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[139] 循環器病の〝ハートチーム〟医療

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター
心臓血管外科部門心臓外科 部長 藤田 知之

患者さんとハートチームは「ワンチーム」

もくじ

  1. だれに診てもらいますか?
  2. ガイドラインで治療方針は決まる
  3. ハートチームのこと
  4. 狭心症・冠動脈疾患の場合
  5. 弁膜症では
  6. TAVI(タビ)は負担が少ないが...
  7. マイトラクリップとダビンチロボット
  8. 重症心不全
  9. まとめ

だれに診てもらいますか?

かりつけのお医者さんに「あなたは心臓の病気です」と言われたら、どうしますか? 健康診断で「心雑音あり」と書かれていたら、どうします? そうです、心臓専門のドクターへ紹介状を書いてもらいますね。宛名は「〇〇病院循環器科」です。これで一安心です。でも、ちょっと待ってください。

環器科は内科ですか、それとも外科ですか? たいてい循環器内科ですよね。内科といえば検査し診断して、お薬を出して、時には、細い管を血管内に導いて行うカテーテル治療などをしてくれます。

でも、あなたの病気は、手術がいらないのでしょうか? 本当は手術を受けたほうが長生きできたり、調子が良くなったりするかもしれません。そういう不安を抱える人もいます。

ガイドラインで治療方針は決まる

本的には心配はいりません。すべての循環器内科医・心臓血管外科医は、ガイドライン(診療指針)に沿って治療を決定します。

イドラインには「このような病態(病状)にはこのような検査が推奨される」、「この病態にはこの治療が推奨される」などが書いてあります。推奨とは「すぐれていることをあげて、それを人にすすめること」

紹介状

(明鏡国語辞典)で、基本的に検査や治療は、このガイドラインの〝推奨〟に従って進めます。

ガイドラインから逸脱した治療が行われた場合、患者さんに不利益が生じる可能性があります。なぜなら、ガイドラインは数多くの研究から導き出された結果(エビデンス・根拠)にもとづいているからです。

もう少し詳しく説明すると、エビデンスにもとづき、どれほど強く推奨できるかを示す推奨度には、クラス1からクラス3まであり、有効性の高いものはクラス1、その次はクラス2aです。

エビデンスクラス・推奨クラス

(注1)無作為試験:治療効果を客観的に確かめるため、標本をランダム化、つまり偶然に任せて分けてから比較する方法
(注2)メタ解析:同じ目的で行われた複数の研究結果を総合して分析、より広く高い視点からの結果を得る解析法

この二つは多くの研究(論文)を解析、医学的に意義のあることが証明されたもので、医師にとって胸を張って「この治療が良いです」と言えるものです。証明された論文のレベルが高ければ、「エビデンスレベルが高い」と言います。

クラス2bになると、「この治療はおそらく有効だけど患者を選んでやりましょう」といった感じの推奨レベルです。論文での証明も参加人数の少ない試験であったり、条件が異なる2群を比較する論文であったり...と、根拠があまりしっかりしたものではありません。

証明された論文のレベルが低いので「エビデンスレベルが低い」と言います。クラス3は「やってはいけない治療」として証明されているものです。

ですから、どの病院に行っても基本的にはこのガイドラインに沿って検査、治療が行われるので心配はいらないのです。

ハートチームのこと

最近の循環器病のガイドラインの特徴は「ハートチームで討議して決定するべき」といった推奨が、クラス1で記載されていることです。

ハートチームとは、循環器内科医と心臓外科医を含む多くの職種で構成されたチームです〈図1〉。患者さんにとっては1対1の治療から1対チームの治療に代わるわけです。

図1 多くの職種で構成されたハートチーム
図1 多くの職種で構成されたハートチーム

一人の医師が診察・治療に当たるのではなく、ハートチームで治療方針を決め、このチームで治療にあたるほうが公正で、治療効果も良くなることが証明されています。多面的な角度から患者さんの病態を見極め、治療の選択肢が増えることで、より安全、より有効な治療が行われることになります。

ハートチームは様々な心臓の病気で編成されますが、主に、細い管を血管内に導いて行うカテーテル治療を含む内科治療と手術(外科治療)の両方の選択肢がある場合には、極めて有効な治療態勢となります。また、内科と外科が協力して治療する場合も有用です。①狭心症・冠動脈疾患②弁膜症③重症心不全が、その代表です。

狭心症・冠動脈疾患の場合

心臓に栄養を与える冠動脈に病気が起こることを、狭心症や冠動脈疾患と呼びます。川崎病などの特殊な病気もありますが、たいていは加齢や生活習慣からくる動脈硬化が原因で冠動脈が狭くなったり、詰まったりする病気です。

冠動脈が狭くなって運動時などに胸が痛くなる病気を狭心症と呼び、冠動脈が閉塞し心筋が壊え死しした病態を心筋梗塞と言います。いずれも命にかかわる重病で、的確な診断と適切な治療がすぐに必要です。

冠動脈を専門とする循環器内科医と心臓外科医を中心としたハートチームは、初期治療の段階から患者さんに接します。重篤な患者さんの時は緊急で呼び出される場合もあります。

「どの治療が適切か」、「いつ、その治療をするか」を話し合い、患者さんのこれまでの健康状態、年齢などを考慮し、手術に伴う危険性「手術リスク」(STSスコアなど)を計算します。また、冠動脈の病変から「複雑スコア」(SYNTAXスコア)を計算し、細い管を血管内に挿入して行

治療はハートチームで討議して決める

うカテーテル治療が適しているか、それとも手術が適しているか、を総合的に判断することも重要です。

国立循環器病研究センターでは、週1回、定期的に冠動脈カンファレンス(検討会)を行いますが、常に緊密連絡をとりあうハートチームがあるため、患者の救命に役立っています。

手術になる場合は「グラフト(治療に使う血管などの組織片)をどこに縫い付けるか?」ということもハートチームで事前に話し合います。そして許可された医療者であれば、すべての職員が映像を通じて心臓の手術の様子を見ることができます。

つまり成熟したハートチームがあれば、手術は外科医の独断で行われることはなく、密室で行われることはありません。手術は外科医が担当しますが、手術後に内科治療が必要な場合は、すぐに内科に移され治療は継続されます。

当院ではまだあまり行っていませんが、「ハイブリッド冠血行再建」という手術が最近、海外で話題になっています。

冠動脈バイパス術とカテーテル治療を同時に行う治療です。外科医が長期成績の良い「内胸動脈-前下行枝バイパス手術」を行い、残った病変に対してカテーテル治療をする方法です。

最大の利点は、胸骨を切り開く「胸骨正中切開」を回避できるので、良好な長期成績が期待でき、しかも術後のQOL(生活の質)を高めることができます。これまでの治療より優れているかどうかの証明はされていませんが、ハートチームの良さが出る治療で、日本での導入も待たれるところです。

弁膜症では

弁膜症は心臓の弁膜に異常がおき、心不全を生じる病気です。この弁膜症の分野でもハートチームが生きます。なぜなら、循環器内科医と外科医が、ともに手術室に入って治療にあたるからです。

弁膜症治療には様々な段階があります。①内服薬治療②ペースメーカーや収縮同期化用ペースメーカー(CRT)など医療装置を使うデバイス治療③カテーテル治療④外科治療⑤患者さんを支援しQOLを高める緩和医療、などです。

弁膜症は心臓の弁口が狭くなる「狭窄症」と、弁がうまく閉じない「閉鎖不全症」に分かれます。いずれも物理的に狭いか、逆流しているかなので、物理的に治す手術が最終的には最良であると言えます。

しかし、手術はリスクを伴いますので、内服薬治療で症状が出なければ様子を見る場合もありますし、逆にリスクが高すぎて手術を回避する場合もあります。カテーテル治療は外科手術ほど「根治性と長期耐久性」が高くないものの、手術のリスクが高い人に適応される傾向にあります。この決定こそハートチームで行われます。

TAVI(タビ)は負担が少ないが...

先日、68歳の女性の患者さんが他の病院で「高度大動脈弁狭窄症」と診断され、紹介されてきました。その他の体の状態は問題なく「手術リスクの低い人」と思われました。

しかし、その患者さんは「私の知り合いに85歳の女性の方がいて、最近、TAVI(タビ)を受けました。とても元気そうで、私もああなりたい。TAVI治療を希望します」とおっしゃいました。

TAVIとは「カテーテルによる大動脈弁置換術」のことです。TAVIは胸を切らずに治療できるので体の負担の少ない治療です。高齢者や手術リスクの高い人に向いている治療といえます。しかし、最近開発された治療法なので、長期成績は不明です。

内服薬治療・ペースメーカーなどデバイス治療・カテーテル治療・外科治療・緩和治療

年齢にもよりますが、ウシ、ブタの弁を加工して使う生体弁なら20年の耐久性はあるのに、TAVIだと10年くらい、とも言われています。そうすると、この68歳の女性の方は、78歳の時に再治療が必要となります。68歳の女性の平均余命は約26年です。この年月をどう乗り切るかを患者さんと良く考えるのがハートチームの仕事です。

最近、劣化した生体弁の中にTAVI弁を挿入する「バルブインバルブ」という治療が健康保険の適用となりました〈図2〉。健康保険は生体弁の劣化には適用されますが、TAVI弁の劣化には適用されません。そのため、この患者さんは今回TAVIを行うと、78歳の時に開胸手術が必要となる可能性があります。

図2 バルブインバルブ

劣化した生体弁にTAVIを行い、弁機能を復活させる手術。図はステントのある生体弁の中にワイヤーで構成されたTAVI弁が挿入されている様子

図2 バルブインバルブ

一般的に高齢での開胸手術はリスクが高くなります。正しい情報を提供し、患者さんに選択肢を示すのもハートチームの重要な役割です。結局この患者さんは生体弁に取り換える生体弁置換術を選択されました。

TAVIは内科医と外科医が同じ手術室(「ハイブリッド手術室」と言います)に入って治療を共同で行います。もちろん麻酔科や放射線技師、看護師、臨床工学技士などとの共同作業も欠かせません。TAVIの成功のためには、チームワークの良いハートチームが必須です。

マイトラクリップとダビンチロボット

僧帽弁の治療にも「マイトラクリップ(MitraClip)」というカテーテル治療が最近行われています。体への負担が少ない低侵襲で安全な治療といわれています〈図3〉

図3 マイトラクリップ

マイトラクリップが僧帽弁に取り付けられている様子

図3 マイトラクリップ

一方、外科手術も「ダビンチ」という医療ロボットを利用した手術〈図4、図5〉など、低侵襲ということであれば引けは取りません。ダビンチロボットの手術結果はとても良好です。

図4 ダビンチ手術システム

心臓外科医が座り、手術を進めるコンソールと呼ばれる操縦席(左側)。手術者の操作に従い、ロボットアームが人間を上回る繊細、正確さで動き手術が行われる。ロボットのアームが搭載されているのがペイシャントカート(右側)

図4 ダビンチ手術システム

図5 ロボット手術の現場

ロボットのアームは手術者の両腕にあたり、手術者がアームを慎重に操作し心臓手術が進む

図5 ロボット手術の現場

現在のところ手術リスクが高い人にだけ、マイトラクリップが適応されています。ガイドラインがあるとはいえ、患者さんそれぞれで症状も病態も異なるため、正しい治療の選択には高度な専門性が必要です。

医療従事者でない患者さんやご家族が安心して治療を選択できるようにするには、カテーテル治療を担当する内科医と手術を行う外科医が同じテーブルで話し合って治療方針を決め、患者さんやご家族に詳しく説明し、提示することが極めて重要です。

重症心不全

心臓移植と人工心臓は、すでに説明しました手術や治療方法では治せないくらい心臓が悪くなった人に行われる治療です。

残念ながら日本では心臓移植のドナーの数が足りません。そのため、移植を受けるには数々の条件をクリアしなければなりません。心臓の状態だけではなく、家族のサポートや禁煙、禁酒なども条件になります。移植適応と診断されても、長年月、提供登録者からの心臓の提供を待つ必要があります。

ハートチームはこれらの患者さんを支えます。5ページの〈図1〉で示した職種以外に、移植コーディネーターや移植専門医が中心のチームとなります〈図6〉。外科医は重要ではありますが、あくまでチームの一員です。移植した後も免疫抑制剤の治療が続き、患者さんと医療者はずっと付き合っていかなければなりません。そのため、患者さんと医療者は垣根を越えて、共同して「ワンチーム」で病気に立ち向かうことになります。最も進んだハートチームの形がここにもあります。

図6 心臓移植のハートチームは...
図6 心臓移植のハートチームは...

まとめ

このように、これからの医療は、個人の医師ではなく、チームとして患者さんに向き合うことが重要です。

現在の進んだ専門病院には「ハートチーム」が必須となっています。このワンチームによる医療がさらに広がり、しっかりと定着することを願っています。

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