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[113] 弁膜症外科治療の最前線

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター
心臓外科
部長 藤田 知之
副院長 小林 順二郎

弁膜症の治療法も多様に

もくじ

  1. 心臓と弁の構造と役割、弁の病気とは
  2. 僧帽弁の病気
  3. 大動脈弁の病気
  4. おわりに

心臓外科の分野では次々と新しい治療法が開発され、それぞれの患者さんの病状に最も適した治療法を選べるようになってきました。

心臓の弁の故障をすべてひっくるめて弁膜症といいますが、この治療も近年大きく変化しています。弁膜症のうち、最近は、僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁狭窄症が増加しています。いきなり難しい病名が出てきたので、戸惑われた方も少なくないと思いますが、後で詳しく説明しますのでまず読み進んでください。

今挙げた僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁狭窄症の治療法としては、これまで弁を取り換える方法(弁置換)が第一に選択されてきました。しかし今は、患者さんの弁を修繕し、働きを高める「弁形成術」、さらには、小さな傷口(切開創)から手術する「ミックス(MICS)手術」や、「ロボット手術」、カテーテルを使って弁を取り換える「TAVI(タビ)」という手術などが行われるようになっています。

ここでは、私たちが取り組んでいる新しい治療法について紹介します。話は「1.心臓と弁の構造と役割、弁の病気とは」「2.僧帽弁の病気」「3.大動脈弁の病気」の順で進めますが、心臓や弁について基本的なことは知っているという方は1を飛ばし、2から読み始めてください。

心臓と弁の構造と役割、弁の病気とは

心臓の働き

心臓は四つの部屋があり、右に右心房と右心室、左に左心房と左心室があります〈図1〉。右の心臓は全身からかえってきた血液を肺動脈を通じ肺に送る働き、左の心臓は肺できれいになった血液を全身に送る働きを担っています。

肺動脈の血圧は全身の血圧に比べて5分の1程度ですので、右側の心臓はそれほど力強く働く必要がありません。そのため、弁にかかる負担は小さく、弁に異常が起きてもまず手術の必要はありません。

一方、左側の心臓は肺できれいになった血液を全身に送る力強いポンプの働きをしていますので、弁には大きな負担がかかります。

図1 心臓の構造と弁の名前

弁の構造と役割

心臓の弁は血液の流れを一方通行にする働きをしています。これを「一方弁」といいます。

大きなポンプの働きをする右心室や左心室が拡張(大きくなって血液を呼び込むこと)し、それらに血液が入るときは入り口の弁が開き、出口の弁が閉じます。反対に、右心室や左心室が収縮(小さくなって血液を押し出すこと)し、そこから血液が出ていくときは入り口の弁が閉じ、出口の弁が開きます。このように入り口の弁と出口の弁が交互に開いたり、閉じたりして効率よく血液を送っているのです。

心臓には合計四つの弁があり、左心房から左心室への入り口にある弁が「僧帽弁」、左心室の出口にある弁が「大動脈弁」です。右心室の入り口の弁は「三尖弁」、出口の弁は「肺動脈弁」といいます。

ここで〈図2〉を見てもらいながら、弁の構造を説明します。それぞれの弁には、輪のようになった硬い組織の“土台”があり、「弁輪(べんりん)」といいます。この土台には、ちょうど船の帆のような、ひらひらする“膜”がついていて、この膜を「弁尖(べんせん)」といいます。

図2 心臓弁のかたち

四つの弁のうち「僧帽弁」のみ〈図2〉のように二つの“膜”(弁尖)からできており、前側の膜を「前尖(ぜんせん)」、後ろ側の膜を「後尖(こうせん)」といいます。他の弁は、いずれも“膜”は三つです。

なぜ「僧帽弁」と呼ぶかというと、横から見ると中世のヨーロッパの僧侶の帽子に似ているからです。ほかの弁に比べ極めて丈夫な構造になっており、二つの“膜”(弁尖)自体も厚いのです。さらに二つの“膜”には腱索(けんさく)という繊維組織でできた“ひも”がついています。この“ひも”は合計20~30本くらいあり、左心室側の乳頭筋という筋肉につながって束ねられたようになっています〈図3〉。

図3 僧帽弁の構造

これらの“ひも”は“膜”がひっくり返らないように支える働きをしており、ちょうどパラシュートのひものような構造をしています。パラシュートのひもが切れたら空気が抜けて落下するように、僧帽弁の“ひも”が切れると、しまりが悪くなり、その場所から血液が漏れてしまいます。

弁の病気は?

弁の病気は大きく分けて、血液が弁を逆流し、効率よく血液が送れなくなる「閉鎖不全症」と、弁が硬くなって出口が狭くなる「狭窄症」とがあります。どちらも、血液が十分に全身に届かない「心不全」の原因になります。

すでに説明しましたが、僧帽弁と大動脈弁にかかる負担は大きく、故障すると心不全や突然死などの重篤な状態となります。ですから、僧帽弁と大動脈弁の病気の原因と治療を中心に話を進めます。

僧帽弁の病気

僧帽弁にも閉鎖不全症と狭窄症があります。僧帽弁狭窄症は、幼少期のリウマチ熱によるリウマチ性心臓病が原因で起こり、現在は少なくなりました。一方、僧帽弁閉鎖不全症はいろいろな原因で起こり、患者数は増加の一途をたどっており、注目すべき疾患の一つです。

僧帽弁閉鎖不全症の原因は?

僧帽弁閉鎖不全症の多くは、すでに説明しました僧帽弁の“膜”を左心室側から引っ張っている“ひも”(腱索)が伸びたり(伸展)、切れたり(断裂)して起こります。“ひも”自体が弱くなることが原因のようです。

40代から50代に起こりやすいといわれ、少し男性に多い病気です。僧帽弁は心臓が収縮したときの圧を受け止める弁ですので、高血圧との関連も指摘されています。ただし、この閉鎖不全症は発症から心不全が起こるまでに長い時間がかかることもあり、70代で手術を受けられる方も珍しくはありません。

僧帽弁閉鎖不全症の原因は他にもあり、〈図4〉のように大きく四つに分けられています。これは「カーポンティアの分類」と呼ばれています。

図4 カーポンティアの分類

タイプ1は、弁の土台となる、輪のような組織(弁輪)の拡大によって起こる閉鎖不全症です。弁輪の拡大は慢性心房細動などによる心臓の拡大に伴って起こります。弁の“膜”(弁尖)の大きさは決まっていますので、その膜が付着している弁輪が拡大すると先端が合わなくなり、すき間から血液が逆流してしまいます。そこで、患者さんの弁(自己弁)を修繕し、温存する「弁形成術」のよい適応となります。

「心房細動」については、後の「心房細動に対する治療」のところで説明します。

タイプ2は、患者さんの数が最も多く、僧帽弁閉鎖不全症とはこのタイプを指す、といっても過言ではありません。これは、すでに説明しましたように“膜”の“ひも”が伸びたり、切れたりして起こる閉鎖不全症です。

“膜”が左心房側に落ち込んでくるので「逸脱症」という言い方でも呼ばれています。一部の患者さんには弁を取り換える弁置換も行われますが、多くの患者さんの場合、タイプ1同様、「弁形成術」のよい適応となります。

タイプ3aは、リウマチ性心疾患によるものです。幼少期にリウマチ熱に罹患した人の中には、その後、“膜”が変性し、閉鎖不全症や狭窄症を引き起こします。自分の弁を温存することが難しい場合が多く、弁置換術が適応となる場合がほとんどです。

タイプ3bは、拡張型心筋症や虚血性心筋症などの心臓の筋肉の病気により、乳頭筋の位置がずれることで起こる閉鎖不全症です。病気の原因が弁ではなく筋肉にあるため、筋肉の治療など他の治療を優先することが多いですが、弁輪縫縮術が行われることもあります。

手術適応とハートチーム

〈図5〉を見てもらいながら、話を進めます。

図5 僧帽弁の治療とハートチーム

僧帽弁閉鎖不全症は弁が壊れることによって起こる病気なので、薬だけでは完治することはありません。利尿剤などの薬は、この弁閉鎖不全症による心不全の治療には役立ちますが、壊れた弁は修復してくれません。つまり、物理的に大きく壊れた弁は物理的に修復するか、取り替えるしかないのです。

しかし、手術にはリスクも伴いますので、弁はどれくらい壊れているのか、壊れた弁がどれくらい患者さんの障害となっているか、本当に手術が必要なのか、薬だけで症状を緩和し健康寿命を延ばすことはできないのか、といった点はとても重要です。

ですから、弁膜症を指摘されたら専門医の判断を受けることをお勧めします。診察してすぐに「逆流がありますね。手術を受けてください」という外科医はあまり信用しないほうがよいでしょう。

そのため、国立循環器病研究センターでは、内科、外科、双方が意見を出し合い、患者さんにとって最良の治療とは何かを検討する「ハートチーム」をつくっています。もちろん治療指針である国際的なガイドラインにのっとって治療方針を決めていきます。私たちの治療は患者さんの希望や体調も尊重し、まさに「カスタムメイド(オーダーメイド)」、「患者さん本位」の医療をめざしています。

僧帽弁の外科治療

タイプ1の弁輪の拡大による閉鎖不全症の外科治療は、〈図6〉のように「人工弁輪」を使った「弁輪形成術」が主な治療法です。これは、大きくなってしまった弁輪をもとの大きさまで小さくして逆流を止めます。

タイプ2の弁の“膜”がはみ出している場合(弁尖の逸脱)の治療は、大きく分けて「切除縫合(ほうごう)法」と「人工腱索法」があります。〈図6〉

図6 僧帽弁閉鎖不全症の治し方

「切除縫合法」は主に弁の後ろ側の“膜”がはみ出している場合(後尖の逸脱)に適応されます。はみ出した“膜”は、たいてい伸びて余っているため、これを切除し、健全な左右の部分を引っ張ってきて縫い合わせる方法です。長期成績は良好で世界中で最も多く行われている方法です。

一方、「人工腱索法」は、切れてしまった“ひも”(腱索)を人工の“ひも”で代用する方法です。これも理にかなった方法で、ゴアテックス糸(スキーウェアーなどで使われるあのゴアテックス)を用います。

切れた“ひも”の代わりに、人工の“ひも”の長さを合わせて、はみ出した“膜”を引っ張ってきます。この方法は主に弁の前側の“膜”がはみ出している場合(前尖の逸脱)に行われ、「切除縫合法」に引けを取らないくらい良好な成績です。

タイプ3bに対しては、人工弁輪を使う方法のほか、乳頭筋の位置をできるだけ本来の位置にくるように引っ張ったり、開いてしまった乳頭筋の間を縫い縮めたり、“膜”(弁尖)の動きを邪魔している“ひも”(腱索)をあえて切ったりすることもあります。ただし、確実な方法はまだ確立していません。それほど、タイプ3b、つまり拡張型心筋症や虚血性心筋症に対する治療は難しいのです。

心房細動に対する治療

僧帽弁閉鎖不全症や僧帽弁狭窄症などを長期に患っていると心房に負荷がかかって、脈が乱れる心房細動を発症してしまうことがあります。

これは、心房の壁を通る、脈をつかさどる電気が不規則に流れることにより、左心房や右心房が正しい動きができずに「細動」といって細かくふるえる状態のことをいいます。放置すると心不全や脳梗塞を発症し、半身不随などの恐ろしい合併症が起こることがあります。

心房細動は手術で治す方法があります。「メイズ(迷路のこと)手術」といって、不規則な電気の流れを断ち切り、正しい電気の流れだけを残す手術です。当院ではメイズ手術のうち最も成績がよいとされる方式を採用しており、対象患者さんにもよりますが、90%程度の成功率です。

最新の三つの僧帽弁治療

最新の治療は、「低侵襲」(患者さんの負担をより軽くすること)で、より安全でよりよい結果を生むことに重点が置かれています。その理想をめざし「ミックス手術」、「ロボット手術」、「マイトラクリップ」などの新しい治療法が開発されています。

(1) ミックス手術

最新の治療の中には定着しつつあるもの、これから保険医療を目指すものがあります。定着しつつある僧帽弁閉鎖不全症に対する最新治療に「低侵襲心臓外科手術」(Minimally invasive cardiac surgery)があります。この英語の頭文字をとってMICS(ミックス)と呼んでいます。

ミックス手術は、胸骨やろっ骨を切ることなく、ろっ骨を上下に広げるようにしてすき間をつくり、そのすき間から、心臓手術するのが特長で、〈図7〉のように、右のろっ骨のあいだを約7㎝切開して行います。この手術に必要な人工心肺装置は足の付け根のところの大腿動静脈に接続します。

図7 ミックス手術の手術創

この方法のメリットは①出血が少ない、②胸骨を切らないので縦隔炎になりにくい、③回復が早く早期退院、早期社会復帰ができる、④傷が見えにくく、美容上優れている、などがあります。

ただし難点(デメリット)もあります。手術する医師の視野(見える範囲)が限られるので、①慣れていないと難しい、②リスクの高い患者さんには向かない、などがあります。ですから、この方法で僧帽弁の手術をする場合は、患者さんとよく話しあったうえで選択します。

国立循環器病研究センターでは2011年の夏ごろから本格的にミックス手術を開始し、慎重に適応を考えながら100例を超える患者さんに行い、良好な成績を得ています。この手術は比較的若い世代で活動性の高い患者さんに向いているといえます。

(2) ロボット手術

ロボット手術は、冠状動脈の流れをよくする手術(冠動脈バイパス術)のための内胸動脈採取以外には、残念ながら保険適用にはなっていません。国立循環器病研究センターでは今まで僧帽弁形成術と心房中隔欠損症に対して臨床試験(治験)を進め、現在、保険適用を申請している段階です。ですから、2015年の段階では保険医療としても、先進医療としても行うことはできません。もちろん自己負担(入院費を含め全額)であれば、今でも手術を行うことはできます。

今はこうした状況ですが、私たちはロボット手術を未来の医療として非常に重要なものと位置付けています。

ロボット手術は「ダビンチ」という手術補助ロボットを用います〈図8〉。ダビンチは3本のアームとカメラがあり、カメラからの情報をもとに3本のアームに接続された鉗子を用いて手術を行います。遠隔操作で手術を行うため、術者はコンソールという装置の中で操作します。

図8 ダビンチ(インテュイティブサージカル合同会社)

カメラの情報は3Dなので、手術者は手術対象の部位を立体的に見ることができます。また鉗子は非常に繊細に動くので、手術者の手の動きを正確に再現してくれます。ロボットですから、実物以上に拡大してものを見ることも、実際の手よりも細かい動きをすることも可能です。ロボット手術の習熟には長期間の訓練が必要ですが、習熟した暁にはよりよい手術を提供できる可能性を持っています。

(3) マイトラクリップ(Mitraclip)

「マイトラクリップ」を聞いたことのある人は少ないでしょう。マイトラクリップとは、カテーテルで僧帽弁閉鎖不全を治すデバイス(装置)です〈図9〉。胸を切ることなくこの閉鎖不全症を治すことができるので、大きな期待がもたれています。

図9 マイトラクリップ(アボット社)

現在(2015年)国立循環器病研究センターをはじめとする数施設で臨床試験が始まりました。これは、僧帽弁の前側と後ろ側の“膜”(前尖と後尖)を一部クリップで合わせて、はみ出した部分(逸脱)を治そうとするデバイスです。

日本人での治療効果や副作用を確かめるのはこれからですが、海外では一定の成果を上げており、手術を受けるにはリスクが高すぎる患者さんやどうしても手術を受けたくない患者さんなど、特定の患者さんには有効ではないかと考えられています。

僧帽弁治療のまとめ

すべての治療についていえることですが、患者さんは短期および長期の有効性、危険性、治療しなかった時の危険性、その他の選択肢があるかどうかを知るべきです。ミックス、ロボット、マイトラクリップと治療法は日々進歩しています。患者さんは、信頼できる主治医とよく相談し自分の病状にあった治療法を選んでほしいと思います。

国立循環器病研究センターでは「弁膜症クリニック」といって、内科、外科合同の専門外来も開いています。他の病院で手術を勧められた方、弁膜症の指摘を受けて悩んでおられる方、現在の治療が大丈夫なのか確かめたい方、どなたでも受診できますので、お気軽に電話でお問い合わせください。

大動脈弁の病気

大動脈弁にも閉鎖不全症と狭窄症があります。閉鎖不全症は若年者に発症することが多く、弁の変性や先天的な奇形によって起こることがあります。一方、大動脈弁狭窄症も生まれつきの二尖弁が原因であることもありますが、最近増加しているのは高齢者の動脈硬化による狭窄症です。ここでは狭窄症を中心に述べていきます。

大動脈弁狭窄症とは?

大動脈弁の“膜”(弁尖)が硬化し、時には石灰化が起きて動きが悪くなり、弁のすき間が狭くなる病気をいいます〈図10〉。

図10 大動脈弁狭窄症

本来、大動脈弁の出口の広さ(弁口面積)は3~4cm2程度といわれていますが、症状の出る高度大動脈弁狭窄症ではこの面積が1cm2以下になっています。

出口の弁が狭いため、拍出される血液量は減少し、左心室の中の圧は非常に高くなっています。そのため、全身に血液が十分に行きわたらない「心不全」、一時的に血圧が下がって起こる「意識消失発作」、心筋に負荷がかかりすぎて起こる「狭心発作(胸が痛くなる)」、「不整脈」などの症状が生じます。

閉鎖不全症と異なり、突然死のリスクも高く、症状の出現した大動脈弁狭窄症の患者さんの予後は極めて悪く、2~3年で90%の患者さんが亡くなるというデータもあります。そのため、とにかく迅速に対応する必要があります。

そこで、壊れた大動脈弁を新しいものに取り換える弁置換術が必要となってきます。幸い、「大動脈弁置換術」の成績は良好でリスクもそれほど高くはありません。弁置換した患者さんは、しなかった患者さんに比べ、予後が大きく改善したというデータも数多くあります。

しかし、なかには高齢者や心臓の手術を受けるにはリスクが高すぎる患者さんもおられ、今まではこういった患者さんには手術はできませんでした。

こうした患者さんに適した治療として、2014年10月に切らずに治す「TAVI(タビ)」が保険適用となりました。TAVI(タビ)とは英語のtrans-catheter aortic valve implantation(経カテーテル的大動脈弁置換術)の略で、足の付け根の大腿動脈や心臓の先端からカテーテルを挿入して弁を入れ替える手術です。ここでは、一般的な弁置換とTAVIについて説明します。

弁置換術-機械弁か生体弁か

大動脈弁狭窄症の基本的な治療法は弁置換です。これは、人工心肺を用いて心臓を停止させ、大動脈を切り開き、硬化した大動脈弁を取り除き、新しい人工弁を糸で縫いつける手術です。心臓を停止させている時間は60分から90分、総手術時間は4時間程度の一般的な手術です。患者さんを悩ますのは手術法ではなく、人工の材料を使った「機械弁」を選ぶのか、それともウシやブタの組織など生体材料を使った「生体弁」を選ぶのかという問題です〈図11〉。

図11 生体弁と機械弁

機械弁は半永久的に壊れませんが、ワーファリンという抗凝固薬を一生飲まなくてはなりません。これを服用しないと人工弁に血栓ができてしまい、脳梗塞や、血栓弁といって弁が固まってしまう恐ろしい合併症が起こることがあるからです。

一方、ワーファリンの効果が高くなりすぎると出血傾向となり、内出血や鼻血のみならず、脳出血や消化管の出血など様々な出血が起こることがあります。そのため、ワーファリンは適量を飲む必要があります。

ワーファリンは体内の血液を固まらせる作用を持つビタミンKを阻害する働きがあり、このビタミンがあるとワーファリン本来の働きが落ちてしまいます。ビタミンKは納豆や乳製品をはじめ多くの食物に含まれ、肝臓で代謝されます。そのため、ワーファリンの効果は日常の食事に影響されますし、肝機能にも影響されます。

ですから、定期的に採血しワーファリンの濃度が適正かどうかを調べて内服量を修正する必要があります。他の薬を飲むと相互作用でワーファリンの効果が減弱したり、増強したりすることがありますので医師や薬剤師とよく相談して、他の服用薬を選ぶ必要があります。ただし、機械弁そのものは壊れにくいので再手術が必要となる可能性は低く、60歳以下の方に向いた弁といえます。

一方、生体弁は血栓ができにくく、必ずしもワーファリンを飲む必要がありません。しかし、次第に劣化するので長期になると再手術が必要となります。患者さんの年齢が上がれば上がるほど長持ちする傾向にあるので、高齢者に向いた弁といえます。

弁置換術後15年でのデータでは、65歳の人なら約3分の1の人が、70歳の人なら約5分の1の人が再び弁置換術を必要とします。簡単にいうと、生体弁は15年から20年くらいの寿命といえます。ただし、年齢や個人によって前後します。

最新のガイドラインでは、60歳以下は機械弁、70歳以上は生体弁。60~70歳の人はいずれでも、と推奨されています。しかし、最も重要なことはよく相談して納得したうえ、患者さん自身が選ぶということです。よく主治医と相談して決めてください。

TAVIとハートチーム

すでに説明しましたように、2013年10月に保険適用となった大動脈弁の治療法「TAVI」は、「切らずに治す」をコンセプトにカテーテルを使って大動脈弁の位置に人工弁を挿入する全く新しい治療法です。〈図12〉

図12 TAVIの様子

欧米を中心に普及し、ドイツでは大動脈弁置換術の約4割がこの方法で行われています。体への負担が少ない方法なので、高齢者などハイリスクの患者さんに適応といわれています。

TAVIは現在2種類のデバイス(装置)が保険適用となっています。エドワーズ社製のサピエンとメドトロニック社製のコアバルブです〈図13〉。いずれが向いているかは患者さんと「ハートチーム」でよく相談したうえで決定します。

図13 2種類のTAVIのデバイス

TAVIが日本に導入されたことは、リスクを心配して手術を躊躇されていた患者さんにとっては朗報と言えます。実際、TAVI開始後、多くの高齢者やハイリスクの患者さんが、私たちのセンターに紹介されるようになり、2015年夏までに100名近い患者さんが受けられました。

体への負担が少ない手術なので、手術時間が通常の半分以下で終わったり、手術直後に麻酔から覚めてお話しできるようになったり、1日でICU(集中治療室)から退室できたり、早期回復、早期退院ができる場合が増えています。実際90歳以上の患者さんがTAVIを受け、元気になられています。

TAVIは僧帽弁に対するミックス手術と異なり、本当にリスクの高い人に向いた手術といえます。ただし、新しい治療であるため長期成績がまだわかっておらず、慎重に適応を決めている段階です。

TAVIの適応決定から治療まですでに紹介しました「ハートチーム」で行います。内科医、外科医のみならず、麻酔科医、放射線科医、看護師、臨床工学技士、放射線技師など様々な職種がチームの一員として患者さんの治療にあたります。

ガイドラインでもTAVIは「ハートチーム」で適応を決め、治療にあたることが推奨されています。そういう意味でも、新しい時代の治療法といえます。

大動脈弁に対する治療のまとめ

大動脈弁手術でもミックス手術も行っています。弁の選択から手術法の選択、またはTAVIの選択まで、すべての治療において、患者さんはよく主治医と相談して決定してください。

治療法の有効性、危険性、治療しなかった時の危険性、その他の選択肢を知るべきです。患者さんそれぞれにあった治療法がありますので、信頼できる主治医とよく相談して治療法を選んでほしいと思います。

国立循環器病研究センターでは「弁膜症クリニック」といって、内科、外科合同の専門外来も運営しています。他の病院で手術を勧められた方、弁膜症の指摘を受けて悩んでおられる方、現在の治療が大丈夫なのか確かめたい方など、どなたでも受診できますので、お気軽に電話で問い合わせください。

おわりに

人口の高齢化に伴い、弁膜症の患者さんは増えています。一方、治療法も日々進歩し、多様な治療が可能になってきました。それぞれの患者さんにあった「カスタムメイド」、「患者さん本位」の治療法があるはずです。どんなささいなことでも結構です、弁膜症について自分の病状、治療法など心配なことがありましたら、いつでもご相談ください。

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