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[131] 老年医学の進歩...健康寿命を伸ばすために

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。


国立循環器病研究センター
脳血管内科 石上 晃子

生涯現役で健康に

もくじ

  1. 何歳から高齢者?
  2. 日本の現状...超高齢社会
  3. 平均寿命と健康寿命
  4. 高齢者の病気...「生活習慣病」
  5. 加齢に伴う心身の変化...老年症候群とは?
  6. サルコペニアとは?
  7. 重大な中間段階、フレイルとは?
  8. 生涯現役で!

何歳から高齢者?

「高齢者」は日常生活でよく使うことばですが、何歳から「高齢者」と呼ばれるようになるのでしょうか? 世界保健機構 (WHO)は、「高齢者」を65歳以上と決め、多くの国でその基準が使われています。

日本ではさらに65~74歳を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と呼んでいます。しかし近年、日本の高齢者、特に前期高齢者にはまだまだ若く、活動的な人が多いため、2017年に日本老年学会・日本老年医学会は、高齢者の定義を75歳以上に引き上げ、65~74歳を「准高齢者」、 90歳以上を「超高齢者」と呼んではどうかと提案しました。

このように「高齢者」の概念は、地域や時代によって異なっています。

日本の現状...超高齢社会

では、日本の高齢者を取り巻く環境はどうなっているのでしょうか。2018年現在、日本は言わずとしれた超高齢社会です。

超高齢社会とは、人口に対して高齢者の人口が占める割合が、21%を超える社会のことをいいます。日本では、高齢者が人口に占める割合が徐々に増加し、2016年時点で約4人に1人が高齢者です。その割合は2060年まで年々増え続けることが予想されています。

それに伴い、介護が必要な人や、認知症の人も増えてきています。このような状況のなか、国は、高齢者に対する医療や介護の体制を整えるとともに、高齢者の健康を守るための予防の取り組みや、高齢者を含めて誰もが活躍できる社会にするための方策など、さまざまな対策を打ち出してきています。

平均寿命と健康寿命

わが国の平均寿命は、戦後の生活環境の改善や医学の進歩によって急速に伸び、2017年時点で男性81.09歳、女性87.26歳(平成29年版簡易生命表)とかなりの長寿国になっています。

一方、「自分が健康であると感じていて、健康上の問題で日常の活動が制限されず、介護を必要とせずに日常生活を送ることができる期間」を健康寿命といいます。

2016年時点での健康寿命は男性で72.14歳、女性では74.79歳(厚生労働省発表による)と、こちらも世界有数の長さを誇りますが、平均寿命との間には約10歳の開きがあります。簡単にいうと、人生の終わりの約10年を、介助が必要な状態で生活するなど、何らかの健康上の問題を持って過ごしていることになります。この開きは2001年以降縮まっていません〈図1〉。

図1 健康寿命と平均寿命の推移

平均寿命と健康寿命を近づける、つまり、生涯を通じて健康で過ごすことができるようにするには、私たち一人ひとりが歳を重ねることについて正しい知識を持ったうえで、日々の健康管理に意識的に取り組んだ り、病気と闘ったりしていくことが重要です。

この冊子では、高齢者で特に気をつけるべき病気や、高齢者に特徴的な体の変化について話を進めます。

高齢者の病気...「生活習慣病」

生活習慣病とは、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が、発症や進行に関与する病気」のことをいい、がん、循環器疾患、脳卒中、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満などが含まれます。

例えば、脳卒中は脳に栄養を送る血管がつまったり破れたりして、脳がダメージを受ける病気ですが、麻痺(まひ)や言語の障害などの後遺症が残ることがあり、寝たきりになる原因の第一位です。

また、あらゆる心臓病で起こりうる心不全も、何度も繰り返すことによって徐々に心臓の機能や全身の状態が低下することが知られており、高齢者にとって日常生活の制限につながる重大な病気の一つです。

日本では、高齢化や生活習慣の変化によって、病気全体に占める生活習慣病の割合が増えてきています。

生活習慣病は、自らの心がけで、ある程度は発症を予防したり、悪くなったりするのを抑えることが可能ですので、一人ひとりが身体活動・運動、休養・睡眠、飲酒、喫煙、歯・口腔の手入れなどの生活習慣の改善に責任をもって取り組むことが重要です。

具体策として、厚生労働省は、生活習慣病を予防し健やかな生活を送るための国民運動「スマート・ライフ・プロジェクト」(注)を進めています。

このプロジェクトでは、生活習慣病予防につながる重要なキーワード「運動」、「食事」、「喫煙」に対して三つのアクション「適度な運動 (毎日10分の運動を)」、「適切な食生活(1日プラス70gの野菜を)」、「禁 煙( 禁煙を)」を挙げ、それらに「健診・検診の受診」を加えた4項目を、各自が取り組むべき事柄として提案しています。生活習慣病予防のため、まずはほんの少しのアクションから始めてみてはいかがでしょうか。
(注)「 スマート・ライフ・プロジェクト」:ホームページ http://smartlife.go.jp/

加齢に伴う心身の変化...老年症候群とは?

すでに説明しましたように生活習慣病は、主に栄養のとりすぎによって起こる病気です。しかし、さらに歳を重ねると、食欲の低下、活動量の低下、筋力の低下、認知機能の低下などさまざまな変化が起こり、次第に心身が衰弱していきます。

進行すると、認知症、うつ、虚弱、廃用症候群(注)、低栄養、嚥下(えんげ)障害(飲み込みにくさ)、転倒、尿失禁、便秘、褥瘡(じょくそう)(床ずれ)、脱水などが見られるようになり、これらの兆候をあわせて「老年症候群」と呼びます。

なかでも、骨格筋量の減少、筋力の低下を表す「サルコペニア」や、心身の活力の低下を幅広くとらえた概念である「フレイル」は、特に重大な変化として近年注目されています。

筋力の低下は全身の機能の低下につながることから、サルコペニアは、フレイルを生じる要因の一つと考えられています。

(注) 廃用症候群:病気、けがなどによって、長期間、体を十分に動かさない状態が続くことで起こる心身の機能の大幅な低下のこと

サルコペニアとは?

「サルコペニア」とは、ギリシャ語で「筋肉」を示す「サルコ」と、「喪失」を示す「ぺニア」を合わせた言葉で、1989年にIrwin Rosenbergらにより提唱されました。

加齢に伴う筋力、筋肉量の減少、身体機能の低下を指し、高齢者の約20%に見られると言われています。サルコペニアは、転倒、骨折、寝たきりなどの原因となり、命に関わることもあるため、予防や、進行の 抑制が重要です。

サルコペニアは、筋肉量、歩行の速度、握力より診断します。日本では、2014年にアジア人のために開発された診断基準を用いることがすすめられています〈図2〉。

図2 高齢者がサルコペニアかどうかを診断する手順(アジア人向け)

ご自宅でも簡単にサルコペニアがあるかを判断する方法のひとつが、「指輪っかテスト」です。これは、ふくらはぎの最も太い部分を両手の親指、人差し指で囲み、指で作った輪とふくらはぎの間に隙間ができれ ばサルコペニアの可能性が高いと判断するものです〈図3〉。特に道具も使わず簡単に判断することができますので、一度試してみてください。

図3 指輪っかテスト

サルコペニアにならないように、もしくは進まないようにするには、バランスのよい食事と運動が重要と言われています。

例えば栄養については特にたんぱく質やビタミンDの摂取が、また運動については、筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動 (いわゆる筋力トレーニング。たとえば、スクワットや腕立て伏せなど)や、負荷の軽い 運動を時間をかけて行う有酸素運動 (たとえば、ウォーキング、ジョギング、ランニング、サイクリング、水泳など)が、特に効果が高いとされています。

食事で十分な栄養を摂取するのが難しい場合は、いわゆるサプリメントで補うのも一つの方法かもしれません。特に、たんぱく質、アミノ酸のサプリメントについて、有効だという研究結果がいくつか報告されて います。

ただし、サプリメントには特定の成分が高い濃度で含まれているため、大量に特定の栄養素を摂取することによって、かえって健康を害する場合があり、摂取するかどうかの判断は慎重に行わなければなりません。心配な場合は、かかりつけ医に相談してください。

このようにサルコペニア予防、改善のための栄養補給や運動の分野にはまだわからないことが多く、それぞれどのくらいの量が必要かなど適切な対策は、引き続き研究が行われているところです。

重大な中間段階、フレイルとは?

「フレイル」とは、海外で使われている用語、「Frailty(フレイルティ)」のことで、日本語に訳すと、「虚弱」と表現されます。

健康な高齢者が介護を必要とする状態に至るまでには、多くの場合、心身の活力が徐々に低下していくような中間的な段階があります。その時点で適切な支援などを行うことによって、介護を必要とする状態になるのを食い止められたり、遅らせたりできると考えられています。この中間段階の状態を「フレイル」と呼びます〈図4〉。

図4 フレイルの概念

人は、加齢により、さまざまな機能や予備能力が低下し、外的なストレスに対して弱くなります。フレイルは、病気も含めた身体的な要素、精神心理的な要素、社会的・環境的な要素が合わさって起こるとされ、 身体機能の低下、筋力の低下、慢性の病気、認知機能の低下、うつ、疲れやすさ、低栄養、活動量の低下、社会と交流する機会の減少、家族構成など様々な事柄が影響します。

一つバランスが崩れだすと、これらの要因がそれぞれに影響し合って、どんどんフレイルが進んでいく悪循環が起こります。これをフレイルサイクルと呼びます〈図5〉。

図5 フレイルサイクルという悪循環

フレイルかどうか判断する基準についてはまだ研究途上ですが、多くの場合、移動する能力、筋力、認知機能などを総合的に判断して診断されているのが現状です。

例えば、日本では、J-CHS基準という診断基準などが用いられてい ます。これは、「体重の減少(6か月で2―3kg以上の体重減少)」、「歩行速度の低下(通常の歩行速度が1.0m/秒未満)」、「筋力(握力)の低下(握力が、男性で26kg、女性で18kg以下)」、「疲れやすさ(わけも なく疲れたような感じがする)」、「身体の活動レベルの低下(軽い運動・体操をしているか、定期的な運動・スポーツをしているか)」のうち3項目以上該当した場合をフレイル、1または2項目該当した場合をフレイルの前段階とするものです。

このようにフレイルと診断された人が、フレイルサイクルに乗ってどんどん悪くなるのを引き止めるのは、やはり運動と栄養です。

サルコペニアのところで紹介したような、ウォーキングなどの有酸素運動、筋肉トレーニングや、たんぱく質を含んだバランスのとれた食事は、フレイル予防にも有効です。

また、フレイル予防にもう一つ重要な要素が、社会参加です。就労や、余暇の活動など、社会活動に積極的に参加していくことが、フレイルサイクルを断ち切るために重要なのです。

生涯現役で!

この冊子では、高齢者の病気や体の特徴について述べてきました。高齢者の心身の状況は、年齢を重ねるごとにどんどん変化しますが、これらの変化に特効薬はありません。少しでも老化の進みを緩めるために、日々の生活習慣の見直しが重要です。

人生100年時代、国は年齢に関わりなく誰もが意思と能力に応じて活躍できる「生涯現役社会」を目標に掲げて、取り組みを進めています。

生涯現役とは、仕事に限らず、生きがいを持って社会に参加することを示していると考えます。一人ひとりが老いに対して知識を持ち、適切に備えることで、本人や家族が満足のいく人生の最終段階を迎えたいものです。

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