ホーム > 循環器病あれこれ > [115] 肺炎...予防・治療のポイント

[115] 肺炎...予防・治療のポイント

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

国立循環器病研究センター
呼吸器・感染症診療部 呼吸器科/感染症科
医療安全管理部 感染対策室
佐田 誠

「肺炎かも」すぐお医者さんに

もくじ

  1. 肺炎とは?
  2. 肺炎の原因は?
  3. 肺炎の症状・診断は?
  4. 肺炎と循環器病との関連は?
  5. 肺炎はどうやって治療するの?
  6. 肺炎は予防できるの?
  7. おわりに


肺炎のことはよく知っているとお思いの方は、おそらく少なくないはずです。しかし、一歩踏み込んで、かぜとは原因がどう違うのか、市中肺炎とは、どんな場合に肺炎が起こりやすくなるのか、どんなワクチンがあるかといった点になると、さてと首をひねる方が多いのではないでしょうか。
肺炎は古くから知られた病気ですが、高齢化が進むにつれ、予防と治療がますます重要になってきました。この冊子では、肺炎について、日々の生活でぜひ知って実践してほしいポイントを中心に解説します。

肺炎とは?

私たちが鼻や口から吸い込んだ空気中の酸素は、のどを通り、次に気管・気管支を通って左右の肺に運ばれます。最終的に肺の末端組織である肺胞と呼ばれる部分に運ばれ、ここで血管内に取り込まれて二酸化炭素が排出されます(ガス交換)。

この生命維持に必要不可欠な活動を担っている口・鼻~肺胞までの器官を呼吸器と呼びます。肺胞に至るまでの管(導管)の部分を気道と呼び、そのうち口や鼻からのど(咽頭、喉頭)までの部分を上気道、それよりも先の管(気管・気管支)を下気道といいます。

私たちがよく経験する“かぜ”は「かぜ症候群」、あるいは「急性上気道炎」とも呼ばれ、主に上気道に起こる急性感染症のことです。一方“肺炎”は呼吸器の末端組織である肺胞を中心に起こる炎症のことです。厳密に言うと肺炎にはとても多くの種類があり、感染症以外の原因によるものも含まれますが、一般に肺炎といえば細菌やウイルスなどの病原微生物の感染によって生じる肺の炎症を指します。

このようにかぜと肺炎は基本的に異なる疾患です。病状は、酸素を取り入れるための重要な部分に感染症が起こるという点で、肺炎の方がより深刻です。

かぜと肺炎

さらに肺炎には「市中肺炎」と「院内肺炎」という分け方があります。市中肺炎は病院外で生活しているなかで生じる肺炎のことで、院内肺炎は文字どおり入院中に生じる肺炎のことです。あまり馴染みのない病名ですが、一般的に肺炎といえば市中肺炎のことを指します。

肺炎は高齢化の進行に伴い、平成23年に脳血管疾患を抜いて、日本人の死因の第3位になっています〈図1、2〉。高齢になると肺炎にかかりやすく、しかも重症化しやすく、今や肺炎で亡くなる人の95%以上が65歳以上の高齢者です。

図1 主な死因別にみた死亡率の推移

図2 主な死因別死亡数の割合(平成26年度)

肺炎の原因は?

かぜの原因微生物は、国内外ともにウイルスが80~90%を占めています。

一方、肺炎の原因のほとんどは細菌です。様々な細菌が肺炎を引き起こし、最も多いのが「肺炎球菌」という細菌です〈図3〉。

図3 市中肺炎の原因微生物(%) 778人について調査

細菌が口や鼻から侵入し、のどや気管支を通って肺の末端である肺胞に達すると肺炎になりますが、私たちの気道にはこれを防ぐ仕組みが備わっています。具体的にいうと、気道に入り込んできた細菌を捕えて殺菌し、これを口腔の方へ排除する機能です。

その働きの主役は線毛細胞と呼ばれる細胞で、気道に存在し、持っている線毛を1分間に1500回も動かすこと(線毛運動)によって、細菌などの異物を外へ排除しているのです。しかし、細菌がこうした気道の防御機構をかいくぐったとき、肺炎が発症するのです。では、どういう場合に私たちの気道の防御力が低下するのでしょうか。

1)かぜ(インフルエンザを含む)をひいたとき

最初にお話したとおり、かぜと肺炎は異なる疾患ですが、まったく関係がないわけではありません。

インフルエンザも含めたウイルス感染は、気道の線毛細胞にダメージを与え、細菌やウイルスなどの異物を排除する線毛運動を鈍らせたり、停止させたりします。その結果、細菌が排除されずにそのまま気道にとどまりやすくなり、それだけ細菌が肺の末端の肺胞に達する確率も高くなり、肺炎発症のリスクが高まるわけです。

つまり、肺炎はかぜやインフルエンザなどのウイルス感染に引き続いて発症することも多いのです。

2)誤嚥

口腔内やのど(咽頭)にあるものが声帯を越えて気道内に入ることを「誤嚥(ごえん)」といいます。口腔内には多くの細菌が存在するので、誤嚥により肺炎が発症するリスクが高まります。

私たちの体にはもともと誤嚥を防ぐ機構が備わっていて、その代表的な働きが、間違って気管に異物が入った時にせきをして取り除く「咳(せき)反射」や、のどに食べ物や唾液がきた時に、のどの喉頭蓋という部分が気官に“蓋”をして、食道の方に入るようにする「飲み込み反射(嚥下反射)」です。これらの働きが低下すると誤嚥が生じやすくなります。

咳反射・嚥下反射の低下の原因として脳出血や脳梗塞などの脳血管障害が重要です。特に、大脳の基底核という場所に脳梗塞が生じると嚥下反射・咳反射が低下します。

誤嚥には、起こったときに自分や家人や介護者など周囲の人が見ていて気付く誤嚥(顕性(けんせい)誤嚥)と、自分も周囲もまったく気がつかない誤嚥(不顕性(ふけんせい)誤嚥)があります。嚥下反射・咳反射が低下した場合には不顕性誤嚥になりやすく、注意しなければなりません。

嚥下反射の低下は特に夜間睡眠中におこりやすいことがわかっています。誤嚥による肺炎(誤嚥性肺炎)は、日中の食事中に気官に入った食べ物を、せきをして除く「むせこみ」が原因となる場合より、夜間、睡眠中に本人すら気付かないような不顕性誤嚥を繰り返して発症する方がはるかに多いことが指摘されています。

3)胃食道逆流

誤嚥性肺炎の原因として、胃液などの胃内容物が食道へ逆流する胃食道逆流も重要です。特に高齢者では食道下部の筋肉(下部食道括約筋)の機能が低下し、慢性的に胃食道逆流が起こりやすくなっています。

逆流した内容物には細菌だけでなく、酸や消化液も含んでいるので、その作用で気道の細胞や粘膜に障害を与えます。こうして損傷した気道壁には細菌が定着しやすく、肺炎発症のリスクが高くなるのです。

肺炎の症状・診断は?

肺炎では、せき・たん(咳嗽(がいそう))が続く、うみを含むたん(膿性痰)、発熱、呼吸困難、息を吸い込んだときの胸痛(吸気時胸痛)、動悸、悪寒(おかん)・ふるえ(戦慄)などの症状がみられます〈図4〉。特に37~38°C以上の発熱、1分間に24回以上の呼吸(頻呼吸)、1分間に100回以上の心拍数(頻脈) があれば肺炎の可能性が高いとされています。

かぜでも似た症状がみられますが、かぜは通常数日で軽くなる病気です。1週間以上、せきや発熱が続く、息が苦しい、吸気時に胸が痛いなどの症状があれば肺炎を疑うことが重要です。

しかし、高齢者では体を守る免疫力が低下していることもあり、こうした典型的な症状が出にくいことがあります。発熱がまったくない場合もありますし、何となく元気がない、食欲がない、活動性が落ちている、ぼーっとしているなど、肺炎とは考えにくい症状だけが出る場合もあり、要注意です。自分や家族がいつもと違うなと感じたら、医療機関を受診することが大切です。

診断に必要な検査は胸部X線(レントゲン)写真で、撮影した画像で肺に浸潤影と呼ばれる影が認められれば肺炎と診断されます。

肺炎と循環器病との関連は?

かぜや肺炎などの感染症はしばしば循環器病の原因になります。かぜより肺炎の方が病状としては重症ですので、全身におよぼす影響はより大きいと考えてください。

すでに説明しましたように、肺炎になると発熱や、動脈血の酸素が不足状態になる低酸素血症が生じます。これらは脱水を引き起こすとともに、心拍数を増加させます。心拍数の増加は心臓にいつも以上に負担をかけ、さらに脱水によって血の塊(血栓)もできやすくなります。心臓内に血栓ができ、一部がちぎれてとんで脳の細い血管に詰まれば、脳梗塞を発症します。

もともと動脈硬化があって血管の中が狭くなっている場合、脱水によって血栓ができると血管内をさらに狭くし、場合によっては完全に塞いでしまい、狭心症・心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。

図4 肺炎の症状

肺炎はどうやって治療するの?

通常のウイルス性のかぜであれば、安静・保温保湿・栄養水分補給などによって数日~1週間程度で自然に治りますが、肺炎には原則として抗菌薬の投与が必要となります。

健康な若い人の軽症の肺炎であれば通院で治療が可能な場合もありますが、基本的に肺炎の場合は入院治療となります。原因となる細菌に効果のある抗菌薬を投与すれば、細菌の量を減らすことはできます。しかし脱水や低栄養が改善しないと肺炎もなかなかよくなりません。

特に誤嚥が関係している肺炎の場合は、原則として絶飲・絶食する治療も重要です。心不全や慢性腎臓病、糖尿病などは肺炎などの感染症によって悪化することもありますので、もともとこれらの病気を持っている方は悪化した持病の治療も必要になります。ですから、肺炎の治療では抗菌薬を含めた総合的な対応が鍵となります。

肺炎は予防できるの?

かぜや肺炎は、常日頃からしかるべき予防策を講じていれば、ある程度予防することができます〈表1〉。

1)手洗い・うがい・咳エチケット・禁煙

流水と石けんによる手洗いをこまめにしてください。石けんを泡立てた後、15~20秒くらいかけて流水で手をこするように洗い流すことが大切です。アルコール含有の手指消毒薬を手に擦り込む方法でも構いません。

表1 肺炎の予防方法

私たちが生活する環境には多くのウイルスや細菌が存在します。何気なく触っているドアのノブ、受話器、テレビやエアコンのリモコン、テーブルや机の上、キーボード、家や車の鍵、バスや電車のつり革・手すりなどは、ウイルスや細菌で汚染されているという認識をもつことが大切です。

これらに触れた後は手洗いをする習慣をつけてください。また、ウイルスや細菌の多くは、私たちの眼、鼻、口(のど)の粘膜から侵入しますので、手洗いをしていない手でこうした部分を触らないようにしましょう。

うがいは口腔内や上気道に付着したウイルスや細菌を除去するのに有効です。うがい薬でなくとも水道水で十分ですので、特に外出から帰宅した時や夜寝る前にはうがいをする習慣をつけてください。

せきやくしゃみのしぶきの中にはウイルスや細菌が存在します。自分がかぜや肺炎の時に他の人にうつさないよう、せきやくしゃみのしぶきを飛ばさない方法やマナーを「咳(せき)エチケット」といいます。せきやくしゃみをする時は、ティッシュやハンカチ、タオル、服の袖口などで口や鼻を覆いましょう。マスクがあれば着用することです。

マスクの着用は「咳エチケット」であるほか、他の人からうつされない予防の意味もあります。インフルエンザの流行期などに外出する際はマスクを着用していくといいでしょう。

禁煙も肺炎予防に重要です。喫煙者は非喫煙者に比べて2倍肺炎にかかりやすくなるといわれています。肺炎予防のためにもぜひ禁煙してください。

2)ワクチン接種

インフルエンザにかかると細菌感染が起こりやすくなり、肺炎のリスクが高まります。インフルエンザワクチンは毎年接種するようにしましょう。特に65歳以上の高齢者、65歳未満でも慢性疾患を持っている方には接種を強くお勧めします。このワクチン接種によって、インフルエンザ発病者が約50%減り、死亡は約80%減少しますので、効果は極めて大きいといえます。

肺炎の原因菌として最も多い肺炎球菌に対しワクチンがあります。このワクチン接種で、肺炎球菌による肺炎の発症を予防し、重症化を防ぐことが期待されています。

肺炎球菌には93種類のタイプ(血清型)があります。現在、肺炎球菌ワクチンには、23種類の血清型に対し効果のある「23価肺炎球菌ワクチン」と、13種類の血清型に効果のある「13価肺炎球菌ワクチン」の2種類があります。

これまで成人では、肺炎球菌によって重症化する危険性が高い人に対し、「23価肺炎球菌ワクチン」のみ使用可能でしたが、平成26年6月から、それまで小児だけが対象だった「13価肺炎球菌ワクチン」が、65歳以上の高齢者にも使われています。なお「23価肺炎球菌ワクチン」は5年毎に繰り返し接種する必要があります。

3)栄養・睡眠

栄養状態が悪くなると、免疫力が落ち肺炎にかかりやすくなります。

主食(ごはん、パン、麺)、副菜(野菜、きのこ、いも、海藻料理)、主菜(肉、魚、卵、大豆料理)、牛乳・乳製品、果物を、毎日バランスよく食べるようにしましょう。高血圧や糖尿病などで食事指導を受けている方は、その指導内容に従ってください。

よくかめる自分の歯があることや、入れ歯でしっかりかめることは、低栄養を防ぐためにも大切なことです。かむという行為は、唾液の分泌を増やし、消化管活動を活発にするため、食べ物の消化吸収がよくなります。良好な栄養状態を保つためにも、日頃から虫歯治療を含めた歯と入れ歯の手入れを心がけてください。

睡眠も体の抵抗力(免疫力)を高めるために欠かせません。睡眠不足だとかぜをひきやすくなります。睡眠時間には個人差がありますが、1日平均6~8時間の質のよい睡眠をとるようにしましょう。

4)誤嚥対策

誤嚥を防ぐための食事内容・食事方法を知っておくことが、肺炎予防のために重要です。まず、あごをしっかり引いた状態で、よくかんで少しずつ食べるようにしましょう。

水やお茶など「とろみ」のない液体、そぼろなどのように口の中でまとまりにくいもの、カステラなどパサパサしているもの、おもちなどの粘度の高いものは、一般的に誤嚥しやすいといわれています。片栗粉やゼリーなどを使ってとろみをつけるなどして食べやすい状態にしてから食べるようにしましょう。胃食道逆流を防ぐために、食後2時間くらいは横にならず、座った姿勢を保つことも重要です。

誤嚥するのは食事時だけではありません。口腔内やのどに多くの細菌やウイルスが存在する状態を放置しておくと、夜間睡眠中などに起こる誤嚥によって肺炎にかかるリスクがさらに高くなります。

ですから、いつも口の中をきれいにしておくこと(口腔ケア)が大切です。口腔ケアによって、口腔内の細菌やウイルスを減らし、肺炎の発症を抑えれば、肺炎による死亡を減少させることができます。

歯ブラシなどを使って、歯や口腔粘膜に付着した細菌の塊をこすり取り、うがいなどによって口腔外に除去するようにしましょう。ブラッシングそのものが口腔内の神経を刺激して、嚥下反射・咳反射を改善します。口腔ケアは毎食後だけでなく、できれば寝る前にもするとよいでしょう。

おわりに

肺炎の病状は通院で治せるような軽いものから、集中治療が必要な重篤なものまで実に多彩です。当初は軽症であっても、急に病状が悪化するケースもありますので、決して侮ってはいけません。

まずは肺炎にかからないよう常日頃からきちんと予防することが原則です。そのためには規則正しい健康的な生活を送ることが極めて重要です。かかってしまったかなと感じたら、様子をみたりせず、なるべく早くかかりつけ医などを受診することです。

ページ上部へ