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[90] 体を動かそう!─ 運動で循環器病予防 ─

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

2012年1月1日 発行

慶應義塾大学衛生学公衆衛生学教授
岡村 智教

国立循環器病研究センター 客員部長同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科教授
柳田 昌彦

部屋にこもらないで


もくじ

それはロンドンバスから始まった

体を動かすことが健康によい、と考えられるようになったのは、近代になってからです。

文明の利器が何もない近代以前は、交通手段と言えば馬車くらいしかなく、これらは一部の上流階級のものでした。庶民は歩くのが当たり前で、運動不足どころか肉体の酷使のほうが大きな問題でした。 体を動かすことが健康によい、という報告が初めて出たのは、今から約半世紀前のロンドンバスの乗務員についての研究です。観光パンフレットによく掲載されているのでおなじみかと思いますが、ロンドンバスは赤い2階建てのバスが主流です。 2階席からは町がよく見渡せて、観光にはもってこいです。ビッグベン、ロンドン塔、バッキンガム宮殿など見所はたくさんありますが、この陰で車掌さんは大忙しでした。 昔なので車内に自動券売機などはなく、常に1階と2階を行ったり来たり、毎日階段でトレーニングをしているようなものでした。一方、運転手さんは、悠然と座りっぱなし。精神的には疲れますが、体はほとんど動かしません。では、どちらが健康によかったのでしょう?

ここに目をつけたのがモリス博士でした。さて、イギリスで最も多く人が死亡する病気は何でしょうか? 日本人では「がん」ですが、イギリスでは虚血性心疾患です。耳慣れない病名ですが、これは心臓の筋肉に血液を送っている冠状動脈がつまっておきる病気の総称で、代表的なものに心筋梗(こう) 塞(そく) があります。

モリス博士は、ロンドンバスの従業員で心筋梗塞発作をおこした人を調べました。35歳から64歳までを10歳ずつに分けて調べると、運転手は車掌と比べて、どの年代でも心筋梗塞発作をおこしやすいことがわかりました〈図1〉。運動不足が病気の原因として登場してきたのは、文明の発達と密接に関連していることがわかりますね。

運動と循環器病:日本人を対象とした追跡調査から

では、日本人のデータで、運動と循環器病の関連を見てみましょう。

〈図2〉は40~79歳の男女73, 265人の運動習慣を調べて約10年間追跡し、循環器病による死亡との関連を見たものです。ここでいう循環器病は、脳卒中(脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞)や心筋梗塞などをすべて合計したものです。

左側のグラフは1日あたりの平均的な歩行時間と循環器病の関連、右側のグラフは1週間あたりのスポーツの合計時間と循環器病の関連を示しています。1日あたりの歩行時間は0.5時間(30分)、1週間のスポーツの合計時間は1~2時間を基準とし、ここを1とした場合の死亡率が示されています。

一目瞭然、歩行時間でもスポーツの合計時間でも、増えるほど循環器病死亡が減っていることがわかります。ロンドンで示された事実は、日本人にもあてはまりました。

健康のために必要な運動量は

となると、実際に循環器病を予防するには、日々どれくらい運動をすればいいのかという疑問が当然、出るはずです。

〈図2〉では、歩行時間とスポーツの合計時間がそれぞれ統計学的に調整されているので、具体的にどのくらい運動をしているかは、すぐにはわかりません。こんな時に参考になるのが厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」です。

これは運動と健康、病気の発症についての多くの研究成果を分析し、日本人の健康づくりに必要な身体活動量を示したものです。

この指針の特長は「運動」の定義を幅広くとらえていることです。運動指針と名づけられていますが、労働や家事、趣味・レクリエーションなど広い範囲を含み、むしろ「身体活動」と言い換えたほうが適切です。そして健康づくりのための「身体活動量」について、次の目標が定められています。

ここで使われている「エクササイズ」という単位は、身体活動の強さと、その実施時間から求めます。

身体活動の強さは「メッツ」という単位で表します。これは身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するかを示す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通に歩くと3メッツになります。そしてメッツに時間をかけると「エクササイズ」になります。

例えば1時間歩くと、3メッツ×1時間=3エクササイズとなります。また1エクササイズの消費カロリー(エネルギー)は、だいたいその人の体重(kg)の値とほぼ同じです。ですから、体重60kgの人が3エクササイズの身体活動をすると、消費されるカロリーは約180キロカロリーになります。

さて運動指針では、1週間で23エクササイズ以上の身体活動を勧めていますが、「活発な」という言葉が入っています。

実はこの指針では、3メッツ以上を身体活動と見なすことになっており、3メッツ以上を「活発」と考えます。3メッツ未満の弱い身体活動は目標に含まれません。

例えば座って安静にしている状態は1メッツなので、1時間座っていると計算上は1エクササイズになりますが、このようなものは含めません。要するに、歩行以上の身体活動であればいいのです。

〈図3〉に、1エクササイズに相当する活発な身体活動の例を「健康づくりのための運動指針2006」から引用しました。これを参考に週23エクササイズ(1日あたり3~4エクササイズ)の運動を目指しましょう。1時間歩くと3エクササイズですから、そんなに難しい目標ではありませんね。

なお運動指針2006の目標には、実はもう1行追記があって「そのうち4エクササイズは活発な運動を!」となっています。つまり〈図3〉の右側の生活活動だけでなく、左側の運動も取り入れたほうがいいわけです。

これもあまり難しく考える必要はありません。普通の歩行は生活活動ですが、速歩き(速歩)は立派な運動です。速歩を1時間やれば4エクササイズの運動になります。ふだんは普通に歩き、時々速歩きをする程度で十分に目標は達成できます。

運動はなぜ健康にいいのか

健康面からみた運動の効用をまとめてみると......。

ここで示された効用は、いずれも多くの調査で証明されています。例えば、ある町の健康診断受診者459人の3日間の平均歩行数(歩数計で測定)とHDLコレステロール(善玉コレステロール)の関連を検討すると、歩数が多いほどHDLコレステロールが高い傾向が認められ、歩数が1000歩増えるとHDLコレステロールは約0.7mg/dl増えることがわかりました(肥満や喫煙、飲酒など他の要因の影響が出ないよう統計学的に調整した値)。

HDLコレステロールの低下は、現在、社会的な問題となっているメタボリックシンドロームと強く関連していて、メタボリックシンドロームが改善するとHDLコレステロールが増えます。

実際に社員全員の1日の歩数を3000歩増やすことを目標に掲げた企業では、掲げていない企業に比べてHDLコレステロールの平均値は2.7mg/dl増加し、ほぼ予測通りの結果でした(Naito M, et al. Atherosclerosis 2008)。

わずかな量の増加に見えるかもしれませんが、HDLコレステロールの平均値がこれくらい上がると、会社全体の虚血性心疾患の発症率が14%減少すると考えられています。

では、メタボリックシンドロームの重大な下地となる肥満の解消に有効な運動は、どのようなものでしょうか?

メタボ予防の運動主体の保健指導教室

わたくしたちは、減量のため運動主体の保健指導教室を実施しました。その結果を紹介します。

対象は兵庫県X社の腹囲85cm以上の男性44人と、滋賀県Y社で血圧が高いなどメタボリックシンドロームの危険因子をどれか一つ以上持っていた肥満男性 58人です(計 102人)。Y社ではボディ・マス・インデックス(Body Mass Index、略してBMI。体重kgを身長mの二乗で割り算した値)が、25以上ある場合を肥満としました。

さて、どうやってやせるかです。普通に考えると運動量を増やし、食事に注意するのが基本です。しかし、ひと口に運動といってもウォーキングやスイミング、トレーニング機器を使った運動などいろいろあります。

さらに、通いやすい場所にジムやプールがあるとは限りませんし、利用時間が合わないこともあります。それなりに費用もかかります。また人前で運動をするのが恥ずかしいという人もいます。

そこで、この教室では特別な設備を必要とせず、自宅でもできる簡単な運動を中心に指導しました。もちろん食事についてもアドバイスしましたが、よくある面倒くさい栄養調査は実施せず、摂取カロリーのうち、何からたくさんカロリーをとっているかを指摘するだけにしました。

この教室では、減量指導が本当に有効かどうかを明らかにするため、まず参加者を年齢や肥満度、ウエストサイズがほぼ同じ二つのグループ(AとB)に分けました。

Aグループには肥満について講習会を開き、食事についてアドバイスしたあと、3か月間、自宅で運動するよう指導し、Bグループは何もせずに様子を見て、両方の体重や肥満度の変化を比べました。

自宅での運動として勧めたのは 1.ストレッチ 2.ダンベル体操 3.ウォーキングの組み合わせです。

AグループとBグループの3か月後の体重、BMI、ウエストの変化をまとめたのが〈図4〉です。

保健指導を受けたAグループは、受けなかったBグループと比べ、体重が2.2kg、BMIが0.7、ウエストが2.9cmそれぞれ多く減っていました。

なお、Aグループの保健指導終了後、Bグループにも同じ指導をしたところ、3か月後にAグループとほぼ同じ程度までやせました。またこの間、Aグループの肥満度などは下がったままでした。

次に、この教室で勧めた運動をメタボリックシンドローム予防という視点から解説します。

メタボ予防のための運動の実際

いつでも、どこでも、ひとりでも、手軽にできる健康づくり運動には、ストレッチングやラジオ体操のような筋肉、関節などの柔軟性を高める作用をもつ〝柔軟運動〟、重りやゴムチューブなどの物理的な抵抗負荷を使って筋肉や骨などを鍛える作用をもつ〝からだづくり運動〟(別名:レジスタンス運動)、ウォーキングやジョギングなどのような呼吸・循環器系機能を高める作用をもつ"スタミナづくり運動"(別名:有酸素運動)の3種類があります。

これらは、柔軟性、筋力、全身持久力などを高めるだけでなく、メタボリックシンドロームに対する予防・改善効果もあります。

特にウォーキングを代表とする「有酸素運動」は、体内に酸素を取り込むことによって糖分(ブドウ糖)だけでなく、脂肪もエネルギー源として積極的に消費できますので、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧など多くの循環器病危険因子に対する改善効果が認められています。

また、「レジスタンス運動」は、筋肉を増強させることによって基礎代謝というエネルギー消費量を高めますので、体脂肪の減量に有効です。

特に「ダンベル体操」のような軽い重量負荷で(例えば、中年男性では1個2~3kg、女性で1~2kg)、反復回数を多くする(1種目10~20回繰り返す)トレーニング方法は、一般的な筋力トレーニング(マシントレーニングなど)とは違って、息んで呼吸を止めることがありませんので、運動中に酸素を十分に摂取でき、有酸素運動と同様の効果があります。

もちろんレジスタンス運動特有の全身的な筋肉増強効果や生活機能の向上効果も期待できます。

運動不足ぎみだと、青・壮年期から全身持久力や柔軟性などの様々な体力が低下し始め、メタボリックシンドロームもおこしやすくなります。そこで柔軟運動・からだづくり運動・スタミナづくり運動の3種類を組み合わせて実践するのが理想的です。

ここでは、普段あまり体を動かしていない方のために、安全で効果的な方法を紹介しましょう。

実践方法1:ストレッチング

まず、最初に取り組むのは"柔軟運動"です。この運動は、普段使わなくなって硬直している筋肉や関節などを柔らかくして、動きやすい体にします。体力的には柔軟性を高め、医学的には、ぎっくり腰や腰痛、肩こりの予防につながります。

安全に手軽にできる柔軟運動としては、ストレッチングが最適です。その代表的な動作(基本プログラム)を〈図5〉に示しました。

次に正しいやり方と留意点について説明します。
①無理な反動をつけずに、ゆっくり、ゆるやかに伸ばします。

②筋肉を伸ばす(ストレッチ)度合は「心地よい痛みを感じる」程度に。

③1回の伸展時間は15~30秒が適当です。途中で力を抜かずに、ずっと伸ばし続けてください。

④ストレッチング中は、普通に呼吸して、決して息を止めないように。

⑤1日10分間でOK。できるだけ毎日実践しましょう。

⑥実践するのは朝・昼・晩、いつでもよく、1日に数回しても構いません。

⑦服装は伸縮性の高いものや、ゆったりとして動きやすいものを。

実践方法2:レジスタンス運動(ダンベル体操)

ストレッチングを2週間くらい続けて、体がだいぶ軽く感じられ、スムーズに動くようになってきたら、次に行うのは筋肉や骨などを鍛え直す〝からだづくり運動(レジスタンス運動)〟です。家庭や職場などで、いつでも手軽に取り組める種目として「ダンベル体操」をお薦めします。〈図6〉にダンベル体操の基本プログラムを示しました。

この体操の主な特長は①日常生活動作で頻繁に使用する僧帽筋(肩や背中)や大腿四頭筋(太もも)、広背筋(背中や腰)などの大筋群を鍛える種目が優先され、しかも多く含まれていること ②拮抗筋(表側と裏側とで対になっている筋肉)である上腕二頭筋と上腕三頭筋、大胸筋と広背筋などを鍛える種目が連続して組み合わされていて、それぞれ両方の筋肉を効率的に鍛える構成になっていることです。

ですから、種目の順番を変えたり、とばしたりはしないでください。

ダンベル体操を実施する際の留意点を説明します。
①ダンベルの重量は、〈図6〉の最初の「押し上げ運動」を左右交互に10回連続して「まだ楽だな」と感じる程度がよく、目安として女性は1~2kg、男性は2~3kg、高齢者は男女とも1~2kgが適当です。

②トレーニングの前に、準備運動としてストレッチングを行い、けがの予防を心がけましょう。

③トレーニング中は、ダンベルをしっかりと握りしめ、反動をつけずにゆっくり動かすようにします(1往復を約3秒で)。

④各種目10~20回繰り返します。大筋群(例えば僧帽筋や大腿四頭筋、広背筋など)を鍛える種目は、より楽に感じますので、その場合には回数を15~20回と多めにします。

⑤呼吸は自然に行い、決して息を止めないようにします。

⑥1セット(所要時間約10~15分)をできるだけ毎日実践します。ただし、最初のうちは筋肉痛が発生しやすいので、慣れるまでは1~2日置きぐらいで構いません。

⑦実践する時間帯は、仕事や家事などが終わった夕方から就寝前までが最適です。

実践方法3:有酸素運動(ウォーキング)

ストレッチングとダンベル体操を1~2か月間続けて、なまっていた筋肉や関節、骨などの運動器官が〝修繕〟されてきたら、いよいよ〝スタミナづくり運動(有酸素運動)〟に取り組みます。

有酸素運動は、文字どおり酸素を十分に摂取しながら、比較的長い時間続ける運動のことで、種目としてはウォーキングやジョギング、水泳、サイクリングなどがあります。

肥満や糖尿病の方が、速歩きやジョギングなどをいきなり始め、しかもできるだけ長い時間こなそうと張り切り過ぎることがよくあります。この場合、筋肉がなまっていたり、老化でやせ細っていたりすると、けがの危険性が高まるだけでなく、糖分や脂肪がうまく筋肉に取り込まれず、思ったほどの運動効果が得られません。

ですから、ストレッチングとダンベル体操で、あらかじめ筋肉を活性化した後に、ウォーキングのような有酸素運動を並行して実践すると、ブドウ糖や脂肪の取り込みや処理作業が効率的に進むのです。

中高年の方や、肥満や高血圧などの方は「平常歩(分速約70m)」、あるいは「速歩(分速約90m)」と呼ばれるウォーキングが最適です。無理して「ジョギング(分速約120m)」のような高強度の運動を行うと、腰痛や膝痛、狭心症などの障害を引き起こす危険性が高まりますので、注意が必要です。

有酸素運動をするとき、自分のスタミナ度(全身持久力)に見合った運動強度を選ぶことが、最も大切なポイントです。

一般的に運動強度の指標には心拍数(または脈拍数)が用いられ、壮年者の目標心拍数は110~130拍/分、高齢者は100~120拍/分がよいとされています。

有酸素運動をしてみて、「楽である」から「ややきつい」と感じる程度が至適強度です。また、ご夫婦や友人などと一緒にウォーキングをする場合、」「笑顔で会話ができる程度(ニコニコペースと呼ばれています)が気分的にも快適ですし、メタボリックシンドロームの予防・改善効果も十分に期待できる強度(速度)です。

1回あたりの実施時間は少なくとも10分以上で、週2~3回が適当です。慣れてきたら実施時間を少しずつ延ばして、頻度も毎日行うことが望ましいです。

ウォーキングをする際の基本姿勢と着地・踏み出し方は、〈1ページの図〉に示したとおりです。必ず腕を振って全身運動になるようにすることと、かかとから着地することを常に心がけてください。

運動を安全に行うために

わたくしたちの保健指導は、三つの運動を組み合わせることによって、科学的に証明できるような減量効果が認められました。持病のない壮年期の会社員が対象だったので、3か月という比較的短期間での減量を目指しましたが、通常はもう少しゆっくりで構いません。半年から1年かけてゆっくり減らすほうが、うまく行く場合もあるので、焦らずに取り組んでください。

運動は健康づくりに効果的ですが、注意して行わないと思わぬ事故につながります。ぜひ、次の点を心がけてください。

おわりに

運動を習慣化するのは、なかなかおっくうなことですが、いったん習慣になれば、栄養指導や禁煙・節酒指導のように何かを制限されるわけではありませんから、比較的続けやすいといえます。

運動といえば、競技スポーツのイメージが強く、自分には無縁だと考えがちですが、華々しいスポーツだけが運動ではありません。

最初に説明しましたように、が広い意味で運動です。「体を動かすこと」動ける人は部屋にこもらず外へ出て、少しでも体を使うようにしましょう。

この冊子が、少しでも皆さんの健康づくりと循環器病予防作戦のお役に立てれば幸いです。

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