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[22] ストレスと循環器病

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

2000年9月1日 発行

-ストレスとつきあうために-

神奈川県足柄上保健福祉事務所
所長 築山 久一郎

病は気から ストレス防いで健康生活!

イラスト:病は気から

もくじ

ストレスとは

試験のとき、仕事をしくじり上司に怒鳴られたとき、車を運転中に衝突しそうになったとき・・・・・心臓がどきどきし、冷や汗をかいた体験は、みなさん、だれもがお持ちだと思います。

こうした場合に「あれは大変なストレスだった」などと、よく“ストレス”を口にしますが、この言葉は何をさしているのでしょうか。

私たちの体には、いろいろな変化が加わったときに、支障が生じないように調節して元の状態に戻す仕組みが備わっています。これを「ホメオスターシス」(恒常性)といいます。

ストレスは、正確にいうと「ホメオスターシスを障害するような刺激を受けた場合にあらわれる反応」のことです。

この場合の刺激は、日常経験する感情的な興奮(怒り)や心理的重圧(不安)であり、大地震や火山の噴火や原子力発電所の事故などに遭遇したときの精神的な動揺、重いものを動かすような身体的な運動や気温の急激な低下、熱波など気温の上昇なども含まれます。

こうした刺激に対する反応が不十分であったり、適切でなかったりした場合には、身体的、または精神的な障害をきたすことになります。

例えば、地震のときに心筋梗塞の発症の頻度が高くなる場合などが、それにあたります。地震や火山の爆発、台風などによって自宅が倒壊したり、肉親を失ったり、離職したりすると、生活の基盤そのものが失われることになり、これらの影響はストレスとして一時的ではなく、長く続くことになります。

このように「ストレス反応」を生じる刺激を「ストレッサー」といいますが、一般にはこれも「ストレス」と呼んでいます。

ストレスはいろいろ
イラスト:ストレスはいろいろ

○感情的な興奮
○心理的な重圧
○天災や事故
○肉体的な負担
○急激な気温変化
○肉親の死去
○失業

 

体に何が起こるのか

試験を受けたとき、胸がどきどきする場合を例に考えてみましょう。

ストレスが加わると、脈が速くなったり、血圧が上がったりします。これは「いよいよ試験を受ける」という脳への刺激が神経を伝わって心臓に働きかけ、脈拍数を増やしたり、血管に作用して血管を収縮させたりするからです。こういったことに関係する神経を交感神経といいます。

試験のような軽いストレスではなく、重大なストレスでは当然、反応も大きくなります。

ペルシャ湾岸戦争のとき、ミサイルを撃ち込まれたイスラエルでは、心筋梗塞の患者が増えたと報告されています。

強盗に襲われるという強烈なストレスで、被害者の女性が、けがはなかったのに急死した例もあります。

とくに、冠状動脈硬化症のような心臓病をもっている人がストレスを受けると、脈が増え、血圧が急上昇し、心臓の酸素必要量が増加するのに、血液の供給が追いつかず、心臓の一部が酸素不足になってしまい、狭心症発作(胸痛)を起こしたり、極端な場合、心筋梗塞を生じたりします。

心臓への刺激によって不整脈をきたし、突然死の引き金になることさえあります。

心理的なストレスが循環器病の発症にどう関係するのかを<図1>にまとめてみました。

ストレスを受けると交感神経の活動が高まるだけでなく、副腎皮質ホルモンが盛んにつくられるようになります。これによってコレステロール濃度が高まり、血糖値が上昇し、さらに血液も濃くなって動脈硬化による病気も起こりやすくなります。

例えば、航空母艦を離発着する戦闘機のパイロットのストレスは、一定高度でかなりの距離を自動操縦で飛ぶ輸送機のパイロットに比べて高く、それを裏付けるように戦闘機のパイロットの血中のコレステロール濃度は著しく上昇することが確かめられています。

図1 心理的ストレスと循環器病との関係
図1:心理的ストレスと循環器病との関係

職場の環境もストレスとして作用することがあります。

<図2>をご覧ください。動脈硬化の目安として頸動脈の壁の状態を4年ごとに観察した調査をまとめたもので、仕事上の要求(ノルマ)が高いのに給料が低い人(言い換えれば、仕事を自分の判断で決めにくい立場の人)では、職場のストレスがたまりやすく、動脈硬化が進展しやすいことがわかります。

この結果からも、ストレスが持続すると動脈硬化が進むことが理解していただけると思います。

図2 職場における要求(ノルマ)の程度と経済的報酬、さらに動脈硬化との関係をみた調査
図2:職場における要求(ノルマ)の程度と経済的報酬、さらに動脈硬化との関係をみた調査
職場における要求(ノルマ)は強いが、経済的報酬が低い場合、ストレスが増し、動脈硬化が進展しやすい

(Lynch J ら Circulation 1997;96:302-307より引用)

ストレスが続くと高血圧の下地に?

結論をいうと「イエス」です。いくつかの報告を紹介しましょう。

中年の男性330人を約20年間、観察した報告(フラミンガム研究)によると、調査の始まった時点で、緊張状態の高かった人のグループは、そうでない人のグループに比べ、高血圧になる頻度が高かったのです。

男性6935人にストレスをどれほど感じているかを尋ね、「強く感じている」グループと「あまり感じていない」グループに分けて、約12年間観察した調査でも、ストレスの高いグループで冠動脈疾患の発症頻度が高いことが確かめられています。

失業者では、高血圧の頻度が高くなります。工場労働者218人を調べた調査では、失業に直面している場合、血圧が高くなり、景気が回復して失業の心配がなくなると血圧が正常に戻りました。

職場の状況は経済状況に大きく影響され、景気の悪化は失業しない場合でも強いストレスとして作用しますから、高血圧症になりやすくなります。

反対にストレスが少ないと、どうでしょうか。

イタリアで「沈黙の誓い」を守る修道女たちの血圧の変化を20年間、調べた報告によると、周辺の信者の女性は年々血圧が上昇したのと対照的に、修道女の血圧上昇は観察されませんでした。

俗世間から離れた修道院という環境が、もろもろの社会的ストレスから修道女を守った結果といえます。どれほどの血圧の差となったかは<図3>に示しました。

最近、これらの修道女について30年間の経過が報告されていますが、循環器病を発病する割合も、信者の女性たちより低かったことがわかりました。

血圧にひびくストレス
イラスト:血圧にひびくストレス
図3 社会的ストレスを受けない修道女には血圧の上昇がない
図3:社会的ストレスを受けない修道女には血圧の上昇がない
「沈黙の誓い」を守る修道女は20年間観察しても血圧の上昇は認められない。しかし信者の女性は年々血圧が上昇し、差が認められた

(Timio M ら Hypertension 1998;12:457-461より引用)

生活習慣に影響するか?

この答えも「イエス」です。

心理的なストレスが増えると、健康に関係する生活習慣にも影響してきます。喫煙量が増えたり、食べ過ぎになったり、アルコール量が増えたり、体を動かすのがおっくうになったりするのが、その例です。

学生の調査で、喫煙している学生のストレスの程度は、喫煙していない学生に比べ高いことがわかっています。

ストレスが多い人ほど高血圧になるリスクが高いことは説明しましたが、血圧上昇には食塩やアルコールのとり過ぎ、肥満、喫煙なども関係しています。ストレスは血圧を上げる危険因子の一つと理解してください。

米国の黒人では高血圧の割合が高いのですが、この血圧上昇分は悪い生活習慣を修正すれば、半分程度になるといわれています。

ストレスがあると、しばしば睡眠が妨げられるようになります。睡眠不足になると、血圧が高く、脈拍数が増え、交感神経の活動がふだんより高まるようになります。

ストレスによって規則的な生活が困難になれば、これがさらにストレスを増すことになります。だから、日常生活の悪い生活習慣を是正することは、ストレスが生活習慣に悪影響を与えている場合には特に大切な意味をもっていることを知っておいてください。

対策はいろいろある

対策の第一は、ストレスに気付くことです。

自分では気付いていなくても、長時間の過重な労働が続いている、休暇をほとんどとっていない、アルコールやたばこの量が増えた、睡眠時間が短い、体重が増えてきた-などがあれば、ストレスが増えてきたことが考えられますから要注意です。

ストレスは不健康な生活習慣をもたらしますが、これらの生活習慣はさらにストレスを助長し、悪循環となって、解決をますます困難にさせることになります。

1日の労働時間が11時間に延びると、1日7~8時間働く人と比べて心筋梗塞を起こす危険性は2.4倍に上昇してしまいます。<図4>

どうストレスを除くか。それは必ずしも容易なことではありません。食事や就寝時間などについて規則正しい生活を取り戻し、適度の運動をするように心がけ、同時にストレスによってもたらされた悪い生活習慣を是正することで、ストレスの悪影響のかなりの部分を取り除くことができます。

家庭環境や社会的な環境は大切で、ストレスにさらされても、こうした環境が良い状況にあれば、ストレスを和らげる効果があります。

ハワイに移住した日本人が、衣食住などについて日本の伝統的なライフスタイルを守っている場合、西欧的なライフスタイルで過ごした場合と比べ、心臓疾患が少なく、従来の日本の生活様式が評価されています。

血圧についても家庭環境が大切で、夫婦仲がよくない場合、血圧が高くなることが知られています。

日々の生活が「快適」「幸せ」と感じている学生は血圧が低く、反対に「欲求不満」の強い学生は血圧が高い場合が多いこともわかっています。

アメリカのハーバード大学の男子学生に、両親について作文を書かせ、両親への愛情を込めた表現や温かい表現がある学生と、そうした表現のない学生に分け、学生たちが中年になって再び調べた報告も興味深いものです。

愛情や温かさを表現した学生の場合、中年になっても冠動脈疾患、高血圧などが少なく、人生の前半の20年間、両親の愛情や世話がいかに大切かが浮き彫りになりました。子育ての意味を再評価する必要があります。

独り暮らしの女性について調べた結果も教訓的です。近所づきあいのない場合、血圧が高くなる割合が高くなります。ペットを飼っている人は、そうでない人に比べ、血圧が低いこともわかっていますから、近所づきあいやペットは孤独感を癒す“良薬”といっていいのです。

ですから、ストレスは独りで抱え込まず、何でも相談できる友人をもつことが大切です。

図4 1日あたり労働時間がふえると急性心筋梗塞発病の危険度が増す
図4:1日あたり労働時間がふえると急性心筋梗塞発病の危険度が増す
急性心筋梗塞を発病した男性195人と、急性心筋梗塞を発病しない男性331人を比較し、1日あたりの労働時間が増えると急性心筋梗塞の危険性が高まることを示した調査

(そうけ島 茂 ら British Medical Journal 1998;317:775-780より引用)

職場のストレスに対しては配置転換、転勤、労働条件の改善など「環境の調整」という手段がありますが、実際にそれを実行するのは会社の理解などが必要で困難な場合が少なくありません。

自ら人生観を変えることができれば、これまでの人間関係、ものごとの評価を修正し、解決に近づくことができます。

ストレスを受けると、心筋梗塞などの疾患をきたしやすいタイプの人がいます。「タイプA」と呼ばれる特有の行動パターンを示す人で、血液型とは関係ありません。

このタイプは、できるだけ少ない時間で最大の成果を上げたいという欲求が習慣化した人で、特徴として時間にいつも追われ、せっかちで、人には絶対負けてはならないという攻撃性や敵意性があります。日本人の場合は、敵意性は低く、仕事への熱心な姿勢が特徴とされています。

最近、タイプAの人に高血圧の頻度が高いことがわかってきました。自分は「タイプAである」と気付いてもらうことがまず大切で、なぜせっかちで切迫感を抱いているのか、その原因を自分自身で見つめてもらうことが必要です。

不安の程度が高かったり、抑うつの傾向が強かったりすると、心筋梗塞や高血圧になる危険性が高いと最近、報告されています。とくに高齢者の独り暮らしで、家族や友人がいない場合、不安感が強く、ストレスを感じやすく、高血圧などにかかっていても治療の意欲が損なわれてしまうことがあります。

<図5>をご覧ください。「努力しても到達することは不可能である」、「将来に希望がなく、ものごとがよくなるとは思えない」という文章に、「同感である」から「まったく意見が異なる」まで5段階に分け、その程度から絶望度を評価し、死亡の危険率との関係をみたものです。

総死亡も心血管疾患、がんなどによる死亡、さらに心筋梗塞にかかる率も絶望度が高い人ほど高くなっています。

こうしたデータから、生きがいを見つけ、趣味を持ち、友人を増やすように心がけ、親しい友人や隣人と常日頃からの交流がいかに必要かがおわかりいただけると思います。

また、経済的に困っていると、ストレスが増え、心筋梗塞の経過などが思わしくない場合が多くなります。公的な機関に相談し、援助を求めるなど対応し、ストレスを軽減させることが大切です。

図5 中年男性2428人を6年間追跡して観察した死亡の危険性と絶望度の程度との関係

(クオピオ虚血性心疾患研究、フィンランド、1996)

図5:中年男性2428人を6年間追跡して観察した死亡の危険性と絶望度の程度との関係
絶望度が高くなると、死亡の危険性が著しく高くなる
ストレスの不安予防には
イラスト:ストレスの不安予防には

○生きがいを見つける
○趣味をもつ
○日頃から友人や隣人と交流し、孤独にならないようにする
○小さなことにクヨクヨしない

 

月曜が「魔の曜日」

1週間のサイクルで循環器病が何曜日に多いかをみた欧米の報告では、脳卒中も心筋梗塞も月曜日に発症する頻度が最も高くなっています。

突然死も同様に、月曜日が最も多くなっています。ただし、勤務をしていない人では、とくに月曜日に多いということはありません。

こうした事実から、休日の翌日、仕事にとりかかることが、ストレスとして重要な役割を果たしているといえます。

週末に酒を飲む習慣の人は、月曜日の血圧が他の日より高くなると報告されています。たとえ週末だけの飲酒であっても、大量の飲酒は避ける必要があります。

心筋梗塞や脳卒中は、午前中に発症しやすいことが知られています。月曜日の午前中の仕事が多過ぎないように、ゆったりした予定を組むことが、病気の予防対策となります。

季節的には「寒冷ストレス」が循環器病の発症を促すことが知られています。冬は心筋梗塞や脳出血が増えますが、その増加は老年者で顕著です。突然死する危険率も夏より、冬場が高くなります。

気温が低いと血圧が上昇し、ふだん運動をしていない人が雪かきなどの作業に従事した場合、心筋梗塞の危険が高まります。冬場は外出するときの防寒対策と、同時に室温の調節も大切です。

夏場は老人の場合、汗をかいて脱水状態になり、血栓が生じやすくなりますから、水分の補給を心がけてください。

ストレスの管理療法

患者さんの不安が強い場合、症状の改善や血圧の安定化を期待して医師は抗不安薬を処方することがあります。

精神的な緊張緩和療法として「簡易精神療法」があります。これは医師が不安を除くのに用いる方法で(1)医師が聞き役に回って患者さんの話に耳を傾け(2)患者さんの苦しみを理解し(3)正確な診断と生活能力の評価をもとに、病状と経過に心配することはないと納得させるのを原則にしています。

このほか、精神的な緊張緩和療法として「バイオフィードバック療法」も知られています。これは、私たちが感覚的に知ることができない血圧などの情報を、工学的な方法によって知ることができるようにして、「フィードバック訓練」(自分の体にとってもっとも良い状態を体得する練習)で血圧を下降させる方法です。

すべての高血圧や循環器病の治療に有効という訳ではありませんが、ストレスの影響が大きい場合、これらの療法が有効なことが少なくありません。

ストレスで不安が強い場合は簡易精神療法を受ける
イラスト:ストレスで不安が強い場合は簡易精神療法を受ける

予防と治療のカギ

最後にこれまで説明したポイントをまとめてみましょう。

私たちを取り巻く社会には、多くのストレスがあり、これを避けることは容易ではありません。

ストレス対策は、ストレスに気付くことから始まります。生活が乱れていたら、是正する必要があります。ストレスを継続させないように、休養したり、趣味を持ったり、運動したりすることが欠かせません。

ストレスの原因となることを独りで悩むのではなく、何でも相談できる友人を持つことが望まれます。

人生観を変えることも大切で、以前は大事なことと思っていても、何十年かたってみるとあまり大事ではなかったことが随分あります。

小さなことにくよくよせず、取り越し苦労をしない-これがストレスの予防と治療のかぎです。

 

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