ホーム > 循環器病あれこれ > [121] 胸の痛み…生命に危険な場合

[121] 胸の痛み…生命に危険な場合

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター
副院長・心臓血管内科部門
安田 聡

症状の変化に細心の注意を

もくじ

  1. 狭心症状の特徴
  2. 心筋梗塞の予兆を知っておこう...症状の特徴は?
  3. 非典型的な症状も要注意
  4. 疾患ごとの胸痛の特徴
  5. かぎとなる来院時の症状...国循の患者データから
  6. まとめ


痛みというと、誰しも不安になります。しかも胸の痛みとなると深刻な事態ではと心配される方がほとんどではないでしょうか。
実は、胸痛を伴う病気も比較的軽症で経過をみればよいものから、緊急入院し、直ちに精密検査、治療が必要なものまで非常に多彩です。
胸痛が最も問題となる病気として代表的な狭心症でも、しばらく様子をみてもよい危険性が比較的低い場合から、直ちに精密検査が必要な危険な場合まで、その病状は幅広いことが特徴となっています。
1768年、英国の医師ウィリアム・へバーデンは「痛みの場所、絞扼感(こうやくかん)、不安感は狭心症(angina pectoris)と呼ぶに妥当で、坂道ののぼり、食直後の歩行により惹 起(じゃっき)され、生命の危機感を伴う。立ち止まると短時間で消失する」と狭心症を表現しています。心電図すらなかった時代(1700年代)のこの記述からも、症状とくに胸痛がどのような性質の痛みであるかが、診断にとって、いかに重要であるかわかるエピソードだと思います。

狭心症状の特徴

血液狭心症は、心臓の筋肉(心筋)が必要とする酸素の需要と、心臓に酸素と栄養を与える冠動脈からの血液の供給との間に不均衡が生じ、血液不足(虚血)になることで発症します。冠動脈の中が動脈硬化のために狭くなり、心臓の筋肉に血液・酸素が十分に送られなくなるために起こる場合は、心臓の仕事量が増える運動中に起こりやすくなります。
一方、血管の痙攣(けいれん)(スパスム)によって急に血管が縮んでしまう場合は、じっとしている安静時でも心臓の筋肉へ血液・酸素の供給ができなくなります〈図1〉。

図1 狭心症の原因

心臓の筋肉には冠動脈によって血液が供給されています。この冠動脈の血流が一時的に低下した状態が狭心症です。その原因としては、動脈硬化によるものと、痙攣(スパスム)によるものがあります。

狭心症の原因

狭心症を症状から判断するには、痛みの部位や性状、何が引き金になっているか(誘因)、持続時間などについての特徴を明らかにすることがポイントとなります。

部位:前胸部・胸骨後部が多く、痛みが広がっていく放散痛が下あご・首の部分・左肩、もしくは両肩、みぞおち(心窩部/しんかぶ)に出現する場合があります。また、それらに伴って起こる随伴症状として呼吸困難(息苦しい)、めまい、意識消失、吐き気、嘔吐(おうと)、冷や汗があります。これらの随伴症状がある場合は一般に重症であることが多く、より注意が必要です。

持続時間:数分程度、長くても15~20分の場合が一般的です。30分以上続く場合は、より重症の心筋梗塞に移行しつつあることが疑われます。

誘因:急ぎ足、階段をのぼる、重いものを持つなど、体を動かしてい るとき(労作中)ばかりではなく、血管の痙攣(スパスム)が関係する場合は安静時にも出現することがあります。体を動かしているときに起こる場合は活動性が高い日中に、安静時に起こるタイプは朝方や深夜就寝中などに起こりやすいという特徴があります。

一方、次のような場合は、狭心症としてはあまり当てはまらない症状と考えられています。

  • 肺の表面や胸壁の内側を覆っている胸膜の痛みで、呼吸やせきで悪化する、鋭く、ナイフで刺されたような痛み
  • 腹部の中央、もしくは下部だけの痛み
  • 指の先でピンポイントに示せる、特にみぞおちや肋軟骨接合部(肋骨を胸骨に結び付けている軟骨部分)の痛み
  • 胸郭(胸の外郭をなす部分)や腕の運動や振動で誘発されるような痛み
  • 2、3秒、もしくはもっと短い瞬間的な痛み
  • 発作の最初の瞬間に最強の痛みを伴う場合
  • 足に広がっていく痛み

狭心症の症状の特徴

心筋梗塞の予兆を知っておこう...症状の特徴は?

狭心症の中には、心筋梗塞症に移行しつつある「不安定狭心症」という特別な病状があります〈図2〉。

図2 虚血性心疾患の分類

虚血性心疾患の分類

  1. すでに説明した狭心症の症状が新たに生じた場合(この1~3週間以内に初めて起こった新規発症型の「新規労作性狭心症」の場合)
  2. 頻度・強さ・持続時間が増大し、容易に出現しやすくなった増悪(ぞうあく)型の「増悪型労作性狭心症」の場合
  3. 安静時に胸痛発作が出現するようになった「新規安静狭心症」の場合

...の3タイプが該当します。それらをまとめた〈表1〉をご覧ください。

表1 不安定狭心症の分類(1975年AHA分類)

〈1〉 新規労作性狭心症
1~3週間以内に初めて起こった労作性狭心症、もしくは少なくとも6か月以上発作のなかったものが再発したもの
〈2〉 増悪型労作性狭心症
安定した労作性狭心症であったものが頻度・強さ・持続時間が増大し、容易に出現しやすくなったり、ニトログリセリンの効果が悪くなったりしたもの
〈3〉 新規安静狭心症
安静時に胸痛発作が出現するようになったもの。15分以上続き、ニトログリセリンに反応しにくいもの

心筋梗塞は、冠動脈の血流がほとんど止まって通じなくなり、酸欠と栄養不足のため心筋の一部が、いったん変化したら元に戻らない「非可逆的な壊死(えし)」に陥るほど悪化した状態をいいます。狭心症とは異なり30分以上長く続くのが特徴です。
非可逆的な心筋壊死に陥る心筋梗塞と、もとに戻る可逆性の心筋の血液不足による狭心症とは、重症度の点でも区別して考えなくてはなりません。ですから、不安定狭心症の段階で診断されて治療を受けることがとても重要です。不安定狭心症かどうかを調べるために確かめるべきポイントを〈図3〉にまとめました。より理解を深めてもらうために代表的なケースを紹介します。

図3 不安定性に関係する症状の始まりと変化

  • 症状はいつから始まったか? 最近1か月以内の症状か?
  • 症状はどのように生じるか? 労作時? 安静時
  • 症状に変化はあるか?
    • 頻度:日・週・月に何回?
    • 強度:最大の痛みを10点とした場合、何点ぐらいの痛みか?
    • 持続時間:通常数分⇒数十分(>30分)持続することは?
  • 随伴症状はあるか:冷や汗・吐き気

・不安定狭心症:60歳代男性の場合

冠動脈への危険因子:脂質異常症、糖尿病、喫煙(20本×30年)
現病歴:10日前から2日に1回、朝出勤時の歩行中やゴルフ場での歩行中に1~2分間、前胸部圧迫感を感じていた。3日前に社内診療所で受診し、狭心症を疑われ、ニトログリセリンの処方を受けた。その後毎晩、夜間安静時に胸部圧迫感で目がさめ、ニトログリセリン舌下錠を服用すると1~2分で症状は消失。当院来院前日の午前6時半から胸痛があり、それ以降も続いたが、遠方まで出張してきた。帰宅後も症状は続いていたが放置。翌日、近所の診療所で受診、心電図で急性心筋梗塞症と診断され、当院へ緊急入院となった。

虚血性心疾患の分類

非典型的な症状も要注意

これまで解説してきた胸痛や胸部圧迫感のなど典型的な症状以外にも、息苦しい、体がだるい、吐き気、腹痛や嘔吐、もしくは失神などの非典型的な症状を伴う場合があります。説明のつかない新たな、突然の発症や、徐々に増悪する呼吸困難は、狭心症の発作の可能性を念頭に置く必要があります。
特に、女性の方、糖尿病や腎機能障害の患者さん、高齢者や認知症の場合は、みぞおちの痛み(心窩部痛)、胃腸症状、もしくは胸痛のない息切れなど非典型症状を訴えることが決して少なくありません。症状が持続し、普段に比べて心拍数が高く血圧が低いようなときは、心臓発作などの循環器系の疾患の場合があることを知っておくことも重要です。

疾患ごとの胸痛の特徴

狭心症・心筋梗塞のように胸痛を伴う心臓発作を起こす病気以外に、胸痛を伴う病気があります。それらを〈表2〉にまとめました。なかでも、大動脈の内膜に裂け目ができて起こる「急性大動脈解離」、肺の動脈が急に詰まる「肺血栓塞栓症」、心臓を取り巻く心膜の炎症「急性心膜炎」の3疾患は、胸痛が主訴の致死的急性疾患なので特に注意が必要です。
急性大動脈解離の胸痛の特徴は、突然の発症、ときに肩、背中、腰へ痛みが移動すること、痛みの性状が激烈であることが特徴です〈図4の1〉。

表2 胸痛の性状と考えられる病気

胸痛の性状と考えられる病気

図4の1 胸痛で発症する狭心症・心筋梗塞と鑑別すべき救急疾患

(1)急性大動脈解離

急性大動脈解離

肺血栓塞栓症は、胸痛とともに呼吸困難があり、長期間、病床生活を送っていたり、がんだったりした場合、まれに失神の病歴がある場合に起こりやすいという点が目立ちます〈図4の2〉。

図4の2 (2)肺血栓塞栓症

肺血栓塞栓症

急性心膜炎は、風邪を引いたときのような症状がまず出て、深呼吸したり、体位を変換したりすると、胸痛が増強するという特徴があります〈図4の3〉。

図4の3 (3)急性心膜炎

急性心膜炎

このほか、心筋症のひとつ、たこつぼ心筋症も心筋梗塞と非常によく似た症状で、検査結果も似ています。ストレスや激しい感情の変化が誘因になり、冠動脈は狭くはなっていないのに、左心室とくに心臓の先端部の収縮力が一時的に低下する疾患です。

かぎとなる来院時の症状...国循の患者データから

国立循環器病研究センター(国循)の急性心筋梗塞患者のデータから、典型的症状を示した患者と非典型的症状を示した患者を比較しました。

2007年から2014年の間に、当センターに発症後48時間以内に入院した急性心筋梗塞患者のうち、来院時の症状が確認できた1063人を対象とした研究です。

胸痛、胸部圧迫感があった典型症状群は819人(78%)、非典型症状だったのは229人(22%)でした。非典型症状の患者群は、より高齢(非典型症状群71±12歳 vs.典型的症状群 68±13歳)で、さらに糖尿病が多く(36% vs. 29%)、慢性腎臓病も多い(59% vs. 38%)という結果でした。これらの差は重要な差であることが分かっています。

典型的症状の患者群に比べ、非典型症状だった患者群では、カテーテルを使って冠動脈の血流をよくする血行再建術(Primary PCI)が行われた割合は低率(76% vs. 86%)で、また院内死亡率も高い(6.6%vs. 3.5%)ということも分かりました。これは典型的な症状(胸痛)を訴えない患者さんも充分に注意を払い、心電図やCT検査などを行う必要があることを示しています。

非典型症状群は女性に多い傾向にあり、発症から来院までの時間もより長い傾向にあることがわかりました。高齢者、糖尿病や慢性腎臓病の患者では問題の多い非典型症状を示すことが多いことがわかったわけですが、特に糖尿病が問題です。糖尿病では、「神経障害」を引き起こすことがあり、痛みなどを感じる知覚神経が障害されると、症状(痛み)が弱い、感じにくいことがあります。

すでに説明しましたように普段とは異なる症状が長く続くような場合、同時に体調不良を感じるような場合は、心臓発作である可能性を本人、ご家族ともに考えて対応することが必要なのです。

まとめ

胸痛を伴うさまざまな疾患とその特徴を説明してきました。狭心症の中で特に注意しなければならないのは、心筋梗塞症に移行しつつある不安定狭心症になっている場合です。胸痛の性状やその頻度・強度・持続時間を記録しておくことが診断や治療に結びつくことがあります。

普段はない症状が繰り返し起きる、もしくは長く続くような場合は、胸痛に限らず身体からの黄色信号かもしれません。ご自身、もしくはご家族の日々の体調管理で、体調や症状の変化に細心の注意を払ってください。それにまず気づく最も鋭敏なセンサーはあなた自身なのですから。

ページ上部へ