発症することもあります。弁膜症が中等度であっても、自覚症状がなければ特に日常生活を制限する必要はありません。しかし、弁膜症のために常に心臓に負担がかかっているのは事実ですから、過激な運動はしない方がいいでしょう。

それから弁膜症の方はぜひ「感染性心内膜炎」という病気のことを知っておいてください。これは何らかの原因で血中に入り込んだ病原体が弁膜症の方の弁に感染巣を作り、弁を破壊したり、塞栓症を引き起こしたりする病気です<図4>。

この病気は、場合によっては緊急手術をしないといけないことがあります。感染のきっかけには、歯科治療、風邪、上気道炎、外傷などがあります。特に歯科治療後が多いとされていますので、弁膜症の方で抜歯などの歯科治療が必要となる方は、あらかじめ歯医者さんとよく相談し、術前から抗生物質を服用するようにしてください。また原因不明の発熱が続く場合には、早めに受診してください。

僧帽弁狭窄症の方や心房細動を合併している方は、左心房の中に血栓ができやすくなっていますので、多くは「ワーファリン」という薬を服用してもらって血栓をできにくくしています。ワーファリンが足りないと血栓ができるかもしれませんが、反対に効き過ぎていると出血したときに止血しにくくなります。ワーファリンを服用している方は定期的に血液検査をして血液の固まり具合がちょうどいいところにあることを確認してもらってください。また外傷などに気をつけることも大切です。

図4 感染性心内膜炎で弁に菌の固まり(矢印)がついている
図4:感染性心内膜炎で弁に菌の固まり(矢印)がついている

どういうことに気をつけるか-手術後

弁膜症の手術には自分の弁を修繕する方法(「弁形成術」)と、人工の弁に入れ換える方法(「人工弁置換術」)があります。人工弁にはウシやブタの組織など生体の材料を使った「生体弁」と、人工の材料を使った「機械弁」とがあります。

手術後の薬物治療は、手術前の状態や疾患の種類によって異なってきます。中にはまったく薬が要らなくなる方もいますが、多くは何らかの薬物治療が必要で、引き続き日常生活でもある程度の制限をしなければならない方もおられます。また、機械弁を入れた方、生体弁を入れても心房細動がある方はワーファリンを使うことになりますので、前に述べた注意点に気をつけてください。

自分がどのような手術を受け、どのような薬物を服用しているかは知っておいた方がいいでしょう。万一、他の病気で緊急手術を受けないといけない場合になっても、そのような情報があればたいへん役立ちます。

その他、手術を受けられた方の注意すべき点を次に示します。

1. 人工弁機能不全の可能性

最近の人工弁の性能はたいへん優れていますが、それでも長年月たつと壊れてくる可能性があります。ことに生体弁はワーファリンを使用する必要がない反面、機械弁に比べて耐久性が劣っており、弁が壊れたり、変形、硬化したりして、弁の機能が低下することがあります。これにもやはり弁狭窄と弁逆流があります。

出てくる自覚症状も、通常の弁の狭窄や閉鎖不全と同様で、尿量が減る、手足や顔がむくむ、たんが増える、夜間まっすぐな姿勢のまま寝ると息苦しい、などの心不全症状です。また、ときどき逆流の出方によっては赤血球が壊される溶血症状が出ることがあります。この場合は血尿や貧血が見られます。まず主治医に自分に使われた弁の耐久性についてよく聞いておきましょう。そのうえで、説明したような症状が出てこないか、日常生活で気をつけてください。

2. 感染性心内膜炎の可能性

感染性心内膜炎は人工弁置換術後の患者さんに発症することもあります。原因不明の発熱が続くときや、急激に心不全症状が出てきたとき、塞栓症状が出てきたときは直ちに主治医に相談してください。場合によっては緊急で再手術が必要となる可能性もあります。細菌感染の原因としては、歯科治療、風邪、上気道炎、外傷などがあげられます。特に抜歯には注意してください。ふだんよりうがいなど励行し、感染予防に努めましょう。

3. 塞栓症、出血の可能性

人工弁は生体にとって異物であり、そのため血栓ができやすくなっています。もちろん血栓予防のためにワーファリンを服用していただくわけですが、それでも血栓ができるのを100%防げるわけではなく、まれに、できた血栓が血液の流れに乗って身体の各部位に詰まる塞栓症が起こることがあります。詰まりやすい部位は、脳、腹部、腎臓、手足の血管などです。

症状は<表>を参照してください。

また反対にワーファリンが効き過ぎて、出血しても止血しにくい状態になることもあります。胃かいようなどの消化管出血が止まらない、頭部を打撲した後に脳出血が起こる、はぐきからの出血や鼻血が止まらないなど、いろいろな事態が考えられます。何か異常があれば直ちに主治医に相談してください。また外傷には気をつけることが必要です。ワーファリンは食物や他の薬物の影響を受けて、効きが悪くなったり、反対に効き過ぎたりすることがあります。どんな食物や薬物が影響を与えるか、主治医や薬剤師に尋ねるか、ワーファリンのパンフレットをご覧ください。

4. 心不全

術前の心機能障害が強かった方の中には、弁膜症の手術をしても術後の心機能の回復が思わしくない方がときどきおられます。そのような方は日常生活でもある程度の制限が必要になってきます。たとえば

  • 心臓に負担をかけるような運動や作業を避ける
  • 体重を毎日測定して増えないように気をつける
  • 水分制限、塩分制限を行う
  • むくみがないかどうか気をつける
  • 十分な睡眠と休養をとるよう心がける
  • 風邪などをひかないように気をつける

などです。自分がどの程度の制限をしなければならないか、あるいはまったくしなくてもいいのか、手術が終わって退院される前に主治医によく聞いてみてください。

表 弁膜症の自覚症状
心不全症状

尿量が減る、体重が増える

むくみ

息切れ

夜間まっすぐ寝ると息苦しい

消化器症状。食欲低下、吐き気、消化不良、
身体がだるい、肝臓の辺りが重い

せきが出やすい

たんが出やすい(重症例では淡いピンクで泡状)
不整脈

期外収縮や、心房細動、心房粗動など
血栓塞栓症



舌のもつれ、めまい。手足のしびれ、脱力感、半身まひ、眼の症状(物が二重に見える、視野の一部が欠けるなど)
腎臓・腸管


腹痛、腰痛
手足

指先のしびれや痛み、冷たくなる、青くなる
感染性心内膜炎

発熱

心不全症状

全身臓器の塞栓症状

弁膜症とのつきあい方-まとめ

弁膜症は決してまれな病気ではありません。また多くの例で、非常にゆっくりとではありますが、だんだん進行していきます。しかも最終的な治療は外科治療しかありません。しかし、弁膜症であることがわかっても決してがっかりされることはありません。なぜなら、幸いなことに弁膜症は治療法もわからない難病などでは決してないからです。外科治療法はほぼ確立しており、成績も安定しています。さらに人工弁や手術法自体もどんどんと新しい工夫がなされ、進歩しつつあります。

弁膜症といわれた方は、まず自分がどの弁の弁膜症で、どの程度の重症度かを主治医にしっかり聞きましょう。そしてその重症度に応じた生活を、いつの日にかやってくる手術の日までエンジョイされればいいと思います。手術が終われば、すでに説明しました点に注意を払いつつ再び生活をエンジョイしてください。

生活をエンジョイするために
イラスト:生活をエンジョイするために

 

ページ上部へ