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[109]〝攻めの予防〟─循環器ドックの話

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

予防健診部長 宮本 恵宏
元国立循環器病研究センター 病院長 内藤 博昭

ドックで攻めの予防を

もくじ


心筋梗塞や脳卒中は、健康にみえる人を突然、襲い、命にかかわる状況が発生します。この生命の危機を逃れてもしばしば後遺障害が残り、ご本人だけでなく、ご家族にも大きな負担をかけることになります。これが循環器病の怖いところです。

循環器病をなくす―。そんな夢のようなことができるのでしょうか? 実はできるかもしれないのです。キーワードは「予防」、そして「ドック」です。「ドック」については後で詳しく説明します。

この冊子は、循環器病制圧をめざし、予防の視点を重視して進められている最近の動きを取り上げます。

検診と健診は違うの?

今回のテーマは「循環器ドック」ですが、その前に「検診」と「健診」の違いを説明します。

 「検診」は結核検診や肺がん検診、胃がん検診といったように、特定の病気があるかどうかを調べることをいいます。つまり「病気がある方」を見つけて、できるだけ早く治療をするために「検診」を行います。早期発見と早期治療が目的となります。

それに対し「健診」は病気になるのを予防する目的で、健康状態を調べることをいいます。つまり、血圧や血液中のコレステロール測定、腹囲の計測などをおこない、病気そのものというより、病気にかかる危険 性、つまりリスクの状態を調べます。

〈表1〉に、健診項目の具体例として、特定健康診査の項目を示しています。

表1 特定健康診査(健診)

血圧が基準値より高いとか血糖値が高いという場合、心筋梗塞や脳卒中などの重大な循環器病の「発症危険性が高い」状態であるといえます。

そうした「発症危険性が高い」方には、できるだけ早く医療機関を受診してもらい、危険性を低くすることで、発症を予防しようとするのが「健診」です。

メタボ健診は「攻めの予防」

脳卒中や心筋梗塞などの重大な循環器病は、起こしたらすぐに治療することが大事ですが、がんの場合と事情がやや違うのは、生活習慣を見直して改善し、リスクを除くと、予防ができるという点です。

循環器病の多くは血管の動脈硬化症が原因となります。医学の大家がかつて「人は血管とともに老いる」という言葉を残していますが、年をとらない人がいないように、動脈硬化がまったくない人もいません。

しかし、動脈硬化の進み方は人によって異なります。その進み方を決めているものを「リスク因子」といいます。高血圧や糖尿病、脂質異常症(または高脂血症)はリスク因子で、その有無や程度によって「動脈硬化の進み方が早いかどうか」「発症危険性が高いかどうか」が変わってきます。そして、それを改善することで危険性を低くすることができるのです。

肥満(特に内臓肥満)が高血圧や糖尿病、脂質異常症の原因であるとわかってから、わが国では「メタボ健診」(特定健康診査)が始まりました。

これは、薬による治療が始まる前に、食事や運動を見直すことで予防をしようというものです。生活習慣の改善は動脈硬化のリスク因子を改善し、循環器病を予防する効果が大きいことがわかっています。最近、 生活習慣の改善が認知症の予防にも効果があることがイギリスから報告されています。

このように、健診を受けて積極的に生活習慣を改善し、重大な循環器病の発症の危険性を低くすることは、「攻めの予防」といえます。

メタボについての具体的な対処法は「知っておきたい循環器病あれこれ」シリーズの93号「メタボリックシンドローム その対処法」で詳しく述べていますので 、そちらをご覧ください。[このシリーズは公益 財団法人 循環器病研究振興財団のホームページ(http://www.jcvrf.jp/)でご覧になれます]

吹田スコアをご存じですか?

さて、皆さんは、ご自分が心筋梗塞を発症する危険性はどのくらいだと思いますか? 国立循環器病研究センターが続けている吹田研究(大阪府吹田市の住民を対象とした、循環器病の発症率やリスク因子を調査 する研究)から、最近、心筋梗塞などの冠動脈疾患の今後10年間の発症の危険度を予測するリスクスコア「吹田スコア」が開発されました。〈表2〉をご覧ください。

表2 吹田スコア

リスクスコアとは、糖尿病、高血圧、脂質異常症などのリスク因子の程度を点数化することで、病気を発症する確率を計算するものです。

リスクスコアとして有名なものに、米マサチューセッツ州フラミンガムで行われている住民健康調査にもとづいた「フラミンガムスコア」があります。これは10年間の心筋梗塞の発症を予測するスコアで、欧米でよく使われています。

しかし、日本人が心筋梗塞を発症する危険度は欧米人に比べて極めて低いため、日本人にはうまくあてはまらないものでした。また、最近、腎臓の働きが悪くなると心筋梗塞が起こりやすくなることが、わかって きました。

こうした点を踏まえて開発したのが今回の「吹田スコア」で、リスク因子を組み合わせて心筋梗塞などの冠動脈疾患の10年間の発症危険度を予測する、日本人向けのリスクスコアです。

各リスク因子に割り当てられた点数を足し合わせることで、10年間の冠動脈疾患発症確率を簡単に予測できるようになっています。〈表2〉にあるように、年齢、性別、喫煙、糖尿病、血圧、LDLコレステロール、HDLコレステロール、eGFRなど、健診や人間ドックでの検査結果から簡単にわかる項目のスコアを合計すれば、確率を予測することができます。

検査項目の中でeGFRは、なじみのない方が多いと思いますが、これは腎臓の機能を表す指標です。すでに説明しましたように、腎臓の働きが悪くなると心筋梗塞や脳卒中をおこす確率が高くなることがわかっています。そこで、吹田スコアではeGFRを組み入れて確率を予測できるようにしています。

eGFRは、性別、年齢、血清クレアチニン値で計算できるので、健診やドックの結果に含まれていることがありますが、もし、わからない場合はeGFRのスコアを0点として計算してください。

ドックとは? 健診との違いは?

冒頭で「予防」と[ドック]がキーワードといいましたが、「ドック」とはなんでしょうか? 「健診」と何が違うのでしょうか?多くの医療施設で「脳ドック」が行われています。施設により項目は異なりますが、多くの場合、健診の検査項目に脳のMRIといった精密検査を加えて行われると思います。

MRIは脳腫瘍などのほかに、無症候性脳梗塞(自覚症状も、本人以外の人が見つけることのできる徴候(きざし)もないことを専門用語で「無症候」といいます)や、未破裂脳動脈瘤(脳の血管が瘤状に形が変化していること。血管の強度が低くなっているため破裂して、くも膜下出血を起こしやすい)を見つけることを目的としています。

かみくだいていうと、今のところ症状はないけれど、重大な病気のもとになる「予備軍の病気」を見つけることを目的としているのです。これが健診との違いです。

無症候性脳梗塞といわれたら?

脳梗塞が発症すると、片方の手足が動かしにくくなったり、うまくしゃべれなくなったり、意識がなくなったりといった症状が出てきます。

しかし、このような症状がなく、もしくはこのような症状があった記憶がないのにもかかわらず、MRIで小さな脳梗塞が見つかることがあります。これを無症候性脳梗塞といいます。

これまでの研究から無症候性脳梗塞がある場合は、症候性脳梗塞(症状がある脳梗塞)を起こしやすいことが報告されています。また、認知症のリスクも高くなるといわれています。

無症候性脳梗塞の多くは、ラクナ梗塞という脳の細い動脈が詰まって起こるもので、特に高血圧が原因となるといわれています。また、糖尿病などがあったり、頚部頚動脈(大脳のほぼ3分の2に栄養を与える動脈の首の部分)が狭窄(血管が狭くなること)していたりすると起こることもあります。

ドックで攻めの予防を

では、無症候性脳梗塞といわれたらどうすればいいのでしょうか? その場合は専門病院を受診し、高血圧、糖尿病、頚動脈狭窄など原因となる病気がないかを調べてもらいましょう。もしあれば高血圧などの治療、場合によっては血液をさらさらにする薬(抗血小板薬)を飲むなど、症候性脳梗塞や認知症の予防をするとともに、定期的に検査を受けて進行していないか調べてもらいましょう。

「高度循環器ドック」がめざすもの

心筋梗塞や脳卒中といった重大な循環器病をなくすには、まず起こさないこと、つまり制圧の最大の戦略は予防なのです。

症状がないときに、心臓や血管の様子を詳しく調べて重大な循環器病の予備軍やハイリスク群の病気を見つけることができれば、積極的に対策をとって発症の予防につなげることができます。

このように予防と治療をドッキングさせる戦略を、リスク因子を調べてそれを是正する今までの予防と区別して「先制医療」ということがあります。「攻めの予防」をさらに大きく前進させたものとも言えます。

国立循環器病研究センターは、高度な特別の診断法をドックに応用することによる循環器病の「先制医療」をめざして、「高度循環器ドック」を始めました。

「高度循環器ドック」は①最先端の研究成果を活用した循環器病の早期発見と予防のためのドックであること②ナショナル研究センターとしての研究のためのドックであること、を使命として、MRI、MRアンジオグラフィ、CT、PET、心臓超音波、頚動脈超音波、心磁図など、体への負担が少ないと考えられる範囲での心臓や脳、およびその他の血管の精密検査をすべて行うことにしています。

次に「高度循環器ドック」の検査の一部を紹介します。詳しくはこのドックを紹介するパンフレットをご覧ください。[国立循環器病研究センター病院のホームページの「高度循環器ドック」(http://hospital.ncvc.go.jp)からもご覧になれます]

「高度循環器ドック」の項目

1)心臓超音波検査(心エコー図検査)

心臓は4つの部屋と、4つの弁と呼ばれる部分からできています。検査では、これらの部屋の大きさや働き、また弁の動きなどをみることで、いろいろな心臓病の診断や治療方法の選択と効果の判定に役立ちます。

2)心磁図検査〈写真1〉

心磁図検査は、心臓全体(もしくは各部分)の磁気の流れから、心臓の電気活動を画像として表示できる新しい検査です。この検査では、以下のようなことがわかります。

  1. 不整脈を中心とした心臓の病気の診断
  2. 不整脈の発生場所や重症度
  3. 心臓の電気の伝わり方が衰えた際に起こる伝導障害
  4. 狭心症や心筋梗塞など

写真1 心磁図検査の様子

3)心筋血流シンチグラフィ(SPECT検査)〈写真2〉

心筋シンチグラフィは、放射性同位元素(ラジオアイソトープ=RI)を用いる核医学検査と呼ばれる検査で、心臓の筋肉の血流状態を調べる非常に優れた検査法です。運動や薬剤で少し心臓に負担をかけてこの検査を行うと、心筋の血流障害の有無とその重症度が敏感に判定できるので、冠動脈の狭窄に対する手術やカテーテル治療が必要かどうかの決定や、治療後に血流障害が改善したことを確認するためによく使われています。

写真2 心筋血流シンチグラフィ(SPECT検査))

4)心臓MRI検査〈写真3〉

MRIのMは磁石(マグネット)のことです。文字通り磁石の性質を利用して脳、心臓といったいろいろな臓器に含まれる水分と脂肪の信号をとらえて画像化する検査です。この検査では、どの方向の断面の撮像も可能です。またいろいろな撮像法があり、検査目的に応じて使い分けることができるのも大きな特長です。

心臓の動きをみるためには、シネMRIという方法を用います。この方法では多くの場合、患者さんに10~15秒、息を止めてもらい、その間に心電図と連動させて一秒当たり20~30コマの画像をつくり、モニター画面で動画として心臓の動きを観察します。

写真3 心臓MRI検査

 5)冠動脈石灰化スコア検査〈写真4〉

心筋梗塞は心臓をとり囲む血管(冠動脈)の動脈硬化が進み、狭窄がひどくなって起こるものと考えられていました。もちろんそういった場合もあるのですが、最近では、まだ狭窄が軽いうちに脂質を含む軟らかい動脈硬化プラーク(脂肪の塊)がこわれて血栓ができ、それが冠動脈をふさぎ、梗塞を引き起こすほうがずっと多いことがわかってきました。そして、そのような血管には血液中のカルシウムが沈着して石灰化が起こりやすいことがわかってきました。

写真4 冠動脈石灰化スコア検査

6)血管超音波検査(頚動脈)〈写真5〉

頚動脈は首の前面の浅いところにあって、超音波で一番見やすい血管です。血管の内面の0.1mmぐらいの厚さの変化がわかりますから、数ある検査の中で最も詳しく血管の中を見ることができます。頚動脈はこのように超音波の検査で見やすいだけでなく、動脈硬化が起こりやすい場所でもあり、ごく初期の動脈硬化をとらえることができます。

頚動脈を調べることによって、脳卒中になりやすいかどうかがわかりますし、心筋梗塞や狭心症のような他の動脈硬化による病気になりやすいかどうかもわかります。

写真5 血管超音波検査(頚動脈)

7)頭部MRI、MRA検査〈写真6〉

磁場を利用して行う検査で、CT検査よりも詳しくみることができます。特に脳梗塞を発症した直後は、CT検査では病巣がわからないのですが、MRIでは発症30分程度でも見つけられることもあります。

またMRAといって脳だけでなく、脳血管を描き出すことも可能です。頭部MRA検査で主にわかるのは、太い血管が詰まったり細くなったりしていないか、くも膜下出血という病気の原因になる動脈のこぶ(動脈瘤)や血管の奇形(動静脈奇形)がないか、といった点です。

写真6 頭部MRI、MRA検査

脳ドックなどでMRAが行われるようになり、偶然、脳動脈瘤や動脈が詰まっていることがわかるケースも増えています。

高度循環器ドックの費用と問い合わせ先

  • 1泊2日間にわたる検査で費用は45万円
  • 国立循環器病研究センター医事室医事係
    電話 06-6833-5012(代) 内線 2147

「高度循環器ドック」の費用は通常のドックに比べ高額になっています。この費用は患者として検査を受けていただいた場合の診療報酬金額をもとに決められました。病気がある方は医療保険が適用され個人の負担は少なくなりますが、病気を見つけるためのドックには医療保険が適用されません。どうぞ、病気になる前に見つけることの意義をご理解ください。

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