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[135] 増え続ける高齢者の心不全

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター
心臓血管内科部門心不全科 部長 泉 知里

「国循」と「健都」の役割... 新しい医療・研究への飛躍

もくじ

  1. 心不全は流行病?
  2. なぜ年をとると心不全になりやすい
  3. 心不全の症状
  4. 心不全の分類
  5. 心不全の診断
  6. 心不全急性期の治療
  7. 心不全慢性期の治療
  8. 慢性心不全の経過:悪化を繰り返さないのがかぎ
  9. 増えている大動脈弁狭窄症も高齢者心不全の原因に
  10. 最後に...

「心不全」という言葉、最近よく耳にされるのではないでしょうか?
西城秀樹さんが心不全で亡くなった...。つい最近もこのようなニュースが流れました。

でも心不全ってなんでしょう? なんとなく「心臓が悪い」ということはわかると思いますが、実際にどんな病気なんだろう?どんな症状が出るんだろう?どうしたら防げるのだろうか?ニュースを聞くたびに不安になられる方も多いのではないでしょうか?

今回は、そのような疑問に少しでも答えられるよう、心不全についてお話をしたいと思います。

心不全は流行病?

「心不全パンデミック」という言葉が、最近になってよく使われます。パンデミックとは、「大流行」という意味です。えっ、心不全って流行病なの?と驚かれるかもしれません。もちろん心不全は感染する病気ではありません。この「心不全パンデミック」という言葉は、大流行と思われるくらい増えている、という意味です。

ご存じのように、日本は世界の中でも類(たぐい)まれな高齢化社会を迎えています。〈図1〉を見てもらえば高齢化の進行ぶりがよくわかると思います。

高齢になればなるほど、心不全の患者さんが増えることが知られています。そのため、この50年間、心不全患者さんがどんどん増え、〈図2〉

図1 高齢者の比率は高まるばかり
図1 高齢者の比率は高まるばかり

のように、2030年頃までその傾向が続くだろうと予想されていますので「心不全パンデミック」という言葉が使われるのです。

図2 心不全パンデミック
図2 心不全パンデミック

「心筋梗塞」や「高血圧」はそれぞれ一つの病名ですが、「心不全」という言葉は病名ではありません。心不全は、〝心臓の働きが低下し、心臓に負担がかかった状態〟を指す言葉で、いろいろな心臓病〈表〉によって起こる、最終的な状態をいいます。

表 心不全の原因となる心臓病
  • 虚血性心疾患・陳旧性心筋梗塞
  • 拡張型心筋症
  • その他の心筋症
  • 高血圧性心疾患
  • 弁膜症:僧帽弁/大動脈弁疾患
  • 先天性心疾患
  • その他

なぜ年をとると心不全になりやすい

高齢者はなぜ心不全になりやすいのでしょうか?

心臓は、左右の心房と左右の心室という四つの部屋からなっています〈図3〉。左心室は全身に血液を送るポンプの働きをし、全身に送られた血液は体の各臓器に送られ、そこで酸素が使われて右心房に帰ってきます。血液は右心房から右心室を経て肺へ送られ、肺で酸素を得て左心房に戻り、左心房から左心室に向かい、再度、全身に送られます。

年をとると、加齢現象で心臓の筋肉が硬くなってきます。左心室の筋肉が硬くなる、つまり弾力性がなくなってしまうと、左心房から左心室に血液が流れにくくなり、左心房、ひいては肺に血液がうっ滞、つまり滞りやすくなってしまいます。これが心不全です。そのため、年をとると心不全なりやすくなるのです。

図3 心臓の構造

図3 心臓の構造

また、先ほど説明しましたように、心不全はいろいろな心臓病によって起こります。年齢とともに動脈硬化が進み、心筋梗塞や弁膜症が起こりやすくなりますので、心不全を引き起こす心臓病の頻度も、高齢者では高くなります。ですから、当然、心不全も高齢者で多くなるわけです。

心不全の症状

心不全になると、肺に血液がうっ滞するので、動いたときに息切れがしたり、動悸(どうき)がしたりします。ひどくなると、安静にしていても息が苦しくなったり、咳(せき)が出るようになったりします。

特に夜間、寝ていると息が苦しくなり、起き上がると楽になるという場合、心不全に典型的な症状です。また肺だけでなく全身に血液がうっ滞すると、足がむくんだり、おなかが張ったりします。

心臓から全身に送り出す血液が減ってしまう「低心拍出状態」になると、体がだるくなったり、すぐに疲れた感じがしたりします。

「最近、歩いたとき、すぐ息が切れるようになった」とか「夜、寝ているとき咳が止まらない」、「足のむくみが朝になってもとれない」といった症状があれば、かかりつけの先生に早めに相談することが重要です。

心不全の分類

心不全を「駆出率(くしゅつりつ)」という指標で分類して対応を考えることが、広く行われています。

駆出率とは、心臓のポンプ機能の指標です。左心室が血液を全身に送り出す際に、左心室に満たされた血液の何%が全身に送り出されるのかを数字で表します。ですから、数字が高いほど、ポンプ機能が良いことになります。正常値は駆出率50%以上で、「駆出率が低下しているか」、それとも「駆出率が保たれているか」によって心不全を分けて考えます。駆出率が低下した心不全を〝HFrEF(ヘフレフ)〟、駆出率が保たれた心不全を〝HFpEF(ヘフペフ)〟と呼びます。

ヘフペフは、高齢者でよく見られる心不全で、心臓はよく動いていて一見、正常に見えますが、先ほどお話したように、心臓の筋肉が硬くなっており、心不全を引き起こします。高血圧や糖尿病の合併率が高いことが知られています。

心不全の診断

心不全かどうか診断する際、スクリーニング的に行われるのが、血液検査での「ナトリウム利尿ペプチド」(BNPまたはNT-pro BNP)とい

かかりつけ医に相談を

う指標です。

これらは、うっ血状態を改善させるために心臓から分泌される利尿効果のある物質で、この値が高いと、心臓に負荷がかかっている状態であることを示します。ただし、「正常値を超えている」、だから「心不全」というわけではありません。正直なところ、高齢者の方で正常範囲内の方はほとんどいません。

検診などでBNPの値が高いと言われ、息切れなどの症状があれば、一度かかりつけの先生に相談するのがいいと思います。

心不全が疑われれば、心エコー図検査(心臓超音波検査)で、うっ血の有無や程度、心臓の働きを評価していきます。先ほどの駆出率という指標も、心エコー図検査で評価します。

心不全は、いろいろな心臓病で生じますので、その心不全を引き起こす原因となる心臓病が何かを診断することは非常に重要です。これに関しても、まず心エコー図検査で診断します。

そのうえで、さらに詳しい検査が必要となれば、CT検査や心臓カテーテル検査などを行い、心不全の原因となる心臓病の診断を進め、治療の必要性を決めていくことになります。

心不全急性期の治療

では、心不全になると、どのような治療が行われるのでしょうか?

心不全の治療は、息が苦しくて病院に運ばれたとき、つまり心不全の急性期と、それが落ち着いてからの慢性期に分けて考える必要があります。

まず急性期は、肺や全身にうっ血が見られる状態ですので、うっ血や心臓に対する負担(負荷)を軽減させるために、薬による治療をします。具体的には、利尿剤で体の中にたまっている余分な水分を尿として排せつさせたり、血管拡張薬によって、心臓にかかっている負荷を取り除いたりします。状況によっては、心臓の働きを強める強心薬といわれる薬も使用します。

もちろん、安静と塩分制限は、心不全の治療の基本中の基本で、すべての患者さんに行います。肺のうっ血により体の中の酸素が低くなれば、酸素吸入をします。これらの治療で、急性期のうっ血状態がよくなれば、その後、慢性期の治療に入ります。

慢性期の治療

心不全慢性期の治療

心不全の急性期の状態が落ち着けば、次は、長い目で見て心臓の働きを改善させる、もしくは悪化させないための治療、心不全を繰り返さないための治療が必要となります。

心不全による死亡や心不全入院を減らすことのできる薬物治療について、今まで多くの研究が行われ、現在も新しい薬の開発が進んでいます。すでに説明した、HFrEF(ヘフレフ)なのか、それともHFpEF(ヘフペフ)なのかによっても、効く薬は異なります。

高血圧や糖尿病など、心不全に合併しやすく、しかも心不全を悪化させる病状についても、治療をしていく必要があります。

当然、心不全のもともとの原因となっている心臓病に対する根本的な治療、例えば弁膜症に対する手術や、冠動脈の動脈硬化に対するカテーテル治療などができるようであれば、その治療をします。弁膜症の治療については、あとで説明します。

慢性心不全の経過:悪化を繰り返さないのがかぎ

心不全は、慢性の経過をたどって徐々に悪くなっていく病気です。〈図 4〉

この図の矢印の部分は、うっ血状態の急激な悪化が生じたところです。 多くの場合、この急激な悪化を引き起こす原因(誘因)があります。

図4 慢性心不全の経過

図4 慢性心不全の経過

例えば、内服薬を勝手にやめてしまったとか、塩分の多い食事をとりすぎたとか、インフルエンザにかかってしまったなどです。〈図5〉にそれらの原因をまとめました。

図5 心不全を悪くする原因

図5 心不全を悪くする原因

急激に悪化して入院すると、先ほど説明したように急性期の治療をし ます。しかし、それで改善しても、全く元通りのところまではよくなら ないので、心不全の悪化による入院を繰り返すたびに、心臓の働きや患 者さんの状態は悪くなって、最終的には死に至ってしまいます。

ですから、できる限り、このような心不全による入院を繰り返さない ような対策をとることが欠かせません。

患者さん自身ができることは、普段の生活の中で、塩分や水分のとり すぎに注意し、禁煙や飲酒の制限、適度な運動などが挙げられます。イ ンフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを打つなど、感染予防も大切 です。

病院で調整してもらった内服薬は、自分の判断で勝手に中断せず、必 ず主治医に相談することが重要です。水分制限の程度も、患者さんによっ て異なりますので、主治医に聞いてみてください。

どんなに気をつけていても、心不全が悪化してくることは防ぎきれま せんので、悪化の兆候をいち早く察知する努力も必要です。

一番いい指標は体重です。多少の増減は許容範囲だと思いますが、増加 傾向が続き、ある一線を越えてしまうと心不全が悪化します。どの程度の体重が許容範囲なのか、普段から知っておく必要があります。

一番いい指標は体重です。

心不全を起こしてしばらくは、どの患者さんも塩分制限や体重の管理などに十分注意をされていることと思いますが、人間「喉元すぎれば熱さを忘れる」で、時がたつとどうしても注意が緩んでしまいます。

ですから、大きな病院だけでなく、必ずかかりつけ医を決めておき、少しの変化に早めに対処できるようにしておくことが肝心です。

増えている大動脈弁狭窄症も高齢者心不全の原因に

最近増えている高齢者心不全の原因となる心臓病の中で、大動脈弁狭窄(きょうさく)症について触れたいと思います。

大動脈弁は、左心室から全身に血液を送り出す出口の部分についている扉のようなもので、通常、半月型の膜(弁尖)が3枚合わさってできています〈図6〉。動脈硬化が進行するのと同様に、加齢によって大動脈弁にも硬化が生じます。そのため、〈図6〉のように、大動脈弁が開きにくくなり、左心室から血液を送り出しにくくなります。

図6 大動脈弁の硬化の進行

図6 大動脈弁の硬化の進行

狭いとところを通って、血液を送り出さねばならず、左心室に負荷がかかって肥大し、さらに進むと、左心室の動きが低下することがあります。そして心不全を引き起こします。

大動脈弁狭窄症は、弁の硬化により生じますので、高齢化に伴い大動脈弁狭窄症の患者数はどんどん増加しています。日本国内の患者数は、まだ診断されていない人まで含めると、100万人に達すると推定され、高齢者心不全の大きな原因の一つとなっています。

では、どんな症状が出るのでしょうか?

実は、大動脈弁狭窄症が重症になっても、あまり症状がないことも少なくありません。検診のときや、かかりつけの先生が心臓の聴診をして、たまたま心臓の雑音が聴こえて見つかることも結構あります。

さらに重症になってくると、息切れや胸痛などの症状が出てきますが、症状自体は、この病気に特徴的(特異的)なものではありませんので、何年も大動脈弁狭窄症と診断されないままの患者さんも多いと言われています。心エコー図検査をすれば、診断自体は比較的容易です。

この病気は、薬を飲めば大動脈弁の硬化が改善するというものではありません。重症大動脈弁狭窄症は、硬化した大動脈弁を人工弁に入れ替えるしか治療法はないのです。

数年前までは、胸を大きく切開して外科医が人工弁に替える方法しかありませんでしたが、最近はカテーテルによって人工弁を留置する方法〈図7〉が選択できるようになりました。太ももの付け根の血管から、太さ6㎜程度の管(シース)を入れて、そのシースから、人工弁が折り畳まれて入っているカテーテルを心臓まで進めていきます。大動脈弁のところまで到達すれば、〈図7〉にあるように、そこで人工弁を広げて留置を行います。

図7 カテーテルによる人工弁留置術

図7 カテーテルによる人工弁留置術

高齢の患者さんに胸を大きく切開して行う方法は、負担が大きいので、より負担が少ない、つまり侵襲度の低いカテーテルによる治療が増えています。開胸手術にするのか、カテーテル治療にするのかは、患者さんのいろいろな状況を考えて、より良い方法を選ぶようにしています。 医師やこれらの治療に関わる多くの医療従事者からなる「ハートチーム」が会議を開いて議論し、それぞれの患者さんにとってベストな方法を検討しています。

開胸手術やカテーテル治療で人工弁に替えれば、心不全の原因となる心臓病の根治的な治療となりますから、患者さんは非常に元気になられます。

最後に...

心不全の原因となるいろいろな心臓病にならないようにすることは重要ですが、「心不全」になったら一巻の終わり、というわけではありません。治すことのできる心臓病があれば、その治療を行い、また長い目でうまく心臓病とつきあい、心不全の悪化を繰り返さないようにすることが最も重要なのです。

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