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[128] 心臓リハビリテーション ─ その目的・内容・効果 ─

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター 心臓血管内科
医長 中西 道郎
部長 野口 暉夫

運動療法と再発予防が大切

もくじ

  1. 急性心筋梗塞後の心臓リハビリテーション
  2. 心リハの適応は?
  3. 心リハの目的は?
  4. 心リハの運動内容は?
  5. 心リハの効果は?
  6. 心リハの適応疾患と再発予防
  7. おわりに

高齢者の方が増えてきたからでしょう。「散歩中に転倒して骨折、いま歩行のリハビリ中」とか、「脳卒中で手足がまひし、リハビリに通っている」といった話を耳にされることが少なくないと思います。

リハビリは「リハビリテーション」の略で、リハビリテーションとは失われた身体的・精神的能力を正常、または正常に近い形で機能するように回復させることです。身体だけでなく精神面の回復も対象なのです。では、今回のテーマ「心臓リハビリテーション」(略して「心リハ」)とは何でしょう。一言でいうと「心臓病の患者さんが受ける運動療法・患者教育・生活指導を含めた治療プログラム」のことです。どんなプログラムなのか、心臓病の中でも代表的な急性心筋梗塞を例に説明しましょう。

急性心筋梗塞後の心臓リハビリテーション

心臓に栄養を与えている冠動脈に血液の固まり(血栓)が詰まって起こるのが急性心筋梗塞で、それまで大きな病気をしたことも、症状もなかった人が突然発症することも珍しくありません。

以前は非常に死亡率が高く、救命されても平均2か月程度の入院が必要でした。幸い、現在はカテーテル治療(細い管を血管に挿入し、詰まった冠動脈を再開通させる治療)が進歩し、早期に適切な治療を受ければほとんど救命され、平均2週間程度の入院で退院できます。

ただし、カテーテル治療が無事終わっても、心臓の一部はすでに壊死し機能障害を起こした状態ですから、翌日からすぐに日常生活に戻れるわけではありません。患者さん自身も今まで経験したことのない強い胸の痛みと高度な治療の後ですから、体を動かすことに強い不安があります。こうした状況の中で行われる「心リハ」で重要なのは、次の2点です。〈図〉を見てもらいながら話を進めます。

図 心臓リハビリテーションのプログラム

①心臓に負担がかからないよう徐々に運動量を延ばす

病棟で短い歩行から始めて徐々に歩行距離を延ばし、問題がなければリハビリ棟で歩行や自転車こぎを開始し、少しずつ時間を延ばし強度を高めます。こうした運動療法は心電図で心臓の働きをモニターしながら、医師・看護師・理学療法士の監視と指導のもとで行いますから、何か問題が生じても直ちに対応できる態勢になっています。

「心リハ」で多くの患者さんが退院までに30分程度の連続歩行や自転車こぎが可能になり、運動への不安を抱かずに退院することができます。

②社会復帰に向けた患者教育・生活指導・運動処方

入院中、運動療法と並行して、集団講義(心臓病教室)に参加し心臓病に関係する様々な知識を学び、身につけることができます。また急性心筋梗塞は再発率が高い病気ですので、再発予防のため今後何に注意すべきかという生活指導を受けます。さらに退院後に続ける運動内容は患者さんによって異なるので、医師が患者さんごとに設定した内容を指導します。これを「運動処方」と呼びます。これら①②の内容がすべて「心リハ」です。

心リハの適応は?

心臓病であれば何でも「心リハ」の適応となるわけではありません。心リハには健康保険が適応される病気が定められています。

健康保険の適応となるのは①急性心筋梗塞②狭心症③開心術後(冠動脈バイパス術・弁膜症手術など)④慢性心不全⑤大血管疾患(大動脈瘤・大動脈解離など)⑥末梢動脈閉塞性疾患─の六つのグループとなります〈表1〉。

保険適応の期間は150日間で、通常1回60分(3単位)で、20分(1単位)が約2000円ですので、60分実施した場合の1回の負担額は、自己負担3割なら約1800円、自己負担1割なら約600円となります。

表1 心臓リハビリテーションの適応となる心臓病

心リハの目的は?

①身体機能の回復:心臓病で低下した体力を元の状態に

心臓病の患者さんは、普通、体のまひも外傷もありませんが、重症の急性心筋梗塞や心不全では入院後、一定期間の安静が必要で、その期間が長くなるほど持久力や筋力は低下し、筋肉量も減ってきます。

ですから心リハの第一の目的は、心臓病で低下してしまった体力をできるだけ元の状態まで取り戻すことです。

②運動処方の設定:最適な運動内容の指導を受ける

薬にさじ加減という言葉があるように、運動療法にも適切な程度や量があります。運動強度が強ければ高い効果が期待できる反面、危険性が増します。逆に強度が弱すぎれば、十分な効果が期待できません。効果と安全面のバランスから設定された運動内容の指導を受けることは、心臓病の患者さんにとって非常に大切なことです。

③再発予防:同じ病気が再発しないよう予防法を実践する

心リハが、一般のリハビリと異なるのは、単なる理学療法や運動療法ではなく、再発予防を大きな目的の一つにしていることです。

再発予防にはカテーテル治療や薬の治療も重要ですが、日常の自己管理も同じくらい重要です。

自己管理は、入院中に一度指導を受けただけでは、十分に理解し実践するのは、なかなか困難なものです。退院後もしばらく通院してリハビリを続け、体重や血圧、血液検査のチェックを受け、何らかの変化があれば医師や看護師らの指導を受けることで、よく理解でき、実行しやすくなります。

心リハの運動内容は?

運動内容には、〈種類〉〈強度〉〈時間〉〈頻度〉の項目があります。ここでは〈表2〉と〈写真〉を見てもらいながらポイントとなる点を説明します。

〈種類〉

・基本は歩行や自転車こぎなどの有酸素運動

運動療法には、有酸素運動(持久性運動)と筋力トレーニング(低強度レジスタンス運動)の二つがあります〈写真〉。有酸素運動は主に持久力(運動耐容能)を、筋力トレーニングは主に筋力を伸ばします。

心リハの運動療法の基本は、歩行や自転車こぎなどの有酸素運動です。それは有酸素運動によって運動耐容能が改善し、運動耐容能が高ければ高いほど心臓病患者さんの長期予後が良好なことが、多くの研究で証明されているからです。

一方、筋力トレーニングは、筋力が低下している患者さんが対象となり、有酸素運動と併用して行います。もともと筋力が保たれている患者さんが、筋力トレーニングによりそれ以上の筋力をつけることで長期予後が改善することは証明されていません。

表2 心臓リハビリテーションの運動内容

心臓リハビリテーションの運動療法


〈強度〉

・目標心拍数に近づくよう自己調整を

強度が強いほど高い効果が期待できます。しかし、その反面、心不全の悪化や危険な不整脈を誘発する恐れがあります。逆に強度が弱すぎれば、十分な効果が期待できません。さてどうするかです。

運動強度は運動中の心拍数で調整します。運動時の「目標心拍数」を医師が設定しますので、患者さんは運動中の心拍数を確かめながら、目標心拍数に近づくように運動強度(歩行速度など)を自分で調整します。

目標心拍数については下の(注)で説明します。参考にしてください。

(注)目標心拍数の設定方法

それぞれの患者さんの安静時と最大運動負荷時の心拍数を確かめるため、心肺運動負荷試験(CPX)という検査をします。この検査では、鼻と口を覆う密着マスクで呼気と吸気を分析し、運動で体にかかる負担の程度を表す指標が得られるので、体力の限界まで負担がかかったかどうかを確認することができます。

検査の結果、安静時心拍数、最高心拍数、その差(最高心拍数から安静時心拍数を引いた値で、心拍応答と呼びます)が得られます。目標心拍数は【安静時心拍数+心拍応答×K】の公式を用いて決めます。

係数Kの値は心臓病の重症度で異なり、例えば軽症であればややきついくらいの目標として0.6~0.7、重症であれば安全性を重視して0.3~0.5を用います。また、運動負荷が次第に強くなると、筋肉中に乳酸が増加しますが、その増加が始まる点(嫌気性代謝閾値(いきち))もCPX検査で確認できるので、その時点の心拍数を目標心拍数とすることもあります。

運動中の心拍数は、〈表2〉の②のように、15秒間で数えた橈骨(とうこつ)動脈(手首の親指側の動脈)の脈拍数を4倍して計算する自己検脈か、腕時計型の心拍計で確認します。

一方、心拍数が常に不規則な不整脈である慢性心房細動など、心拍数を目標にすることが困難な場合は、自覚症状で「ややきつい」と感じる強度を目標にします。

〈時間〉と〈頻度〉

・目標は1週間に150分~300分
・150日間は通院リハビリと在宅リハビリを併用
・その後は在宅運動療法と自己管理

運動療法は1日に10分から20分程度で開始し、徐々に延ばし、最終的な目標として、1日に30分から60分、週5回程度(毎日でも可)の頻度とします。ですから1週間に150分から300分が最終目標です。

仕事や家事で忙しくてもほぼ毎日、通勤や買い物などで30分歩行すれば達成できます。決して無理な目標ではありません。重症の場合はより短時間、より低い頻度の運動処方となることがあります。

病院内での心リハが実施できる期間は、開始から150日間と決まっています〈図参照〉。通常、入院中から心リハを開始し、退院後も週1回から3回程度、病院内で様々なチェックを受けながら運動すること(通院リハビリ)が可能ですが、通院リハビリだけでは運動量が十分ではないので、在宅での有酸素運動を中心とした運動療法(在宅リハビリ)を併用し、目標運動量を目指します。

150日の期間中、体重・血圧・血液検査などに様々な変化が生じることがあります。そうした変化に医師や看護師の指導を受け対策を講じることで、多くの情報が得られます。

プログラム終了後は、回復した体力と得られた知識や情報をもとに、在宅運動療法と再発予防に向けた自己管理を続けることが大切です。

心リハの効果は?〈表3〉

①身体機能の回復・運動能力の改善

運動療法で持久力(運動耐容能)や筋力が改善します。運動耐容能は、すでに説明しました心肺運動負荷試験(CPX)によって「最高酸素摂取量」という客観的な数値からわかります。運動療法の効果は、心リハプログラム前後にこの負荷試験をして比べれば、最高酸素摂取量の変化率としてとらえることができます。〈図〉をもう一度参照してください。

患者さんによって効果は異なりますが、3~5か月間の運動療法で最高酸素摂取量が平均1~2割増え、持久力が改善することが多くの研究で確かめられています。

②生活の質(QOL)の改善

心リハプログラムで、生活の質(QOL)が改善することも証明されています。なぜそうなるのか、いくつかの理由が考えられます。

ひとつは、持久力(運動耐容能)がアップし、行動範囲が広がる、自覚症状が出にくくなるということがあります。もうひとつは、患者さんごとに最適な運動処方が行われるので、自分はどの範囲まで運動や活動をしてよいかが体得でき、その範囲までは安心して体を動かせるという精神的効果をもたらすことです。

極端な例が、致死的な不整脈が起きたときに電気ショックで止める「植込み型除細動器(ICD)」(ペースメーカーの一種)を装着した患者さんの場合です。実際に電気ショックを経験すると、次はいつ電気ショックが起こるのかという恐怖心にかられ、抑うつ傾向になり外出や運動を極力控え、自宅に引きこもってしまうことになりがちです。

こうした場合も、心リハプログラムの運動療法を受ければ、一定の強度まで運動をしても問題はないことが実感でき、抑うつやQOLが改善します。

表3 心臓リハビリテーションの三つの主な効果

③再発予防・再入院予防の効果

もう一度繰り返しますが、心リハは単なる運動療法ではなく、医師や看護師による再発予防、再入院予防のための生活指導や患者教育も含まれます。次に適応疾患とそれぞれに対する再発予防について説明します。

心リハの適応疾患と再発予防

①急性心筋梗塞・狭心症・末梢動脈閉塞性疾患の場合

・冠危険因子のコントロールがかぎ

急性心筋梗塞や狭心症は冠動脈の動脈硬化によって、末梢動脈閉塞性疾患は脚の動脈硬化によって起こります。いずれも生活習慣病のひとつです。ですから、ほとんどの患者さんは動脈硬化の原因となる因子(冠危険因子)をもともと持っており、それらのコントロールが不良の場合に発症しやすくなります。

冠危険因子の代表的なものは、高血圧症、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、喫煙、肥満、ストレスなどです。運動療法が血圧・血糖・脂質(コレステロールや中性脂肪)の改善に有効なことは以前から証明されています。生活習慣、禁煙、栄養などについて指導を受け、冠危険因子のコントロールをできる限り強化する。それが動脈硬化による病気の再発予防につながります。

②慢性心不全の場合

・急性増悪を防ぐ自己管理を

慢性心不全は、心臓病によって息切れや動悸が生じる状態で、普段の状態では日常生活に大きな支障はありません。しかし、暴飲暴食、薬の飲み忘れ、感冒など何らかのきっかけで体のバランスが崩れると、急に肺に水がたまって呼吸困難になり、救急車で搬送され緊急入院となります。これを急性増悪(ぞうあく)と呼びます。

利尿剤などの治療で肺にたまった水が抜ければ退院できますが、急性増悪入院を繰り返すと、徐々に治療後の経過や見通しが悪くなっていきます。

急性増悪時は全身に水がたまった状態なので、多くの場合、たまった水の分だけ体重が増えます。ですから予防に向けた自己管理として大切なのは、ひとつは体に水がたまらないよう普段から塩分や水分の摂取を控えめにすること、もうひとつは水がたまってきたらすぐに発見できるよう体重を毎日測定することです。

心リハでは、通院リハビリの際に体重増加や体のむくみがあれば原因を見極めて対策を講じ、心不全悪化による入院を予防します。医師、看護師ら多職種による疾病管理で、慢性心不全急性増悪による再入院が減少することも証明されています。

慢性心不全として心リハの適応を受けるには、定められた条件を満たす必要があります。その基準は下に再掲載している〈表1〉の④をご覧ください。

表1 心臓リハビリテーションの適応となる心臓病

③開胸心臓手術後・大血管疾患手術後

心臓や大血管の手術には、狭心症に対する冠動脈バイパス術、異常をきたした弁(弁膜症)を人工弁に置き換える手術、大動脈瘤や大動脈解離を人工血管に置き換える手術などがあります。技術の進歩で手術に伴う合併症は低下していますが、それでも心臓や大血管の手術が大手術であることに変わりありません。手術後、全身麻酔から覚めても、傷の痛みや炎症による発熱などで、体を十分に動かすことができず、安静期間が長びくほど体力は落ちてしまいます。

開胸心臓手術(開心術)や大血管疾患手術を受けた場合、心リハの適応となり、痛みや炎症に配慮しながら、大手術のために急に低下した持久力や筋力を元の状態へ回復させることを目指します。

おわりに

心臓リハビリテーションは、心臓病の発症後も活動や運動を制限してしまうことがないよう、運動療法を続け、以前と同等の体力やQOL(生活の質)を維持していく、さらに心臓病が再発しないよう予防法を学び、実践していくための治療プログラムです。

150日間のプログラム期間中に、体力を回復させるとともに多くの知識や情報を得て、期間終了後は在宅での運動療法と再発予防に向けた自己管理を続けることが大切です。

手術や薬の治療に比べ軽視されがちな治療プログラムですが、手術や薬では得られない運動能力改善効果や精神的効果もあり、全く異なる重要性をもった治療であることを強調したいと思います。


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