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[102] 心不全のための心臓リハビリと運動療法

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

担当医と相談 ゆっくり運動

国立循環器病研究センター
循環器病リハビリテーション部/心臓血管内科・部長 後藤 葉一

担当医と相談 ゆっくり運動

もくじ

「心不全」とは何ですか?

辞典で「不全」を引くと「物事の状態や活動状況が不十分であること」とあります。では、「心不全」とは心臓のどんな不十分な状況をいうのでしょうか。

心臓は酸素や栄養分を含む血液を全身へ送り出すポンプの役割を果たしています。心不全は「心臓が弱ってポンプの働きが低下した結果、息切れ、呼吸困難、むくみなどの症状が出現した状態」のことです。その原因には心筋梗塞、弁膜症、心筋症、高血圧、アルコールの多飲、心筋炎などがあります。

心不全はきちんと治療しないと、しばしば再発を繰り返し、徐々に進行して重症化しますので、決してあなどってはなりません。

心不全にはどんな治療が?

〈表1〉をご覧ください。心不全の治療には①現在の症状を軽くする治療(利尿薬、酸素吸入など)②心不全の原因を治す治療(冠動脈カテーテル治療、弁膜症手術など)③心筋や血管を保護して心不全を改善する治療(β遮断薬、ACE阻害薬、運動療法・心臓リハビリテーションなど)④心不全悪化のきっかけを取り除く治療(塩分制限、感染予防など)があります。

この冊子では、心不全患者さんにとって「過剰な安静は逆効果である」ことなど、最近注目されてきた点を含め、心不全治療としての心臓リハビリテーション(リハビリ)と運動療法について解説します。

表1 心不全の治療と再発予防

表1 心不全の治療と再発予防

心不全患者さんの息切れの原因は?

心不全の患者さんは運動能力が低下し、早足歩行や坂道・階段で息切れ・呼吸困難が起こります。こう説明すると、心臓の収縮力が落ち、それに伴い運動能力も落ち、息切れが起こると思われるでしょう。

ところが、心不全の患者さんの運動能力(最高酸素摂取量=身体に酸素を取り込む能力)と心臓の強さ(収縮力)とは関係がなく、運動能力と密接に関係するのは、骨格筋(手足の筋肉)の筋力や筋肉量なのです〈図1〉。つまり、心不全の患者さんが坂道で息切れするのは、心臓の収縮力が弱いことが直接の原因ではなく、骨格筋の筋力や筋肉量が低下している結果、運動により筋肉に疲労物質が蓄積しやすく、それを神経が感じるからなのです。

心不全の患者さんで筋力や筋肉量が低下する原因として、慢性心不全に伴う血流量や栄養の低下、全身の慢性炎症などが関係しますが、もう一つの原因として「過剰な安静」を挙げることができます。

図1 心臟病患者の運動能力と心臓の強さ、および筋肉量との関係

図1 心臟病患者の運動能力と心臓の強さ、および筋肉量との関係

過剰な安静の弊害「デコンディショニング」

これまで「心不全では安静が大切」と言われてきました。しかし、長い期間安静にしすぎると、筋肉萎縮、筋力低下、呼吸機能(肺活量)低下、起立性低血圧(立ちくらみ・ふらつき)、骨こつそしょうしょう粗鬆症(骨がもろくなる病気)など、全身の働きを調節するしくみの異常が起こります。

この異常を「デコンディショニング」と呼びます。室温調節を「エア・コンディショニング(エアコン)」と呼ぶように、「コンディショニング」とは調節するという意味ですが、「デコンディショニング」はその逆の意味となり、「調節がうまくできない状態」をさします。

心不全の急性期で肺に水がたまって息苦しい時には、もちろん安静療法が必要です。しかし、肺の水が引けて安定状態になっているにもかかわらず、いつまでも過剰な安静を続けると、筋肉が萎縮し運動能力が低下するなど、デコンディショニングが進み、かえって有害となります。

「心臓リハビリテーション」のねらいと方法は?

「心臓リハビリテーション」は、心臓病の患者さんが体力の回復・自信の回復・社会復帰・再発防止をめざして、運動療法・学習(生活指導)・カウンセリング(生活相談)などを一定期間にわたって受けるプログラムのことで、「心臓病運動教室」といったものです。

通常は入院中から開始し、退院後も外来で週1~3回参加して、約3か月間継続します。内容は、心電図を見ながら患者さんの病状に合わせておこなう運動療法や運動負荷試験と、再発予防のための学習(自己管理)・生活指導(食事・服薬・身体活動)・カウンセリング(復職相談・心理相談)などを含みます。

心臓リハビリ・運動療法で期待できる効果は?

心不全の患者さんが心臓リハビリに参加し運動療法を行うことによって〈表2〉に示す効果が期待できます。

表2 心不全に対する心臓リハビリ・運動療法によって期待できる効果

表2 心不全に対する心臓リハビリ・運動療法によって期待できる効果

オーストラリアで、入院した心不全患者105人を心臓リハビリに参加する53人(参加群)と、心臓リハビリに参加しない52人(不参加群)に均等に振り分けて、参加群には「週1回の外来リハビリ+心不全専門看護師による指導+在宅運動療法+電話相談」を3か月間実施し、不参加群と比べる研究が行われました。

2010年に報告された結果によると、心臓リハビリ参加群は不参加群に比べ、3か月後の生活の質(QOL)が良好で、1年後の6分間歩行距離が長く、重症心不全になる比率が低下し、再入院率も低下することがわかりました〈図2〉。

図2 心不全に対する外来心臓リハビリ参加の効果

図2 心不全に対する外来心臓リハビリ参加の効果

「心不全の疾病管理」とは何ですか?

オーストラリアでの研究でわかったことは、外来心臓リハビリに週1回だけ参加して心不全のチェックや指導を受け、あとは自宅で運動療法を続ければ、再入院を減らせるということです。

外来心臓リハビリに週3回参加する方がもっと効果があると思われますが、時間や費用の面でむずかしい場合もあります。再入院予防のためには、週1回だけでも参加して看護師や医師のチェックや指導を受けることが大切で、これを「心不全の疾病管理」と呼びます。

心不全の患者さんは「自己管理」の方法を学んで、自分自身の努力や家族の協力で再入院を予防するための生活習慣を身につけていただく必要がありますが、入院中にすべて覚えるのは大変です。

そこで、退院後の生活の中で、定期的に外来心臓リハビリに通いながら、再入院予防につながる生活習慣を少しずつ学んで、無理なく身につけていただく、それを看護師・理学療法士・栄養士・薬剤師・医師など多くの職種で構成したリハビリチームが支援するのが、外来心臓リハビリなのです。

もちろん運動療法は週1回だけでは不十分ですので、外来心臓リハビリに週1回参加したうえで、病状に応じて週3~5回の在宅運動療法を追加する必要があります。

虚弱な心不全患者さんが運動しても大丈夫?

心不全の患者さんは、オーバーワークによって心不全が悪化することがありますから、運動療法のやり過ぎ(強すぎる運動や長時間すぎる運動)はよくありません。

しかし、最近の研究結果では、安定している心不全の患者さんが適切な運動療法を続けることによって、息切れなどの心不全症状が軽くなるだけでなく、心不全の悪化による再入院の危険性が減ることがわかってきました。現在では、心臓病の専門医の集まりである日本循環器学会や、米国やヨーロッパの心臓病学会の「慢性心不全治療ガイドライン」でも、安定した心不全の患者さんは、心臓リハビリに参加して運動療法を続けることが推奨されています。

ですから、大切なのは心不全の患者さんが運動療法をおこなうことがよいか悪いかではなく、やり過ぎにならない適切な運動療法をどういう方法でどう行うかということです。この視点に立って、一人ひとりの患者さんに、最も適した運動療法のやり方を指導するのが心臓リハビリなのです。

運動療法をする場合の注意点は?

心不全の患者さんは、心臓の働きが低下しているだけでなく、狭心症や急性心筋梗塞の患者さんに比べて骨格筋の筋肉の萎縮や筋力低下の程度が強いため、運動療法を無理なく安全におこなうには、それなりの注意が必要です。

まず第一は、心不全の患者さんが新しく運動療法を開始する場合、心電図モニターを付けて医療スタッフの監視下で始めることが基本です。入院中に開始し、退院後は外来心臓リハビリを続け、安定すれば在宅運動療法へ移るのがベストです。

第二に、軽い運動から始めてゆっくり進めることが大切です。特に初期(1~2週間)は短時間の軽い運動(歩行5分など)を2~3回繰り返すことから始め、自覚症状の悪化や体重増加がないことを確かめながら、徐々に運動時間を延長していきます。

第三に、運動メニュー(運動処方)が適切かどうか、そして心不全の病状が安定しているかどうかについて、定期的に医師のチェックを受けることが必要です。心不全の病状が安定していれば、徐々に運動量を増やす(つまり運動処方を改訂する)ことが可能です。「運動処方」については次の項で説明します。

第四に、体調不良時の対応を知っておく必要があります。運動療法を開始したあとに「前日の疲労が残る」「体重が1~2kg増加傾向」という場合は、運動量を一時的に減らすか、利尿薬を一時的に増量することで多くは改善します。

しかし、「息切れが前の週より明らかに強い」「足の浮腫(むくみ)が出た」「体重が2kg以上増加」という場合は、心不全の悪化が疑われますので、運動療法は中止して担当医に連絡することが必要です。

運動療法の「運動処方」とは?

運動療法を安全に、しかも効果的におこなうために、その患者さんに最も適した運動のやり方を決めることを「運動処方」と呼びます〈表3〉。

表3 心不全に対する運動処方

表3 心不全に対する運動処方

運動処方の内容として、運動の種類、強さ、時間、頻度が決定されます。運動は強すぎても弱すぎてもよい効果が出ないため、運動処方を守って運動することが大切です。

心不全の場合の運動は、歩行(早足歩き)、自転車こぎ、体操、軽い筋肉トレーニング(低強度レジスタンストレーニング=後で説明します)などがお勧めです。一方、水に潜る水泳、激しい運動、体に強い負荷(負担)がかかる筋肉トレーニング(腕立て伏せ、重量挙げなど)、悪天候(猛暑・酷寒)時の屋外での運動は、心不全の患者さんにはお勧めできません。

心不全の場合の運動の強さは、最大能力の40~50%が目標で、そのめやすとして運動中の心拍数(トレーニング心拍数)を用います。トレーニング心拍数は運動負荷試験の結果に基づいて決定されますが、最適なトレーニング心拍数は人によって異なりますので、リハビリ担当の先生に尋ねてください。

運動中の脈拍数を自分で測定すること(自己検脈)ができるように練習しましょう。自己検脈がうまくできない人は、心拍数計を使用する方法もあります。在宅運動療法では、指示されたトレーニング心拍数と自己検脈の脈拍が一致する強さ(速度)で運動しましょう。

適切な運動の強さのもう一つのめやすは、自覚症状です。運動中に自分で感じる症状の強さを「ボルグ指数」〈図3〉と呼ばれるスコアで表します。心不全の場合は、11点(楽である)~13点(ややきつい、軽く汗ばむ)の間くらいが適切です。

1日の運動時間は30分~60分が適切とされ、1回15分~30分を1日2回、合計30分~60分のように2回に分けてもかまいません〈表3〉。

運動の頻度は1週間に3回から7回が適切とされています。心不全が軽症の場合は、週5~7回運動してもかまいませんが、重症の場合は週3~5回と少なめにする方が安全です。その場合、少なくとも週1回は外来リハビリに参加して病状のチェックを受けてください。

図3 ボルグ指数(自覚的運動強度)

図3 ボルグ指数(自覚的運動強度)

低強度レジスタンストレーニングとは?

これまでは「心臓病の患者さんには筋トレ(筋肉トレーニング)はダメ」と言われてきました。その理由は、腕立て伏せや重量挙げなどの強い筋トレは血圧を上昇させて心臓の負担を増やすからです。

しかし、最近、軽い負荷(身体的負担)の筋トレ、つまり低強度レジスタンストレーニングなら、心臓の負担を増やすことなく筋力をアップさせる効果があることがわかってきました。

特に高齢の心不全の患者さんでは筋萎縮や筋力低下の程度が強く、歩行などの持久運動だけではなかなか筋力が回復しないため、低強度レジスタンストレーニングを併用することが効果的です。

〈図4〉に自宅でできる簡単な低強度レジスタンストレーニングの方法を示しています。動作中は息を止めずに、呼吸をしながらゆっくりとおこなってください。

図4 自宅でできる低強度レジスタンス運動

図4 自宅でできる低強度レジスタンス運動

1つの動作をゆっくり(3~5秒間かけて)5~7回ずつ繰り返して1分間休憩する。これを1セットとし、それを2~3セット繰り返して次の運動に移ります。1種類の運動(2~3セット繰り返し)の所要時間は3~5分です。

写真のすべての動作をおこなうと、A(右もも)→A(左もも)→B(右足)→B(左足)→C→Dの6動作で合計20~30分になりますが、筋力が低下している人はAとBだけ(左右4動作で約12分)からスタートして、徐々に増やすやり方でも結構です。これを週3回おこないます。転倒しないように、椅子に座るか、ものにつかまって運動しましょう。

「サルコペニア」と心不全の関係は?

サルコペニアとは「筋肉量減少」のことで、ギリシア語でサルコ(sarco)は「肉・筋肉」、ペニア(penia)は「減少・消失」を意味します。筋肉量の低下に加えて、筋力低下、または身体能力低下のいずれかがあれば、サルコペニアと診断されます。

サルコペニアの原因は、加齢のほか、長期安静による筋萎縮(廃用症候群)、栄養不足、慢性疾患(がん、心不全、感染症など)があります。高齢者のサルコペニアは、筋力低下・活動性低下を引き起こし、要介護・寝たきりの原因となる可能性があり、要注意です。

心臓病と筋肉は直接関係がないように見えますが、高齢の心不全患者さんでは、入院や安静過剰の生活によって、容易に筋萎縮・サルコペニアが進行し、日常生活での活動性低下や寝たきりにつながることがあります〈図5〉。

図5 サルコペニアと心不全との関係

図5 サルコペニアと心不全との関係

サルコペニアの予防には、適切な栄養と適度の運動が重要です。その意味でも、心不全の患者さんは心臓リハビリに積極的に参加することが欠かせません。

心不全患者さんの再入院を防ぐポイントは?

今回は心不全のための心臓リハビリと運動療法について説明しましたが、運動さえしていれば心不全がよくなるというわけではありません。運動以外にも、心不全の悪化や再入院を予防するために患者さんが自分でできることがたくさんあります。それを〈表4〉にまとめました。

表4 心不全の予防に自分でできること

表4 心不全の予防に自分でできること

心不全の悪化や再入院は、生活習慣の改善や自己管理に向けて自分で努力することによって減らすことが可能です。制限事項や禁止事項が多いと嘆くのではなく、自分でできることに、前向きに積極的に取り組んでいただきたいと思います。

心臓リハビリを受けることができる病院は?

心不全に対する心臓リハビリは、国立循環器病研究センター心血管リハビリテーション科で受けることができます。重症の患者さんは入院して心臓リハビリを始めるのが原則ですが、軽症の場合は外来で開始することも可能です。ご希望の方は、地域のかかりつけ医から当センターの専門医療連携室へ連絡していただくか、直接当センターへ問い合わせてください。

また心臓リハビリは各都道府県で認定を受けた心臓病専門病院でも受けることができます。

各都道府県の心臓リハビリの認定施設は日本心臓リハビリテーション学会のホームページ( http://square.umin.ac.jp/jacr/ )の「全国心リハ実施施設紹介」の欄で見ることができます。

 

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