ホーム > 循環器病あれこれ > [134] 「国循」と「健都」の役割... 新しい医療・研究への飛躍

[134] 「国循」と「健都」の役割... 新しい医療・研究への飛躍

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター
理事長 小川 久雄

「国循」と「健都」の役割... 新しい医療・研究への飛躍

もくじ

  1. 日本人の循環器疾患の特徴
  2. 脳卒中・循環器病対策基本法で期待される効果
  3. 国循は臨床と研究を専門的に実施
  4. 新・国循と健都の展開
  5. 新・国循のミッション
  6. オープンイノベーションセンターで広がる可能性
  7. 健都イノベーションパーク
  8. 市立吹田市民病院との連携

このパンフを手にされた皆さんのうちには、「国循」と「健都」は何のことなのか、とお思いになった方もいらっしゃるはずです。

国立循環器病研究センターの略称が「国循」で、「健都」とは北大阪健康医療都市のことです。いま「国循」と「健都」ががっちりスクラムを組んで、新しい医療・研究の実現に向け走り出しました。

今回は、国立循環器病研究センターのこれまでの成果を振り返りながら、センターの移転に伴って構築が進む、新時代の循環器病への対応、健康医療都市づくりについて展望します。

国立循環器病研究センターは、脳卒中と心臓血管病の患者さんの専門的治療と研究を行っている世界でも有数の施設で、1977年(昭和52年)6月に国の機関として設置されました。

国内には国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)が六つあります。国立がん研究センター、国循、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立長寿医療研究センターです。国循が大阪に、国立長寿医療研究センターが愛知にありますが、他の4センターは東京にあります。

国循は国立がん研究センターに次いで2番目に設置され、全国公募により来られた医師や研究者の教育も行ってきました。ここで教育を受けたレジデント・専門修練医は1978年(昭和53年)から現在までに総計2,020人にのぼります。レジデントの出身地は全国に及びます。

ちなみに私もその一人で1981年から1984年まで第4期レジデントとして勤務しました。また、海外3人を含む総計217人の教授を輩出しており、まさに日本の循環器病研究のメッカと言えます。

日本人の循環器疾患の特徴

脳卒中と心臓病は、ともに血管の病気で、生活習慣などにより血管に動脈硬化が起こり、進むと動脈の中に血栓(血の塊)ができやすくなります。それが脳の血管に詰まれば脳梗塞、心臓の冠動脈に詰まれば心筋梗塞となるのです。

日本は世界トップレベルの長寿社会になり、団塊世代が後期高齢者に突入する2025年には65歳以上の人口が約30%に、75歳以上が約18%に達すると推測されています。

日本では昭和50年代後半から、がん(悪性新生物)による死因が4分の1を占め第1位ですが、高齢化により脳卒中と循環器疾患による死亡が増え、心疾患が第2位、脳血管疾患が第3位となり、脳卒中と循環器疾患による死亡は、がんとほぼ匹敵するまでになっています〈図1〉。

65歳以上の高齢者で比べますとがんとほぼ同数、75歳以上の後期高齢者で比べるとがんを上回り死亡原因の第1位です。

図1 わが国の死亡原因のうち循環器病の割合
図1 わが国の死亡原因のうち循環器病の割合

脳卒中と循環器病の特徴は、軽快と悪化を繰り返しながら進行し、要介護になる原因疾患では脳卒中と心臓病で全体の4分の1を占めています。また、脳卒中と循環器病に費やされる医療費は全医療費の20%近くを占め、がんの約1.5倍です〈図2〉。医療費全体の増加を抑制するためにも、脳卒中と循環器病の対策がいかに重要かお分かりいただけると思います。

図2 わが国の傷病別医療費(上位5位)
図2 わが国の傷病別医療費(上位5位)

脳卒中・循環器病対策基本法で期待される効果

日本人の循環器疾患の特徴から、2006年に制定された「がん対策基本法」に続く循環器疾患の対策基本法の成立が望まれていました。

2008年より山口武典・国循名誉総長を中心とした日本脳卒中協会が脳卒中対策基本法制定に向けて取り組みを開始し、2015年からは日本循環器学会も加わり、「脳卒中・循環器病対策基本法」の成立に向けて動き出しました。そして2018年12月8日参議院、12月10日衆議院での可決を経て、12月14日に正式な法律名としては「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(平成30年法律第105号)が公布されました。

法律に基づき、国と都道府県が対策推進基本計画を策定し、予防や医療機関の整備、患者の生活の質の向上など総合的な対策に着手する点で大きな一歩といえます。

今回の基本法成立で期待される効果は大きく三つあります。

一つ目は、予防教育が進んでいく点です。脳卒中や心臓病は予防効果 が大きく、塩分や脂肪分を抑えた食生活や運動によってリスクを軽減で きます。こうした正しい知識を義務教育などで普及することは、将来的 に循環器病を減らすことに直結します。

二つ目は、医療体制の格差が是正され、身近な病院で適切な医療を受けられる体制が整えられていくことです。脳卒中と心臓病は救急疾患で、一刻も早い治療が欠かせません。こうした点からも拠点となる病院が整備されることで多くの患者さんを救えるようになります。急性期のみならず、回復期から慢性期、要介護期に至るまでの切れ目ない支援体制が構築されれば、患者さんの生活の質も高まっていくと期待されます。

三つ目は疾患登録が進み、有効な治療法などの道が開かれることです。脳卒中も心臓病もこれまで医療機関から任意で情報を集めており、全例登録が難しい状況でした。「がん登録」のように全国統一の登録制度ができれば、患者数や生存率など正確な実態を把握できます。

これ以外にも、保健、医療、福祉従事者の育成や、予防・治療の研究の加速も期待されます。約13年前に施行されたがん対策基本法は、専門的な医療を提供する診療連携拠点病院の整備や緩和ケア提供体制の構築につながりました。循環器病も基本法に基づいた実効性のある対策強化が望まれます。

国循は臨床と研究を専門的に実施

国循の特徴は脳卒中と心臓血管疾患に関する臨床と研究を専門的に行っていることです。非常に多数の症例を治療するとともに先進的な治療の開発を進めています。平成30年1年間の入院患者数は12,823人、救急受け入れ患者数は7,378人、救急車による救急搬送入院患者数は3,600人でした。

(1)最先端の治療

心臓移植は2019年3月ですでに121例と国内最多で、10年生存率は95%と世界最良の成績です。また40年間に7,000例を超える急性心筋梗塞症例を集中治療室(CCU)に収容しています。死亡率も開設当初は25%でしたが、現在は5%まで改善しています。

1978年に国内で初めて脳卒中集中治療室(SCU)を設置し、現在までに28,000例を超える急性期症例を治療しています。

脳卒中で脳の虚血状態が長く続くと、脳に障害が起こり後遺症などの原因になるため、一刻も早い治療が不可欠です。特に脳梗塞部分の血栓を溶かして血流を回復させる「t-PA」は発症後4時間30分までが適用となり、いかに早く脳卒中に気づいて受診するかがその後の治療や予後を左右します。国循はわが国のt-PA治療基幹施設として国内への導入に尽力し、使用実績も国内最多です。

さらに心臓植え込み装置(デバイス)関連手術件数、植え込み型除細 動器に関しての遠隔モニタリング件数などは国内随一の症例数です。他にも、患者さんの体に負担の少ない(低侵襲)手術で良好な成績を挙げています。近年、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)やロボット手術など低侵襲手術の技術が向上しています。

国循では、僧帽弁閉鎖不全症のカテーテル治療や人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術(OPCAB)とTAVIの同時手術など日本で初めての手術も積極的に実施し、高齢や心臓手術の既往などハイリスクの患者さんの救命に寄与しています。

この他、国循では、胎児・新生児心疾患と、心疾患を持つ妊婦の出産を積極的に受け入れています。平成29年度は138例の胎児心臓病診断を行い、心疾患を持つ妊婦の出産は93例でした。国内最多であり、OECD加盟国中世界3位の件数でした。

(2)世界初の小型で高性能な補助人工心臓・補助心肺装置の開発

心臓移植実施までの待機期間は長期になるため、待機期間中は心臓の働きを維持する補助人工心臓を装着しますが、最初に承認された体外式人工心臓は国循で開発されました。

 また、体内に植め込むことで移植待機中に在宅生活を可能にする植え込み型人工心臓の装着も、わが国で一番多く実施しています。植え込み型補助人工心臓治療の3年生存率も、93%と世界で最も良い成績です。

一時的に重症心不全に陥る劇症型心筋炎に対する人工心臓の治療も積極的に行い、全国各地から緊急搬送されてきた患者さんを救命しています。先天性重症心不全の治療も積極的に取り組み、小児用人工心臓の装着や小児心臓移植も手がけています。

今までの体外式人工心臓は95㎏と重く、しかも血栓ができやすいという心配がありましたが、研究所の人工臓器部が、企業とともに世界初かつ唯一となる動圧浮上非接触回転型ディスポ遠心ポンプシステムを用いた体外式連続流型補助人工心臓システム(BIOFLOAT-NCVC)を開発しました。

この人工心臓は重さが8㎏、血栓もできにくく、流量も2倍近くになる素晴らしい機器です〈図3〉。患者さんへの装着試験を医師主導治験として平成29年10月から開始し、予定症例9例すべてを実施し、どなたも生存されています。

図3 拍動流型VADとBIOFLOAT-NCVC

図3 拍動流型VADとBIOFLOAT-NCVC

また、人工臓器部長らは世界最小・最軽量の次世代型心肺補助システムとして新しい体外式膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)の開発に成功しました〈図4〉。これは国循人工臓器部における30年以上に及ぶECMOシステム研究開発の集大成ともいえるもので、その革新的な性能により、重症呼吸・循環不全の治療成績を大きく向上させることが期待されます。この新装置は人工呼吸器や昇圧剤使用など従来の治療法では救命困難な重症呼吸・循環不全の症例に用いられます。

図4 世界最小・最軽量の次世代型ECMOシステムの開発

図4 世界最小・最軽量の次世代型ECMOシステムの開発

現在の装置は大きくて複雑なため、緊急対応には不向きで、重症患者の救急搬送時など院外での使用も難しい状況です。また、抗血栓性や耐久性も不十分なため血栓塞栓症や出血合併症のリスクが高く、長期使用も困難です。

このため、院内・院外を問わず、装着が容易で安全に長期間使用可能な装置が望まれていました。それにこたえるのが今回開発のECMOで、世界最小・最軽量(29×20×26㎝、6.6㎏)ですから、簡単に持ち運びができます。緊急対応性を実現するために、4分以内の迅速な起動が可能です(易装着性)。また、電源や酸素供給のない場所でも、内臓バッテリーと脱着型酸素ボンベユニットにより1時間以上、連続して使用できます。

長期耐久性についても、本装置を用いた長期動物実験で装着後2週間(4例)および4週間(3例)の連続心肺補助を行いましたが、全例とも予定期間を問題なく完遂することができました。現在は臨床応用・実用化に向け国循を中心とした多施設による医師主導治験を来年度に実施するための準備を進めています。

(3)画期的な脳動脈瘤血管内治療機器(多孔化カバードステント)の開発

脳血管の治療にも国循から画期的な治療機器が開発されました。

くも膜下出血が起こると約半数の方に生命の危険が生じます。その原因として脳動脈瘤の破裂があります。代表的な脳動脈瘤の治療法として、クリッピング術や脳動脈瘤コイル塞栓術などがありますが、大きなサイズの脳動脈瘤の場合、これらの治療法では脳動脈瘤への血流を完全に止めることができず、根治させることが困難でした。

このため、動脈瘤の血流を完全に止めることができ、血管を閉塞したりコイルを詰めたりすることなく安全、確実、かつ手技的に簡便に治療できる新規の脳血管内治療機器として、研究所の生体医工学部と病院の脳神経外科が、発案から10数年をかけて企業と共同で多孔化カバードステントの開発に成功しました〈図5〉。

図5 脳動脈瘤治療用多孔性カバードステント(NCVC-CS1)

1996年に病院脳神経外科と研究所生体工学部との連携で研究を開始。2011年に厚生労働省の早期・探索的臨床試験拠点整備事業の開始に伴い本格的な開発に移行、2015年までに実用レベルの機器を完成

図5 脳動脈瘤治療用多孔性カバードステント(NCVC-CS1)

ステントのカバーにはポリウレタン薄膜を使用し、これにレーザーで無数の小さなスリットを開けておく(1)。バルーン拡張によりハニカム状の多孔体となるが(2)、血管は詰まらず、動脈瘤だけが詰まる特殊な精密構造に設計されている

これは長年の血流の研究から、動脈瘤にだけ血が流れにくいようにし、枝血管は開存させるという画期的なものです。臨床応用試験を行い、すでに10例の治験が終了し、まもなく通常の治療に使える日も近いと思います。

これらは、まさに国循の研究所で開発し、国循の病院で治験、さらに機器として今後世界に発売予定という、一連の過程をすべて国循で成しえた意義のある仕事であると考えられます。

(4)予防分野への取り組み・ビッグデータ解析の成果

循環器病は動脈硬化を主因とし、動脈硬化は高血圧など生活習慣病によって進行が早まります。つまり高血圧の治療・予防は循環器病の予防につながります。これまでお話しした機器開発以外にも、予防分野でも多くの成果をあげています。

 国循の病院食は、治療の一環と位置づけ1食の塩分2g、1日6g未満になるよう計算されています。「塩を減らしたら味気ない食事では」と心配されるかもしれませんが、食材のうまみを引き出す調理法で美味しい減塩食を実現し、患者さんにも好評です。この減塩の新しい考え方「かるしお」は、レシピ本を通じて広く受け入れられ、5冊出版した書籍の累計発行部数は約38万部となりました。

また、循環器病の制圧と健康寿命の延伸には予防が大事です。エビデンス(根拠)に基づいた循環器病の予防のためには、特定の地域住民や集団を対象に健康状態や生活習慣などを長期にわたり追跡する、循環器病のコホート研究が必要です。

国循の予防健診部は、都市部住民を対象にした新たなコホート研究として、吹田市民を対象にした「吹田研究」を1989年から実施しています。

吹田研究の成果の一つとして、冠動脈疾患を予測するリスクスコア(吹田スコア)が挙げられます。吹田スコアは、循環器病のリスク因子に慢性腎臓病を加え、健診で実施されている項目で、都市部に住む日本人の心筋梗塞発症リスクを日本人の生活実態に則して予測できます。

国循は、日本循環器学会と共同で循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Disease;JROAD)を行っています。この調査でほぼ全国の施設の概要や検査、治療の実施頻度などのデータを収集、わが国の循環器診療の実態に関する貴重な情報を提供しています。

この調査は、2004年、日本循環器学会が全国調査として開始、2013年からそのデータセンターは国循内に設置され、ウェブを用いて各施設が調査項目に回答する形式をとっています。

2012年から2016年の調査結果では、循環器専門医研修施設および研修関連施設(1298~1343施設)の登録率100%を達成しています。

救急疾患として重要な急性心筋梗塞症の全国の入院患者数は2012年の約69,000人から2016年には73,000人と微増しており、この間の入院中の死亡率は約8%でした。

一方同じ救急疾患として2015年より調査を始めた急性大動脈解離に伴う入院患者数は、2015年で20,406人、2016年で22,171人、死亡率は約11%でした。特記すべきは心不全による入院患者数です。2012年の約210,000人から2016年には約260,000人と、毎年1万人ずつ増加している実態が明らかとなりました。

2014年からDPC(Diagnosis Procedure Combination:診断群分類包括評価)データを匿名のうえ収集し、データベースを構築する事業(JROAD-DPC)を開始しました。DPCデータには、診療報酬データのほか治療内容や予後などの標準化された患者単位の情報が含まれています。

704,593件の診療録情報(2012.4~2013.3入院)を解析すると、心不全患者108,665例が抽出され、その平均年齢が男性(53%)75歳、女性(47%)81歳と特に女性において心不全患者の高齢化が進んでいる実態が明らかになりました。また心血管疾患と脳血管疾患の合併頻度は約10%で、これら多疾患罹患患者への治療体系の確立が今後の大きな課題として浮かび上がりました。

これら以外にも国循が行っている治療や研究は多数あり、国内のみな らず海外にも誇れる成績を誇っています。

新・国循と健都の展開

国循も創立から今年で42年を迎え、建物や設備などの老朽化が以前にもまして目立つようになりました。循環器疾患分野の予防・医療・研究において、世界をリードしていくには、現在の建物では限界がありました。

この大変大きな課題に対し、橋本信夫前理事長の尽力により、JR東海道本線岸辺駅北側に拡がる「吹田操車場跡地」へ移転・建替えをすることができました。

建設工事は順調に進み、本年7月に、新・国立循環器病研究センター(新・国循)がオープンする運びです。新・国循とJR岸辺駅は、公共通路で直結しており、JR岸辺駅から新大阪駅までは約7分、京都までも約30分と、交通アクセスが大変よいのも特徴です。

新・国循の施設規模については、長さ約280m、幅約80mで、地上10階、地下2階という国内最大級の医療研究センターです。大きいだけでなく、医療施設を拡充しており、手術室やカテーテル室などの増床や最新の機器を導入するなど、高度な医療を提供します。

さて、新・国循を中心とした東西約30haに拡がるこのエリアは、冒頭で述べましたように北大阪健康医療都市(愛称:健都)と呼ばれています。この名称は、コンセプトである「健康・医療」の都市であることに加え、循環器病予防に必要なKnowledge(正確な知識・知の集積)、Exercise(適度な運動)、Nutrition(適切な栄養・食事)とTown(まちづくり)の頭文字を並べたKENTOも意味しています。

国循の移転が、健都のまちづくりを推し進める大きな原動力となっており、すでに市立吹田市民病院、高齢者向けウェルネス住宅、公園(健康増進広場)などが整備されました。また、企業等の研究施設の集積をめざす「健都イノベーションパーク」への企業誘致にも取り組んでおり、一大医療クラスター(集積地域)となることをめざしています。〈図6〉

このように、国循の移転を契機としたまちづくりを進めるにあたって、三つの基本理念を掲げ、関係機関とともに、取り組んできました。

第一は「循環器病の予防と制圧」の拠点をめざすこと。第二に「オープンイノベーションにより最先端医療・医療技術の開発で世界をリードする」こと。第三に「オープンイノベーションに連動したエリアの産業活性化により、国際級の複合医療産業拠点(医療クラスター)を形成する」ことです。

国土軸に位置し、交通アクセスに恵まれ、近隣にもトップレベルの大学・研究機関が集積する健都を、循環器病疾患分野の予防、治療、研究、情報発信などで世界をリードするクラスター、「健康・医療のまち」となるよう、今後も取り組んでいきます。

図6 医療クラスターの形成 ─ 健都ゾーニングと整備状況 ─

図6 医療クラスターの形成 ─ 健都ゾーニングと整備状況 ─

新・国循のミッション

移転に係る国循の理念とそれに基づいた使命について、少し詳しく説 明します。

 第一は「循環器病の予防と制圧」の国際拠点をめざす、ということです。近年、循環器疾患の社会的重要性は増加しており、特に、脳血管疾患と 心血管疾患は動脈硬化という共通の原因で発症することが明らかとなっ ています。この対策には、病院と研究所の一体的な整備は不可欠です。

このような中、「脳卒中・循環器病対策基本法」が昨年12月に成立し、同時に「成育医療等基本法」も成立しました。小児の先天性心臓病の治療や20年から50年の長期にわたる管理の必要性も明らかになっていますので、この二つの法律により、予防・治療がさらに進歩するものと期待されています。

循環器疾患の大きな危険因子としての高血圧や、動脈硬化の原因となる脂質異常症や糖尿病の研究や治療も重要であることから、国循でもこの分野の研究に力を入れています。

第二には、オープンイノベーションにより、最先端医療・医療技術の開発で世界をリードすることです。例えば、現在は大きな製薬会社であっても、単独で新薬を開発することは不可能で、産業界や大学・研究機関との連携をいかに進めるかということが重要となります。こうした取り組みを進めるには、基礎から臨床までのトランスレーショナルリサーチをさらに発展させることが肝心です。そのため、新・国循には、民間企業の研究部門や大学などとの共同研究拠点となる「オープンイノベーションラボ」を整備しました。

第三は、国際級の医療クラスターの形成です。新・国循は、現在のような単独で立地するのではなく、産業界や他の研究機関などとの連携をより一層深め、国循を中心とした医療クラスターの形成をめざしています。これを実現させなければ、最先端を走り続けることはできないと考えています。

先進的な医療や課題解決型の研究を実施し、こうした研究の成果を社会実装しつつ、関連産業を集積する。このようにして、医療クラスターを発展させていきたいと考えています。

オープンイノベーションセンターで広がる可能性

これまで医療機関や医療関連企業が得た知見や成果は、さまざまな事情もあり、関係組織のみで共有する(知識の独占)のが現状でした(クローズドイノベーション)。そうした閉鎖性を取り払い、情報を関係者とも共有し、国民医療の向上に寄与するのが、オープンイノベーションセンター(OIC)と考えています。

例えば、企業と我々が新しい知見と情報を軸にディスカッションすることから、新しい医療の拡がりや可能性が見えてきます。「オープンイノベーション」という言葉には、そういう思いを込めています。

OICには、共同研究室(ラボ)のほかに、研究者の交流の場となるサイエンスカフェも設置し、国循と企業等との研究者同士の交流を促進させたいと考えています。

このように、産学が「一つ屋根の下」に集うことで、知識と技術を結集させ、イノベーション創出を図りたいという思いです。これまでも企業や研究機関と連携して研究を進めてきましたが、ややスピード感に乏しいと感じていました。今回のOIC設置により、産学官がオープンかつ密接なコミュニケーションを図り、一つの研究アイデアを実験、臨床へとスムーズに発展させられると期待しています。

また、オープンイノベーションラボ(OIL)には、製薬企業や医療機器企業との共同研究もありますが、例えば、大学も、医学部に限定することなく、理工学系の学部の知識や技術を結集し、「医工連携」という形で、これまでになかった医療拠点のありようとその構築を目指しており、OILでも幅広い分野での連携を実現したいと考えています。こうした連携が基点となり、画期的な創薬・医療機器の開発に結びつくと考えるからです。

2017年度に、オープンイノベーションセンター準備室を設置し、施設整備と運用の両面から検討を重ね、本年4月から新しい体制でスタートします。なお、OILについても約8割のスペースの利用が決まっています。

健都イノベーションパーク

新・国循に隣接する健都イノベーションパークは、健康・医療関連の企業・研究機関等の誘致をめざしており、第一号として、ニプロ株式会社の進出が決定しています。

ニプロ株式会社では、この地に複数の棟を建設し、各拠点と緊密な連携ができるよう、研究・開発・本社・本部機能の強化を図る一方、パートナーシップ企業やジョイントベンチャー企業に研究施設を開放し、積極的な事業提携などを通じて、グローバルに展開できる事業領域の開拓、基盤構築を進められると聞いています。

また、国立健康・栄養研究所の移転も決定しているところですが、引き続き、当地への企業進出について、地元自治体とともに取り組んでいきます。

健都には、もう一つ注目していただきたい取り組みがあります。

都市型居住ゾーンで建設が進むマンションでは、国循と連携し、ウェアラブル端末を使って、居住者のバイタルデータを解析、自宅のテレビを通じて国循が健康アドバイスをするサービス(国循健康管理システム)を導入しています。すでに2018年から稼働しています。さらに居住者には、国循の「高度循環器ドック」の受診権(1回/戸)を付与しています。

市立吹田市民病院との連携

市立吹田市民病院が健都の医療クラスターの一角を形成するのはいろいろな面で大きな意義があります。

同病院の診療科目は消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、耳鼻科、眼科など幅広く、万一、国循側で対応が困難と判断した患者さんの場合、移送が早くなります。この時間短縮は患者さんの病態維持やその後の対応面でもプラスになるはずです。

吹田市民病院は救急病棟の新設とICUの増床で救急医療をさらに充実させるとともに、回復期リハビリテーション病棟を新設、急性期から回復期までを手厚くフォローする体制になっております。

両施設にはそれぞれ「循環器に特化した専門病院」と「幅広い病態に対応する地域の中核病院」というカラーの違いがあります。

高齢化が進み、近年は複数の疾患を合併する循環器疾患患者さんも増え、特に心臓と消化器の連関(Cardio-Gastric Linkage)やがん治療による心毒性(Cardio-oncology)も問題となっています。

循環器専門医が循環器以外の疾患にも目を向ける必要性が高まる中、吹田市民病院との関係を通して幅広い疾患に触れることができれば、さらなる医療の向上が期待できます。

両施設の連携の機会が増えれば、新たな疾患・病態に対応する勉強の機会が得られますし、医師の新たな処方・治療経験につながります。実際、現場で連携に向けた準備が進み始めています。

医師や看護師、薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフなど、職種ごとに合同勉強会が開かれています。すでに人的交流が生まれ、「顔の見える関係」が築かれ始めています。同時に、施設間の連携・調整も進んでいます。連携会議はすでに20回以上開かれ、競合する科の機能分担や内部連携、臨床で補完しあえる部分などを細かく調整してきましたので、良い連携が広がっていくと期待しています。

以上、新「国循」と新しい北大阪健康医療都市「健都」について説明してきました。健都が日本の代表的な健康医療都市として認められるように、国循職員が一丸となって努力する所存です。皆様のあたたかいご支援をお願いしたいと思います。

ページ上部へ