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[108] 心臓移植と人工心臓の今

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

元国立循環器病研究センター
移植部門長・臨床栄養部長 中谷 武嗣

心筋症 タイプ別に対処

もくじ

年配の方なら、1967年に南アフリカで第1例目の心臓移植が行われ、この衝撃的なニュースが世界中をかけめぐったときのことをきっとご記憶のはずです。

あれからほぼ半世紀、心臓移植と人工心臓は、従来の治療法では対応できなかった重症の心不全治療の新しい手段として期待され、いろいろな難問に直面しながらも、一歩一歩進んできました。

そのなかで、心臓移植待機中に心不全が進んだ場合に、心臓ポンプの働きを支える補助人工心臓による治療を心臓移植までの〝つなぎ〟とし、心臓移植を受けることが多く行われています。このように心臓移植と人工心臓は、それぞれの特徴を生かし、相補い合うような関係を保ちながら進歩してきたといえます。

また、幼児の場合にも心臓移植へのつなぎとして補助人工心臓が用いられ、さらにチェイニー前米副大統領が69歳で補助人工心臓による治療を受けた2年後に心臓移植を受け、73歳の現在元気に活躍されており、話題となっています。

「知っておきたい循環器病あれこれ」シリーズでは、心臓移植について第9号、第54号、第75号で、人工心臓については第42号および75号で取り上げてきました。今回は、補助人工心臓を含めた心臓移植医療の現状と、今後の展望を中心に解説します。

心不全のため、将来、心臓移植や補助人工心臓が必要になるかもしれない方や、その家族や周囲の皆さんにぜひ知っておいてほしい点をまとめました。

心不全とは

心臓は、血液ポンプとして一生涯働き続け、活動的な生活ができるよう全身の血液循環を良好に保っています。いろいろな原因によって、心臓が血液ポンプとしての機能を十分に果たせなくなった状態を心不全といいます。心不全に対し、いろいろな治療が行われ、その成績もよくなってきました。

しかし、これらの治療によっても、心臓が血液ポンプとして十分に機能しない重症心不全では、血液ポンプの働きを代行する手段が必要となります。その方法として、心臓移植と人工心臓の研究・開発が始まり、わが国でも補助人工心臓治療が1980年から行われるようになって、心臓移植は臓器移植法が制定されてから治療法の一つとして受け入れられるようになりました。

世界の現状は

1)心臓移植の足取り

1967年に第1例目の心臓移植が行われてから世界中で移植が始まりました。しかし、心臓を含め臓器移植では、「拒絶反応(免疫反応)」という大きな壁が立ちはだかっています。このため、移植を受けた人の体では、提供された「他人の臓器」を排除しようとする「拒絶反応」が起こります。1960年代は、この反応への対応が困難で心臓移植の成績はよくなく、1970年代には限られた施設だけで行われていました。

その後、拒絶反応を診断する方法として、血管の中に入れるカテーテル(管)を通じて心臓の筋肉(心筋)組織の一部を採取して調べる心筋生検法が開発され、診断ができるようになりました。さらに拒絶反応を防ぐ新しい免疫抑制薬が開発され、診断法と免疫抑制薬の進歩で心臓移植の成績はよくなってきました。

2)新しい治療法として展開

心臓移植の成績が向上し、欧米では1980年以降、従来の治療法では対応できない重症心不全の治療として心臓移植が受け入れられるようになりました。その結果、心臓移植の実施数は1980年代半ば頃まで毎年倍増、その後も増え続け、1993年には年間4900例を超えるようになりました。

その頃、バイク運転時のヘルメット着用や最高速度を減じるなど交通事故対策などの徹底もあって、脳死下での臓器の提供が減り、心臓移植実施数も4000例以下となりました。その後、脳死下での臓器提供を推進する活動などが続けられ、現在では世界中では4100例を超える実施数となっています。

その流れは、〈図1〉をご覧いただくとよくわかると思います。

図1 世界で行われた心臓移植数の推移(国際心肺移植学会報告)

3)心臓移植の成績は

国際心肺移植学会の最近のリポートでは、心臓移植の成績は1年生存率が81%、10年生存率53%で、27年以上生存している人が108人と報告されています。また、最近の生存者を3年目まで追跡した調査では、90%前後の方が普通の日常生活を送っています。 心臓移植後の患者さんが亡くなる原因には、拒絶反応、感染症に加え、移植された心臓の冠動脈(心筋を養っている動脈)の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)、悪性腫瘍(しゅよう) などがあります。

心臓移植によって心臓ポンプの働きがよくなるので、各種の重症心不全が治療の対象となっています。この中には、心臓の筋肉の病気である心筋症と、手術やカテーテルを血管内へ挿入して行うカテーテル治療では対応できない末期の冠動脈疾患が多数を占め、高度の先天性心疾患なども含まれています。

対象年齢は、新生児から60歳代くらいで、10%前後が小児です。

わが国ではどうか

1)法律に基づく心臓移植

1997年に臓器移植法が施行され、脳死と判定された人からの臓器提供が法的に認められ、2年後の1999年に臓器移植法に基づく心臓移植が行われました。しかし、臓器の提供には、本人が書面で提供の意思を示していることが必須とされていました。

また、意思表示は民法上の遺言可能年齢に準じ15歳以上が有効とされていたので、15歳未満の人からは提供ができず、小児の心臓移植はわが国では実施できませんでした。

1999年に成人3例の心臓移植が行われ、いずれも元気に退院されています。その後、心臓移植は徐々に増え、年間数例から10例を超えるようになりました。

2)臓器移植法の改正

心臓移植の効果が知られるようになり、移植を希望する人も増えました。そのため移植までの待機期間は長くなり、わが国で心臓移植が受けられない年少の小児だけでなく、国内で心臓移植が受けられる体格の大きい小児や成人もアメリカやドイツなどで心臓移植を受けていました。

しかし、海外に渡航して受ける移植は、世界のどの国も臓器提供者が足りないため、その是非をめぐって問題化し、2008年5月に国際移植学会は「移植が必要な患者の命は自国で救える努力をすること」というイスタンブール宣言を出しました。

この宣言について世界保健機構(WHO)でも検討され、2010年5月に臓器移植に関するWHOの新たな指針が設けられました。こうした動きのなかで、海外渡航移植に頼っていたわが国も、臓器移植法の改正に積極的に取り組むようになりました。

2009年に改正臓器移植法が成立、2010年7月に施行されました。

改正前の脳死での臓器提供は、すでに説明しましたように、本人の書面による意思表示と家族の承諾が必要で、15歳未満の小児からの臓器提供はできませんでした。

心臓移植は、体の大きさに合った心臓が必要です。臓器移植法の改正で、本人の意思が不明な場合、家族の承諾によって臓器の提供ができるようになり、脳死と判定された15歳未満の子どもからも臓器提供ができるようになりました。

また、臓器移植法の改正後、移植を受ける患者さん(レシピエント)を選ぶ基準として、18歳未満の人からの臓器提供があった場合、心臓移植では18歳未満で登録した希望者が優先されることになりました。

3)法改正で心臓移植実施数が増える

臓器移植法の改正によって、脳死者からの臓器提供は年間約10例から45例前後に増え、心臓移植も年間35例ぐらい行われるようになりました。この結果、改正前の12年間に行われた心臓移植は69例でしたが、改正後は2013年12月までの4年間で116例と着実に増えています。この変化は〈図2〉から、はっきりわかります。

図2 わが国で行われた心臓移植数の推移

また、18歳未満からの提供も7例(うち10.15歳が4例、6歳未満が1例)あり、いずれも心臓移植が行われました。

4)心臓移植後の生活

わが国での心臓移植の成績をみてみましょう。

2013年12月までの185例では、12例が亡くなっていますが、5年生存率は92.5%、10年生存率が89.8%と、国際心肺移植学会の調査報告による世界の平均10年生存率53%をはるかに上回っています〈図3〉。

図3 わが国と世界の心臓移植の成績

退院後は定期的に通院し、さらに入院による心筋生検検査なども行いながら、おもに外来で拒絶反応を防ぐ免疫抑制療法を続けています。また、主婦やパート勤務の方も含めて120例の方が社会復帰しており、心臓移植後の「生活の質」(Quality ofLife:QOL)は良好です。

心臓移植までの待機期間は心臓移植が開始された最初の2年間は7か月程度でしたが、その後移植希望者が増え、2005年からは2年半前後と海外に比べ著しく長くなっています。このため待機中に心不全が重症化し、補助人工心臓を装着して待機せざるを得ない状況になっています。

2014年7月までに心臓移植を受けた人の90%は、移植への〝橋渡し〟(ブリッジ、つなぎ)として補助人工心臓を使ったケースでした。それ以外の10%の人のほとんどは、強心剤の点滴を続けながら重症室で心臓移植を待機していた人たちでした。

補助人工心臓を装着して待機する患者さんが急激に増えている反面、臓器提供は少ないため、移植への待機期間は依然3年前後という厳しい現実を〈図4〉は示しています。

図4 補助人工心臓によるブリッジ数、強心剤による補助数(左目盛り)と心臓移植までの待機日数(右目盛り)

欧米では外来で治療を続けながら心臓移植を待ち、移植を受ける方がいます。しかし、わが国では、こうした方には移植のチャンスがない状態が続いています。

5)橋渡しとしての補助人工心臓

心臓移植へのブリッジに用いられる補助人工心臓は、当初は国立循環器病研究センターで開発されたニプロ.東洋紡製の体外設置型(血液ポンプと駆動装置が体外に設置されるタイプ)が多く用いられました。

このタイプでは、装着して待機している間、入院する必要があります。

この体外設置型補助人工心臓を装着して5年以上待機し、心臓移植を受けて現在元気に社会復帰している方もおられます。

米国では、心臓移植の代替手段として人工心臓の開発が1960年代より積極的に進められ、人工心臓を装着した患者さんが自宅で管理できるシステムを目指した開発も進められました。

そうした開発が進み1980年代から拍動流植込み型補助人工心臓の臨床応用が始まりました。これは、血液を脈打つように送り出し、しかもポンプ部分が体内に埋め込まれているタイプです。

ちょうどその頃、すでに説明しましたように、心臓移植の施行数が飛躍的に増加していました。それに応じて、心臓移植希望者が増加し、待機中に心不全が悪化する患者さんもおられ、補助人工心臓が心臓移植への橋渡しとして積極的に用いられるようになりました。

1990年初頭には、2種の拍動流植込み型補助人工心臓(Novacor、HeartMate VE)が、在宅で用いられるようになりました。我が国でも、これら2機種の導入が1990年代後半から開始され、2004年にはNovacorが心臓移植への橋渡しとして健康保険で認められました。

しかし、これらは大型で、小柄な人には使えませんでした。また、開発から日本で導入するまでに時間がかかったため、システムの供給ができなくなり、使用例は少数でした。

その後、より小型で耐久性にすぐれた植込み型補助人工心臓として、血液を水道水が流れるように、脈を打たせずに送り出す非拍動流型(連続流型ともいわれます)血液ポンプを用いたシステムの開発が進み、1990年代から欧米で臨床応用が始まりました。

わが国でも、非拍動流植込み型の開発が積極的に行われる一方、この新タイプの装置が臨床現場へスムーズに導入されるような体制の整備が産官学一体となって進められました。植込み型補助人工心臓による治療ができる実施施設及び実施医の認定制度や人工心臓管理技術認定士制度の発足、市販後の登録システム(J-MACS)などです。

さらに厚労省の「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」が早期導入すべきだと認定し、臨床応用にはずみがつきました。その結果、2011年4月に、日本で開発された2機種(EVAHEART、DuraHeart)が、2013年4月と2014年1月には米国で開発されたHeartMateⅡ、およびJarvik 2000が、心臓移植へのブリッジとして健康保険で認められました。

〈図5〉に、今挙げた四つの補助人工心臓を中心に紹介しています。どんな形で、どれくらいの大きさかなどがわかってもらえたらと思います。

2011年春以降、心臓移植へのブリッジとして植込み型補助人工心臓が積極的に用いられるようになり、補助人工心臓をつけたまま自宅で待機する患者さんが飛躍的に増えています。

図5 各種の補助人工心臓

これまで植込み型補助人工心臓装着手術ができるのは、心臓移植を行う病院に限られていました。現在は心臓移植病院のほか認定された病院でも行えるようになり、心臓移植病院を含め日本全国で33施設が認定されています。

補助人工心臓による在宅治療を行うには、患者さん本人、および家族を含めた介護人が、バッテリーや制御機器などの管理や、ドライブライン(体内に埋め込まれたポンプ部分と体外の電源・制御部分を結ぶライン)の皮膚を貫通する部分の消毒、血液を固まりにくくする治療などの管理ができることが必要です。また、患者さんは定期的に通院しなくてはなりませんし、緊急対応のために介護人が同居していることも必要です。

移植数の増加と植込み型補助人工心臓の役割

心臓移植が実際に選択できる治療となり、さらに補助人工心臓を装着し自宅で移植を待つことができるようになって、移植希望者が飛躍的に増えました。現在300人を超える人が待機中です。

心臓移植数が増えてきたといっても、希望者の増加には及ばないため、待機期間はさらに延び、4.5年、もしくはそれ以上となるのではないかと危惧されています。

心臓移植の適応年齢は、わが国では60歳未満が望ましいとされてきましたが、人口の高齢化と元気なお年寄りが増え、適応年齢の引き上げが課題となり、現在は65歳未満が望ましいとされています。

しかし、まだまだ提供者数が少なく、できるだけ若年者に心臓移植を受けてもらうため、60歳未満で移植希望登録した人を優先するシステムとなっています。

心臓移植の適応年齢の引き上げによって、植込み型補助人工心臓は60歳から65歳未満の移植待機者にも用いられるようになりました。これによって心臓移植までのつなぎとして植込み型補助人工心臓を装着する人が増え、心臓移植への待機期間がさらに延びると考えられています。

ですから、植込み型補助人工心臓を装着した患者さんは、その状態で長期にわたって生活する覚悟が必要です。

欧米では、心臓移植の適応とならない重症心不全患者に対する治療として植込み型補助人工心臓が最終的治療(いわゆるDestinationTherapy)として受け入れられ、積極的に進められています。

これは、2001年に報告された、心臓移植の適応とならない患者に対する内科的治療と植込み型補助人工心臓治療の効果を比較した研究で、補助人工心臓治療の効果が高いことが確かめられたのが根拠となって始まりました。

当初は拍動流型が用いられ、治療開始1.2年の間に起こるシステムトラブルが問題でしたが、非拍動流型が用いられるようになると、システムの耐久性が向上し生存率がよくなり、現在では広く行われるようになっています。わが国でも心臓移植の適応とならない重症心不全患者に対し治療の選択肢の一つとするため検討が始まっています。

まとめと今後の展望

心臓移植を受けたあと一生にわたり免疫抑制剤の服用と感染症予防が必要ですが、良好な生活を送ることが期待できます。ただし、心臓を含め臓器移植は、善意の提供があって初めて成り立つ医療であり、施行数には限りがあります。

このため、心臓移植の代わりに、人工心臓の研究、開発、臨床応用が進められてきました。わが国では、補助人工心臓の臨床応用が体外設置型で始まりました。体外設置型の場合、患者さんは入院して治療を続けることが必要ですが、この方式で長期間にわたり、心臓ポンプ機能の補助が可能となりました。

また、在宅治療が可能な植込み型補助人工心臓の開発・臨床応用も進み、日本ではすでに説明しましたように2機種が開発されました。現在、わが国ではこの2機種と、米国で開発された2機種の非拍動流植込み型補助人工心臓が心臓移植へのつなぎとして、健康保険で認められた治療となっています。

国立循環器病研究センター心臓移植・補助人工心臓チーム

また、植込み型補助人工心臓治療を円滑に行う社会的基盤の整備も進められています。さらに、心臓移植の適応とならない重症心不全の患者さんを対象とした、植込み型補助人工心臓による在宅治療についても検討が始まっています。

重症心不全の小児に適用できる補助人工心臓の開発も残された課題です。わが国でも小児の心臓移植が行えるようになりましたが、まだその実施数は限られています。さらに、成人では補助人工心臓による心臓移植へのブリッジが積極的に行われていますが、小児には使用できるシステムがなく、最近、ドイツで開発された体外設置型の臨床応用の検討が進められています。

また、小児用の植込み型補助人工心臓の開発も進められており、今後、重症心不全の小児に対する治療の一つとして期待されています。

わが国では、末期心不全に対する心臓移植と補助人工心臓を用いた治療は、これまで多くは外科医を中心に進められてきました。しかし、これらの治療が定着するには、もっと多くの内科医が関わることが重要です。教育システムも含めた体制の整備が必要で、当センターは当初から内科医が関わるシステムづくりに努めてきました。

さらに、当センターでは心臓移植待機患者と心臓移植患者の管理を専門に行う重症心不全・移植病棟が2001年に開設され、多くの職種からなる医療チームによる管理が円滑にできるようになりました。2009年から心臓内科医の研修カリキュラムに重症心不全・移植領域が組み込まれ、さらに修練医コースも設け、心臓移植と補助人工心臓治療の知識と経験を持つ内科医の養成を進めています。

重症心不全患者に対し、心臓移植や補助人工心臓治療によって心臓の機能は代行できるようになりましたが、治療の継続には患者さんの治療に対する心理的側面、家族の協力、社会経済的問題への配慮など全人格なケアが必要です。

もう一度繰り返しますが、内科的・外科的治療では対応できない重症心不全に対し、心臓移植と補助人工心臓治療によって、患者さんはQOLに優れた生活を送ることができるようになりました。そのためにはどんな状況の場合にどの治療を選ぶか、適応について慎重に検討すること、さらに患者さん本人と家族の治療に対する理解と積極的な関与が欠かせません。

移植と人工臓器がそれぞれの持ち味を生かし、治療の選択肢の一つとしてしっかり根づくよう、臓器提供を含めた総合的な体制整備を進めていくことが重要です。

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