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[105] 歯周病と循環器病

「知っておきたい循環器病あれこれ」は、「公益財団法人 循環器病研究振興財団」が循環器病に関する最新情報を分かりやすく解説した発行物を、国立循環器病研究センターが許可を得てHTML化したものです。
文章・図表・イラスト等の転載・引用のご相談は循環器病研究振興財団までご連絡ください。

口の中を健康に

国立循環器病研究センター 歯周病外来
大阪大学歯学部附属病院 口腔治療・歯周科
歯科医師 山田 聡

口の中を健康に

もくじ

はじめに

ギネスブックに登録されている、世界で最も患者数が多い病気をご存じですか? 答えは歯周病です。日本でも成人の8割以上がかかっていますから、まさに国民病の一つです。

これまで、歯周病は「口の病気」として知られていましたが、最近、全身の病気、例えば「糖尿病」や「循環器病」「呼吸器疾患」などの病状に悪影響を与えたり、逆に、それらの病気が歯周病を悪化させたりすることがわかってきて、注目されています。

この冊子では、まず歯周病について説明し、歯周病と全身の病気とのかかわりを知ってもらい、特に循環器疾患をもつ患者さんが、歯科治療を受ける時、注意すべき点などを解説します。

歯周病とは?

日本の成人が歯を失う第一の原因が歯周病です〈図1〉。現在は「口の生活習慣病」と考えられています。

歯周病は、歯と歯ぐきとの境目にある溝(歯周ポケット)にたまった細菌の塊(デンタルプラーク)が原因で起こる慢性感染性の病気です。進行すると歯ぐきが赤く腫(は)れたり、歯を支える骨や歯ぐきが壊されるため、歯がぐらつき、最後には抜けてしまいます〈図2〉。

「歯周ポケット」と「デンタルプラーク」という言葉は、初めて耳にされる方が多いと思いますが、何度か出てくる用語です。覚えておいてください。

歯周病がやっかいなのは、病気の初期にはほとんど自覚症状がなく、病状が悪化して歯科医院を訪れた時には、すでに手遅れになっていることです。

かなり重症になるまで、歯ぐきが少し赤くなったり、時々腫れたりするくらいで、痛みや歯がグラグラ動くなどの自覚症状はあまりありません。しかも、歯ぐきが腫れる原因は、歯周病だけとは限りません。ですから、腫れに気づいたらすぐに受診して、原因を診断してもらう必要があります。

「歯ぐきを押すと、うみが出てきた」「歯がグラグラ動く」「歯ぐきの調子が悪いな?」と思ってから来院したのでは、病気はかなり進行している場合もあります。早期発見のためには定期的な歯科検診が欠かせません。

歯周病は、細菌の塊、デンタルプラークが原因となって発症するので、細菌感染症と考えられています。しかし、同じ種類の病原菌が体内に侵入して起こる通常の感染症とは異なり、歯周病では約10種類の歯周病菌が集まって共生する「バイオフィルム」と呼ばれる強固な塊となります。

このバイオフィルムは、体を細菌などから守る免疫細胞が攻撃して排除しようとしても、極めて強い抵抗力を持っています。しかも、歯と歯ぐきとの境目の「歯周ポケット」という特殊な環境で生きていますから、免疫細胞にあまり排除されることなく、歯周組織(歯ぐき、歯を支える骨など)を刺激し続けます。

この状態では、免疫細胞は本来の働きを発揮できないので、時には過剰な免疫反応、炎症反応を引き起こします。もともと体を守るための反応なのに、それが強すぎるために、逆に歯周組織が破壊されることになります〈図3〉。まさに、過ぎたるは及ばざるが如しの状態になってしまうのです。

ですから、歯周病を治すには、原因であるデンタルプラークを取り除くことが必要で、正しく歯をみがくことがとても大切です。初期の歯周病は正しい歯みがきと超音波を利用した歯石除去とによって良くなります。

しかし、進行した歯周病では、デンタルプラークや歯石が歯周ポケットの奥深くにあるため、麻酔してそれらを除去します。また、それでも良くならない場合には、進行をくい止めるために、手術が必要になることもあります。

従来は、歯周病で失った歯ぐきや歯を支える骨を取り戻すことは非常に困難でしたが、最近は「組織再生療法」と呼ばれる新しい治療で、歯ぐきや歯を支える骨をある程度、再生できるようになっています。

せっかく取り戻した歯ぐきの健康を再び失うことがないように、治療が終わった後も歯ぐきの維持療法(定期的な検診と治療)は欠かせません。一方、重症の歯周病のため症状の改善が見込めない場合は、抜歯が唯一の治療法になることもあります。

歯周病と全身疾患とのかかわり

歯周病の発症や病状は、歯周病菌による持続的な感染と、患者さんが本来持っている体を守る仕組みの生体防御(免疫反応)とのバランスによって決まります。

つまり、歯周病菌の攻撃力を上回る"生体防御力"(宿主抵抗性)が備わっておれば、歯周病にかかったり、病状が進んだりすることはありません。しかし、細菌の病原性が強いか、細菌数が多いか、もしくは患者さんの"生体防御力"が落ちている場合、歯周病を発症したり、その病状が悪化したりします〈図4〉。

ですから、歯周病菌に対する"生体防御力"や歯周組織の抵抗性が弱くなるような病気を持つ患者さんは、歯周病に要注意です。要注意の病気には、糖尿病、白血病、骨粗鬆症やエイズなどがあります。

患者数が多く、歯周病とのかかわりが最もよく研究されている糖尿病をまず取り上げましょう。

糖尿病との関係

日ごろの歯科治療で、糖尿病患者さんは歯の治療後の傷の治りが悪い(治癒不全といいます)ことが頻繁に起こります。

糖尿病の中でも、生活習慣病である2型糖尿病(遺伝的要因と生活習慣がからんで起こり、糖尿病の大半を占める)と歯周病が、互いにどのように関係しているかを示す代表的な例として、北アメリカ先住民のピマ族について行われた調査があります。

ピマ族の約4割は2型糖尿病を発症することで知られ、15~54歳のピマ族を対象に調査したところ、糖尿病患者のグループは、糖尿病にかかっていないグループよりも、全年齢層で歯周病の重症度が高いことが明らかとなりました。

また、血糖コントロールの状態と歯周病との関係をみるため、1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)と2型糖尿病のピマ族を、血糖コントロールが良好な群と不良な群とに分けて比較すると、不良な群では歯周病の重症度が高くなることがわかりました。

では、糖尿病はなぜ歯周病に影響するのでしょうか。

糖尿病によって①体を感染から守る細胞(免疫細胞)の働きが落ち、感染症にかかりやすくなる②歯周組織で新しいコラーゲン(細胞同士を結び付けるたんぱく質)が作られにくくなる③末梢血管の循環が悪くなり、傷が治りにくくなる④糖分とたんぱく質が結合してできる物質が変化し、組織と組織を結び付ける結合組織がもろくなり、さらに炎症を促す物資が作られるようになる――ことなどが、歯周病の発症・進行を促すと考えられています。

糖尿病の合併症といえば網膜症、腎症、神経障害がよく知られていますが、最近は歯周病も大きな合併症の一つと考えられるようになってきました。ですから、糖尿病の患者さんは、歯周病にかかりやすいことを自覚し、定期的に歯科検診を受けることが大切です。

歯周病が全身の健康へ与える影響

健康な歯周組織では、歯と歯ぐきとの間に1~2ミリ程度の溝(歯周ポケット)があり、この溝に面した歯肉溝上皮では、歯周病菌から守る防護機構が働き、歯周組織は健康に保たれています。

しかし、すでに説明したように、歯周病菌が歯周ポケットで増殖し、歯ぐきに炎症が起こると、歯周組織の細菌に対する防護機構がうまく働かなくなってしまいます。

そうなると、歯周ポケットの表面がただれたり、くずれたりする潰瘍ができ、そこから細菌、もしくは細菌成分のリポ多糖(LPS)など、さまざまな病原因子が体内に侵入し、血流とともに組織や臓器へ移動して全身の健康に影響を与える恐れがあります。

また、歯周ポケット内で増殖した歯周病菌が気道を経て肺へ入り、肺炎などの感染症を引き起こすリスクも大きくなります。

親知らずを除く28本の歯がすべて歯周病に侵され、そのすべての歯の周りに深さ5ミリの歯周ポケットができたと仮定すると、歯周ポケットに面したポケット上皮の面積は、約72?(大人の手のひらとほぼ同じ面積)にもなるといわれています〈図5〉。

その歯周ポケットにできた細菌の塊(デンタルプラーク)1 mg中には、1億個から10億個もの細菌が集まって共生する「バイオフィルム」を作っていると考えられています。

もう一度、強調しますが、歯周ポケット内に潰瘍ができれば、細菌がここから体内に侵入しやすくなります。さらに、歯周病は慢性の炎症疾患ですので、炎症が起こった歯周組織では、さまざまな炎症関連物質や炎症を強めるように働くたんぱく質である「炎症性サイトカイン」が継続して作られるようになります。その影響が、歯周ポケットから血管を通じ全身にも波及すると、歯周病が全身に何らかの影響を与えることになります。

実際に、歯周病は糖尿病だけでなく、細菌性心内膜炎、その他の循環器病、誤嚥(ごえん)性肺炎、早産・低体重児出産、敗血症、糸球体腎炎、関節炎、掌蹠(しょうせき)膿疱症(のうほうしょう)(手のひら、足の裏に膿をもつ発疹ができる皮膚病)などの原因の一つとなったり、その病状を悪化させたりする危険因子として報告されています〈図6〉。

歯周病が危険因子となる可能性がある全身の病気について説明します。

1)循環器病

これまでの調査で、歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ1.5~2.8倍も循環器病を発症しやすいことがわかっています。

さらに、循環器病の原因となるアテローム性動脈硬化症(コレステロールなどの脂質が動脈内膜におかゆ状に沈着した動脈硬化)の程度が、歯周病と関連することがわかってきました。興味深いことに、アテローム性動脈硬化が起きている部分から歯周病菌が検出されたという結果が多数、報告されています。

歯周病が循環器病に影響するメカニズムは、歯周病菌やその菌体成分などが、直接、血管に障害を与える作用に加え、炎症の起きた歯周組織で作られる「炎症性サイトカイン」(IL- 1、IL- 6、TNF-αなど)が血流を通じて心臓や血管に移動し、血管内皮細胞やアテローム性動脈硬化部分の免疫細胞が活性化されて、心臓血管系の異常を引き起こすのではないかと考えられています。

また、肝臓が炎症性サイトカインの刺激を受けて作る「急性期たんぱく質(CRP)」の作用がアテローム性動脈硬化症の進行を促すのではないかと考えられています。

2)糖尿病

糖尿病が歯周病の危険因子になることは、北アメリカ先住民の話で説明しましたが、逆に歯周病が糖尿病の危険因子となることについて、より具体的に関連性を説明します。

最近、歯周病にもかかっている糖尿病患者さんに歯周病の治療をすると、糖尿病の重症度の指標であるHbA 1 c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー:過去1~2か月の血糖平均値を示す)や血糖値が低下したと報告されて、両方の関係が注目されるようになりました。

歯周病が糖尿病に影響を与えるメカニズムの一つとして、炎症を促す「炎症性サイトカイン」のうち、TNF-αと呼ばれるたんぱく質が関係していると考えられています。

歯周病になると、炎症の起きた歯周組織で作られたTNF-αが血中に流れ、その影響でインスリンが骨格筋細胞や脂肪細胞に血中の糖を取り込ませるのがうまくいかなくなる「インスリン抵抗性」が生じるからではないかと考えられています。

それを裏付けるように、治療で歯周組織の炎症がおさまると、TNF-α が減ることが確かめられています。

3)早期低体重児出産

早期低体重児出産とは「妊娠24週以降、37週未満での分娩、または体重2,500g未満の低体重児出産」と定義されています。

歯周病にかかっている妊婦さんは、早産(妊娠37週未満の出産)や低体重児(2,500g未満)出産のリスクが高くなることが、最近報告されました。例えば、低体重児を出産した女性は、正常児を出産した女性に比べて歯周病の重症度が高く、低体重児出産のリスクが約7倍も高いことがわかっています。

歯周病が、早期低体重児出産のリスクを増大させるのは、歯周病が循環器病や糖尿病に影響を与えるのと同様に、歯周組織の炎症に伴ってできる炎症性サイトカインや、歯周病原細菌、およびその菌体成分などが何らかのメカニズムで、子宮の収縮を誘発するためではないかと推測されています。

しかし、詳細については不明な点が多く、さらに臨床研究の積み重ねが必要になっています。妊娠する可能性のある女性は、かかりつけの歯科医で歯の定期検診を受けておくことが、健康な赤ちゃんを産むために大変重要です。

4)誤嚥性肺炎

肺炎は高齢者に起こりやすく、しかも死に直結する場合もありますから、高齢者が予防を心がけなければならない病気です。

特に、高齢者や口腔機能に障害を持つ人では、せきがうまくいかず、睡眠中に誤嚥(食べ物や唾液が気管に入ること)を繰り返していることが多く、この誤嚥によって、のどの上部に存在する細菌が呼吸器に侵入し、肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こすと考えられています。

最近、歯周病菌が肺の感染部分から検出されて、肺炎の原因の一つとして注目されるようになりました。

特別養護老人ホームの入所者を、歯科医か歯科衛生士によって口腔内を清潔に保つ「口腔清掃」を受けるグループ(口腔ケア群)と、入所者本人か介護者による口腔清掃のみのグループ(対照群)に分け、2年間にわたって経過をみる調査が行われました。

発熱日数、肺炎発症率、肺炎による死亡数を比較すると、口腔ケア群がどの項目でも低値となり、専門的な口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防にとても効果的であることがわかりました。

循環器病患者さんが歯科治療を受ける時の注意点

歯周病治療に限らず歯科診療では、歯や歯ぐきの痛み、治療時のタービンの音などのストレスから一時的に血圧が上がりやすくなります。また、痛みを取るための局所麻酔薬の作用で、血圧が上がることがあります。さらには、抜歯など出血を伴う処置もよく行われます。

こうした状況を踏まえ、循環器病の患者さんが歯科治療を受ける際、気をつけなければならないいくつかのポイントについて説明します。

血圧の変動

歯科治療を受ける時には、どの患者さんも緊張してしまい、血圧が高くなることがあります。特に痛みが強い時や、治療器具の音などに敏感な人では、痛みや音がストレスとなって血圧が上がります。また、痛みを取るための局所麻酔薬には血圧を上昇させる成分が入っていますので、注意が必要です。

このように歯科治療時には血圧の変動が問題となることがありますので、循環器病の患者さんが歯科治療を受ける際は、必ず歯科医師に循環器病の病状や服用薬について伝えてください。

止血の問題

歯科治療では、抜歯や歯肉を掻(そう)把は(かきとること)するなど出血を伴う処置をすることがよくあります。

血栓予防のためにワルファリンなどの抗凝固薬やバイアスピリンなどの抗血小板薬を服用している患者さんは、処置の後、止血がしにくい場合が考えられます。最新の治療ガイドラインでは、血栓予防薬の服用は中止せず、服用を継続したまま抜歯し、しっかり止血することになっています。

このようなお薬を服用されている患者さんは、歯科治療前に必ず歯科医師や循環器科医師へ服用薬についてご相談ください。

感染性心内膜炎

感染性心内膜炎は、血液中に入った細菌が心臓の弁などに感染し、増殖する病気です。重篤な合併症を引き起こすので注意が必要です。

歯科治療を含め小手術によって血液中に細菌が入り込むことがあり、特に心臓弁に異常があるか、もしくは人工弁に取り換える手術を受けた患者さんでは、感染性心内膜炎を発症するリスクが高まると考えられています。こうした患者さんは、治療の前に抗生物質を服用するなど、感染予防が必要な場合があります。歯科治療前に必ず歯科医師や循環器科医師にご相談ください。

まとめ

歯周病は、さまざまな全身の病気と関係していることがわかってきました。互いに影響を及ぼす結果、歯周病も全身の病気も悪化する可能性があります。

生活習慣病や循環器病を持つ患者さんは、歯周病は口の中だけの病気とあなどらず、かかりつけの歯科医師のもとで定期的な歯科検診を心がけましょう。治療の必要性がある場合は、しっかりと歯科治療、歯周治療を受け、口の中を健康に保ちましょう。

歯周病の原因は、歯と歯ぐきの境目にすみついた細菌です。そのため日々正しい歯みがきを続けることが一番の予防方法なのです。自分に合った歯のみがき方を身につけて、自分で歯ぐきの健康を守れるようにしましょう。

また、たばこは歯周病の発症や進行に悪影響を与えることが明らかになっています。全身的な病気の予防や治療に加えて、禁煙など生活習慣の改善も歯周病予防に必要です。

なによりも健康な歯ぐきを保つこと、つまり、健康な歯でおいしく食べることは、有意義で快活な日常生活を過ごしていくための大前提なのです。

 

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