ホーム > 循環器病あれこれ > [143] がんと心臓病 ──なぜいま「腫瘍循環器学」なのか

[143] がんと心臓病 ──なぜいま「腫瘍循環器学」なのか

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

(公財)循環器病研究振興財団理事
大阪国際がんセンター名誉総長 堀 正 二

妊娠前カウンセリングで妊娠から育児まで

もくじ

  1. がんと腫瘍の違いは?
  2. 分腫瘍循環器診療・・・いま注目されるのはなぜ?
  3. がん治療で循環器病が発症することも
  4. 化学療法による心毒性
  5. がん治療による心機能障害に二つのタイプ
  6. タイプⅡは投与中止で回復することも
  7. がん患者に多い血栓症
  8. がんになると、どうして血栓ができやすい?
  9. 静脈血栓症は早期診断がポイント
  10. おわりに

いきなり難しい医学用語が登場するのをお許しください。
腫瘍循環器学(onco-cardiology)のことです。循環器学だけでも肩の張った名前なのに、その頭に腫瘍がつくと、ますます難しい名前になり、気軽に近寄れない雰囲気になってしまいます。
循環器学や循環器診療、循環器内科などに出てくる循環器は、心臓のことでは、と思っておられる方が少なくないはずです。しかし、正確にいうと血液の循環に関係する臓器全体のことですので、大きく心臓と血管を合わせて循環器と呼びます。
循環器の病気は、心臓弁膜症や心筋症、心不全といった心臓に主な原因のある場合、心臓病と呼ばれます。ところが、実際には血管に異常が発生する場合も多く、心臓の冠動脈と呼ばれる血管が細くなったり、詰まったりすると、狭心症や心筋梗塞が起こり、脳の血管が詰まると脳梗塞が起こります。
大動脈瘤や大動脈解離といった血管特有の病気や、血管全体の変化として起こってくる動脈硬化や高血圧も循環器の病気です。

がんと腫瘍の違いは?

さて、腫瘍循環器学の腫瘍とはなんでしょうか? "がん"のことだと考えられる方が多いと思います。その通り、"がん"のことです。で はどうして"がん"と言わないのでしょうか?
がんは一般名で、詳しく言いますと、がんとは臓器の上皮系の細胞の 悪性化したもの、つまり臓器の"皮"の悪性化したものを意味し、骨、筋肉、血管にできるがんは肉腫と言います。
白血病や悪性リンパ腫などを、よく血液のがんと呼びますが、血液は上皮系ではないので、厳密な意味でのがんではないのです。そこで、両方を合わせて「悪性新生物」というのですが、この呼び名は一般に使われておらず、"oncology"(オンコロジー)の訳語である「腫瘍学」の腫瘍がよく使われるのです。
腫瘍は、細胞の塊が固まりになった意味ですから、がん(癌は岩の塊の意味)と同じような意味です。しかし、腫瘍とがんはすでに説明しましたように、厳密には使い分けられていますので、一般の方には、分かりにくい原因になっています。
いずれにしても、腫瘍循環器診療は大雑把に言って、がん患者さんに生じる循環器疾患を診断したり、治療したり、予防したりすることと考えていただければよいと思います。

分腫瘍循環器診療・・・いま注目されるのはなぜ?

これにはいくつかの理由があると思います。
第一は、がん診療が進んで、がんの多くが治るようになってきたことです。20〜30年前までは、がんは不治の病と考えられ、がんと診断されると死を覚悟するのが一般的な風潮でした。
ですから医師も患者本人にがんであることを告げないで、家族に知らせることがよく行われていました。しかし、最近は、がんの告知は、積極的に本人に行い、家族には本人の了解をもらってから告知するように変わってきました。
最近の5年相対生存率(がんと診断された人の5年後の生存率を、がん以外の死因によって死亡する確率で補正して計算した値)は、がん全体で68.4%であり、がんになっても約70%の人は治ることが分かって いただけると思います。
ちなみにがんの部位別の10年相対生存率も報告されていますので、両方の生存率をまとめた〈図1〉をご覧ください。この図からもお分かりのように多くのがんが治るようになり、怖い病気ではなくなりつつあります。

図1 部位別の5年相対生存率と10年相対生存率
図1 部位別の5年相対生存率と10年相対生存率

がんが治癒、または寛解(症状が軽減するか消失した状態)した患者さんのことを「がんサーバイバー(がん生存者)」と呼びます。
人口の高齢化とともに、"2人に1人ががんになり、3人に1人ががん で亡くなる時代"です。がんは珍しい病気ではなく、高齢者にとって最 も身近な病気であり、長くお付き合いしなければならない病気なのです。
現在、新たにがんと診断される患者さんは全国で年間約90万人。がんサーバイバーも増加し続けています。
がんサーバイバーの多くは高齢者ですので、高血圧や心臓病、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)など循環器疾患が持病の方も、お薬を服用しておられる方も少なくありません。
ご存じのように、がん(悪性新生物)と循環器疾患(心臓病と脳卒中) は、日本人の死因の1位と2位を占めており、両者を併せ持っておられ る方も当然多くなり、がんサーバイバーの死因は、がんではなく循環器 疾患になっても何ら不思議はありません。しかし、それだけでは腫瘍循 環器医療が注目される理由にはなりません。

がん治療で循環器病が発症することも

実は、がんであること、またその治療中であることによって循環器疾患が発症したり、増加したりすることが注目されているのです。
一つは抗がん剤治療(化学療法)により心筋が障害され、心不全が生じる場合があることが分かってきました。以前から抗がん剤の中でも最もよく使われてきたアントラサイクリン(ドキソルビシン)は強い心筋障害作用があり、投与量に十分気を付けねばならないことはよく知られていました。さらに最近、次々に開発されている分子標的薬と言われる新しい抗がん剤にも、それぞれ異なる心毒性や血管毒性があることが分かってきました〈表1〉。

表1 代表的な抗がん剤と心毒性
表1	代表的な抗がん剤と心毒性

そうしますと、①薬剤によってどんな副作用があるのか②どのような患者さんにその副作用が出やすいのか③どうすればその副作用の発現が予測できるのか④どのようにすれば、その副作用を抑制できるのか⑤もしその副作用が出たら、どのように治療するのか⑥どのようなメカニズム(機序)で副作用が出るのか─など、次々と疑問がわいてきます。
これらを明らかにするには、それなりの調査・研究が必要です。近年、新しい抗がん剤が次々に開発され、がん診療医にとっても、どの薬剤が個々の患者さんに最適な薬剤であるか選択するだけでも、責任の重い業務になってきました。
そのうえ、循環器領域の副作用や合併症についても、きめ細かい配慮 が必要になってきています。患者さんの循環器疾患のケアについては、 やはり循環器医と連携して診療しなければ、質の高い医療を提供するこ とはできません。腫瘍循環器診療がいかに重要かを理解していただけた と思います。
さらに、がんの患者さんは、がんを病んでいるだけで血栓ができやすく、深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群(これらは後で詳しく説明します)が起こりやすいことも知られています。
深部静脈血栓症は放置しておくと、足の浮腫(むくみ)がひどくなるだけでなく、肺動脈血栓塞栓症を引き起こし、命を落とすことも珍しくないのです。
これらの血栓症は、血液をサラサラにする抗凝固薬がその予防に有効ですが、副作用として出血を起こすことがありますので、抗凝固薬の投与の仕方にはそれなりの注意が必要です。
ですから、その診断・治療・予防には専門知識が必要で、やはり循環器医が腫瘍医と連携して、患者の治療に参加することが求められています。幸い、心臓や血管にできるがん(肉腫)は極めて少ないのですが、もし発症した場合、手術で摘出することが困難な場合も少なくありません。この場合は心臓・血管外科医も含めて高度な知識と治療技術が求められるのは言うまでもありません。

化学療法による心毒性

がん治療に伴って心機能が低下したり、心不全が発症したりすることがあります。
がん治療を始める前には、心不全などまったくなかった患者さんが、 がん化学療法(抗がん剤治療)を始めてから数週間〜数か月後に、階段を上ると息切れを感じるようになり、循環器内科で検査をしてもらうと心機能が低下しており、心不全によるものだったというようなケースが決して少なくありません。
心機能は心電図検査だけでは診断することができず、通常は心エコー図検査で心臓の収縮状態が良好か、心臓が大きくなっていないかなどが詳しく分かります。
普通の胸部レントゲン検査だけでは、心機能を詳しく診断することはで きず、心機能が若干低下していても心不全の症状が出ていない場合は、見 逃される場合も少なくないのです。息苦しさや動悸・急な体重増加などの 症状がそろって、初めて心不全と診断され、大慌てになることもあります。
このようながん治療に伴う心機能障害に対して、2014年に「がん治療関連心機能障害(CTRCD)」という考え方が提唱され、"心エコー図検査で左室駆出率が10%以上低下し、かつ53%または正常下限値以下となった場合"と定義されました。

がん治療による心機能障害に二つのタイプ

がん治療に伴う心機能障害は病状の進行具合から、二つのタイプに分類されています。タイプⅠとタイプⅡです。
タイプⅠは、アントラサイクリン系抗がん剤に代表されるもので、総投与量に比例して心機能が低下し、その心機能障害は持続的で回復しない心筋障害であり、心筋に組織の障害性変化を伴うのが特徴です。 アントラサイクリンは、抗がん剤治療の中でも最も早く開発され、その作用が強力なので、現在でも多くのがん治療に使われています。
その心毒性は従来からよく知られており、累積投与量が500mg/m2(体表面積)を超えると、高い頻度で心機能障害を起こすので、限界投 与量に近づくと極めて慎重に投与されています。
しかし、このタイプⅠの心機能障害にも、例外的な場合があることが分かってきました。例えば、がんの治療期間中には心機能の低下は起こらなかったのに、がんの治療後10年もたって心機能障害や心不全が発症する場合があることが報告され、遅延型慢性進行性心筋毒性(晩期心毒性)と言われています。
しかし、これを予知することは現在、まだできません。心機能が低下し始めたとき、慢性心不全の治療薬として、一般に用いられているβ遮 断薬やACE阻害薬を投与すると、心機能が改善する症例が多くみられ ることが報告されています。もし、心機能障害が予測できるなら、早い目の予防投与も有効かもしれません。
代表的な抗がん剤(アントラサイクリン)治療での心機能障害の経過を〈図2〉に示しました。この抗がん剤は、心筋細胞の遺伝子を傷つけたり、酸化ストレスと言われる細胞毒性によって、いろいろなタンパクや酵素を壊すなどして、心筋障害を起こします。

図2 代表的な抗がん剤(アントラサイクリン)治療後の心機能障害の経過治療後、10年以上経過してから心機能障害が発症することもある(晩期心毒性)
図2 代表的な抗がん剤(アントラサイクリン)治療後の心機能障害の経過治療後、10年以上経過してから心機能障害が発症することもある(晩期心毒性)

アントラサイクリンの投与後、心機能の低下がみられたら、心筋を保護する治療薬が投与されますが、がん治療後、長年経ってから心機能が悪化することがあり、これは予測することができないのです。
このように、治療経過中に心機能の低下が始まったかどうかを知るためには、化学療法を開始する前から、心エコー図検査や心電図検査をする必要があります。
しかし、化学療法を始める前に、すべての患者さんに心エコー図検査を 実施することは、現在の医療体制から考えて難しいといわざるを得ません。

タイプⅡは投与中止で回復することも

タイプⅡの心毒性は、トラスツズマブ(ハーセプチン)に代表される心機能障害で、その特徴はアントラサイクリンのように累積投与量が重要ではなく、つまり投与量とは強い関係がなく(用量非依存性)、心機 能障害は多くの場合、投与を中止すると回復します。
〈図3〉は、ある乳がん患者さんの抗がん剤治療後の心機能(左室駆 出率)の経過を示しています。FECと呼ばれる3種類の抗がん剤治療の後、トラスツズマブ(ハーセプチン)を投与すると、左室駆出率ががん治療関連心機能障害(CTRCD)と言われるレベルまで低下しましたの で、トラスツズマブの投与を約1か月間中止しました。

図3 乳がん手術後の抗がん剤治療と心機能障害
図3	乳がん手術後の抗がん剤治療と心機能障害

この一時的休薬によって心機能は回復傾向になりましたので、投薬を再開し、予定した投与を行うことができました。多くの場合、一時的休薬、または心不全治療によって心機能の回復がみられます。
しかし、一部の症例では、治療前の検査値まで回復しないことがあります。現在、どのような症例で回復しないのか、もっと長期間、観察すると回復するのかなど、よく分かっていないことが多いのです。
抗がん剤の投与によって循環器に生じる異常は心不全だけではありません。〈表1〉をもう一度ご覧ください。
抗がん剤治療によって、不整脈が引き起こされることがあります。日 常的によく見られる期外収縮などの不整脈が見つかったり、その数が増 えたりすることもあります。抗がん剤それ自体による心筋障害によるも のか、抗がん剤投与患者によくみられる血中電解質(ナトリウム、カリ ウム、マグネシウムなど)の異常によるものかを見極める必要があります。
しかし、パクリタキセルなど一部の抗がん剤は、脈が遅くなる徐脈や、電気刺激の伝わり方が遅くなる伝導障害を起こしやすく、ペースメー カーが必要になる場合もありますが、ほとんどは休薬すると回復するこ とが分かっています。
また、ダサチニブやニロチニブなどの抗がん剤は、心電図異常(QT 延長)を起こしやすく、時々心電図検査で変化がないかチェックすることも大切です。
この他にも、血管に副作用が生じる抗がん剤もあります。血管内皮増殖因子(VEGF)の作用を抑制するベバシズマブなどの抗がん剤は、血 管拡張作用を持つ因子を抑制しますので、血管が収縮して血圧が上がったり、狭心症を発症したりします。
この場合は、血圧を下げるお薬を処方したり、狭心症のお薬を服用したりしてもらう必要があります。
このように抗がん剤の種類と作用機序の違いによって現れる副作用も異なりますが、抗がん剤に限らず心臓部位への放射線治療によって、循環器系の副作用が出る場合もあります。
心臓を対象に直接、放射線の照射治療を行うことはあまりありませんが、肺がんの治療のため、やむを得ず多くの放射線が心臓に当たる場合があります。
治療が終わって何か月も経過した後に、冠動脈が細くなって狭心症や 心筋梗塞が起きたり、心機能が低下したりする場合があります。ですか ら胸部の放射線治療の後は、心臓部への照射線量も注意しておかないと、放射線治療の副作用にすら気が付かないことが起こります。
まだまだ詳しいことが分かっておらず、治療との因果関係を明確にすることすら困難な場合も少なくありません。これからも、もっと研究が必要なのです。

がん患者に多い血栓症

抗がん剤治療に伴う心筋障害(心毒性)は、腫瘍循環器学の重要テーマの一つですが、がん患者に多い静脈血栓症ももう一つの大きな課題です。静脈血栓症はエコノミークラス症候群と言えば、分かりやすいと思います。長時間同じ姿勢で座っていると下肢の血流の戻りが悪くなり、下肢の静脈に血栓(血の塊)ができ、足が腫れて赤くなり、痛みが出て歩けなくなることがあります。
これを深部静脈血栓症と言います。初めはふくらはぎの静脈に生じた血栓が徐々に上の方(中枢側)に上がってきて、ついには肺動脈に血栓が詰まり、肺動脈血栓塞栓症を起こすと、肺での酸素交換がうまく行われず死に至る恐ろしい病気です〈図4〉。

図4 深部静脈血栓症と肺動脈血栓塞栓症
図4	深部静脈血栓症と肺動脈血栓塞栓症

下肢静脈に生じる深部静脈血栓症と、肺動脈血栓塞栓症を合わせて静脈血栓塞栓症と言います。健康な人でも、長時間のフライトでじっと座っていると、この静脈血栓塞栓症を起こすことがあります。
これは一般に高齢者に多いのですが、がん患者さんでは、この静脈血栓塞栓症が健常人の4〜7倍も多く発症することが分かっています。がん患者さんの多くは高齢者ですが、健康な高齢者と比べても、明らかに静脈血栓塞栓症が多いので特に注意が必要です。
この静脈血栓塞栓症は、がんの種類(がん種)や組織型により異なることが知られています。脳腫瘍や膵がん、胃がん、肺がん、リンパ腫では静脈血栓塞栓症を合併しやすいことが分かっています。
また、がんの病期との関連性も高く、遠隔転移(がん細胞が最初に発生したところから移動し別の臓器や器官で増殖すること)した進行がんでは、初期がんと比較して2〜3倍も多いことが報告されています。

がんになると、どうして血栓ができやすい?

私たちの体には、血管が破れて出血が始まった時、これを止める止血機能が備わっています。血管に組織因子と呼ばれる止血に不可欠な生理因子が存在し、血管が損傷すると血液中の血液凝固因子(第VⅠ a因子)と組織因子が結合して止血メカニズムが働きだすのです。
ところが、がん患者さんではこの組織因子と呼ばれる糖タンパクが増加し、血栓ができやすくなるのです。これはがんになると、がん遺伝子が活性化されることによると考えられています。
いずれにしても、がん患者さんに静脈血栓塞栓症が起こりやすいことを知っておかないと、診断が遅れ危険な状態に陥ることがあります。幸い、生命を脅かす肺動脈血栓塞栓症は、下肢の深部静脈血栓症から進行してきますので、まず、深部静脈血栓症、特に膝関節より下のふくらはぎの血栓塞栓症を診断することが大切です。
臨床症状や既往症から、深部静脈血栓症の確率を推定するリスク評価法(Wellsスコア)を〈表2〉にまとめました。もし3点以上なら静脈 血栓症の可能性が高いので、精密検査が必要です。この段階で適切な治療をすれば、そんなに怖がることはありません。

表2 深部静脈血栓症のリスク評価(Wellsスコア)
表2	深部静脈血栓症のリスク評価(Wellsスコア)

静脈血栓症は早期診断がポイント

深部静脈血栓症になると、ふくらはぎは腫れ、ひどくなると発赤し、 痛みが出てきます。このようになるまでに診断する必要があります。
血液検査でD-ダイマーという検査値が上昇します。血管エコー・ドップラー検査で、深部静脈で血流が途絶えていることが確認されれば診断は確かです。
診断できれば、血液を固まりにくくする抗凝固薬(ワルファリンまたは新規経口抗凝固薬)の服用で、1〜2週間のうちに血栓は縮小・消失し、下肢の腫れは引き見違えるように楽になります。
肺動脈血栓塞栓症は、胸部CT検査で診断できますが、治療には強力 な抗凝固療法が必要です。さらに、静脈血栓塞栓症に脳梗塞を合併する場合があり、トルーソ症候群と呼ばれています。
この場合は、腫瘍細胞で産生された粘性物質(ムチン)が、血小板の凝集を促進することが分かっており、ヘパリン(抗凝固薬の注射薬)の投与が必要です。
このようにがん患者さんにはその病状に特有の異常が発生します。だから、それぞれの患者さんの病状に応じた治療が欠かせず、循環器医との連携が求められるのです。

おわりに

腫瘍循環器診療が、がんの診療でいかに重要な役割を果たしているか 理解して頂けたと思います。しかしながら、がん診療に重点を置いてい る病院でも、腫瘍循環器診療が充実していない場合が少なくありません。
高齢社会とともに、さらにがん患者の増加が予想されます。特にがん専門病院では、腫瘍医と循環器医が連携して診療にあたる腫瘍循環器学の重要性が、しっかり認識されていくことを期待してやみません。
がんや循環器病の患者さん、家族の皆さん、一般の皆さんにも、この冊子を通じ、がんと循環器病の関係についての理解と、自分の身を守る知恵を深めていただくことを願っています。

ページ上部へ