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[125] 心臓移植と組織移植 ─ 国循の取り組み ─

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター
・移植医療部部長:福嶌 教偉
・心臓外科部長:藤田 知之
・組織移植コーディネーター:小川 真由子
・看護部副看護師長:堀 由美子
・副院長・心臓外科部門長:小林 順二郎
・名誉総長:北村 惣一郎

ドナーの善意を移植に生かす

もくじ

  1. 心臓の働き
  2. 心不全と心臓移植
  3. 移植の適応判定から登録まで
  4. 移植後の管理
  5. わが国の心臓移植の成績
  6. 国循での心臓移植
  7. 心臓弁の移植
  8. 血管の移植
  9. 小児への心臓弁・血管の移植
  10. 女性への心臓弁の手術
  11. わが国の心臓弁・血管組織移植の展望:国循の組織バンク
  12. おわりに

移植というと、どんなイメージをお持ちでしょうか。善意の臓器提供者がいなければ成り立たない医療、治療法がなかった人を助ける先進的な医療、ただし、一生にわたり拒絶反応などに注意が必要な医療など、いろいろなイメージを抱かれているはずです。

移植とは、人の身体の一部である細胞、組織、または臓器を「提供者(ドナー)」から「受給者(レシピエント)」に移し植える医療行為のことです。こう説明すると難しい高度な医療と思われるかもしれませんが、出血したときや手術で行う輸血は細胞移植のひとつです。ですから移植によっては、とても身近な医療になっています。

細胞、組織、臓器の移植のうち、臓器移植は現在の医学で考えられる、あらゆる内科的・外科的治療をしても治癒しないほど、臓器が傷んでいる場合に、人の臓器を移植する治療で、わが国では心臓、肺、肝臓、膵臓(すいぞう)、腎臓と小腸の移植が行われています。

一方、組織移植(ホモグラフト)の方はあまり知られていませんが、機能を果たせなくなった組織、例えば心臓弁、血管、皮膚、骨、膵島(すいとう)などの機能回復を図るために人の組織を移植する医療です。膵島はインスリンをつくる細胞をもつ内分泌組織で、ランゲルハンス島のことです。

臓器移植はドナーから臓器を摘出してからすぐに移植しますが、組織移植は膵島移植の場合を除き、ドナーから提供された組織を「組織バンク」でいったん保存して、その組織が必要な患者さんが現れたときに移植します。

国立循環器病研究センター(略称・国循)では、移植医療の中でも特に心臓移植と心臓弁・血管の組織移植の実施と普及啓発に取り組んできました。

今回は、国循の取り組みを中心にここ20年間の日本の移植医療の足取りと現状の課題を解説します。

心臓移植

心臓の働き

人が生きていくためには、全身に十分な酸素と栄養が必要です。酸素と栄養を運ぶのが血液で、その血液を循環させるポンプの働きをするのが心臓です。

胸のほぼ中央に位置し、握りこぶし1個分の大きさです。心臓は左右の心室と心房の4つの部屋からなります〈図1〉。その機能は、血液を取り込み、肺や全身に送り出すことです。

図1 心臓の構造と血液の流れ

心臓の構造と血液の流れ

心不全と心臓移植

心臓の働きが弱くなり、全身に血液や酸素が十分に送り出せなくなると、心不全という状態に陥ります。心臓以外の臓器に血液や酸素が行き渡らなくなるため、いろいろな臓器が傷み、これが進行すれば死に至ります。

心不全とわかると、何が心不全の原因になっているかを突き止め、その原因を薬剤か手術で治療しますが、心臓の筋肉そのものが傷み、心臓の働きが非常に悪くなると、薬や手術などでは対応できなくなることがあります。

心臓移植は、このような重い心臓病のために移植でしか治療できない患者さんと、脳死という状態で亡くなった後、心臓を提供してもいいという方を結ぶ医療です。

移植の適応判定から登録まで

繰り返しますが、心臓移植は善意による心臓の提供がなければ成り立たない医療なのです。そのため、どのような患者さんが移植を受けるべきかの審査は他の医療より厳しく、移植を受ける病院の審査だけでなく、日本循環器学会心臓移植適応検討小委員会で認定を受けてからでないと、原則、心臓移植希望者として、日本臓器移植ネットワークに登録されることはありません。

認定されるためには①現在の医学で考えられる、あらゆる内科的・外科的治療を行っても治せないほど、心臓が傷んだ(傷害された)状態であること、②肺、肝臓、腎臓などに重篤な病気がないことなどの医学的条件だけでなく、③いただいた心臓を大切にできるだけの意志を本人と家族が持っていることーーという条件をクリアする必要があります。

心臓移植が必要な病気には、拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、拘束型心筋症、他の病気が原因で発症する二次性心筋症(薬剤性、心筋炎後、産褥(さんじょく)性など)、心筋梗塞後などに発症する虚血性心筋症などがあります。

わが国のルールでは、65歳未満の患者さんしか日本臓器移植ネットワークに登録できないので、高齢者に多い虚血性心筋症の方の心臓移植は欧米に比べて少なくなっています。

移植後の管理

心臓移植を受けると、単に寿命が延びるだけでなく、傷んでいた心臓の働きが戻るので、生活は一変します。合併症がなければ、社会復帰したり、活動範囲が広がったりして、生活の質(QOL; Quality of Life)が向上します。

例えば、ベッドで安静にしていないと危険な状態の重症患者さんが、移植後はマラソン、バドミントン、チアリーディングなどができるようになった場合も少なくありません。心不全のために身体の成長がストップしていたお子さんが、普通のこどもと同じように成長できるようになります。

写真
心臓移植を受けられた患者さんが、元気に福嶌先生と一緒にバドミントンをされている様子


しかし移植後は特別な薬を飲まないと、いただいた心臓を、体を守る免疫担当細胞や抗体が異物と認識して攻撃し傷めてしまいます。これが拒絶反応です。そのため、移植後は、免疫の働きを抑える薬(免疫抑制薬)を一生飲まなくてはなりません。

免疫抑制薬を飲むと、細菌、カビ、ウイルスなどの病原体が身体に侵入するのを防ぐ機能が低下し感染しやすくなります。そのため日常生活でいろいろな制限が必要です。

免疫抑制薬は時間通りにきっちり服用する、下痢をしないために刺身、寿司、生卵などの生ものを食べない、マスク、手洗い、うがいを励行する、自宅内でペットを飼わないことなどを守らねばなりません。

移植後に守ること


移植後に守るべきことがいっぱいあって、うっとうしいと感じられるかもしれません。しかし心臓を提供されたドナーの方の思いを考えれば、当然、いただいた心臓をいたわり大切にしようと決意されるはずです。その決意があれば、寿命も延びますし、運動や社会復帰も可能になるのです。

わが国の心臓移植の成績

国内初の心臓移植は、1968年8月、札幌医大の故・和田寿郎教授が行いました(いわゆる和田移植)が、ドナーとレシピエントの主治医が同じ和田教授であったこと、脳死判定を心臓外科医であった和田教授が行ったことなど、様々な問題が生じました。

その後30年もの間、心臓移植は行われませんでしたが、この間、移植再開をめざした社会的、法的な整備は徐々に進みました。脳死の方からの臓器移植が法律で認められたのは1997年6月のことでした。それから1年以上たった1999年2月に心臓移植が大阪大学で再開されました。国立循環器病研究センターでは、同年5月と6月に国内2、3例目の心臓移植を行いました。

当時の法律では、生前、書面に①脳死を認めていること、②脳死になった際に臓器提供をしてもよいことーーの2点を記載している人で、その家族が臓器提供に同意された場合に限り脳死臓器提供が可能だったので、心臓移植の数はなかなか増えず年間13例が最多でした。

また、書面による意思表示は民法上遺言に相当すると解釈され、15歳未満のこどもからの脳死臓器提供はできませんでした。その結果、体格の小さなこどもは事実上国内で心臓移植が受けられず、海外で心臓移植を受けるこどもが後を絶ちませんでした。

こうした状況の改善を求める活動の結果、法律が改正され、2010年7月にいわゆる改正臓器移植法が施行されました。その法律では書面による意思表示に限定せず、生前、提供を拒否していない場合に、家族が臓器提供に承諾すれば、脳死での臓器提供ができることになりました。これで15歳未満のこどもからも脳死臓器提供が可能になりました。

改正後、心臓移植の数は増加し、2016年には51人になりました。小さなこどもも心臓移植が受けられるようになり、2017年は6月末までに6人のこどもが心臓移植を受けています。

心臓移植の件数は増えましたが、その移植を希望して日本臓器移植ネットワークに登録する患者数はもっと増加しているため、現在、登録してから心臓移植を受けるまでの期間は平均で1050日を超えています。

移植までの待機期間が延びると、患者さんの状態はどんどん悪くなっていくので、延命のために血液ポンプで心臓の働きを助ける機械「補助人工心臓(VADといいます)」を取り付けなくてはならなくなります。

日本では待機期間が長いので、移植を受けるまでにほとんどの患者さんがVADを取り付けています。2016年の51人の場合、すべてVADを取り付けてからの移植でした。このようにVADの役割はとても大きいのです。

心臓移植が再開された当初は、血液ポンプが体外にセットされていて入院が必要な「ニプロVAD」が主流で、移植まで退院できず、途中で重大な合併症を起こしたり、死亡したりする患者さんが多い状況でした。2011年4月に体内に植え込むことのできるVADが健康保険の適用となり、その結果、重大な合併症も少なくなり、心臓移植までたどり着ける確率も高くなりました。

米国ソラテック社が開発した補助人工心臓 Heart Mate Ⅱ


しかしVADを取り付ける患者さんが急増し、心臓移植までの待機期間はさらに伸びることが予想されています。そのため、“いのちのリレー”として脳死後に臓器提供される方が増えるかどうか、つまり移植医療への理解がさらに深まり尊い臓器の提供が増えるかどうかにかかっています。

わが国の心臓移植後の成績は、欧米に比べても良好で、移植後10年たった患者さんのうち、なんと90%以上が入院しない状態で生活されています。

長期にわたる移植待機のため復職が困難な状況ですが、それでも半分くらいの方が社会復帰され、ほとんどの方がスポーツも楽しまれています。

日本人の成績が良い理由の1番が、ドナーとそのご家族に感謝され、いただいた心臓を大事にされているからだと思います。

国循での心臓移植

私どもの国循では、1999年5月の国内2例目の心臓移植以来、毎年心臓移植を行い、2016年には20人の心臓移植を担当しました。

2017年7月12日には、国内の医療機関としては最初に100例目の方の心臓移植を行いました。たまたま1例目と100例目の方は体外設置型の「ニプロVAD」を装着した後の移植でしたが、この100例目が体外設置型VADからの移植の最後になると思われます。

国循で移植を受け15年たった方で、入院しないで生活されているのは95.2%に達しています。この数字からも国循は日本の心臓移植医療推進の大きな原動力になっているといえます。

心臓弁・血管の組織移植

亡くなられた本人やそのご家族のご意思により、本人から提供された心臓弁・血管は、ホモグラフト(同種心臓弁・血管組織)と呼ばれます。わが国では国循と東京大学の2か所の「組織保存バンク(組織バンク)」で、液体窒素によって-180度で凍結保存されます。心臓弁・血管の移植が必要な患者が現れたとき、解凍して移植します。そのため「凍結保存同種組織移植」ともいわれています。心臓移植とは違い、組織移植についての法律はなく、「日本組織移植学会」が設けたガイドラインに基づき実施され、厚生労働省の承認を受けた医療になっています。

心臓弁と血管の組織移植は、これまで組織バンクを持つ国循と東京大学でのみ先進医療として実施されてきました。先進医療なので約60万円の自己負担が必要なため、やむを得ずほかの手術が行われる場合も多々ありました。しかし2016年4月から、この組織移植が健康保険の適用となりました。これにより大きな自己負担をせずに受けられるようになりました。

国循と東京大以外の病院でも、組織移植施設の基準を満たしている場合、組織バンクとの連携を条件にこの移植ができるようになりました。

提供された心臓弁・血管は、提供者の感染症検査などを行い、基準を満たし安全性が確認されたものを組織バンクに保存、移植に用いています。提供者の方に海外渡航体験がある場合、肝炎、AIDS、クロイツフェルトヤコブ病・SARS・ウェストナイルウイルスなどの感染症にかかっていないかをチェックしています。

心臓弁・血管の組織移植が日本で実施できるようになったのは1999年で、これまでに全国で約850例(心臓血管外科分野:約200例、消化器外科分野:650例)の組織移植が行われてきました。

この移植が必要なケースは徐々に増加していくことは確実ですが、提供されるドナーがまだまだ少ない現状です。

心臓弁の移植

最初に説明しましたが、心臓は4つの部屋に分かれていて、4つの弁が血液を一定の方向に流す働きをしています。この弁が正常に動かなくなると、血液の通り道が狭くなったり、逆流が起きたりして、非常に危険な状態になってしまいます。

この場合、心臓弁を移植することが治療となりますが、代用の弁を用いる場合、炭素繊維やチタンなどの合金でできた「機械弁」、ブタやウシなど人以外の動物の心臓弁を用いて作られた「異種生体弁(人工弁)」、人から提供された「同種心臓弁」などがあります。

代用弁のうち、どれを使うかはそれぞれの特徴を考えて決めます。

「機械弁」は耐久性に優れていますが、血の塊ができる血栓症を予防するため抗凝固剤の服用が生涯必要です。「異種生体弁」は、血栓ができにくい抗血栓性に優れていますが、耐久性の点で機械弁に及びません。「同種心臓弁」は感染しにくく血栓もできにくい特長があり、人工弁感染性心内膜炎や重篤な弁輪部膿瘍を伴う大動脈弁の手術などに効果的と考えられています。

「同種心臓弁」は臓器移植とは異なり、通常、免疫抑制剤を服用する必要はありません。ですから、免疫抑制剤の副作用として感染症にかかりやすくなることや、肝臓や腎臓を傷めてしまうことを気にすることもありません〈表〉。

ただし、心臓弁が提供されていることが前提なので、日本ではまだまだ入手しにくい状況です。移植を受けた患者さんによって個人差はありますが、耐久性は機械弁に及びません。しかし、抗凝固剤の服用がまったく不要なのは大きな利点です。

表 ホモグラフトの特徴

下記の特徴に示すように、ホモグラフトは血栓ができにくく、細菌などの感染に強いというメリットがあります。また臓器移植とは異なり、免疫抑制剤の服用も必要ありません

表 ホモグラフトの特徴

血管の移植

血管は身体の隅々まで張り巡らされており、心臓から全身に血液を運び、再び心臓に血液を戻すための管です。その中でも大動脈といった太い血管に瘤(こぶ)ができたり、破裂したりした場合、生命に関わる重篤な状態になります。

一般的には、人工材料で作られた人工血管を用いた治療が行われますが、人から提供された血管(凍結保存同種血管)は感染に強いので、従来の人工血管では治療が困難だった感染性大動脈瘤などの場合や、人工血管に感染が起こってしまった場合に対して良い成績を見込むことができます。

小児への心臓弁・血管の移植

人から提供された組織(心臓弁・血管)は非常にしなやかなので、複雑な形に形成することができ、しかも手術の際の出血も少ないので、心臓に生まれつき病気を持って産まれた赤ちゃんの心臓修復手術にも用いられます。

生まれつき、全身に血液を送る左心室や大動脈がとても小さくなる「左心低形成症候群」という病気があり、その治療に「ノルウッド手術」があります。

この手術は、大動脈が太くなるように作り直すのが目的です。日本のほとんどの病院では、人工材料や牛の心膜を用いて手術をしていますが、人から提供された組織を移植できれば、縫う時間は短く、仕上がりも良く、しかも出血も少ないので、手術後の回復も早く、合併症も少なく、死亡率も減るといわれています。

ただし提供が少ないので、まだまだ手術数は少ないのですが、国循では8人の赤ちゃんに、提供された組織を使った「ノルウッド手術」を行い、良い成績をあげています。

女性への心臓弁の手術

機械弁を使用すると、血栓予防にワルファリンという薬を飲み続けなければなりません。ワルファリンは胎盤を通過するので胎児に影響し、奇形を起こすことがあります。これは妊娠初期に起こり、骨や軟骨の形成に異常をきたす奇形が知られています。

また、妊娠中に何らかの出血性合併症が起こることがあり、出産時には母体側の出血がひどく、命にかかわる場合もあります。こうした理由から、原則的に妊婦へのワルファリン投与は禁止されています。しかし、提供された心臓弁を移植した場合は、血栓ができにくいのでワルファリンを飲む必要がなく妊娠・出産が可能です。

傷んだ大動脈弁の代わりに患者さん自身の肺動脈弁を取り外して移植する手術を「ロス手術」といいます。自分の肺動脈弁のあったところに機械弁か異種生体弁を移植しますが、理想的なのは人から提供された肺動脈弁を移植する方法です。

国循では、提供された肺動脈弁を用いたロス手術を受けた女性患者さん5人が無事出産することができました。

その患者さんたちから「肺動脈弁を提供してくれた人のおかげでこどもを産むことができた。諦めなくてよくなった」、「組織移植のことを知らなければ、違った人生になっていた」という感謝の声をいただいています。

わが国の心臓弁・血管組織移植の展望:国循の組織バンク

2010年に改正臓器移植法が施行され、生前の本人の書面による意思表示がなくても、家族の承諾により脳死状態での臓器提供(脳死下臓器提供)が可能となりました。

このことはすでに説明しましたが、改正の結果、脳死下臓器提供数は増加しましたが、心臓停止後の提供(心停止下臓器提供数)は減少しています。これまで心停止下腎臓提供のときに心臓弁・血管も提供される症例が多かったので、これらの提供数もいったん減少したのです。

しかし2010年の改正法施行後、近畿での臓器提供推進活動の結果、国循の「組織バンク」の対応地域(大阪府、兵庫県、奈良県)の脳死下臓器提供が増加、毎年1、2件だった地域内の心臓弁・血管の提供は2014年以降は年5~8件に増え、2017年は6月までにすでに7件になりました〈図2〉。


図2 近畿地区(大阪・兵庫・奈良)での組織(心臓弁・血管)提供件数

図2 近畿地区(大阪・兵庫・奈良)での組織(心臓弁・血管)提供件数


臓器を提供し助けたいという国民の善意、提供があれば、ぜひ移植を受けたいという患者さんの願いの双方に応えるためには、現状より対応地域を拡大することが必須です。

しかし、心停止後の心臓弁・血管提供に対応するには、いつ心臓が停止し、組織が採取できるか不明ですので、長期間の待機や突然の出動が必要な場合が多く、組織バンクで提供の仲介にあたる「組織コーディネーター」と採取チームをたとえ増員しても、現在の国循の組織バンクだけで西日本全域の症例に対応するのは困難です。

ただし、脳死下の臓器提供では採取時間予定時間が決まっており、しかも若干の時間的猶予があるため、地域の「組織コーディネーター」の認定を受けた「臓器コーディネーター」と、地域の心臓弁・血管採取チームを編成できれば、対応地域を拡大できる可能性があると思います。

そこで国循組織バンクは2つの施策を開始し、さらに発展させる予定です。

1つ目は、日本組織移植ネットワークの事務局として、西日本地域の心臓血管外科施設、肝臓外科施設に呼びかけ、心臓弁・血管の組織移植の現状について説明会を開いて協力施設を募りました。これまでに8つの心臓血管外科病院の協力を得ています。

さらに心臓弁・血管採取の研修会を開き、組織移植の知識と採取技術を身に着けた心臓血管外科医の増員を図っています。今後は肝臓外科医にも拡大し、腹部血管の採取医を増員する予定です。

2つ目は、西日本地域の「認定組織コーディネーター」の資格を持つ「組織コーディネーター」と「臓器コーディネーター」に参加を呼びかけ、心臓弁・血管だけでなく、皮膚、骨、膵島の移植や提供についてのセミナーやロールプレイ(役割演技)などの実践的な研修を行います。

「組織コーディネーター」の場合は所属組織バンク、「臓器コーディネーター」の場合は、所属の府県または日本臓器移植ネットワークの承諾を得て、臓器と組織の提供について十分な情報提供をもとに同意を得るタイミングの調整などを行い、国循組織バンクの対応地域を拡大していく方針です。

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心臓弁摘出手技デモンストレーション(上)と心臓弁・血管移植実施体制の説明会(下)

おわりに

国立循環器病研究センターでは、心臓移植と組織移植が普及するため様々な活動を展開してきました。その結果、移植医療でしか助けることのできない多くの患者さんを救うことができました。

この成果は、何よりも提供者(ドナー)とドナー家族の方々のご意志と、臓器提供に関わる多くの方々のおかげと感謝しております。今後とも、国民の提供したい意志、移植を受けたい意志の双方に応えることができるような国にすべく尽力したいと思っています。

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