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[18] たばこのやめ方

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

2000年2月1日 発行

滋賀医科大学
教授 上島 弘嗣

健康保持には、まず禁煙です ”ころばぬ先のツエ”

イラスト:健康保持にまず喫煙

もくじ

はじめに

このページを読まれる方は、禁煙に関心のある方か、禁煙したいと思っておられる方ではないでしょうか。中には、家族や知人が禁煙するのに役立てばと思って読まれる方もいらっしゃるでしょう。

禁煙したいと思っておられる方は、途中まで飛ばしてもらい、「こうすれば、やめられる」からお読みになっても結構です。それ以外の方は、順次お読みいただくのがよいでしょう。

喫煙されている方は、今からでも遅くありませんから、ぜひこのページを読んで禁煙に挑戦してください。

なぜやめられないか

〔1〕ニコチン依存

たばこをいったん吸い始めると、やめようと思ってもなかなかやめられません。それは、たばこの煙に含まれるニコチンという薬物成分が繰り返し体に吸収されることで、ニコチンが切れると体がそれを欲する状態になるからです。

これが「ニコチン依存」の状態です。だから、喫煙習慣はニコチン依存症そのものなのです。

〔2〕ニコチンと気分との関係

喫煙している人は、あんなうまいものをやめることはできないと信じています。実際、たばこを吸うことによって、イライラがとれ気分が爽快になります。

こうしたことが起こるのは、喫煙によってニコチンが供給され、ニコチンの禁断症状が消失するためです。しかし、血中のニコチン濃度が低くなると、再びイライラや不快感が募ってきます。これはニコチン依存の形成によって生じることなのです。

図1 喫煙習慣はニコチン依存症
図1:喫煙習慣はニコチン中毒

〔3〕健康には害がないという理屈

喫煙している人は、喫煙が健康に害を与えると思いたくないので、喫煙と多くの健康障害との因果関係を認めようとはしません。

害を少しは認める人でも、喫煙者が吸わない人に比べ肺がんにかかりやすくなる危険度が、たかだか4倍から8倍程度であれば、大したことはないと思ってしまいます。

しかし、肺がんになった人の側から考えると、実に肺がん患者の7割は、喫煙しなければ肺がんにならなかった患者さんなのです。

ごくまれな病気なら、危険度が8倍になっても気にならないでしょう。しかし、いまや肺がんによる死亡率は胃がんを抜いて単独首位になり、しかも依然、増加しています<図2>。

喫煙していても、肺がんや心臓病、あるいは脳卒中にならない人がいますから、喫煙の害は証明されていない、と考える人がいます。

しかし、喫煙によって病気が発症しやすいのは、あくまで確率の問題であり、100%起こるということではありません。世の中に100%確実に起こるということはほとんどないのです。

結核は結核菌の感染によって起こりますが、結核菌に感染しても発症する人は一部です。喫煙もしかりです。しかし、そうだからといって、喫煙は健康障害の原因ではないと言えないのです。

図2 部位別にみた がん死亡率の年次推移
図2:部位別にみた、がん死亡率の年次推移

資料:厚生省「人口動態統計」、国民衛生の動向、厚生の指標 1999年より
(筆者が字句の一部を改変)

〔4〕ある公衆衛生医の屁(へ)理屈

公衆衛生にかかわっている医師は、病気の予防が専門です。しかし、こうした医師の中にも、少数ですが喫煙愛好者がいます。知人の公衆衛生の教授は「喫煙は本当に健康に障害を与えますかね。そのようなデータがあればやめるのですが」と真顔でいうのです。

喫煙が健康に害を及ぼすことは世界の医学常識ではあっても、医学者独特の批判精神(?)を発揮して「完全には証明されていない」と思い込むことによって、喫煙を続ける理屈を求めるのです。

〔5〕ある呼吸困難患者の喫煙

心臓病学の権威である某大学の内科教授が退職され、故郷の農村で診療所を引き継がれました。

その教授は、肺気腫なのに禁煙しない患者さんの呼気中の一酸化炭素濃度を測定して、その数値を禁煙させる動機づけにしたいと考えました。この測定装置は呼気中の一酸化炭素濃度を目に見える形で示してくれます。

患者さんは一時、禁煙できたのですが、数日で再喫煙になり、1か月後に呼吸困難で亡くなりました。教授が感想として「ニコチン依存は強いね」とおっしゃったのが印象に残っています。

禁煙すると、こんな利点が

〔1〕健康への利点

たばこをやめるのは、ニコチン依存が存在するため容易なことではありません。しかし、禁煙できれば健康を維持するのに大変多くの利益が生じます。

◇脳卒中を起こす危険性が速やかに低下する

喫煙は脳卒中を引き起こす要因の1つですが、禁煙すれば速やかにその危険性がなくなります。

<図3>は、米国の有名な疫学調査であるフラミンガム研究の成績です。禁煙した人は、1年後には、もともとたばこを吸わない人とほとんど同じ危険度に低下するのが、よくおわかりいただけたと思います。

脳卒中予防の観点から、禁煙は必須であり、禁煙による“利益”は極めて大きいのです。

◇心筋梗塞の危険性も低下

心筋梗塞は喫煙量が増えるほど、その危険性は高くなります。しかし、これも脳卒中と同じで、禁煙すれば危険性が低下します。

<図4>は、やはり米国のフラミンガム研究の結果ですが、禁煙すると速やかに、もともと吸わない人と同じ危険度になることがわかります。

◇肺機能が回復する

喫煙は肺がんの原因になるだけでなく、肺機能を低下させます。だから禁煙すれば、当然、肺機能の回復に役立ちます。

◇脳血流も回復

たばこ成分中のニコチンには血管を収縮させる作用があります。<図5>に、禁煙すればどれだけ脳血流が増えるかを示しました。 脳の働きが正常であるためには、十分な脳血流量が保たれていることが必要で、禁煙がそれに役立つのはいうまでもありません。

◇がんを起こす危険度も低下する

禁煙は、脳卒中や心筋梗塞の予防にすぐに効果が現れますが、がんの予防には即時的な効果は得られません。

長年の喫煙の影響がなくなり、肺がんになる危険度が、もともとたばこを吸わない人の危険度まで下がるには、5年から10年の歳月を必要とします。そうではあっても、禁煙に大きな効果があるのは明らかなことで、ぜひ実行すべきです。

図3 喫煙習慣と脳卒中罹患(りかん)率
図3:喫煙習慣と脳卒中罹患率

資料:Wolf PA,et al.JAMA 1988;259:1025-1029

図4 禁煙1年後の心筋梗塞発症の低下

フラミンガム・スタディ

図4:喫煙1年後の心筋梗塞発症の低下

資料:Castelli WP,Am J Med 1984;76:4-12

図5 禁煙期間(月数)と脳血流量との関係
図5:禁煙期間(月数)と脳血流量との関係

資料:Rogers RL,et al. JAMA 1985;253:2970-2974

〔2〕ほかの人への思いやり

◇隣人への迷惑が減る

喫煙者の多くは、自分の喫煙で他人がどれほど迷惑しているかについては無頓着です。たばこの煙は、非喫煙者にとって、そのにおいも煙たさも耐えられないものです。

たばこの煙を他人が吸う場合を「受動喫煙」といいますが、この場合も吸う量に比例して害があるのは喫煙者本人と同じです。

◇子どもの喫煙防止に役立つ

喫煙者はたばこを肯定する言い訳として「自分の問題は自分で責任をとるから」といいます。しかし<図6>をご覧いただくとわかるように、親が喫煙者であると子どもが喫煙者になる率は、そうでない場合よりも高いのです。

知らず知らずのうちに、子どもを喫煙に誘う道をつくっているわけで、親の喫煙態度が子どもの将来の健康に悪影響を与えてしまいます。

だから、親がたばこを吸わないことは、子どもの将来の健康維持に大いに役立つのです。この点から見ても「喫煙は自分だけの問題であり、自分で責任はとれる」と考えるのは明らかに間違いです。

◇経済的利点

たばこを毎日1箱吸うと250円程度かかり、1か月で7500円になります。税金を払って健康障害を買っているのです。月に7500円あれば、別のもっと有益なことができるはずです。

アメリカ政府は、たばこによって余分な医療費がかかったとして、たばこ会社に損害賠償を求める裁判を起こしました。喫煙による健康被害で余分に医療費がかかる点に、もっと目を向ける必要があります。

◇社会的威圧感からの解放

イギリスの医師が国民より先にたばこをやめたのは、健康問題だけからではありません。同僚や看護婦、さらに患者から「医師であるのに、たばこを吸っている」という批判の目にさらされたためです。

この場合、禁煙さえすれば、すぐに批判されることはなくなり、医師としての信頼を得るという利益が即座に得られるのです。

図6 両親の喫煙が小学生の喫煙率に与える影響
図6:両親の喫煙が小学生の喫煙率に与える影響

資料:平成3年度がん予防対策普及のための調査研究、大阪がん予防検診センターより

「体重が増える」と心配する人に

禁煙したが体重が増えたので、それが嫌で再び吸い出した、という方にしばしば出会います。

確かに禁煙すると胃の調子がよくなり、食事がおいしくなって、つい食べ過ぎ、体重が増えます。平均して3kg程度太ります。

しかし、たとえ一時的に太ることがあっても、禁煙による利益の方がはるかに大きいのは、すでに説明した通りです。それに<図7>を見てもらえばわかるように、たばこを多く吸う人ほど、もともと肥満傾向にあるのです。つまり、喫煙者は食生活も乱れているのです。

禁煙による体重の増加は、よく歩いたり、食べ過ぎに注意したりすることで防ぐことができます。

図7 喫煙者の中では 多量喫煙者ほど肥満度が高い
図7:喫煙量による年齢調整肥満度
男性30~69歳

資料:Lui et al.CVD Prevention 1998:1:282-289より(一部筆者が改変)

こうすれば、やめられる

では、どのようにして禁煙に踏み切るかを説明しましょう。

〔1〕禁煙への準備

禁煙に関心があれば、いつから禁煙するかを決めます。何事にもけじめが必要ですから、灰皿やたばこの買い置き分を処分し、禁煙後に起こるニコチン離脱症状にいかに対処するか、その方法を学んでおく必要があります。

禁煙後、数日間は離脱症状が強まります。そして、ニコチンによる離脱症状を克服しても、たばこへのあこがれは残ります。ですから、もう大丈夫と思って1本吸ってしまうと、その日から喫煙習慣が戻ります。

このように、禁煙はいとも簡単に失敗しますから、少なくとも数か月間はその誘惑と戦う姿勢が必要です。

〔2〕禁煙宣言

たばこをやめる決心がついたら、いつから禁煙するかを決めることです。なんとなくやめるより、周りにきっぱりと宣言し、そのことによって自分の行動を規制する必要があります。

禁煙する仲間同士で互いに宣言し合うのも一法です。医療機関で禁煙日を設定してもらうのもよいでしょう。「禁煙通知はがき」を付けましたので利用してください。もちろん、家族あてでも結構です。

とにかくまず宣言することです。

〔3〕ニコチン離脱症状への対応

いよいよ禁煙を開始する段になって大切なことは、禁煙によってニコチンが切れることで起こる離脱症状(禁断症状)への対処法と心構えです。<表>に米国の禁煙支援パンフレットにある、禁断症状に対する対処法を示しました。禁煙を始める前に、よく読んで習熟しておいてください。

表 離脱症状を克服する方法
離脱症状 克服する方法
たばこに対する渇望 他のことをする、深呼吸をする、みずからたばこを吸わないと暗示する
不安感 深呼吸する、カフェインの入った飲み物を飲まない、他のことをする
イライラする 歩く、深呼吸する、他のことをする
睡眠障害 寝る前にカフェインの入った飲み物を飲まない、昼寝しない、好きなスポーツのようなリラックスできることを思い浮かべる
集中力の低下 他のことをする、散歩する
ふらつき感 必要なら座ったり横になったりする、すぐに治まることを確信する
疲労感 運動する、休養をたっぷりとる
頭痛 リラックスする、必要なら頭痛薬を飲む
水を飲む
肩がこる しばらくしたら治まると確信する
便秘 水をたくさん飲む、野菜・果物などの繊維の多いものをとる
空腹感 バランスの良い食事、低カロリーのスナックをとる、冷たい水を飲む

資料:米国NIHの禁煙支援パンフレットより

〔4〕再喫煙の予防

ニコチンの身体的な禁断症状は、禁煙後の数日間がヤマで、それを過ぎると消失します。しかし、その後もたばこへのあこがれ、つまり「精神的依存」は残りますから、たばこを吸いたいという欲求は続きます。

数か月間禁煙できたとしても、1本ぐらいならいいだろうと思って吸うと、もう元の喫煙者に戻ってしまいます。再喫煙はそれほど簡単に起きてしまうのです。

禁煙したばかりの時は、再喫煙が誘発されたり、されやすい場所には近づかず、そうなりやすい機会は避けることです。

〔5〕ニコチン補充療法

禁煙の補助として禁煙開始時に医師にニコチンガムを処方してもらうのも、禁煙をより容易にするための方法です<図8>。ニコチンガム1個には2mgのニコチンが含まれ、うち約1mgが溶出します。

ニコチン補充療法は、禁煙によるニコチン離脱症状を当面引き延ばすことが第一の目的で、これでたばこを口にしない口寂しさに慣れるようにします。その後はニコチンガムを徐々に減らし、3か月以内に中止します。ニコチンガムの量は最初の1か月は1日30個以内、その後は次第に減らしていくわけです。

このガムを中止した時点でニコチンの離脱(禁断)症状が現れますから、いずれにしても離脱症状への対処法を学んでおく必要があります。

ですから、ニコチンガムの処方を受ければ簡単に禁煙できる、と考えるのは間違いです。

ガムの代わりに、ニコチンを皮膚から吸収させるニコチンパッチも医師の処方で使用することができます。

図8 再喫煙予防にニコチンガム
図8:再喫煙予防にニコチンガム

やめた人、再喫煙になった人

〔1〕ある医学部教授の禁煙

この教授は学生時代からの喫煙者で、1日に2箱は吸うヘビースモーカーでしたが、禁煙支援プログラムのおかげで禁煙に成功し、友人たちを驚かせました。

教授に心境を尋ねると「禁煙という大変困難なことが達成できたので、いまはノーベル賞でももらえる心境である」と言われました。「ついにやった」という達成感があったからでしょう。

〔2〕ある内科医の禁煙

ベテラン開業医のA先生は、いつもせきをされ、声もかれていました。よくたばこを吸われたので「釈迦に説法のようですが、禁煙されれば声もよく出て、せきも止まりますし、それに脳卒中や心筋梗塞の危険性が小さくなるのですが・・・」とアドバイスすると「いやいや、この年になってたばこをやめるなんて、それでは死んだ方がましだ」と言われるのです。

それから数年後、本当に心筋梗塞を起こし、九死に一生を得られて、またお会いすることができました。たばこはもちろんやめておられました。

少しいたずら心を起こして「たばこをやめるぐらいなら死んでもいいと言われたのに、たばこをおやめになったのですか」と意地の悪い質問をすると「やはり死にたくないので」とおっしゃいました。

〔3〕再喫煙に陥った医学部教授

K教授は禁煙して10数年経過していました。ある酒の席で、「禁煙など難しくはない。いつでもやめられる」と同僚たちに豪語されたそうです。「それでは1本吸ってみませんか」とたばこを差し出した同僚がいて、「では・・・」と1本吸うことになりました。

ところが、それがもとで翌日から喫煙者に逆戻りしてしまいました。それ以来、この教授はまだ禁煙が達成できていません。

この話は、ニコチン依存の状態はいつでも、いとも簡単に復活することを示しています。したがって、禁煙に成功しても、少しなら大丈夫と再びたばこを口にしてはならないのです。

図9 困りますね、"医者の不養生"
図9:この年になってタバコやめるなんて・・・

おわりに

禁煙は容易なことではありません。しかし、禁煙しようと思ったならば、いまからでも遅くはありません。禁煙開始日を決めてぜひ実行してもらいたいものです。

禁煙後の数日間の禁断症状が過ぎれば、一息つけます。そして、再喫煙の誘惑にうち勝ってほしいのです。

「禁煙は簡単だよと十回目」と、だれかの川柳にあるように、禁煙しても再喫煙に陥りやすいものです。しかし、失敗にめげず挑戦してください。では、禁煙開始日を設定し、禁煙宣言書を送ってください。

禁煙通知はがきの例
画像:禁煙通知はがきの例
(切り取って、はがきに張り、投函してください)

 

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