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[32] 飲酒、喫煙と循環器病

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

2002年5月1日 発行

元国立循環器病研究センター
高血圧・腎臓部
河野 雄平

無理な注文ですな
イラスト:無理な注文ですな

もくじ

※本ページは、知っておきたい循環器病あれこれ[1]「酒、たばこと循環器病」に追加と改訂を加えたものです。


「お酒は飲んでいいのでしょうか?」「やはり禁煙すべきですか?」-患者さんから、よく出るのがこうした質問です。それほど酒やたばこは、長年たしなんできた人には重大な問題なのです。

確かにアルコールとたばこは循環器病に深い関係がありますから、どんな影響を及ぼすか、正しい情報を知っておくことが、やめるかどうかの動機づけに欠かせません。

ただし、酒とたばこはよく一緒にして問題視されますが、心臓や血管への作用はかなり異なっています。ここでは、アルコールやたばこと循環器病との関係を説明し、飲酒と喫煙についての原則をお示ししたいと思います。

単純ではないアルコールの働き

アルコールの作用はまことに多彩です。心臓の働きを強めることも、逆に弱めることもあり、血管を収縮させて血圧を上げたり、反対に、拡張させて血圧を下げたりすることもあります。

こうした変化とその程度は、長年飲んでいるかどうか、毎日かそれとも時々か、1回にどれだけ飲むか、さらに飲酒してからの時間、体質(感受性)の差などによって異なりますから、単純ではありません。

ふつうアルコールを飲むと、一時的ですが血圧が少し下がり、脈拍が増えます。私たちの研究でも血圧の低下は明らかでした。

とくに、飲むと顔が赤くなる人では、血圧の低下も脈拍の増加も大きくなります。これは、アルコールの代謝に関係している酵素の働きが遺伝的に弱いために、アセトアルデヒドという物質が血液中に増え、血管を広げるためです。

これらの作用のほか、アルコールには"善玉コレステロール"と呼ばれるHDLコレステロールを増やすという体にとってよい影響を与える作用があります。

さらに、血液の性状を調節しているシステム(血液凝固系)に作用し、血液を固まりにくくします。このために血管は詰まりにくくなりますが、逆に出血の危険性は高まります。したがって、アルコールの作用は微妙で、影響の両面を考える必要があります。

高血圧との関係

アルコールは血圧を一時的に下げることもありますが、長い間、飲み続けると、血圧を上げ、高血圧症の原因になると考えられています。多くの研究で、日々の飲酒量が多いほど血圧の平均値が上がって、高血圧症になるリスクも高まることがはっきりしてきました。

では、1日にどれくらい飲んでいると、血圧に影響するのでしょうか。<図1>は、その関係をみたものの一つです。日々の摂取量が多くなればなるほど、血圧が高くなっています。

「日本酒1合、ビール大瓶1本、ウイスキーシングル2杯、ワイン2杯」のそれぞれに含まれるアルコールは、約30ミリ・リットルですが、これまでの研究をまとめますと、アルコール1日30ミリ・リットルあたり、血圧は3ミリほど上がることが認められています。

こうした飲酒による血圧の上昇は、人種や、アルコール飲料の種類にかかわりなく認められていますから、あの酒だと影響が少ないといったことはありません。

アルコールで血圧が上がる理由については、血管の収縮反応が高まるほか、心臓の拍動を速める交感神経の活動、腎臓からマグネシウムやカルシウムが失われるため、などと考えられています。アルコール飲料に含まれるカロリーにより体重が増えることや、塩辛いつまみをとることも関係するでしょう。

図1 アルコールの摂取量が多いほど血圧は高くなる
イラスト:アルコールの摂取量が多いほど血圧は高くなる図1:アルコールの摂取量による血圧の変化を示すグラフ
「Criqui MH,Ranger RD,et al: Circulation 1989;80:609.」より

24時間血圧への影響

ところで、酒は夜に飲むことがほとんどなのに、血圧への影響を調べる研究は、日中の血圧を測定して行われてきました。すでに紹介したデータも日中の調査からわかった事実ですが、夜間の血圧の変化も併せて調べておかないと正確を期すことはできません。

そこで私たちは、高血圧の患者さんについて、飲酒を続けている時期と、酒を控えた飲酒制限期の血圧を24時間血圧測定や家庭血圧によって調査しました。

その結果が<図2>のグラフで、飲酒期の血圧は、飲酒制限期に比べて日中はやや高く、酒が血圧に影響しているのがわかります。

ところが、夜間は酒を飲んでいる時期の方が低くなったのです。1日の平均血圧では、飲んでいる時期と飲んでいない時期と比べると、あまり変わらないという結果になりました。家庭血圧でも同様に、酒を飲んでいる時期は朝は高いが夜は低いという結果でした。

したがって、アルコールが日中の血圧を上げることは事実ですが、夜の血圧(飲酒後数時間)は逆に下げるように働きます。アルコールと高血圧の関係は、これまで過大に評価されてきたのではないでしょうか。別の見方をすれば、高血圧の患者さんが飲酒を控えた場合には、日中の血圧は下がりますが、1日の平均血圧でみれば、期待するほどの降圧効果はなさそうです。

図2 高血圧の人が酒を飲んでいるときと、酒を控えたときの24時間血圧
図2:高血圧の人が酒を飲んでいるときと、酒を控えたときの、24時間血圧の変化のグラフ
「河野雄平:臨床高血圧2000;6:14.」より

アルコールの功罪

ここで、アルコールの循環器病への功罪を整理してみましょう。

マイナスとなる影響は、高血圧以外にも多く、心臓については不整脈(期外収縮や心房細動など)を誘発しますし、心肥大や心不全の原因になるのです。さらに脳出血やクモ膜下出血の危険因子となります。当然ながら、これらの危険性は、飲酒量が増えるにしたがって大きくなります。

では、その危険度はどれほど高まるのでしょうか。

<図3>は、米国がん学会の研究結果です。1日のアルコール摂取量が60ミリ・リットル(日本酒2合、ビール大瓶2本に相当)以上になると、飲まない人に比べて事故死、脳血管障害、全死亡のリスクが次第に高まっていきます。がんになる危険性も、いくつかのがんについては上昇しますから要注意です。

飲み過ぎによって、肝臓や胃腸をいためますし、多量の飲酒は精神・神経系にも悪影響を及ぼします。また、アルコール依存症の人が増え、これらは医学的にも社会的にも大きな問題です。

図3 アルコール摂取量と死亡率との関係
図3:アルコールの摂取量と死亡率を示すグラフ

◆アルコール摂取量の1は、アルコール15ミリ・リットル
(日本酒は0.5合、ビール小瓶1本、ウイスキーシングル1杯に相当)
◆アルコール摂取量の2は、アルコール30ミリ・リットル
(日本酒1合、ビール大瓶1本、ウイスキーダブル1杯に相当)

「Boffetta P, Garfinkel L: Epidemiology 1990;1:342.」より

しかし、アルコールの作用は、悪いことばかりではありません。古来、「百薬の長」などと持ち上げられてきた長所も、医学的にはっきりしてきています。

心筋梗塞や狭心症など虚血性心臓病には、アルコールが予防する効果が確かめられています。

<図3>のグラフをもう一度ながめてください。虚血性心臓病の危険度は飲酒量の多少にかかわらず、飲まない人より低く抑えられるのがはっきりしています。

脳梗塞については、少量のアルコールが予防的に働きますが、大量になるとリスクを高めるようです。

心臓や頸部、手足などの血管の動脈硬化の程度も、飲む人が飲まない人より軽いことが認められています。

こうした「功」の面は、HDLコレステロールが増えることや、血液が血管の中で詰まりにくくなるための効果と考えられます。アルコールがそれほど血圧を上げないことも関係しているでしょう。

「功」の効果は、アルコール飲料の種類にかかわらず認められています。ただ、赤ワインには、細胞の酸化を防いで動脈硬化の抑制に働く「ポリフェノール」という成分も含まれています。赤ワインがブームになったのも、この点が注目を集めたからのようです。

また最近、お酒を少し飲む人は心不全やがんになる危険性も小さいことがわかってきました。アルコールを少量、つまり1日30ミリ・リットル(日本酒1合、ビール大瓶1本に相当)以下をたしなむ人は、まったく飲まない人に比べると、循環器病による死亡率、全死亡率ともに少ないのです<図3>。

これが医学的に見て、アルコールの最も大きなプラス面として評価できる点でしょう。

ほどほどの酒は"百薬の長"
イラスト:ほどほどの酒は
なぜ赤ワインが注目される?
イラスト:なぜ赤ワインが注目される?

たばこで血管が錆びる!

たばこの煙には多くの物質が含まれており、循環器への影響は主にニコチンや一酸化炭素によるものです。

たばこを吸うと、ニコチンが交感神経系を刺激するために、血圧が上がり、脈拍が増えます。

<図4>を見てください。一服のたばこで、収縮期血圧が110あたりから130以上に上がり、心拍数も60回から80回前後へ増えることがわかります。

図4 喫煙の血圧、心拍数への影響
図4:血圧・心拍数の変化のグラフ

「Groppelli A, Omboni S, et al: J Hypertens 1990;8(Suppl 5):S35.」より

さらに一酸化炭素の増加で血液中の酸素が不足気味になります。日々、一服吸うごとに、心臓にわざわざ負担をかけているようなものです。

血管の内側は内皮細胞と呼ばれる細胞に覆われ、血管や血液の機能を保つのに重要な役割を果たしています。

ところが、たばこに含まれる酸化物質は内皮細胞にダメージを与え、血管収縮や血液凝固、動脈硬化をもたらすように働きますから、この影響も大きいのです。

金属が酸化して錆びるように、血管は酸化物質によって錆びるといえるでしょう。

コレステロールへの影響はどうでしょうか?喫煙は酒の場合と逆で、HDLコレステロールを減少させ、動脈硬化を促す酸化LDLコレステロールを増加させますから、いいことは見当たりません。

たばこは"百毒の長"
イラスト:たばこは

たばこと循環器病の関係

一般的にいえば、たばこは高血圧の原因とはみなされていません。しかし、すでに紹介したように、喫煙で血圧は一時的に上がります。24時間調べた血圧では、喫煙者は吸わない人に比べて高く、喫煙した日は吸わないでいた日より高いとの報告があり、私たちの研究でも、このことが確かめられました。たばこが血圧に及ぼす影響は、これまで過小評価されてきたといえます。

たばこの最大の問題は動脈硬化を促進することです。心臓や首、脳、手足などの血管の硬化は、喫煙者の方が非喫煙者より強いことがわかっています。さらに喫煙が心筋梗塞など虚血性心臓病の重大な危険因子の一つであることは、よく知られています。

吸わない人に比べ、喫煙者が突然死したり虚血性心臓病にかかりやすくなったりする危険度は、どれだけ高まるのでしょうか。
米国のフラミンガム研究という有名な疫学研究によれば、喫煙者が虚血性心臓病や心筋梗塞になる危険性は、非喫煙者の2~3倍で、突然死はなんと5~10倍になっています<表1>。

喫煙は脳出血とはあまり関係がありませんが、脳硬塞の危険因子であり、脳卒中全体のリスクを高めます。

また、喫煙は不整脈や足の血管が狭くなる病気(閉塞性動脈硬化症、バージャー病)の原因にもなります。

これらの危険性は喫煙量が増えるほど大きくなるのはいうまでもありません。循環器病だけでなく、がんや呼吸器病のリスクも高まります。

喫煙者は吸わない人に比べて、循環器病、がん、さらに、全体の死亡率が1.5~2倍になるのです<表2>。

ただし、禁煙すれば、<表2>のように、こうした危険性が大幅に低下することもはっきりしています。

表1 喫煙者が突然死したり、虚血性心臓病にかかりやすくなる危険度
男性女性
虚血性心臓病 2.8 2.2
心筋梗塞 3.6 1.4
突然死 10.7 4.5

吸わない人の危険度を1とした場合

「Kannel WB, Higgins M: J Hypertens 1990;8(Suppl 5):S3.」より

表2 たばこを吸い続けた場合と禁煙した場合の死亡率への危険度
死因男性女性
喫煙者 禁煙者 喫煙者 禁煙者
循環器病による死亡 1.6 1.0 1.8 1.0
がんによる死亡 2.2 1.4 1.6 1.0
全死亡 1.8 1.2 1.8 1.0

非喫煙者を1とすると、喫煙者の危険度は高いが、禁煙によって大きく低下する。

「Kannel WB, Higgins M: J Hypertens 1990;8(Suppl 5):S3.」より

もう一つ、忘れてはならないのは、喫煙はたばこを吸わない周りの人へも悪影響を与えることです。喫煙者の家族にも間接喫煙(受動喫煙)によって循環器病やがんになるリスクが高いことが知られています。

医学的にみた利点が、たばこに全くないわけではありません。しかし、それはわずかであり、害の方がはるかに大きいという事実を重ねて強調しておきます。

ご用心!"間接喫煙"の害
イラスト:ご用心!
他人のたばこでガンや循環器病に

飲酒と喫煙についての原則

飲酒や喫煙習慣のある人は、日本では男性でともに約50%、女性ではともに約10%になっています。

アルコールの摂取量は増えていますが、他の先進国に比べるとまだ少なめです。喫煙者は男性では減少傾向、女性ではほぼ横ばいで、他の先進国より男性ではまだかなり多く、女性では少ないといった状況です。

では、循環器病の人は飲酒と喫煙についてどうすればよいのでしょうか。答えはもうおわかりでしょう。

『お酒はやめなくてもよいが、飲みすぎてはいけない。たばこはやめるべきだ』-が結論になります。

「節酒と禁煙」
イラスト:「節酒と禁煙」
丈夫で長生きするには、まず、これだな。

世界保健機構(WHO)と国際高血圧学会、アメリカ高血圧合同委員会、日本高血圧学会などから、高血圧の治療指針(ガイドライン)が出ています。このうち飲酒と喫煙に関する部分をまとめたのが<表3>です。

どの指針も一致して

  • アルコールは禁止しないものの、1日30ミリ・リットル以下、または20~30グラム以下(日本酒1合、またはビール大瓶1本かワイン2杯まで)に制限すること。
    ただし、女性はその半分くらいまで
  • たばこは禁煙すること

を勧めています。

酒は「ほどほどに」といいますが、そのほどほどの限界が30ミリ・リットルといってよいでしょう。

この指針は高血圧の人に限らず、他の循環器病の人も同様に考えていいでしょう。ただし、これは原則であって、飲んでいいかどうかは、一人ひとりの病状に応じて決めることが望まれます。

節酒と禁煙を実行するには、やはり本人の自覚と努力が最も大切なのはいうまでもありません。また、家族の協力も欠かせませんし、私たち医療従事者の役目も大きいと思います。

アルコールは時々大量に飲むよりは、平均して少量ずつ飲む方がいいでしょう。医学的には、1日に缶ビール1本かワイン1杯程度が健康には最も効果的といえます。

表3 高血圧の管理のための飲酒と喫煙のガイドライン
WHO
国際高血圧学会
アメリカ
高血圧合同委員会
日本
高血圧学会
アルコール 1日30ミリ・リットル以下に制限
(女性、体重が軽い人は15ミリ・リットル以下)
1日20~30グラム以下に制限
(女性は10~20グラム以下)
1日20~30グラム以下に制限
(女性は10~20グラム以下)
たばこ 禁煙 禁煙 禁煙

禁煙はだれでも苦労しますが、ニコチンガムやニコチンパッチといった禁煙補助剤を用いるのも一つの方法です。

これらはニコチンを含んでいますが、たばこに比べ循環器への悪影響はずいぶん少なくなっています。禁煙したいがどうしてもやめられないという人は、主治医にご相談ください。

アルコールやたばこと、循環器病や全体の健康についてご説明しました。
耳よりな話は少なくて、耳の痛い話の方が多すぎると思われたかもしれません。

飲酒や喫煙に限らず、食事や運動も含めた生活習慣の改善は、循環器病の予防や治療に極めて大切です。しかし、残念なことに、健康的な生活への改善の必要なことはよくわかっていながら守れないという人が多いのも事実です。

長年のライフスタイルや個人の嗜好、さらには人生観にも関係しますから、なかなか理想通りにはいかないのでしょう。それでも自分の身体のために、できる限り良い生活習慣を続けていただくよう願ってやみません。

ニコチンガムも禁煙への一方法
イラスト:ニコチンガムも禁煙への一方法
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